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ウェアラブル超音波で在宅医療革命:MIT主導WITEC、心血管の48時間断続イメージングで慢性疾患管理を変える

MITnewsは2026年2月3日、シンガポール-MIT研究技術連携センター(SMART)による高齢者ケア変革のためのウェアラブルイメージング(WITEC)研究グループの立ち上げを発表した。

WITECはMIT、南洋理工大学、シンガポール国立大学の研究者を結集し、世界初の48時間の断続的イメージングが可能なウェアラブル超音波システムの開発を目指す。このシステムは生体接着技術を用いて心血管の断続的イメージングを実現し、高血圧や心不全などの慢性疾患をリアルタイムで監視する。

研究施設には東南アジア初のNanoscribe Quantum Xサブマイクロメートル3Dプリンターとシンガポール初のVerasonics Vantage NXT 256超音波イメージングシステムが導入されている。AI診断と組み合わせることで在宅での早期発見と継続的監視を可能にし、病院ベースの反応的ケアから地域・在宅での予防的ケアへの転換を促す。

タントクセン病院と協力した臨床試験は2026年初旬に開始予定で、今後3年間で台車ベースの生体接着超音波システムを開発し、将来的には完全統合型ポータブルプラットフォームの実現を目指す。

From: 文献リンクSMART launches new Wearable Imaging for Transforming Elderly Care research group | MIT News

【編集部解説】

ウェアラブルデバイスの進化が、いよいよ医療の本丸に到達しようとしています。

これまでスマートウォッチやフィットネスバンドが提供してきたのは、あくまで「健康の入り口」のデータでした。心拍数や歩数、睡眠パターンといった指標は、健康意識を高める役割は果たしますが、慢性疾患の診断や管理には不十分です。一方で病院の超音波診断装置は高精度ですが、大型で操作に専門知識が必要な上、患者は定期的に病院へ足を運ばなければなりません。

WITECが開発を目指すウェアラブル超音波システムは、この両者の間にある巨大なギャップを埋める試みです。注目すべきは、単なる「モニタリングデバイス」ではなく、本格的な「イメージングシステム」である点です。心臓や血管の構造を48時間にわたって断続的に可視化し、AIが異常を検知する。これは医療における監視の概念を根本から変える可能性を秘めています。

技術的な基盤も興味深い構成です。Nanoscribe Quantum Xという東南アジア初のサブマイクロメートル解像度3Dプリンターで作られる生体接着インターフェースは、皮膚との密着性を保ちながら長時間の装着を可能にします。これまでのウェアラブルセンサーが抱えていた「接触不良」や「装着感の悪さ」といった課題に、材料科学の側面から正面突破を試みています。

またVerasonics Vantage NXT 256という最新の超音波システムは、従来機よりも多くのチャンネルを制御でき、複雑なビームフォーミングとAI診断モデルの統合が可能です。これにより病院の大型装置でしか得られなかった高解像度の心血管イメージングを、ウェアラブルデバイスで実現しようとしています。

WITECの開発計画は段階的なアプローチを採用しています。今後3年間ではまず台車ベースの生体接着超音波システムを開発し、継続的なリアルタイム監視と個別診断を実現します。その後の段階で、48時間の断続的イメージングが可能な完全統合型のポータブルプラットフォームへと進化させる計画です。この段階的なアプローチは、技術の確実な検証と臨床現場での実用性を重視した戦略と言えます。

この研究が実を結べば、医療システム全体への影響は計り知れません。高齢化が進む社会では、慢性疾患を抱える人口が急増し、医療従事者の不足と医療費の増大が深刻化しています。在宅での継続モニタリングが可能になれば、緊急入院の減少、医療従事者の負担軽減、そして何より患者自身が自分の健康状態を把握しながら生活できるという、医療の民主化が進みます。

ただし、実用化に向けてはいくつかのハードルがあります。デバイスの小型化と完全なワイヤレス化、高齢者が日常生活で実際に使い続けられるかという使用性の問題、医療機器としての承認プロセス、大量生産時のコスト、そしてプライバシーとデータセキュリティの確保といった課題です。

それでも、MIT、南洋理工大学、シンガポール国立大学という一流研究機関が結集し、タントクセン病院という臨床現場との連携も確保されている点は心強い布陣です。2026年初旬に開始される臨床試験の結果が、この技術の実用性を証明する最初の試金石となるでしょう。

医療のパラダイムシフトは、しばしば「監視から予測へ」と表現されます。WITECのアプローチは、まさにこの方向性を体現しています。病気が悪化してから対処するのではなく、継続的なデータから異常の兆候を早期に捉え、予防的に介入する。この転換が実現すれば、私たちは「病院で治療を受ける」時代から「自宅で健康を守る」時代へと移行することになります。

【用語解説】

SMART(Singapore-MIT Alliance for Research and Technology)
シンガポールに設置されたMITの研究拠点である。2007年に設立され、抗菌薬耐性、細胞治療、精密農業、AI、センシング技術など、グローバルな課題解決に向けた学際的研究を推進している。

生体接着技術(Bioadhesive Technology)
皮膚や生体組織に安全かつ長時間接着できる材料技術である。医療デバイスの装着において、皮膚への刺激を最小限に抑えながら、センサーと身体の間の安定した接触を維持するために重要な役割を果たす。

ビームフォーミング(Beamforming)
超音波イメージングにおいて、複数のトランスデューサーから発射される音波の位相や振幅を制御し、特定の方向に音波を集中させる技術である。これにより画像の解像度と深度が向上する。

メタマテリアル(Metamaterials)
自然界には存在しない特殊な電磁気的・音響的特性を持つよう人工的に設計された材料である。ナノスケールの構造により、通常の材料では実現できない性質を発現する。

NRF(National Research Foundation)
シンガポール国家研究財団である。シンガポールの研究開発戦略を策定し、科学技術分野への投資を統括する政府機関である。

Nanoscribe Quantum X
ドイツNanoscribe社が開発したサブマイクロメートル解像度の3Dプリンターである。従来の3Dプリンターの解像度を大幅に超え、細胞レベルの微細構造を造形できる。

【参考リンク】

SMART – Singapore-MIT Alliance for Research and Technology(外部)
MITのシンガポール研究拠点の公式サイト。研究プログラムや成果を紹介

MIT Department of Mechanical Engineering(外部)
WITEC共同主任研究員Xuanhe Zhao教授が所属するMIT機械工学科の公式サイト

Lee Kong Chian School of Medicine(外部)
南洋理工大学医学部の公式サイト。WITEC共同主任研究員が所属

National University of Singapore(外部)
シンガポール国立大学の公式サイト。WITECの共同研究機関

Tan Tock Seng Hospital(外部)
WITECの臨床協力機関であるシンガポールの総合病院の公式サイト

Nanoscribe Quantum X(外部)
WITECで使用されているサブマイクロメートル解像度3Dプリンターの製品情報

【参考記事】

SMART to develop world’s first wearable ultrasound imaging system(外部)
Med-Tech Insights誌によるWITEC立ち上げの詳細報道。段階的開発計画について具体的に記述

Engineering the World’s First Long-Duration Wearable Ultrasound System(外部)
Medtech Spectrum誌によるXuanhe Zhao教授へのインタビュー。技術的課題や開発背景を詳述

Bioadhesive ultrasound for long-term continuous imaging of diverse organs(外部)
Science誌に掲載されたXuanhe Zhao教授らによる2022年の研究論文。WITECの基礎となった技術を解説

Ultrasound imaging gets small and wearable(外部)
米国国立衛生研究所によるウェアラブル超音波技術の解説。生体接着技術の原理を詳細に説明

【編集部後記】

医療のパーソナライゼーションは、データの継続性から生まれます。あなた自身やご家族が慢性疾患を抱えている場合、在宅での継続的なモニタリングは治療にどのような変化をもたらすと思いますか。また、自分の体内の様子が断続的に可視化される未来は、私たちの健康意識や医療との関わり方をどう変えていくのでしょうか。テクノロジーが可能にする「予防医療」の在り方について、ぜひ一緒に考えてみませんか。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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