英国の医療機器企業iSMART Developmentsは2026年1月7日、ロレアル・グループとの戦略的パートナーシップを発表した。両社は共同でLED Face MaskとLED Eye Maskを開発した。製品は超薄型で柔軟なシリコン製で、顔と目の下のエリアに光治療を提供する。2つの光波長を照射する仕様となっており、赤色光(630 nm)はコラーゲンとエラスチンを刺激し、近赤外光(830 nm)はより深く浸透してむくみを軽減し血行を促進する。
iSMART DevelopmentsのCEO兼創設者のスー・ダーシー氏は、同社が20年以上にわたりLED光治療の専門知識を構築してきたと述べた。パートナーシップは次世代LED光治療デバイスの開発と製造に焦点を当て、まずフェイシャルカテゴリから開始する。契約はグローバル市場をカバーし、CES 2026で展示された。
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iSMART Developments Ltd Announces Strategic Partnership with L’Oréal Groupe
【編集部解説】
今回発表されたLED Face MaskとLED Eye Maskは、まだプロトタイプ段階であり、2027年の市場投入を目指している点に注目する必要があります。ロレアルの公式発表によると、米国での発売にはFDA 510(k)事前市場通知プロセスが必要とされており、医療機器としての承認を経る必要があることを意味します。
このマスクが採用する630nmの赤色光と830nmの近赤外光の組み合わせには、確固たる科学的根拠があります。複数の臨床研究により、この波長の組み合わせがしわを最大36%減少させ、肌の弾力性を最大19%向上させることが実証されています。赤色光はミトコンドリアのシトクロムcオキシダーゼという酵素に作用してATP生成を促進し、細胞の活性化を引き起こします。一方、近赤外光はより深層まで浸透し、線維芽細胞を刺激してコラーゲンとエラスチンの合成を促進する働きを持ちます。
従来のLEDマスク製品との最大の違いは、その物理的形状にあります。Dr. Dennis GrossやOmnilux、Therabodyといった既存ブランドのマスクはシェル構造を採用していますが、iSMARTとロレアルが開発したマスクは超薄型で柔軟なシリコン製です。Engadgetの取材によると、ロレアルのグローバル技術・オープンイノベーション担当副社長のGuive Balooch氏は、この製品がプレミアム価格帯ながら最高価格帯の製品よりは手頃な価格設定になると述べています。
興味深いのは、ロレアルがこのマスクと併用する専用セラムの開発を進めている点です。Balooch氏はEngadgetに対し、既存のLEDマスクでは肌が乾燥しやすいという課題があることを認め、専用セラムが保湿効果を提供しつつ光治療の効果を高める設計になっていると説明しています。これは、デバイスと化粧品を統合したエコシステムの構築を示唆しており、ビューティーテック市場における新たなビジネスモデルの萌芽といえるでしょう。
規制面では、FDA 510(k)プロセスを経ることにより、製品の安全性と有効性が第三者機関によって検証されます。これは消費者にとっての信頼性向上につながる一方、市場投入までの時間とコストが増大するトレードオフも存在します。ロレアルのような大手企業がこうした規制ハードルを乗り越える姿勢を示すことは、ホームケア美容デバイス市場全体の成熟度を高める契機となる可能性があります。
より広い視点で見ると、この提携は医療グレードの技術がコンシューマー市場へと降りてくる流れを象徴しています。iSMARTが20年以上かけて蓄積してきたLED光治療の専門知識と規制対応力が、ロレアルのグローバルな販売網と科学的インフラと結びつくことで、プロフェッショナルグレードの治療を日常的なスキンケアルーティンに組み込む道が開かれます。
CES 2026での発表タイミングも戦略的です。ウェアラブルヘルスケアデバイスやAI美容デバイスが注目を集める中、光治療技術は非侵襲的かつエビデンスベースのアプローチとして、今後のビューティーテック市場における重要な柱として確立されつつあります。
【用語解説】
LED光治療(LED Phototherapy)
発光ダイオードを用いて特定の波長の光を照射し、細胞レベルでの生理的反応を引き起こす治療法。630nm前後の赤色光と830nm前後の近赤外光が、肌の若返りや創傷治癒に効果的とされる。非侵襲的で熱損傷のリスクが低いことが特徴だ。
シトクロムcオキシダーゼ(Cytochrome c Oxidase)
ミトコンドリアの呼吸鎖に存在する酵素で、LED光治療の主要な標的分子。赤色光がこの酵素に吸収されることでATP(アデノシン三リン酸)の生成が促進され、細胞が活性化される。
線維芽細胞(Fibroblast)
真皮層に存在する細胞で、コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックスを生成する役割を持つ。LED光治療により線維芽細胞が活性化されると、コラーゲン合成が促進され、肌の弾力性や質感が改善される。
FDA 510(k)
米国食品医薬品局(FDA)が定める医療機器の市場投入前審査制度。新規医療機器が既存の承認済み機器と同等の安全性と有効性を持つことを証明するプロセス。承認を得ることで、製品の医学的な信頼性が担保される。
プロトタイプ(Prototype)
製品開発における試作品の段階。今回発表されたLED Face MaskとLED Eye Maskはまだこの段階にあり、2027年の市場投入に向けて最終的な調整や規制承認プロセスが進められている。
【参考リンク】
iSMART Developments(外部)
英国を拠点とする医療機器企業。LED光治療デバイスの研究、設計、製造を専門とし、20年以上の実績を持つ。
L’Oréal Groupe(ロレアル・グループ)(外部)
世界最大の化粧品会社。116年の歴史を持ち、37の国際ブランドを展開。CES 2026で光技術美容デバイスを発表。
CES 2026(外部)
米国ラスベガスで開催される世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスショー。2026年1月開催。
【参考記事】
L’Oréal’s CES 2026 beauty devices include a skin-like flexible LED mask(外部)
プロトタイプ段階であること、2027年発売予定、専用セラム開発についての報道記事。
L’ORÉAL ADVANCES LEADERSHIP IN BEAUTY TECH(外部)
ロレアル公式プレスリリース。FDA 510(k)承認が必要であることを明記。
Clinical study to evaluate the efficacy and safety of LED phototherapy(外部)
630nmと850nmのLED光治療の臨床研究。コラーゲンとエラスチンの合成増加を確認。
LED phototherapy for skin rejuvenation(外部)
830nmと633nmによりしわ最大36%減少、肌弾力性最大19%向上を報告する二重盲検試験。
Light-emitting Diodes: A Brief Review and Clinical Experience(外部)
赤色光と近赤外光の組み合わせ治療。被験者80%で目周りのしわ軟化を確認した研究。
【編集部後記】
LED光治療がプロフェッショナルな領域からホームケアへと降りてくる流れは、私たちの日常的なスキンケアの選択肢を大きく広げようとしています。従来の美容デバイスとは異なり、医療機器としての承認プロセスを経ることで、科学的根拠に基づいた効果が期待できる点は注目に値するのではないでしょうか。
一方で、2027年の市場投入まではまだ時間があり、価格設定や実際の使用感についても未知数です。みなさんは、エビデンスベースの美容デバイスにどのような期待を持たれますか?コストと効果のバランスをどう考えていらっしゃるでしょうか。ぜひご意見をお聞かせください。
































