Hondaは、原付一種の電動二輪パーソナルコミューター「ICON e:(アイコン イー)」を2026年3月23日に全国のHonda二輪EV取扱店で発売する。メーカー希望小売価格は22万円(税込)で、着脱式バッテリーと充電器各1個を含む。
国内年間販売計画台数は2,200台である。開発コンセプトは「Easier and Economical Commuter」。動力用電源に着脱式バッテリーを採用し、車載状態とバッテリー単体の二通りで充電が可能で、100V外部電源によるゼロからの満充電所要時間は約8時間である。後輪にインホイールモーターを採用し、一充電あたりの走行距離は81km(30km/h定地走行テスト値)。車両重量は87kg、シート下に容量26Lのラゲッジボックスを備える。カラーは全3色。製造はHonda Vietnam Co., Ltd.が担い、製造国はベトナムである。
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原付一種の電動二輪パーソナルコミューター「ICON e:」を発売 | Honda 企業情報サイト
※アイキャッチは本田技研工業株式会社公式プレスリリースより引用
【編集部解説】
Honda ICON e:の発表を理解するうえで、まず押さえておきたいのが日本の二輪業界が直面する「原付2025年問題」です。2025年11月以降、より厳格な排出ガス規制(第4次排出ガス規制)が原付一種にも適用され、現行の50ccエンジンではこの基準をクリアすることが技術的・コスト的に極めて困難となります。このため、ホンダ、ヤマハ、スズキの国内3社は50ccクラスの生産終了を予定しており、2025年4月の道路交通法施行規則改正で「125cc以下・最高出力4.0kW以下」の車両を原付免許で運転可能とする「新基準原付」が誕生しました。ICON e:は、この大転換期にHondaが投入する電動の選択肢です。
注目すべきは、先行モデル「EM1 e:」との設計思想の違いです。EM1 e:はHondaの共通バッテリー規格「Honda Mobile Power Pack e:」を採用し、バッテリー交換ステーションでのスワップも視野に入れた設計でした。一方のICON e:は車両専用の着脱式バッテリーに変更しています。この割り切りにより、EM1 e:で必要だったシステム起動用の12Vバッテリーを廃止し、バッテリーマウント部の機構も簡素化することで部品点数を大幅に削減しています。結果として、EM1 e:の約29万9,200円(税込・バッテリーと充電器込み)から約8万円の価格低減を実現しました。
航続距離の改善も見逃せません。EM1 e:の53km(30km/h定地走行テスト値)に対し、ICON e:は81kmを達成しています。バッテリーをフロアステップ下に配置したことでシート下に26Lのラゲッジボックスを確保できた点も、日常利用での実用性を大きく高めています。EM1 e:ではシート下にバッテリーが占有していたため、収納スペースがほぼなかったことを考えると、この改善は購入判断に直結する部分でしょう。
一方で、留意すべき点もあります。報道によると、ICON e:はクリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)の対象外とされています。EM1 e:が補助金を受けられたこととは対照的であり、実質負担額での比較には注意が必要です。また、充電時間は100V電源でゼロから満充電まで約8時間とEM1 e:の約6時間より長くなっています。夜間に自宅で充電する運用を前提とすれば大きな問題にはなりにくいものの、日中の追加充電を想定する場合はやや不便を感じる可能性があります。
より大きな視点で見ると、ICON e:はHondaのグローバル電動二輪戦略のなかに位置づけられます。Hondaは2023年11月の電動バイク事業説明会で「2030年までにグローバルで30モデルの電動二輪を投入する」と発表しており、2024年10月にインドネシアで発表されたCUV e:とICON e:はそれぞれ10番目、11番目のモデルにあたります。製造拠点をベトナムに置き、アジア全域からグローバルへ展開する構想で、日本市場への導入はこの戦略の延長線上にあります。
ICON e:の22万円という価格設定は、ガソリン原付一種と比較しても遜色のない水準に踏み込んでいます。電動二輪がこれまで抱えてきた「高い・短い・不便」という三重の障壁に対して、Hondaが「専用バッテリーへの切り替え」というプラグマティックな判断で正面から応えた点は、電動モビリティの普及において重要な一歩といえます。50cc時代の終焉と新基準原付の始まりという歴史的な転換点において、内燃機関だけでなく電動も選択肢として成立しうることを、ICON e:は具体的な製品で示しています。
【用語解説】
原付一種(第一種原動機付自転車)
道路運送車両法に基づく車両区分の一つ。従来は排気量50cc以下の二輪車を指していたが、2025年4月の法改正により「125cc以下・最高出力4.0kW以下」の車両も新たに追加された。原付免許または普通自動車免許で運転可能である。法定最高速度30km/h、二段階右折義務など従来の原付と同じ交通ルールが適用される。
インホイールモーター
車輪(ホイール)の内部に直接組み込まれた電動モーター。チェーンやベルトなどの伝達機構を介さずに車輪を駆動するため、構造がシンプルで静粛性に優れる。ICON e:では後輪に採用されている。
第4次排出ガス規制(原付2025年問題)
2025年11月以降に製造される原付一種に適用される排ガス規制。現行の50ccエンジンでは技術的・コスト的にこの基準を満たすことが困難であり、国内主要3社(ホンダ、ヤマハ、スズキ)が50ccクラスの生産終了を予定している。この問題を背景に「新基準原付」が制度化された。
新基準原付
2025年4月1日施行の道路交通法施行規則改正により誕生した新たな車両区分。総排気量125cc以下かつ最高出力4.0kW以下に制御された二輪車が、原付免許で運転可能となる。50cc原付の生産終了に対応する受け皿として設けられた。
Honda Mobile Power Pack e:(MPP)
Hondaが開発した着脱式の共通バッテリー規格。複数の電動二輪車やバッテリー交換ステーション間で共用できる設計である。先行モデルEM1 e:はこれを採用しているが、ICON e:は車両専用バッテリーに変更されている。
EM1 e:
Hondaが2023年8月に発売した、国内二輪ラインアップ初の一般向け電動二輪車。Honda Mobile Power Pack e:を動力用電源に採用し、航続距離53km(30km/h定地走行テスト値)。バッテリーと充電器込みの参考価格は約29万9,200円(税込)である。
CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)
経済産業省の支援を受け、一般社団法人次世代自動車振興センターが運営する補助金制度。EV、PHEV、FCVなどの環境性能に優れた新車を対象に購入費用の一部を補助する。ICON e:は本補助金の対象外とされている。
ECONモード
Honda独自の省エネ走行モード。スイッチ一つで切り替え可能で、スロットル操作に対するモーター出力を抑制し、航続距離の延長に寄与する。
【参考リンク】
Honda企業情報サイト:ICON e: ニュースリリース(外部)
2026年2月19日付のICON e:発売に関する公式プレスリリース。主な特徴、主要諸元、価格などを掲載。
Honda公式サイト:ICON e: 製品情報(外部)
ICON e:の製品詳細ページ。充電方法、装備、スペック、カラーバリエーションなどを写真とともに紹介している。
Honda公式サイト:電動スクーター(EV)ポータルサイト(外部)
ICON e:、CUV e:、EM1 e:などHondaの電動スクーターラインアップを一覧。取扱店や補助金情報も掲載。
Honda企業情報サイト:EM1 e: ニュースリリース(外部)
2023年5月発表のEM1 e:公式プレスリリース。ICON e:との比較においてバッテリー方式や価格構成の違いを確認できる。
Honda Global:CUV e: and ICON e: 発表(2024年10月)(外部)
インドネシアでのCUV e:・ICON e:発表時の英語リリース。2030年までに30モデル投入の戦略が記載されている。
日本自動車工業会(JAMA):原付一種に新たな区分基準が追加!(外部)
新基準原付に関するFAQページ。免許、交通ルール、税制、ナンバープレートなど制度変更の詳細を解説している。
【参考記事】
Honda unveils new electric moped cheaper than gasoline equivalent, no motorcycle license needed(外部)
ICON e:の日本投入を報道。価格約1,400ドル(約22万円)でガソリン原付より約10%安い点や航続距離の十分さを評価。
Honda Announces CUV e: and ICON e: Electric Personal Commuters in Indonesia(外部)
2024年10月のHonda公式英語リリース。CUV e:とICON e:が30モデル計画の10・11番目であることなどを記載。
Honda Vietnam launches ICON e: electric scooter(外部)
2025年3月、Honda Vietnamがベトナム初の国内製造電動スクーターとしてICON e:を発表。政府のグリーン目標との整合性を強調。
補助金なしで22万円! ホンダが『充電インフラなし』でも使える新型EV原付「ICON e:」を発表(外部)
ヤングマシン編集部による技術解説。EM1 e:との価格差の要因をシステム簡素化(12Vバッテリー廃止等)と分析
Honda企業情報サイト:EM1 e: ニュースリリース(外部)
EM1 e:公式リリース。車両本体・バッテリー・充電器の価格内訳(合計299,200円)が記載。ICON e:との価格差の根拠。
【編集部後記】
50ccエンジンの時代が終わりを迎えようとしているいま、その先にある「日常の足」はどんな姿になるのでしょうか。電動か、新基準のガソリンか、それとも電動アシスト自転車や特定小型原付か。
選択肢が一気に広がるこの転換期を、みなさんはどう感じていますか。ぜひご自身の通勤や暮らしに重ねながら、これからのパーソナルモビリティについて一緒に考えていければうれしいです。







































