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NTT東西ダークファイバー(DF):「ポストNTT法時代」、日本の通信インフラ屋台骨の未来

[更新]2025年12月25日

OS2 SMF fibers making a loop broken by a blue thunder - innovaTopia - (イノベトピア)

「NTT地域会社(NTT東西)のダークファイバー(DF)が終わるんじゃないか」、「NTT法改正でDF価格が釣り上がるんじゃないか」、こうした噂が、業界内外でたびたび囁かれる時代。しかし、日本の通信インフラにおいてNTT系ダークファイバー(DF)は“屋台骨”であり、それが近い将来に終了する可能性は低い。しかし、そのような「噂」が出るのにも理由がある。

2025年5月21日、「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」(NTT法改正)が成立した。NTTが保有する“特別な資産”(電柱・管路・局舎等)の電気通信事業者に対する提供は、引き続き制度的に担保される。KDDIを始めとする業界他社からも、これは評価されている。しかし、この法改正には、将来のNTT法廃止も含めた議論を行うとする附則が盛り込まれており、これが不安をもたらしている。

これはinnovaTopiaによる独自記事です。

ダークファイバーとは何か

ダークファイバー(DF; dark fibers)とは、物理的には敷設されているが、光信号が通されていない(=未点灯の)光ファイバーを指します。利用者(主に電気通信事業者)が自前の機器で光を入れ、自由度の高いネットワークを構築できる点が最大の特徴です。

重要なのは、ダークファイバーは一般消費者向けのサービスではなく、通信事業者向けのインフラそのものだという点です。

ダークファイバーは、電気通信事業者が設置者(NTT等)からIRU(簡単には解除できない半永久的な利用権のこと)を受けることも多いです。この場合、この線路(ファイバー)は、電気通信事業法上、その借り受けた電気通信事業者自身の設備と見做されます

なぜNTT東西のDFが重要なのか

日本の通信インフラは、歴史的経緯からNTT東日本・西日本が全国に張り巡らせた光ファイバー網を基盤として発展してきました。

その結果、現在の日本では:

  • ISP(インターネット接続事業者)
  • モバイル通信事業者(基地局バックホール)
  • データセンター事業者
  • IX(インターネットエクスチェンジ)
  • 学術・研究ネットワーク
  • 地域系・独立系通信事業者

といった多様な事業者が、NTT東西の光ファイバー設備を前提にネットワークを構築しています

ダークファイバーは、これらの事業者にとって

  • 自分のトランシーバ等を使って、帯域を自ら設計できる(なぜなら、これらは光「サービス」ではなく、ただのファイバーという線路だから)
  • 冗長性などを自分で制御できる
  • 自前の設備に同等なので、自分のネットワーク・サービスとして構築でき、サービス事業者に依存しない

という意味で、通信の主権を担保する手段でもあります。

「DF終了説」が定期的に出てくる理由

では、なぜ「ダークファイバーが終わる」という話が繰り返し出てくるのでしょうか。

① 一般専用系サービスの終了と混同されやすい

NTT東西では、従来型の企業むけ一般専用線やディジタル専用サービスの新規受付終了・サービス終了が段階的に進められています。これらの後継としてIWAN(Interconnected WAN)のようなイーサネット型サービスが案内されるため、

「専用線が終わる」
→「物理インフラも終わるのでは?」

という誤解が生まれやすくなっています。

しかし、一般専用サービスとダークファイバー(=電気通信事業者向け)は別物です。

② DFは「普通の商品」ではない

DF は、電気通信事業者としての資格を持つ者(主に会社)が、正式な相互接続協定等を結ぶことで得られるものです。

このため、一般人が目にする世界では、その存在は意識されませんし、存否が容易に目にみえるものでもありません。

③ 法制度改正のたびに不安が増幅される

NTT法や競争政策の見直しが議論されるたびに、

  • インフラ開放が縮むのでは?
  • 物理設備の貸し出しが制限されるのでは?

といった憶測が広がりがちです。

NTT東西は、収益構造の問題を抱えているといわれており、NTT法によって課されてきた設備の「原価的」(もうけを取らない)提供はNTT東西にとって負担と感じられているかもしれません。そのような背景から、DFの提供が持続的でない、あるいは価格が釣り上がるのではないか、と考える人も少なくありません。

DFが本当になくなったら何が起きるか

仮に、NTT東西のダークファイバー提供が本当に終了したとします。従来、NTT東西の設備は、「原価的」に提供されるものとされており、この低価格によって電気通信業界が成りたっています。

従って、終了した場合、

  • 多くの通信事業者がネットワーク再設計を迫られる
  • モバイル通信の品質・冗長性に影響が出る
  • データセンター間接続のコストが急騰する
  • 地域系・中小事業者は事業継続が困難になる

つまり、日本の通信インフラの根幹が存続の危機に立たされます

これは特定企業の問題ではなく、社会インフラとしての通信の問題なのです。

だからこそ、現実的に見て「DFを終わらせる」という選択肢は取り得ないし、取ってはならないのです。

法律上の位置付け

一般の電気通信事業者は、電気通信事業法のもとで原則として届出により事業を行うことができ、事業内容や提供エリア、料金体系について広い自由を持っています。一方で、通信の秘密の保護、利用者保護、不当な差別的取扱いの禁止、提供中サービスの安定的な継続といった基本的な義務を負っています。また、一定規模以上の事業者には相互接続義務が課されますが、全国提供や通信インフラそのものの維持を法的に義務付けられているわけではなく、事業の開始や撤退は基本的に各事業者の判断に委ねられています。これは、日本国憲法が保障する営業の自由を前提とした、競争を重視する事後規制型の制度設計に基づくものです。

NTT東日本・西日本(地域会社)は、同じ電気通信事業者でありながら、NTT法により特別な公共的責務を負う存在として位置づけられています。全国あまねく基礎的電気通信役務を提供するユニバーサルサービス義務(2025年改正で「他の事業者が進出していない地域のみ」に)、光ファイバーや電柱・管路・局舎といった線路敷設基盤を長期にわたり維持管理する義務、他の電気通信事業者からの相互接続要求に対する極めて強い応諾義務、公正競争を確保するための非差別・自己抑制義務などが法律上明確に課されています。そのため、NTT地域会社は経済合理性だけを理由に事業やインフラ提供をやめることができず、ダークファイバーのような物理インフラ開放も「任意の商材」ではなく、日本の通信基盤を支える前提として制度的に組み込まれています。

【用語解説】

ダークファイバー(DF)
物理的には敷設されているが、光信号が通されていない未使用の光ファイバーのこと。通信事業者が自前の機器で自由にネットワークを構築できるため、日本の通信インフラの基盤を支えている。

相互接続(インターコネクション)
異なる電気通信事業者同士のネットワークを接続すること。競争環境を維持するため、NTT東西には特に強い応諾義務が課されている。

相互接続協定
相互接続を行う際に、条件や料金、責任分界点などを定める契約。ダークファイバーの利用も、この協定を前提として行われる。

線路敷設基盤
電柱、管路、とう道、局舎、光ファイバーなど、通信回線を物理的に支えるインフラの総称。NTT法上、極めて公共性の高い資産として扱われている。

ユニバーサルサービス
採算性に関わらず、日本全国で基礎的な通信サービスを提供するという考え方。NTT東日本・西日本には法律上の提供義務がある。

接続応諾義務
他の電気通信事業者からの接続要求を、正当な理由なく拒否してはならないという義務。特にNTT地域会社に対しては強く課されている。

非差別義務(自己抑制義務)
自社グループや特定事業者を優遇せず、他事業者と公平な条件で設備や接続を提供する義務。NTTグループに特有の重要な制約である。

一般専用サービス
かつて提供されていた専用線型の通信サービス。近年は段階的に終了し、後継としてイーサネット型サービスが案内されている。

IWAN(Interconnected WAN)
NTT東西が提供するイーサネット型の広域ネットワークサービス。一般専用系サービスの後継だが、ダークファイバーの代替ではない。

IRU(Indefeasible Right of Use)
光ファイバーなどを長期間使用する権利を設定する契約形態。所有権ではないが、実質的に長期利用を前提とする点で扱いが慎重になる。

自家利用
電気通信事業として第三者に提供せず、自社やグループ内でのみ通信設備を使う形態。ダークファイバーでは原則として想定されない利用形態である。

電気通信事業者(届出事業者)
電気通信事業法に基づき、届出を行って通信サービスを提供する事業者。免許制ではなく、参入の自由度が高い。

基礎的電気通信役務
国民生活に不可欠とされる最低限の通信サービス。NTT東西が提供責務を負う範囲を定義する概念である。

事後規制
事業開始前に細かく制限するのではなく、問題が生じた後に是正する規制の考え方。日本の電気通信制度の基本的な思想である。

通信の秘密
通信内容や通信履歴を第三者が知得・利用してはならないという原則。憲法と電気通信事業法の双方で強く保護されている。

【参考リンク】

相互接続に関する情報 – 情報webステーション – NTT東日本

電気通信事業参入・変更手続の案内 – 総務省

【編集部後記】

電気通信事業を営むというのは、得られる権利も大きいものですが(たとえば、一定の条件の元で、他者の設置した電柱やとう道などを利用して線路を引くことができる)、憲法の通信の秘密から電気通信事業法の接続応諾義務に至るまで、大変大きな義務と罰則が課されています。この電気通信業界が前提としてきたのが、NTT法を背景とするNTT東西のインフラです。このNTTインフラ(管路・DF・局舎など)の提供は、今後、当面変わらないというのが業界での読みですが、これらがいかに重要な基盤であるかを考えると、その未来について真剣に考えなければならないような気がします。

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ゆか
テクノロジーと人間の精神の関係を、哲学と実装の両面から探求してきました。 ITエンジニアとしてシステム開発やAI技術に携わる一方で、心の哲学や宇宙論の哲学、倫理学を背景に、テクノロジーが社会や人の意識に与える影響を考察しています。 AIや情報技術がもたらす新しい価値観や課題を、精神医学や公衆衛生の視点も交えながら分析し、「技術が人の幸福や生き方をどう変えるのか」という問いに向き合うことを大切にしています。 このメディアでは、AIやテックの最前線を紹介するだけでなく、その背後にある哲学的・社会的な意味を掘り下げ、みなさんと一緒に「技術と人間の未来」を模索していきたいと思います。

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