2025年、世界で新しく生まれたエネルギーの主役は、ついに太陽光が担いました。IEAの最新レポートが映し出したのは、石炭の時代を超え、データセンターとEVが需要を牽引する「電化の時代」の本格的な幕開けです。
IEA(国際エネルギー機関)は2026年4月20日、パリで『Global Energy Review 2026』を公表した。
2025年の世界エネルギー需要の伸びは1.3%で、過去10年平均の1.4%をわずかに下回った。電力需要は約3%増加した。太陽光PVはエネルギー需要増の25%超を占め、単一最大の貢献源となった。
次いで天然ガスが17%、石油が約15%を占めた。低排出電源の合計はほぼ60%に達した。世界の石油需要は0.7%増の+0.65 mb/d、EV販売は20%超増の2,000万台超となり、世界新車販売の約4台に1台を占めた。太陽光PV発電は年間+600 TWh増加し、再エネ容量追加は800 GW、うち太陽光が75%を占めた。蓄電池は約110 GW、原子力は12 GW超の建設が開始された。
米国のエネルギー需要は今世紀2番目の高水準となり、中国の伸びは1.7%に鈍化した。エネルギー起源CO2排出の伸びは0.4%にとどまった。
IEA事務局長ファティ・ビロル氏は経済の電化進展を指摘した。
From:
Global energy demand growth was met by diverse range of sources in 2025, led by solar and then gas
【編集部解説】
2025年のエネルギー動向を総括したIEAの新レポートは、世界のエネルギー史にひとつの転換点を刻みました。太陽光発電(太陽光PV)が、近代的な再生可能エネルギーとして初めて「世界の一次エネルギー供給成長への最大貢献源」となった──これは単なる数字の更新ではなく、20世紀からの化石燃料中心の供給構造が、明確に別の時代へ移行しつつあることを示す指標だと捉えられます。
注目すべきは、太陽光PVが電力供給の増加分の約70%を単独で賄ったという点です。IEAは同時発表の別レポートで、世界はいま「Age of Electricity(電化の時代)」に入ったと明言しています。化石燃料を直接燃やす社会から、あらゆるエネルギー利用を電気に変換していく社会への移行が、データの上でも可視化された年だったといえるでしょう。
その電化を駆動しているのが、2つの新しい需要源です。ひとつはデータセンター。生成AIの学習・推論にかかる電力は桁違いで、米国では電力需要増の半分を占めたとIEAが明記しています。もうひとつはEV。2025年は世界販売が2,000万台を超え、新車の約4台に1台がEVという水準に達しました。テクノロジーの進化が、そのままエネルギー需要の構造を書き換えているわけです。
一方で、化石燃料が消えるわけではありません。天然ガスは依然として成長の17%を担い、米国ではガス高騰を受けた「ガス→石炭」の逆行現象まで起きています。インドや中国の石炭動向には気候要因(モンスーンの強弱)が強く影響しており、脱炭素の進捗は一本調子ではないというリアリティも同時に示されました。
地域差も鮮明です。米国は今世紀2番目のエネルギー需要増加を記録し、中国はすでに再エネによる石炭置換の段階に入って伸び率を1.7%まで落とし、インドはCO2排出が1970年代以来初めて横ばいになりました。同じ「脱炭素」でも、先進国と新興国で位相がまったく違うフェーズに入っていることが読み取れます。
日本の視点から見ると、このレポートは他人事ではありません。政府は2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画で、2040年度の電源構成における再エネ比率を40〜50%、脱炭素電源を6〜7割とする目標を掲げました。さらに2026年度からはGX-ETS(排出量取引制度)が本格稼働します。つまり、IEAが描く世界潮流と日本の制度設計が、いよいよ同じ時間軸で動き出す局面に来ているのです。
技術面で見逃せないのが蓄電池の急拡大です。年間110 GW弱の容量追加は、天然ガスの過去最高年間追加量をも上回る規模で、「太陽光の間欠性」という長年の弱点を技術的に解消し始めていることを意味します。同時に、原子力も12 GW超の新規建設が始まり、複数地域で回帰の兆しが見えます。再エネ単独ではなく、蓄電池・原子力・送電網を含めた「システム」として脱炭素を設計する時代に入ったと理解すべきでしょう。
ポジティブな側面は明確です。2019年以降のクリーンエネルギー展開で、すでに世界年間化石燃料消費の約7%、CO2排出の約8%が回避されています。しかも、再エネの主力である太陽光PVはコスト低下を続けており、新興国でも分散型の形で普及が進んでいます。パキスタンで約10 GWが分散型中心に導入された事実は、電力インフラが未整備な地域こそ太陽光が最適解となりうることを示唆します。
潜在的なリスクも直視する必要があります。太陽光PVの世界追加容量の約60%を中国が占める構造は、サプライチェーンの地政学リスクを内包しています。また、データセンターの爆発的な電力需要が各国の送電網の容量限界を超えたとき、電力価格や産業立地に大きな影響が及ぶ可能性もあります。資源エネルギーをどう安定的に確保するかという問いは、脱炭素が進むほどむしろ重みを増すかもしれません。
ファティ・ビロル事務局長は「レジリエンスと多様化を重視する国こそ優位に立つ」と述べました。この言葉は、単一電源への依存を避け、太陽光・ガス・原子力・蓄電池を組み合わせた「ポートフォリオ戦略」の重要性を示しています。未来のエネルギーは、1つの答えではなく、複数の技術の組み合わせ方で決まる──そんなエンジニアリングの問題へと静かに変容しているのです。
【用語解説】
太陽光PV(Solar PV)
Photovoltaic(フォトボルタイック)の略で、光を直接電気に変換する太陽電池を指す。太陽光発電の主流技術であり、パネル単位で分散配置できる点が特徴。
一次エネルギー供給
石油、天然ガス、石炭、原子力、再生可能エネルギーなど、自然界から取り出したままの形のエネルギー総量のこと。電気や熱など使いやすい形に変換する前の段階を指す。
TWh(テラワット時)/ GW(ギガワット)
TWhは発電量、GWは発電設備の出力容量を表す単位である。1 GWは大型原発1基分、1 TWhは日本の一般家庭約25〜30万世帯の年間消費量に相当する。
mb/d(100万バレル/日)
石油需要の国際標準単位。1バレルは約159リットル。世界の石油需要は約100 mb/d(約1億バレル/日)規模で推移している。
Age of Electricity(電化の時代)
IEAが提唱する概念で、石油や石炭を直接燃やす社会から、あらゆるエネルギー利用を電気経由で行う社会への構造転換を指す。EVやヒートポンプの普及がその象徴である。
ガス→石炭スイッチング
天然ガス価格が高騰した際、発電事業者がコストの安い石炭火力の稼働を増やす現象。2025年の米国で顕在化した。
レジリエンスと多様化
エネルギー安全保障の文脈で使われ、単一電源や単一供給源への依存を避け、多様な選択肢を持つことで地政学的・気候的なショックに耐える力を指す。
第7次エネルギー基本計画
日本のエネルギー政策の基本方針を定める計画で、2025年2月に閣議決定された。2040年度の電源構成で再エネ40〜50%、脱炭素電源6〜7割を目指す目標が初めて示された。
GX-ETS(排出量取引制度)
GXはグリーントランスフォーメーションの略。日本では2026年度から本格稼働し、企業のCO2排出量に経済的価格をつける仕組みである。
【参考リンク】
IEA(国際エネルギー機関)公式サイト(外部)
OECD傘下のエネルギー政策に関する国際機関。1974年設立、本部パリに置かれる。
IEA『Global Energy Review 2026』レポートページ(外部)
本記事の元となった年次レポートの公式ページ。全章閲覧とデータ入手が可能。
IEA Global Energy Review 2026 データセット(外部)
レポートに付随する無料の公式データセット。地域別・電源別の詳細数値を取得できる。
資源エネルギー庁 第7次エネルギー基本計画特設ページ(外部)
2025年2月閣議決定の最新計画を資源エネルギー庁自身が解説する公式ページ。
経済産業省 GXリーグ / 排出量取引制度(外部)
2026年度から本格稼働するGX-ETSに関する公式情報ポータル。
【参考記事】
Key findings – Global Energy Review 2026(外部)
IEAレポート本体の主要知見章。再エネ容量追加800 GWや蓄電池110 GWといった核心数値を提示している。
Global trends – Global Energy Review 2026(外部)
世界トレンド章。石炭発電が2019年以来初めて減少し、EUでシェアが10%割れしたと報告している。
Technology: Solar PV and wind – Global Energy Review 2026(外部)
太陽光・風力技術章。中国が世界の再エネ容量追加の6割超を占めた事実を詳述している。
The world added 605 GW of new PV capacity in 2025, says IEA(外部)
pv magazineの分析記事。新規再エネ容量800 GWの内訳と太陽光PVシェアを明示している。
IEA: Solar PV Leads Global Energy Supply Growth For 1st Time(外部)
TaiyangNewsの解説記事。太陽光PVが電力需要増の約70%を単独で充足した点に焦点を当てている。
IEA: solar and gas lead global energy supply growth as electricity demand surges(外部)
INSIGHT EU MONITORINGの報道。米国データセンターの電力需要比率と先進国・新興国の排出逆転を詳述。
【関連記事】
Google、アイオワ州の原子力発電所復活へ──デレチョで閉鎖された施設が示すAIエネルギー危機と気候変動の交差点
AI時代の電力需要急増で原子力回帰が加速する米国事例。本記事の「蓄電池・原子力の併用」論点と地続きの読み物。
230環境団体が米国データセンター建設の全面停止を要求―AI需要で電気料金13%上昇、640億ドルのプロジェクトが遅延
データセンターの電力需要が電気料金と社会的コストに波及する構図を描いた記事。電化の時代の「影」の側面。
ソフトバンクGら日米21社が『ポーツマスコンソーシアム』発足、米オハイオ州9.2GWガス発電・10GW AIデータセンター案件に参画へ
日米連携のAIインフラ投資で浮上する天然ガス発電の戦略的位置付け。本記事の「ガス17%」論点と接続する。
【編集部後記】
太陽光が「需要増加の主役」になった2025年──この数字を見て、みなさんはどんな未来を想像しますか。私たちの生活のすぐそばでも、屋根置きの太陽光パネルやEV、蓄電池が少しずつ当たり前の存在になりつつあります。
同時に、データセンターやAIが消費する電力の大きさにも驚かされますね。エネルギーを「選ぶ」時代に、自分や家族がどんな選択肢を持てるのか。もし関心のあるテーマや気になる技術があれば、ぜひ教えてください。未来のエネルギーの話を、これからも一緒に追いかけていけたら嬉しいです。











