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世界初、AIとブロックチェーンで24時間介護記録を刷新—改ざん不可能な次世代システム

世界初、AIとブロックチェーンで24時間介護記録を刷新——改ざん不可能な次世代システム - innovaTopia - (イノベトピア)

外国人介護職員が約7.4万人に達する日本で、言語の壁と記録管理という二つの構造的課題に、AI×ブロックチェーンが応える。世界初の次世代24時間介護記録システムが、2026年5月に始動する。


24時間シート(24Hシート)のデジタル化に、AIによる多言語対応とブロックチェーン技術を組み合わせた次世代介護記録システムが開発され、2026年5月にリリースされる。このシステムは介護分野において世界初の試みだ。

ブロックチェーン技術「TSURU」を活用し、記録の改ざん不可能性を技術的に担保する。スタッフが記録を入力した瞬間、タイムスタンプと共にブロックチェーンに刻まれ、分散型台帳に保存される。AI翻訳機能はベトナム語、タガログ語、インドネシア語、英語、中国語、ミャンマー語など主要言語に対応し、介護専門用語も高精度に翻訳する。厚生労働省の統計によれば、EPA、技能実習、特定技能などの制度を通じて、2025年には外国人介護人材は数万人規模に達すると予測されている。

From: 文献リンク【世界初】AIとブロックチェーンで実現する 次世代24H介護記録システムを2026年5月リリース

【編集部解説】

日本の介護現場が直面する二つの構造的課題――外国人人材の増加と記録管理の信頼性確保――に対し、テクノロジーで応える試みが具体化しました。注目すべきは、単なる業務効率化ツールではなく、「利用者本位のケア」という介護の理念を損なわずにデジタル化を進めようとしている点です。

24Hシート(24時間シート)は、日本の介護現場で2000年代初頭から発展してきた個別ケアの記録手法です。利用者一人ひとりの24時間の生活リズムを時系列で可視化し、専門職が判断する「必要なこと(ニーズ)」だけでなく、利用者自身が「したいこと(デマンド・ウォンツ)」も記録します。起床時刻、食事の好み、入浴のタイミングなど、生活の細部まで記録することで、「その人らしい暮らし」を支えるツールとして現場で重視されてきました。

しかし、この詳細な記録は紙やExcelでの管理が主流で、外国人職員にとっては日本語の壁が大きな負担となっていました。厚生労働省の統計によれば、2024年12月末時点で特定技能「介護」の外国人は約44,000人に達しており、EPA、技能実習を含めると2025年3月時点で約7.4万人規模となっています。介護人材不足が深刻化する中、ベトナム、フィリピン、インドネシア、ミャンマーなど多様な国籍のスタッフが協働する環境は今後さらに拡大するでしょう。

本システムのAI多言語対応は、この現実に対する実践的な解決策です。ベトナム語、タガログ語、インドネシア語、英語、中国語、ミャンマー語などに対応し、「夜間に3回覚醒し、その都度トイレ介助」といった介護特有の詳細な表現も翻訳可能としています。これにより、言語の問題で本来の力を発揮できなかった外国人職員が、母国語で正確に記録・閲覧できる環境が整います。

もう一つの革新はブロックチェーン技術「TSURU」の活用です。介護記録は利用者の健康状態やケア内容を証明する法的文書であり、事故発生時の検証や訴訟時の証拠資料として真正性が求められます。近年、介護事故をめぐる訴訟の増加や虐待防止の観点から、記録の透明性への社会的要請は高まっています。

TSURUは、シンガポールのONFETが開発したエンタープライズ向けブロックチェーンで、2023年11月から一般社団法人全国ユニット&ケア研修研究会と実証実験を行ってきました。従来のブロックチェーンは一度記録すると更新できないという制約がありましたが、TSURUは改ざんを防ぎながらも、正当な権限者による追記・更新を可能にする仕組みを実現しています。「朝は食欲がなかったが、昼には笑顔で完食された」といった経過を追加できることで、介護現場が本当に必要とする連続的な生活記録が可能になります。

医療分野では、MITメディアラボとベス・イスラエル・ディーコネス医療センターによるMedRecなど、ブロックチェーンを活用した電子カルテシステムの開発が進んでいます。しかし、介護記録への本格的な適用は世界的にも例が少なく、今回のシステムは先駆的な取り組みといえるでしょう。

潜在的な課題としては、施設側の導入コストや職員への教育、既存システムとの統合が挙げられます。また、ブロックチェーンの特性上、一度記録したデータは削除できないため、個人情報保護の観点からアクセス権限の管理が極めて重要になります。記事では施設内での厳格な管理を強調していますが、実際の運用では細心の注意が必要です。

2026年5月のリリースまで約1年半。この間に、実証実験で得られた知見をどこまで製品に反映できるかが成否を分けるでしょう。介護の質を向上させながら、多様な人材が協働できる環境を技術で支える――この試みは、超高齢社会を迎える日本だけでなく、今後高齢化が進むアジア諸国にとっても重要なモデルケースとなる可能性を秘めています。

【用語解説】

24時間シート(24Hシート)
ユニットケアを実践する介護施設で使用される、利用者一人ひとりの24時間の生活リズムを時系列で可視化する記録手法。起床時刻、食事の好み、排泄のタイミングなど、生活の細部を記録し、「その人らしい暮らし」を支えるツールとして2000年代初頭から日本の介護現場で発展してきた。

ユニットケア
従来の画一的な施設運営ではなく、利用者一人ひとりの生活の質を重視する介護の手法。少人数の生活単位(ユニット)で個別ケアを実践し、利用者の尊厳ある暮らしを支える。

ブロックチェーン
分散型台帳技術の一種で、データを改ざん不可能な形で記録・管理する仕組み。データは暗号化され、タイムスタンプと共に複数のコンピュータに分散保存されるため、高い信頼性と透明性を実現する。

EPA(経済連携協定)
日本とインドネシア、フィリピン、ベトナムとの間で締結された経済連携協定に基づき、介護福祉士候補者を受け入れる制度。2008年から開始され、候補者は就労しながら介護福祉士資格の取得を目指す。

特定技能
2019年に創設された在留資格で、人手不足が深刻な産業分野において一定の専門性・技能を持つ外国人が就労できる制度。介護分野では2024年12月末時点で約44,000人が在留している。

技能実習
開発途上国への技能移転を目的とした制度で、外国人が日本で実習を受けながら働くことができる。介護分野では2017年から受け入れが開始された。

分散型台帳
単一の管理者が存在せず、複数のコンピュータにデータが分散して保存される記録システム。ブロックチェーンの基盤技術であり、改ざんが極めて困難な特性を持つ。

ICF(国際生活機能分類)
WHOが2001年に採択した、人の生活機能と障害を分類する国際的な枠組み。「できないこと」ではなく「できること」に焦点を当て、環境因子や個人因子も含めて包括的に評価する。

MedRec
MITメディアラボとベス・イスラエル・ディーコネス医療センターが開発した、ブロックチェーン技術を活用した電子カルテシステムのプロトタイプ。医療記録の安全な共有と患者のデータ管理権限の強化を目指している。

【参考リンク】

ONFET公式サイト(外部)
シンガポール拠点のシステム開発企業。独自ブロックチェーン技術「TSURU」で介護業界などにソリューション提供。

出入国在留管理庁 – 特定技能制度(外部)
特定技能制度の概要、対象分野、在留外国人数など最新統計を公開。介護分野含む12分野の運用状況確認可能。

WHO(世界保健機関)公式サイト(外部)
国際保健専門の国連機関。ICF(国際生活機能分類)など世界の保健医療基準やガイドライン策定。

【参考記事】

外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について(厚生労働省)(外部)
2024年12月末時点の特定技能「介護」外国人在留者数約44,000人など最新統計。制度別受入状況や都道府県分布を解説。

介護業界の業務効率化を目指すPoCにONFETが開発したブロックチェーン技術を提供(PR TIMES)(外部)
2023年11月開始の実証実験詳細。ブロックチェーン「TSURU」を介護業界の業務効率化に活用する試み解説。

【2025年版】特定技能「介護」の現状は?(スキルド・ワーカー)(外部)
特定技能「介護」人数推移を詳細分析。2024年12月末44,367人に到達、2025年度から訪問介護従事可能の見通し報告。

Blockchain Technology for Electronic Health Records(PMC)(外部)
医療記録のブロックチェーン応用を学術的に解説。OmniPHRなど具体システム事例紹介、課題も議論。

Blockchain Personal Health Records: Systematic Review(PMC)(外部)
ブロックチェーン活用個人健康記録の体系的レビュー。概念からプロトタイプへの成熟過程、3つの主要課題整理。

Who will build the health-care blockchain?(MIT Media Lab)(外部)
MedRecプロジェクト詳細。ボストン市内26種類の電子カルテ問題にブロックチェーンがどう解決するか解説。

【編集部後記】

テクノロジーが介護現場に入ることで、本当に「その人らしい暮らし」を支えられるのか。私たちもこの問いを常に考えています。今回のシステムが興味深いのは、効率化だけでなく、言語の壁を越えて多様な人材が協働できる環境づくりを目指している点です。

みなさんの身近な介護現場では、どのような課題があるでしょうか。あるいは、記録の透明性が高まることで、利用者やご家族の安心はどう変わるとお考えですか。2026年のリリース後、このシステムがどう現場に受け入れられるのか、私たちも注目していきたいと思います。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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