「わからない」という前提で私たちが見届けようとしていた夜は、思いのほか早く答えの一端を見せてくれました。日本時間今日9月10日午前2時に始まった特別イベント「Surprise and Shine」で、ジョン・ターナス氏はAirPodsなど既存製品の紹介からおよそ1時間が経過したところで、スティーブ・ジョブズの決め台詞そのものを口にし、初の折りたたみiPhone「iPhone Duo」を発表しました。ジョブズ型か、クック型か、彼自身の新しいスタイルか——前夜に立てたその問いに、ターナス氏自身がどう応えたのか、見ていきましょう。
日本時間9月10日午前2時に開幕した「Surprise and Shine」で、新CEOジョン・ターナス氏が初の折りたたみiPhone「iPhone Duo」を発表した。AirPodsなど既存製品の紹介からおよそ1時間後、ターナス氏はスティーブ・ジョブズの決め台詞「But actually, there is one more thing」を口にしてDuoを発表した。Duoは本のように開く構造で、折りたたんだ状態で5.4インチ、開いた状態で7.6インチのディスプレイを備える。価格は1,999ドルからで、同日発表のiPhone 18 Proより700ドル高く、発売は10月23日から。AppleはDuoと18 Proを、AI版Siriを中核とする「インテリジェント・パーソナル・ハブ」と位置づけ、新Siriは10月にベータ提供予定だ。
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Fold the phone: Apple’s new CEO unveils a foldable iPhone
【編集部解説】
「決め台詞」が答えたのは、もう一段複雑な問いだった
前夜の記事で私たちは、ターナス氏がジョブズ型で語るのか、クック型で語るのか、それとも彼自身の新しいスタイルを見せるのか、幕が開くまで分からないままにしておく、と書きました。結果として彼が選んだのは、AirPodsなど既存製品の紹介からおよそ1時間が経過した頃、ジョブズの決め台詞「But actually, there is one more thing」をそのまま口にし、そこから折りたたみiPhone「iPhone Duo」の発表に入るという演出でした。会場の反応は分かりやすいものでした。AppleInsiderの報道によれば、ターナス氏がイベントを締めくくろうとする素振りを見せた直後にこの一言を発した瞬間、スティーブ・ジョブズ・シアターの客席は沸き立ったといいます。
ここで「ターナス氏はジョブズ型を選んだ」と結論づけたくなりますが、それでは物語を単純化しすぎです。同じAppleInsiderの記事は、この決め台詞がジョブズだけの専売特許ではなかったことにも触れています。ティム・クック氏自身も、Apple WatchやiPhone Xの発表など、ここぞという大型ローンチの場面でこの言葉を控えめに復活させてきたというのです。つまりターナス氏が受け継いだのは、ジョブズ個人の話法というより、ジョブズが生み出しクックが折に触れて継承してきた、Appleという組織の儀式だったと見るほうが正確かもしれません。「彼自身の新しいスタイル」を打ち出すのではなく、すでにある型を踏襲する——これもまた一つの選択であり、それ自体がターナス氏という人物のスタンスを物語っています。
前任者がまだ社内にいる、という前例のない体制
ターナス氏の立場を語るうえで見落とせないのが、彼がこの舞台に立ったのがCEO就任からわずか8日目だったという事実です。そしてジョブズが1997年にAppleへ復帰した時と決定的に違うのは、前任者のティム・クック氏(65歳)が執行会長として今も社内に残っている点です。
Appleのケーススタディを執筆してきたハーバード・ビジネス・スクールのデビッド・ヨッフィー教授は、New York Timesの取材に対し、この体制が本当に試されるのは、2人が会社の方向性をめぐって意見を異にした時だろうと指摘したとNewsweekが伝えています。凍結された自動車プロジェクトの扱いや、2024年の発売以来苦戦が伝えられるVision Proの今後についてターナス氏が路線転換を図った場合、クック氏がそれを心穏やかに受け止められるかどうかは未知数だというのです。クック氏との関係がこの先どう動くかはまだ見えませんが、今夜のステージでジョブズの型を借りたことは、この師弟関係にも似た構造の中で、ターナス氏が「継承」と「刷新」のどちらの旗を掲げるつもりなのかを考えるうえでも、示唆的な選択だったといえます。
iPhone Duoは、何を実現したのか
主役の折りたたみiPhone「iPhone Duo」は、本のように開閉する構造で、折りたたんだ状態で5.4インチ、開いた状態で7.6インチのディスプレイを備えます。価格は1,999ドルからで、最上位の高メモリ構成では3,199ドルに達し、同日発表されたエントリーモデルのiPhone 18 Proより700ドル高い水準です。日本での価格は364,800円からとなっています。前夜の記事で報じた「1,999ドルという当初目標」がそのまま実現した形であり、直前に報道されていた「2,199ドル以上になる」という観測は当たらなかったことになります。
実機に触れたCNNの記者は、内側ディスプレイのマット仕上げがグレアを大きく抑え、折り目もほとんど目立たないこと、アプリの画面切り替えに遅延や引っかかりがないことを報告しています。外側ディスプレイは折りたたんだ状態でも通常のiPhoneと同じ操作ができるほか、背面カメラで撮影する際に被写体側が自分の姿をプレビューできる仕組みも備えています。閉じた状態をベッドサイドの時計として使う「Standby」機能も、日常の生活動線に折りたたみ端末を溶け込ませる工夫の一つです。
投資家の反応もおおむね好意的です。Deepwater Asset Managementのマネージングパートナー、ジーン・マンスター氏はイベント後、Duoが来年のiPhone総収益の10%程度を占める可能性があるとの予測をXに投稿しました。1台あたりの単価が高いDuoは、Appleにとってユーザー1人あたりの収益を押し上げる装置にもなり得ます。
ただし、サムスンやHuaweiがすでに2019年から折りたたみ端末を市場に投入し、初期モデルの耐久性問題を乗り越えてきたことを踏まえると、Appleが「最後発だからこそ完成度で勝つ」という自社の必勝パターンを今回も再現できるかどうかは、実際に消費者の手に渡ってからでなければ分かりません。
私たちがまだ知らないこと
今夜確認できたのは、ターナス氏が「彼自身の新しいスタイル」を選ばなかったという事実です。しかし、それが「型を借りることしかできなかった」のか、「型を踏まえたうえで、あえて継承を選んだ」のかは、今夜1回のステージだけでは判別がつきません。Meta CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、ポッドキャスターのジョー・ローガン氏との対談で、Appleが目立った発明をしばらくしていないと述べ、ジョブズがiPhoneを発明してから20年、その延長線上にとどまっているだけだと指摘しています。イーロン・マスク氏も同様の主張をしてきました。折りたたみという物理的な刷新と、決め台詞という様式の継承が、この先どちらの物語として記憶されるのかは、Duoが実際に10月23日に発売され、市場に迎えられて初めて見えてくるはずです。
そしてもう一つ、今夜のステージでは触れられなかった問いが残っています。クック氏とターナス氏の「継承」は、両者の意見が一致している間はうまく機能するでしょう。しかし、Vision Proや自動車プロジェクトのように、路線判断が分かれる案件が浮上したとき、この二人三脚がどう動くのか——それは今夜の華やかな発表の裏側で、私たちが引き続き注視すべき論点として残ります。
【関連記事】
Apple新CEOターナス、今夜初舞台──折りたたみiPhoneは誰の物語か
イベント前夜、「ジョブズ型かクック型か彼自身の新しいスタイルか」という問いを立てた記事。今回の続報はこの問いへの応答にあたる。
Apple次期CEO ジョン・ターナスが示したAI方針|「製品のためのAI」が意味するもの
就任前の6月時点で、AIを製品体験に溶け込ませる方針を示していたターナス氏を報じた記事。今回のiPhone Duo発表の思想的背景を補う一本。
【参考動画】
Surprise and Shine
iPhone DUO
【編集部後記】
ターナス氏が選んだのは、自分だけの新しい語り口ではなく、すでにある型でした。それを「まだ自分の言葉を持てていない」と見るか、「型を引き継ぐ胆力」と見るかは、私たちの受け取り方次第かもしれません。折りたたみiPhoneという答えの先に、この継承がどんな物語に育っていくのか、私たちも引き続き見届けていきたいと思います。
【参考リンク】
Apple Newsroom(iPhone Duo発表プレスリリース)(外部)
仕様・カラー・価格・発売日を公式に発表した一次情報。ターナス氏のコメント全文も掲載。
iPhone Duo公式製品ページ(外部)
ディスプレイサイズ、A20 Proチップ、カメラ仕様など製品詳細と購入導線。
【用語解説】
one more thing(ワン・モア・シング)
スティーブ・ジョブズが基調講演の終盤、締めくくったと見せかけてから大きな発表に入る際に使った決め台詞。1970年代の刑事ドラマ「刑事コロンボ」の劇中セリフが由来とされる。ジョブズ以降はティム・クック氏もApple WatchやiPhone Xの発表など、大型ローンチの節目で控えめに継承してきた。
Standby(スタンバイ)
iPhoneを横向きに置いて充電した際、時計・ウィジェット・写真などを大きく表示する既存の画面モード。iPhone Duoでは折りたたんだ状態でこの機能を使うことで、外側ディスプレイがベッドサイドクロックのように機能する。
執行会長(エグゼクティブチェアマン)
CEOを退いた後にティム・クック氏が就いた新設ポスト。取締役会の議長を務めながら、各国政策担当者との関与など特定の役割を持ち続ける、業務執行寄りの会長職。
【参考記事】
Fold the phone: Apple’s new CEO unveils a foldable iPhone — NPR(外部)
今回のメインソース。ターナス氏の発言全文、価格・発売日、「one more thing」使用の経緯を報じる。
Apple event: CEO John Ternus reveals foldable iPhone Duo — CNN(外部)
実機レビュー(折り目・外側ディスプレイ・Standby機能)とアナリストGene Munster氏の収益予測を報じる。
See the crowd go wild for John Ternus with his iPhone Duo reveal — AppleInsider(外部)
「one more thing」がジョブズの専売特許ではなく、クック氏も継承していた事実を報じる。編集部解説の核となった記事。
Can John Ternus Make Apple Great Again? — Newsweek(外部)
クック氏が執行会長として残留する体制と、ハーバード大Yoffie教授のコメントを報じる。
See John Ternus live at Steve Jobs Theater in his first event as CEO — AppleInsider(外部)
ターナス氏が開閉のみを担当し、個別セグメントは他幹部が担当する構成だった点を報じる。

















