著名なプロトタイプコレクターのKosutamiが、Appleが第1世代AirPods開発時にピンクとイエローのカラーバリエーションをテストしていたプロトタイプ画像を公開した。
充電ケースの外殻がカラーリングされ、ケース内部とイヤフォン本体は白という仕様だった。色調はiPhone 5cで使用されたブルー、グリーン、ピンク、イエロー、ホワイトと一致している。
2023年にもKosutamiは、AppleがiPhone 7ラインナップに合わせて5つのカラーオプションを開発していたと主張していた。
これらはプロトタイプ段階まで進んだが、最終的にAppleは計画を中止し、象徴的な白デザインを採用した。
スタンダードAirPodsとAirPods Proは全世代で白を維持している。
From:
Leaked Prototypes Reveal Apple Once Tested Pink and Yellow AirPods – Digital Trends
【編集部解説】
Appleのデザイン哲学を象徴する白いAirPodsが、実は全く異なる姿を持つ可能性があったことが明らかになりました。
著名なプロトタイプコレクターKosutamiが公開したピンクとイエローの充電ケースは、単なるモックアップではなく、実際に製造されたプロトタイプです。これは、Appleが開発の最終段階まで本気でカラーバリエーションを検討していた証拠といえます。
興味深いのは、このプロトタイプの色調が2013年に発売されたiPhone 5cのカラーパレットと一致している点です。iPhone 5cは、ブルー、グリーン、ピンク、イエロー、ホワイトの5色で展開され、ポリカーボネート製の鮮やかな外装が特徴でした。しかし、iPhone 5cは2013年9月の発売で、AirPodsの発表は2016年9月、発売は同年12月です。つまり、Appleは製品発売の3年以上前のカラースキームを参照していたことになります。
さらに2023年の情報公開では、Appleが2016年発表のiPhone 7に合わせて5色のAirPodsを開発していたことも判明しています。この事実は、Appleが複数の世代にわたってカラー展開を真剣に検討し続けていたことを示しています。
しかし最終的にAppleは、全てのカラーバリエーションを断念しました。その理由は、ブランド戦略にあります。白いAirPodsは、かつてのiPodの白いイヤフォンと同様に、視覚的なアイデンティティとして機能します。街中で白いスティック状のイヤフォンを見れば、誰もがそれがAirPodsだと認識できる。この即座の認識可能性こそが、Appleの狙いでした。
カラー展開を避けたもう一つの理由は、製品ラインの一貫性です。特定のiPhoneモデルの色に合わせてAirPodsの色を展開すると、iPhoneのカラーラインナップが変更されるたびに在庫管理や製品戦略が複雑化します。白という普遍的な色を選ぶことで、Appleはどの世代のiPhoneとも調和するアクセサリーを実現したのです。
現在、AirPodsファミリーでカラー展開されているのはAirPods Maxのみです。スペースグレイ、スカイブルー、ピンクなどで提供されていますが、これはヘッドホンという製品カテゴリーの性質上、ファッション性が重視されるためと考えられます。一方、インイヤー型のAirPodsとAirPods Proは、全世代を通じて白のみの展開です。
Appleの製品戦略において、制約は創造性の源泉です。選択肢を制限することで、ブランドアイデンティティを強化し、製品の象徴性を高める。今回のプロトタイプ公開は、その戦略がいかに意図的なものであったかを浮き彫りにしました。
競合他社がカラフルなワイヤレスイヤフォンを次々と投入する中、Appleが白にこだわり続けるのは、単なる保守性ではありません。それは、製品が単なるガジェットではなく、文化的シンボルとして機能することを目指した、計算された選択なのです。
【用語解説】
プロトタイプ
製品開発において、最終製品の前段階で製造される試作品。デザインや機能性を検証するために作られ、実際の製造工程や材料を用いて作られることが多い。Appleのプロトタイプは通常、外部に流出することはないが、コレクターによって時折公開される。
Design Validation Testing (DVT) / Product Validation Testing (PVT)
Appleが製品発売前に実施する検証段階。DVTはデザインの妥当性を確認し、PVTは量産可能性を検証する。今回のカラーAirPodsはこの段階で中止された可能性が高い。
iPhone 5c
2013年9月に発売されたAppleのスマートフォン。ポリカーボネート製の鮮やかなカラーバリエーション(ブルー、グリーン、ピンク、イエロー、ホワイト)が特徴で、iPhone 5の廉価版として位置づけられた。商業的には期待を下回る結果となったが、Appleのカラフルなデザイン実験として記憶されている。
W1チップ
第1世代AirPodsに搭載されたApple独自設計のシステムオンチップ。Bluetooth接続の最適化、バッテリー効率の向上、シームレスなデバイス間ペアリングを実現した。
【参考リンク】
Apple AirPods公式ページ(外部)
Apple公式のAirPods製品ラインナップ。現行モデルの仕様や価格を確認できる。
Kosutami (@Kosutami_Ito) on X(外部)
今回のプロトタイプ画像を公開したAppleプロトタイプコレクターのアカウント。過去にも未発売製品の情報を多数公開している。
iPhone 5c発表時のApple公式プレスリリース(外部)
2013年のiPhone 5c発表時の公式リリース。カラフルなデザインコンセプトの背景を知ることができる。
【参考記事】
Leaker shares new images of ‘iPhone 5c colored’ prototype AirPods – 9to5Mac(外部)
Kosutamiが公開したピンクとイエローのAirPodsプロトタイプについて詳細分析。
Apple Tested AirPods in Bright Colors – MacRumors(外部)
プロトタイプの外観詳細と、ユーザーコミュニティの反応について報告している。
Apple Tested Pink and Yellow AirPods Cases Before Launch – TUAW(外部)
Appleが白デザインを選択した戦略的理由を分析。ブランド価値優先の経緯を解説。
Why Apple’s Brand Strategy Is a Masterclass in Simplicity and Consistency – NewswireJet(外部)
Appleのブランド戦略全体における一貫性の重要性を詳述した記事。
iPhone 5c – Wikipedia(外部)
iPhone 5cの詳細な歴史、技術仕様、市場反応が記録されている。
【編集部後記】
もし、あのときAppleがカラフルなAirPodsを発売していたら、今のワイヤレスイヤフォン市場はどう変わっていたでしょうか。
白一色という選択は、制約のようでいて、実は強力なブランディング戦略でした。街中で白いスティックを見れば「あ、AirPods」と誰もが認識する。この視覚的な一貫性が、製品を文化的アイコンに押し上げたのかもしれません。
一方で、今回のプロトタイプは「選ばれなかった可能性」の魅力を見せてくれます。テクノロジーの進化は、常に複数の未来の中から一つを選び取る過程です。みなさんは、もしカラフルなAirPodsが発売されていたら、どの色を選んでいたでしょうか。































