「スマートフォンを発明した会社」——そう呼ばれてきたNokiaが、その代名詞であるスマートフォン事業から、2026年3月に正式に退場しました。奇しくも同じ2026年8月15日は、原点となった端末「9000 Communicator」の発売30周年にあたります。手放したのは事業であって、発想ではなかったのだとしたら、Nokiaは今、何に接続し直そうとしているのでしょうか。
1996年8月15日発売のNokia「9000 Communicator」は、折りたたみ筐体にQWERTYキーボードと4.5インチ画面を備え、通話に加えメール送受信・Fax送信・簡易的なWebブラウジングをこなした。iPhoneの登場は2007年、その11年前のことで、2026年8月15日に発売30周年を迎える。一方、Nokiaブランドのスマートフォンを手がけてきたHMD Globalとの独占ライセンス契約は、同じ2026年3月に終了した(フィーチャーフォン向けのみ数年延長)。Nokiaは2026年1月付で事業を「ネットワークインフラ」「モバイルインフラ」の2セグメントに再編し、2025年10月にはNVIDIAから10億ドルの出資を受けてAIネイティブ通信網の開発を進めている。2026年第2四半期のAI・クラウド事業者向け売上は前年比105%増となった。
From:
‘We were five years ahead’: the Nokia 9000 Communicator launched 30 years ago today — TechRadar
【編集部解説】
30年前に生まれた「折りたたんで開くと仕事ができる」という発想
1996年8月15日、Nokiaは「9000 Communicator」を発売しました。重さ397g、開くと4.5インチの白黒液晶とQWERTYキーボードが現れ、通話だけでなくメール送受信・Fax送信・簡易的なWebブラウジングまでこなしました。iPhoneの登場が2007年ですから、その11年前のことです。当時Nokia CEOだったJorma Ollila氏は、後年この端末を振り返り「私たちは5年先を行っていた」と語っています。
同じ2026年、Nokiaはスマートフォンという看板を下ろした
2016年、Nokiaは自社ブランドのスマートフォン・タブレットを製造する権利を、HMD Globalに10年間独占的に貸与しました。2023年8月にこの契約は修正され、スマートフォン向けライセンスは2026年3月をもって終了することが決まっていました。Nokiaは取材に対し、ブランドライセンス事業は自社事業のごく一部であり、戦略の軸はB2Bの通信インフラ事業にあると説明しています。なお、フィーチャーフォン(ガラケー)向けのライセンスのみ、2026年以降も数年延長されています。
消えたのは看板であって、発想ではない
ここで見過ごせないのは、Communicatorが最初に体現した「折りたたむと、内側から画面とキーボードが現れる」という形そのものが、今まさに市場の主戦場になろうとしている点です。Samsung Galaxy Z FoldやHuaweiの各モデルに続き、Appleも同種の端末を準備していると報じられています。ただしこれは現時点でアナリスト予測・リーク報道の域を出ておらず、Apple自身は名称も発売も公式には認めていません。Bloomberg社のMark Gurman氏やアナリストのMing-Chi Kuo氏らの報道を総合すると、2026年秋にiPhone 18 Proと同時期の発表が有力視される一方、量産の遅れから出荷が2027年にずれ込む可能性も指摘されています。
Nokiaが今つなごうとしているもの
ここで「発明した会社が置いていかれる話」として終えるのは、正確ではありません。Nokiaは2026年1月の事業再編とNVIDIAからの出資を経て、AIネイティブな通信網の構築に軸足を移しています。その転換は数字にも表れており、2026年第2四半期のAI・クラウド事業者向け売上は前年比105%増、業界初となる商用AI-RANプラットフォームも発表しました。日本国内でも、SoftBankがNokiaとAI-RAN・6Gの共同研究を進めており、東京都内で7GHz帯を使ったMassive MIMOの実証実験も行っています。2025年11月、事業再編を発表した際にCEOのJustin Hotard氏は、「Nokiaはかつて人々をつなぐことで世界を変えた。今度は知能をつなぐことで、再び世界を変える」という趣旨のコメントを残しています。
Communicatorが証明したのは、「電話」の定義を広げれば新しい市場が生まれるということでした。今のNokiaが賭けているのは、「ネットワーク」の定義を広げれば、AIの時代にもう一度接続の主導権を握れる、という仮説です。手にする端末の形はもうNokiaのものではありませんが、その端末が行き交う通信網の設計には、Nokiaの名前が残り続けるかもしれません。
通信インフラ市場は既存の主要ベンダーとの競争が続いており、Nokiaの戦略が実際にシェアへ結びつくかは、今後の四半期決算で見えてくるはずです。
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【編集部後記】
Nokiaの30年史を追いながら、私たちが考えていたのは「発明した会社の手を離れても、発想は生き続ける」ということでした。折りたたんで画面が現れるという着想は、もうNokiaのものではありません。けれど同じ会社が、今度は目に見えない通信網の設計で同じ賭けに出ているのだとしたら、私たちは何を「発明」と呼ぶべきなのでしょうか。製品の形か、接続への執着そのものか。この問いは、次に同じ岐路に立つ企業を見るときにも、きっと戻ってくる気がしています。
【用語解説】
AI-RAN
AI処理を通信基地局側の無線アクセスネットワーク(RAN)に組み込み、周波数利用効率や通信品質を高める技術。Nokiaが2026年7月に業界初の商用プラットフォームを発表。
6G
5Gの次世代にあたる移動通信規格。2030年前後の実用化が見込まれ、AI処理との統合が主要な開発テーマとなっている。
フォルダブル(Foldable Smartphone)
画面を折りたためる構造を持つスマートフォンの総称。Samsung Galaxy Z Foldシリーズなどが代表例。
QWERTYキーボード(QWERTY Keyboard)
現在のパソコン用キーボードと同じ配列を持つ入力装置。1990〜2000年代の携帯端末では、物理キーボードとして搭載される例が多かった。
ブランドライセンス(Brand License)
企業が自社ブランド名の使用権を他社に許諾する契約形態。Nokiaはこの形式でHMD Globalにスマートフォン製造・販売を委託していた。
Massive MIMO
多数のアンテナ素子を使い、通信容量と接続効率を高める無線技術。5G・6Gの基地局で採用が進む。
【参考リンク】
Nokia公式サイト(外部)
Nokiaの事業セグメント別の説明、ネットワークインフラ・モバイルインフラ事業の詳細を掲載。
Nokia Newsroom(決算資料)(外部)
四半期決算リリースを公開。AI・クラウド事業者向け売上やAI-RANの進捗を随時確認できる。
HMD Global公式サイト(外部)
Nokiaブランドのフィーチャーフォンを含む、HMD Globalの現行製品ラインナップを掲載。
NVIDIA公式サイト(外部)
Nokiaへの出資の背景となる、AI・データセンター向け技術の情報源。
MacRumors「iPhone Fold: Everything We Know」(外部)
iPhone Fold(観測情報)の最新リーク・アナリスト予測をまとめた特設ページ。定点観測に有用。
【参考記事】
Nokia smartphones will probably be history for good by the beginning of 2026 — heise online(外部)
Nokia年次報告書の記載内容・Nokia自身のコメントの出典。
Nokia extends licensing deal with HMD Global beyond 2026 — Gizmochina(外部)
フィーチャーフォン向けライセンス延長の出典。
Nokia is splitting off its AI business, weeks after $1bn Nvidia investment — TechRadar Pro(外部)
事業再編(2025年11月20日発表)・CEOコメントの出典。
Inside Information: NVIDIA to make USD 1.0 billion equity investment in Nokia — Nokia Newsroom(外部)
NVIDIA出資(2025年10月28日発表)の一次情報。
Nokia Corporation Report for Q2 and Half Year 2026 — Nokia Newsroom(外部)
AI・クラウド売上105%増、AI-RANプラットフォームの一次情報。
Nokia extends SoftBank Corp. partnership with network modernization deal in Japan — Nokia Newsroom(外部)
SoftBankとの提携・Massive MIMO実証実験の出典。


















