米国の乳児用ミルク市場に、新たな潮流が生まれている。Abbott、Nestlé、Reckitt Benckiserといった大手が長年寡占してきたこの分野で、スタートアップのNara Organicsが注目を集めているのだ。
同社が今夏発表した全乳幼児用ミルクは、業界の常識に一石を投じる製品として話題となっている。7年という長期間の開発を経て、FDA登録とUSDAオーガニック認証の両方を取得し、米国と欧州の厳しい安全基準をクリアした。
創設者兼CEOのEsther Hallamは、自身の育児体験から生まれた疑問を原点としている。市場の既存製品への個人的な不満が、業界変革への挑戦の出発点となった。
Nara Organicsが追求したのは、従来品との明確な差別化だ。脱脂粉乳を避けて全乳脂肪を採用し、米国市場で最高水準の乳脂肪率を実現。パーム油、コーンシロップ、大豆、マルトデキストリン、遺伝子組み換え作物といった添加物を排除した配合にこだわった。
同社の製品開発で特筆すべきは、米国全土で実施した大規模な二重盲検臨床試験だ。この試験により安全性と有効性を科学的に実証し、鉛や砒素などの重金属、およびクロノバクター汚染リスクに対する厳格なテストをクリア。その結果、Clean Label Purity Awardを受賞している。
こうした本格的な製品開発を支えているのが、豊富な資金調達だ。2018年以来、約3,200万ドルの調達を実現。投資家陣には、テニス界のレジェンド、セレナ・ウィリアムスをはじめ、女優のジーナ・ロドリゲス、元ナイキCEOのミンディ・グロスマン、ニッキー・ヒルトン、エリンとサラ・フォスター姉妹といった著名人が名を連ねる。
製品の販売戦略も注目される。スターターバンドル（2缶セット）を36ドルで提供し、定期購入では4週間ごとに4缶で約136ドル、6缶で約243ドルという価格設定となっている。
From: 
Mom-Led Nara Organics Is Changing Baby Formula for Good
【編集部解説】
このニュースが画期的である理由を、より大きな文脈で解説いたします。米国の乳児用ミルク市場は長年、Abbott、Nestlé、Reckitt Benckiserといった大手メーカーが寡占状態を続けてきました。しかし、近年の消費者意識の変化により、よりクリーンで透明性の高い製品への需要が高まっています。
臨床試験の実施は特に注目すべき点です。業界関係者によると、過去50年間で大規模な二重盲検臨床試験を実施したミルクメーカーは数社しかありません。これは開発コストと期間の増大を意味しますが、同時に製品の安全性と有効性に対する科学的根拠を提供します。
ドイツでの製造選択も戦略的です。ドイツは粉末乳児用ミルクの発祥地とされ、EU基準は米国基準よりも厳格な部分があります。特に重金属汚染対策では、Consumer Reportsの2025年調査によると、41種類のミルクをテストした結果、7種類で砒素レベルが許容値を超えていました。Nara OrganicsのClean Label Purity Award受賞は、このような業界課題への対応策として評価できます。
価格面では、2缶36ドルというプレミアム価格設定が課題となる可能性があります。定期購入で月136～243ドルは、一般的な乳児用ミルクの2～3倍の価格帯です。これは高所得層に限定された市場となるリスクを示唆しています。
クロノバクター汚染リスクへの言及も重要です。この細菌は乾燥食品に潜む可能性があり、乳児に髄膜炎や敗血症を引き起こす恐れがあります。特に3ヶ月未満の乳児、早産児、免疫系が弱い乳児にとっては致命的となる場合もあります。
長期的な影響として、このような科学的根拠に基づいた製品開発が業界標準となれば、既存メーカーも品質向上や透明性の確保を迫られることになります。セレナ・ウィリアムスをはじめとする著名投資家の参画は、単なる資金調達を超えて、消費者の認知度向上と信頼性構築に大きく貢献するでしょう。
オンライン限定販売という戦略は、店舗展開コストを抑える一方で、緊急時の入手困難というリスクも抱えています。今後の小売店展開が成功の鍵となりそうです。
【用語解説】
FDA（アメリカ食品医薬品局）: アメリカの保健福祉省に属する政府機関で、食品、医薬品、医療機器などの安全性と有効性を監督・規制する。
USDA有機認証（米国農務省オーガニック認証）: 95%以上の有機成分を含む製品に与えられる認証で、合成殺虫剤、除草剤、化学肥料、遺伝子組み換え作物を使用せずに生産された証明。
クロノバクター: 乾燥食品（粉ミルクなど）に生息する可能性がある細菌で、乳児に髄膜炎、敗血症、壊死性腸炎などの重篤な合併症を引き起こす危険性がある。特に2ヶ月未満の乳児、早産児、免疫系が弱い乳児にとって危険である。
二重盲検臨床試験: 研究者も被験者も、どの製品を使用しているかわからない状態で行う臨床試験で、科学的に最も信頼性の高い研究手法の1つ。
乳脂肪球皮膜（MFGM）: 母乳に含まれる天然成分で、乳児の脳の発達と免疫機能をサポートするとされる。従来のミルクでは除去されることが多いが、Nara Organicsでは自然に含有されている。
【参考リンク】
Nara Organics公式サイト（外部）
FDA登録・USDA有機認証を取得した全乳乳児用ミルクを製造するスタートアップの公式サイト
FDA乳児用ミルク規制ガイド（外部）
FDAによる乳児用ミルクの規制内容、安全基準、承認プロセスについて詳しく解説している専門サイト
USDA有機認証プロセス（外部）
USDA有機認証の基準、取得プロセス、検査内容について詳細に説明している農業研究機関のサイト
クロノバクター感染予防ガイド（カナダ政府）（外部）
クロノバクター感染のリスク、予防方法、症状について詳しく解説した政府公式ガイド
【参考記事】
Introducing Nara Organics: The Next Revolution in Clean Infant Formula and Baby Nutrition（外部）
Nara Organicsの公式ローンチを報じた記事で、7年間の開発期間、FDA・USDA認証取得について詳細に報告
Growth and Safety Clinical Trial on a New Infant Formula（外部）
Nara Organicsが実施した16週間の大規模二重盲検臨床試験の詳細情報と安全性評価結果を公開
Nara Organics Launches Organic Infant Formula with $32M in Funding（外部）
2018年以来の総調達額32百万ドル、セレナ・ウィリアムスをはじめとする著名投資家の参画について詳細報告
Serena Williams backs infant formula startup Nara Organics in $32 million round（外部）
セレナ・ウィリアムスによる投資決定の背景、主要投資家リスト、ドイツでの製造戦略について報告
We Tested 41 Baby Formulas for Lead and Arsenic（外部）
Consumer Reportsによる2025年の乳児用ミルク汚染調査結果、41製品中7製品で砒素レベルが許容値を超過
【編集部後記】
乳児を持つご家庭では、ミルク選びで悩まれたことはありませんか？Nara Organicsのような科学的根拠に基づいた製品の登場は、従来の選択肢に新たな視点を提供しています。
クリーンラベルや臨床試験の重要性について、みなさんはどのように感じられるでしょうか。
また、プレミアム価格でも安全性を重視すべきか、それとも従来品で十分なのか。
育児における「安全への投資」について、ぜひご自身の体験や考えをお聞かせください。
テクノロジーが育児をより良くする未来について、一緒に考えてみませんか。
