Appleスマートグラス|4スタイル・アセテート素材でRay-Ban Metaに挑むか?──2027年発売の噂

[更新]2026年4月13日

スマートグラス市場に、いよいよAppleが本格参入しようとしています。Ray-Ban Metaが市場を切り開き、Googleやサムスンも参入を模索するなか、Appleが問いかけるのは「どんな機能を載せるか」ではなく、「どんな顔をして街に出るか」という問いです。少なくとも4つのフレームスタイルとプレミアム素材の採用が報じられた今、Appleのスマートグラスは「テクノロジーを日常に溶け込ませる」という同社の哲学を、最も個人の印象を左右する装着品である眼鏡で試みようとしています。


2026年4月12日、Bloombergのマーク・ガーマンがPower Onニュースレターで報じたところによると、Appleは開発中のスマートグラスで少なくとも4種類のフレームデザインをテストしている。大ぶりな長方形(Ray-Ban Wayfarer風)、ティム・クックCEOが着用するような細身の長方形、大きめの楕円・円形、小ぶりで洗練された楕円・円形の4スタイルで、ブラック、オーシャンブルー、ライトブラウンなどのカラーバリエーションも検討されている。

本体素材にはプラスチックではなく、耐久性と高級感を兼ね備えたアセテートを採用する計画だ。これはRay-Ban Metaグラスとの差別化を強く意識した選択であり、発売形態も2015年のApple Watchローンチ時に複数ラインナップを一斉投入した手法を踏襲する見通しとなっている。

製品の性格はARではなく、カメラ・マイク・センサーを内蔵したスマートウェアラブルだ。iPhoneとペアリングして動作し、通知の受信、写真・動画撮影、音楽再生、SiriやビジュアルインテリジェンスとのAI連携が主な機能となる。発表は2026年後半か2027年初頭、発売は2027年春から夏を見込んでいる。

From: 文献リンクApple Glasses to sport high-end designs using premium materials, at least four styles in testing – 9to5Mac

【編集部解説】

「Apple Watchの再来」が意味するもの

ガーマン記者が報じた4スタイル×複数カラーの同時投入計画は、2015年のApple Watchローンチ戦略との類似性を強調しています。しかし、その構図をもう少し丁寧に見ると、Appleが狙っているのは単なる製品バリエーションの拡充ではないことが見えてきます。

Apple Watchは初代から3つのコレクション──アルミニウムのSport、ステンレスの標準モデル、18金のEdition──を用意し、同じテクノロジーを「価格帯」と「素材」で階層化しました。これは腕時計という、すでに装飾品としてのヒエラルキーが確立された市場に対するAppleの回答でした。パリの高級セレクトショップColetteでの先行展示や、エルメスとのコラボレーションも、テクノロジーを「ファッション」の文法で語るための布石だったといえます。

スマートグラスでも、Appleは同じ思想を持ち込もうとしています。4つのフレーム形状──大ぶりのウェイファーラー風、ティム・クックが着用するような細身のスクエア、ラウンド系の大小──は、眼鏡の世界における「顔型に合うフレーム」という既存の購買体験をそのまま引き継ぐ設計です。つまり、テクノロジーの側に人間を合わせるのではなく、眼鏡選びという極めて個人的な行為の中にテクノロジーを滑り込ませようとしているのです。

アセテートという「言語」

素材の選択は、この戦略の核心を物語っています。アセテートは、セルロース(木材パルプや綿花繊維)を原料とする植物由来のプラスチック素材です。高級眼鏡フレームの世界では定番の素材であり、イタリアのMazzucchelli社や日本のタキロン・ローランド社が供給する高品質アセテートは、色の深み、肌触り、経年変化の美しさで知られています。

これは技術的に合理的な選択であると同時に、極めて意図的なポジショニングでもあります。Ray-Ban Metaの現行モデルは一般的なプラスチック系素材を採用しているとみられ、眼鏡としてのプレミアム感よりも、テクノロジーの実装しやすさとコストが優先されている印象です。Appleがアセテートを選ぶことで、「テック製品を買っている」のではなく「上質な眼鏡を買っている」という購買体験へと意識を書き換えようとしているのです。

ただし、アセテートには課題もあります。加工に手間がかかり、コストは一般的なプラスチックより高く、高温で軟化・変形しやすいという特性があります。カメラやセンサー、バッテリーといった発熱するコンポーネントを内蔵するスマートグラスにおいて、熱管理をどう両立させるかは技術的な課題になるでしょう。

先行するRay-Ban Meta──700万台が築いた地盤

Appleが参入しようとしている市場の地形は、すでにRay-Ban Metaによって大きく形成されています。

EssilorLuxotticaが2026年2月に発表した決算によると、2025年のMeta AIグラス販売台数は700万台を超え、2023年と2024年の合計200万台の3倍以上に急成長しました。ReutersなどがIDCを引用して伝えたところでは2026年のスマートグラス出荷台数は1,340万台に達し、Metaの市場シェアは約76%に上るとされます。さらに、MetaとEssilorLuxotticaは生産能力を年間2,000万台まで引き上げることを協議しているとの報道もあります。

Metaが築いた先行優位は、単なる販売台数だけではありません。2026年4月14日には、処方箋対応モデル「Ray-Ban Meta Blayzer Optics」と「Scriber Optics」が499ドルで発売されます。これは「スマートグラスは度付きにできない」というこれまでの制約を取り払い、日常的に眼鏡を必要とする数十億人の市場にリーチする動きです。

Apple vs. Meta──戦いの軸はどこにあるか

この競合構図を「Apple対Meta」と単純化すると、本質を見誤ります。両者が勝負しているのは、テクノロジーのスペックではなく、「スマートグラスをどのカテゴリの製品として消費者に認知させるか」という定義権です。

Metaのアプローチは明快です。Ray-Banという世界的に認知されたアイウェアブランドと組むことで、「テック製品」ではなく「Ray-Banの新しいライン」として市場に浸透させました。EssilorLuxotticaのグローバルな流通網──世界中の眼鏡店──を活用できることは、Apple Storeとは異なる種類のリーチを持つ販売チャネルとなっています。

一方のAppleは、自社ブランドの求心力と垂直統合モデルで対抗します。iPhoneエコシステムとの深い統合(Apple Intelligence、Siri、ビジュアルインテリジェンス)は、Meta AIとは異なるAI体験を提供する可能性があります。特に、Appleがプライバシーを重視したオンデバイス処理を訴求できる点は、常時カメラを搭載するスマートグラスにおいて重要な差別化要因となりえます。Ray-Ban Metaはプライバシーを巡る批判やEU規制当局からの監視に直面しており、この領域はAppleが比較的得意とするフィールドです。

まだ見えない輪郭

今回のガーマン報道で明らかになったのはデザイン戦略の方向性であり、いくつかの重要な情報はまだ見えていません。

価格帯については言及がありません。Ray-Ban MetaのGen 1が2023年発売時に299ドル、現行のGen 2が379ドル〜、ディスプレイ搭載モデルが799ドルという価格帯にあるなかで、Appleがアセテート素材と複数スタイルという高コスト構造でどの価格帯を狙うのかは、市場の受け入れを左右する決定的な要素です。以前の報道では1,000ドル以下との予測がありましたが、具体的な価格設定はまだ不明です。

また、流通チャネルも未知数です。Apple Watch初代がApple Storeではなく予約制の個別対応から始まったように、眼鏡という度数やフィッティングが重要な製品をApple Storeの既存の販売体制でどう扱うのか。眼鏡専門店との提携を模索するのか、それともApple Storeに光学フィッティングの機能を組み込むのか。このあたりのアプローチが、Appleの本気度と市場浸透の速度を左右するでしょう。

【用語解説】

アセテート(Acetate)
セルロース(木材パルプや綿花繊維)を原料とする植物由来のプラスチック素材。一般的な石油由来のプラスチックに比べ、色の深みや透明感が出しやすく、肌触りが良い。高級眼鏡フレームに広く使われており、使い込むほどに艶が増す経年変化も特徴のひとつ。加工には熟練した職人技が求められ、量産には向きにくい。

ビジュアルインテリジェンス(Visual Intelligence)
Appleが2024年のiPhone 16シリーズで導入したAI機能。カメラで捉えた映像をリアルタイムで解析し、映っているものの情報(植物の種類、レストランの評判、パッケージのテキストなど)を提示する。スマートグラスに組み込まれることで、常時カメラを通じた「見ながら調べる」体験が視野に入る。

Power On(Bloombergニュースレター)
Bloombergのテクノロジー記者マーク・ガーマンが毎週末に配信するニュースレター。Appleおよびテクノロジー業界の未発表情報を多く報じることで知られ、IT・投資業界での注目度が高い。本記事の情報源。

EssilorLuxottica
フランスのEssilor(レンズメーカー)とイタリアのLuxottica(フレームメーカー・小売)が2018年に合併して誕生した世界最大のアイウェア企業。Ray-Ban、Oakley、Oliver Peoplesなどのブランドを保有し、LensCraftersやSunglass Hutなどの小売チェーンも運営。MetaとのRay-Ban Metaスマートグラス開発の重要パートナーでもある。

Ray-Ban Wayfarer
1952年にRay-Banが発売した、台形に近い大ぶりの長方形フレームが特徴のサングラス。マリリン・モンローやジョン・F・ケネディが愛用したことで知られ、現在も世界で最も売れているサングラスフレームのひとつ。Appleのテスト中フレームの一つがこのデザインに近いと報じられた。

【参考リンク】

Ray-Ban Meta スマートグラス 公式サイト(米国)(外部)
スマートグラス市場の現時点での主役。現行モデルのラインナップ・価格・機能の確認先として。

Apple Intelligence 公式ページ(外部)
Appleのスマートグラスが搭載予定のAI基盤。Siri強化・ビジュアルインテリジェンスの現在地が分かる。

Bloomberg Power On ニュースレター(マーク・ガーマン)(外部)
本記事の情報源。Appleの未発表情報を継続的に追いたい場合のウォッチ先。

EssilorLuxottica 公式サイト(外部)
Ray-Ban Metaの製造・流通を担うアイウェア世界最大手。スマートグラスの競合文脈を理解する上での参照先。

【参考記事】

Apple reportedly testing four designs for upcoming smart glasses – TechCrunch(外部)
「N50」のコードネームや、MetaおよびGoogleとの戦略的位置づけに関する補足情報を含む同報道のまとめ。

Apple eyes 2027 for AI smart glasses built around context, not screens – AppleInsider(外部)
2カメラシステムの詳細や生産開始目標を報じた2026年2月時点の先行報道。今回の報道の背景理解に有用。

Ray‑Ban Meta Reveals Two $499 Prescription Models in 2026: Why Buyers Should Care – Glass Almanac(外部)
処方箋対応モデルの詳細とIDC市場予測(2026年出荷1,340万台、Meta市場シェア76.1%)の出典記事。

Meta Slated to Launch Two New Ray-Ban Smart Glasses, According to FCC Filing – Road to VR(外部)
FCCへの申請書類を基にRay-Ban Metaの新モデル仕様を報じた先行記事。スマートグラスの規制対応動向の参照として。

【関連記事】

【編集部後記】

テクノロジー製品には確立されたマーケティングのパターンがありますが、眼鏡はそれが通用しない珍しいプロダクトです。私たちが眼鏡店で最後に頼りにするのは、スペックシートではなく鏡に映った自分の顔だからです。4つのフレームとアセテート素材という選択は、Appleが眼鏡の文化を正面から引き受けようとしている兆しに見えます。

ただ、腕時計やイヤホンと違い、眼鏡は掛けている間ずっと「その人の顔の一部」です。そこにカメラが載っていることを、周囲の人にどう受け止めてもらうか──Appleが売るのは製品だけではなく、「カメラ付き眼鏡を掛けている人」が受け入れられるための空気なのかもしれません。

投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。