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GPT-4が発見したがん治療 – AIとの協働で乳がん治療に新機軸:ケンブリッジ大学が実証

GPT-4が発見したがん治療 - AIとの協働で乳がん治療に新機軸:ケンブリッジ大学が実証 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-07 11:08 by admin

ケンブリッジ大学主導の研究チームがGPT-4を搭載した「AI科学者」を活用して、がん治療薬の新しい組み合わせを発見したと発表した。

研究ではコレステロール治療薬とアルコール依存症治療薬のデータを分析し、乳がん細胞に効果的な薬剤の組み合わせをGPT-4に提案させた。AIが提示した12の組み合わせのうち3つが既存の乳がん治療薬より優れた効果を示し、その結果をフィードバックしてAIが新たに作成した4つの組み合わせのうち3つも有望な結果を得た。

共同研究チームの報告によると、特にシンバスタチン(コレステロール治療薬)とジスルフィラム(アルコール依存症治療薬)の組み合わせが乳がん細胞に対して顕著な効果を示した。この研究成果はJournal of the Royal Society Interfaceに掲載された。

研究チームは標準的ながん治療薬を避け、規制当局承認済みで広く入手可能な安価な薬剤のみを対象とし、健康な細胞を攻撃しない薬剤の組み合わせを探索した。

From: 文献リンクAI helped design an innovative new cancer treatment plan

【編集部解説】

この研究の革新性は、従来の「AIが既存データを分析する」段階を超え、クローズドループシステムという新しい科学研究手法を確立した点にあります。GPT-4が仮説を提案し、人間の研究者が実験で検証、その結果を再びAIにフィードバックして次の仮説を生成するという循環的プロセスは、科学研究における人工知能の活用方法を根本的に変える可能性を秘めています。

特に注目すべきは、シンバスタチン(コレステロール治療薬)とジスルフィラム(アルコール依存症治療薬)の組み合わせが乳がん細胞に対して強い効果を示した点です。これらの薬剤は既に規制当局の承認を得ており、安全性の基礎データが存在するため、ドラッグリポジショニング(既存薬の新用途開発)として臨床応用への道筋が短縮される可能性があります。

この技術が実用化されれば、製薬業界の研究開発コストを劇的に削減できるでしょう。新薬開発には通常10-15年と数千億円を要しますが、既存薬の組み合わせなら安全性試験を大幅に短縮できます。

一方で潜在的リスクも存在します。AIが提案する薬剤組み合わせには予期しない相互作用や長期的副作用の可能性があり、十分な臨床試験なしに使用すれば患者に害を及ぼす危険性があります。研究者らも「AIの幻覚(ハルシネーション)」が時として有益な発見につながる可能性を指摘していますが、同時に慎重な検証の必要性も強調しています。

規制面では、既存の薬事承認制度が想定していない「AI提案による薬剤組み合わせ」という新しいカテゴリーへの対応が求められるでしょう。各国の規制当局は、この新しい研究手法に対する評価基準の策定を迫られることになります。

長期的視点では、この手法ががん治療以外の疾患領域にも拡大し、希少疾患や難治性疾患の治療選択肢を大幅に増やす可能性があります。人工知能と人間の研究者が協働する新しい科学研究パラダイムの先駆けとして、医学研究全体の加速化に寄与することが期待されます。

【用語解説】

GPT-4(Generative Pre-trained Transformer 4)
OpenAIが開発した大規模言語モデル。膨大なテキストデータで事前学習され、自然言語処理タスクを高精度で実行できる。今回の研究では「AI科学者」として機能した。

シンバスタチン(Simvastatin)
HMG-CoA還元酵素阻害薬として知られるコレステロール治療薬。肝臓でのコレステロール合成を阻害し、血中コレステロール値を下げる。

ジスルフィラム(Disulfiram)
アルコール依存症治療薬。アルコール代謝酵素を阻害し、アルコール摂取時に不快な症状を引き起こすことで断酒を支援する。商品名はアンタビュース。

ドラッグリポジショニング
既存の承認薬を新しい疾患の治療に転用する手法。新薬開発より短期間・低コストで新たな治療選択肢を提供できる。

クローズドループシステム
実験結果をAIにフィードバックし、AIが新たな仮説を生成する循環的研究システム。人間とAIが協働して研究を進める新しい手法。

Journal of the Royal Society Interface
英国王立協会が発行する学術誌。物理科学、工学、生命科学の境界領域を扱う査読付き国際誌。

【参考リンク】

ケンブリッジ大学(外部)
英国の名門大学で、1209年設立。世界トップクラスの研究機関として、今回のAI創薬研究を主導した。

キングス・カレッジ・ロンドン(外部)
1829年設立のロンドン大学群の一校。医学・生命科学分野で世界的に高い評価を受ける。

Journal of the Royal Society Interface(外部)
英国王立協会が発行する学際的学術誌。物理科学、工学、生命科学の境界領域研究を掲載。

【参考動画】

【参考記事】

‘AI scientist’ suggests combinations of widely available non-cancer drugs can kill cancer cells(外部)
ケンブリッジ大学公式発表。GPT-4を活用した創薬研究の詳細と実験結果を報告。

AI Helps Discover Surprising Drug Combos for Breast Cancer Treatment(外部)
キングス・カレッジ・ロンドン公式発表。シンバスタチンとジスルフィラムの組み合わせ効果を詳述。

‘AI scientist’ suggests combinations of widely available non-cancer drugs can kill cancer cells(外部)
科学ニュース配信サービスによる研究発表。クローズドループシステムの世界初事例として紹介。

【編集部後記】

AIが既存薬の新しい組み合わせを発見し、がん治療に革命をもたらす可能性を示した今回の研究。皆さんは、身近にあるコレステロール治療薬やアルコール依存症治療薬が、まったく異なる疾患に対して新たな希望を与える可能性があることをどう思われますか。この技術が実用化されれば、医療費の削減や治療選択肢の拡大につながるかもしれません。一方で、AIの提案する治療法には十分な検証が必要という課題もあります。AI創薬の進歩について、どのような期待や懸念をお持ちですか?ぜひSNSで皆さんのご意見をお聞かせください。

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TaTsu
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