Archer「Midnight」型式証明の申請を国交省が受理|空飛ぶクルマ国内5件目

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空飛ぶクルマの商用運航開始を2028年度以降へ遅らせる。Soracleがそう発表したのは、8月10日でした。その11日後、同社が最有力機材と位置づけるArcher AviationのMidnightが、日本の型式証明の審査ラインに乗りました。国内で5件目の受理であり、交付された機体はまだ1機もありません。


国土交通省は2026年8月21日、米Archer Aviationが開発中の電動垂直離着陸機「Midnight(M001型)」について、航空法に基づく型式証明の申請を受理した。空飛ぶクルマの型式証明申請の受理は国内5件目で、外国製ではJoby S4、Volocopter VC2-1、Vertical Aerospace VX4に次ぐ。

国交省は米連邦航空局(FAA)と連携して審査を進める。Midnightはパイロット1名と乗客4名が搭乗し、最大速度は時速240キロメートル、航続距離は約160キロメートル。航続距離は試験中の機体の数値で、気象条件や搭乗者数等により変わり得ると国交省は注記している。

日本航空と住友商事の合弁会社Soracleは、同機の最大100機の購入権を取得している。

From: 文献リンク報道発表資料:米国Archer Aviation社の空飛ぶクルマの型式証明の申請受理について

【参考動画】

Archer Aviation公式チャンネルが2026年8月3日に公開した、サリナス市営空港とモントレー地域空港を結ぶ有人往復飛行の記録映像。チャンネルはArcher(@ArcherAviation)

【編集部解説】

型式証明は、機体の「設計」が安全性と環境適合性の基準に適合しているかを国が審査・検査する制度です。国土交通省は、機体の開発と並行して審査・検査を行うと説明しています。今回の受理は、その長い工程の入口が開いたことを意味します。

発表で目を引くのは、国土交通省が添えた一行です。空飛ぶクルマとしての型式証明の申請受理は、これで5件目にあたります。先行するのはSkyDriveのSD-05(2021年10月29日)、Joby AviationのJoby S4(2022年10月18日)、VolocopterのVC2-1(2023年2月21日)、Vertical AerospaceのVX4(2023年3月29日)の4件。直近の受理から3年4か月あまりが経っており、日本の審査ラインに新しい機体が加わるのは久しぶりのことです。

そして日本国内では、まだ型式証明が交付された空飛ぶクルマはありません。受理は審査開始の号砲であって、ゴールテープではないということです。

先行組の現在地を並べると、この工程の長さがわかります。SkyDriveは2026年3月9日、型式証明プロセスの中核となる「全般計画書」で国土交通省と合意しました。適合性証明活動の全体構想について当局と方向性が一致した段階で、構造やシステム、電動エンジン、騒音といった個別の証明計画は、なお協議が続いています。受理からここまでで4年4か月。Jobyは同じ2026年3月、FAAの審査飛行に用いる適合機の飛行試験を開始しました。Volocopterは2024年12月に破産手続の開始を申し立て、2025年3月にDiamond Aircraftのもとで再建されて認証活動を続けています。数年に及ぶ開発と認証を支える資金面の継続性も、この分野では事業上の課題になり得ます。

今回の発表で実務的に重要なのは、国土交通省が米連邦航空局(FAA)とも連携して審査を進めると明記した点です。Archerは米国側を先行させており、同社が4段階と説明するFAA型式証明の進捗区分で、2026年4月にPhase 3を完了しました。同社が把握する範囲ではeVTOL企業として初めてこの段階に到達したと、5月の四半期発表で公表しています。7月にはサリナスとモントレーの両空港間で、有人の都市間飛行を片道約9分で実施しました。米国側で得られた設計・試験のデータを日本側でも活用できれば、重複する確認作業を減らし、審査を効率化できる可能性があります。

一方で、このニュースを発信しているのは国土交通省とSoracleという日本側の2者です。Archerの8月10日の四半期発表に日本やJCABへの言及はありません。米国の投資家に語る物語と、日本で社会実装を積み上げる物語が、それぞれの速度で並走している。そう読むこともできます。

Soracleの側から見ると、今回は機体の型式証明申請が日本の正式な認証プロセスに入った回でした。2024年6月に日本航空と住友商事の合弁で設立され、同年11月にMidnight最大100機の購入権を取得。2025年9月に大阪府・大阪市と連携協定を結び、2026年3月にはOsaka Metroが整備管理する大阪港バーティポートを将来の運航拠点とする基本合意、同じ月に大阪ヘリポートを整備基地として小川航空と格納庫・付帯施設の賃貸借契約を締結しました。6月には関西経済連合会とも連携協定を結んでいます。兵庫県の事業では神戸空港島で商用運航に向けた規程整備を進め、東京都のプロジェクトではJALを代表事業者とするコンソーシアムに加わっています。拠点と自治体との関係を先に整えてきたなかで、自社の努力だけでは動かせない部分が機体の証明でした。それが具体的な審査段階へ進んだのが今回です。

時期については、この受理の11日前に、Soracle自身が答えを出しています。8月10日付の「商用運航開始時期に関するお知らせ」で、同社は2027年以降の大阪・関西エリアでの社会実装を目標に準備を進めてきたとしたうえで、機体メーカーとの直近の調整状況を含む総合的な判断により、商用運航開始時期を2028年度以降へ遅らせると発表しました。会社概要欄の記載も、6月26日のリリースの「2027年以降」から、8月21日のリリースでは「2028年度以降」に変わっています。国が2026年3月に改訂した「空の移動革命に向けたロードマップ」は、2027年から2028年に一部地域で商用運航を開始するとしており、Soracleは今回、従来掲げていた時期を明確に後ろ倒ししたことになります。Soracleが遅延の判断に際して「機体メーカーとの直近の調整状況」に言及した11日後、その協業先であるArcherのMidnightが、日本で型式証明の申請を受理されました。8月の2つの発表は、そういう順番で並んでいます。なお、2026年度中の実施をめざす大阪ベイエリアでの実証フライトは維持されています。

型式証明は航空機の型式の設計に対する証明であり、これだけで旅客を乗せた商用運航を始められるわけではありません。実際に航空の用に供する個々の機体には原則として有効な耐空証明が必要で、有償で旅客を運ぶ航空運送事業には航空法100条に基づく国土交通大臣の許可が要ります。本邦航空運送事業者には、このほか運航規程・整備規程の認可や運航管理施設等の検査も求められます。Soracleが事業内容を「eVTOL(空飛ぶクルマ)による航空運送事業(許可取得予定)」としているのは、そのためです。いまは機体認証、運航拠点、事業許認可と運航体制を並行して整える段階にあります。8月21日は、そのうちMidnightの日本での型式証明申請が正式に受理され、認証プロセスが始まった節目として記録されます。

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【編集部後記】

国土交通省の別紙には、末尾に小さく一行あります。「Archer社の確認を経た上で国土交通省航空局で作成」。掲載された機体写真の出所も「Archer社 提供」です。

型式証明の審査は、書類が窓口を通った日に始まるのではなく、こうした文面のすり合わせから静かに動いているのだと思います。8月21日の発表は、その最初の共同作業の産物でもありました。次に日本語で読める進捗は、どんな一行になるでしょうか。


【用語解説】

型式証明(TC)
航空機の型式の設計が、安全性と環境適合性の基準に適合することを国が審査・検査して認める制度。国は機体の開発と並行して審査・検査を行う。取得までに数年を要し、これがなければ旅客を乗せた商用運航は行えない。

耐空証明
個々の航空機が安全性と環境適合性の基準に適合していることを国が証明するもの。航空法11条により、航空機は原則として有効な耐空証明を受けていなければ航空の用に供することができない。型式証明が設計に対する証明であるのに対し、耐空証明は1機ごとに与えられる。

航空運送事業の許可
他人の需要に応じ、航空機を使用して有償で旅客や貨物を運送する事業を営むために必要な、航空法100条に基づく国土交通大臣の許可。

運航規程・整備規程
航空運送事業者が運航および整備の方法を定めた規程。航空法104条に基づき、国土交通大臣の認可を受ける必要がある。このほか運航管理施設等の検査も求められる。

eVTOL(電動垂直離着陸機)
電動モーターで駆動し、ヘリコプターのように垂直に離着陸できる航空機。日本の行政では「空飛ぶクルマ」と呼ばれる。

全般計画書
型式証明の取得に向け、当局と申請者の連携体制やプロセスを含む、適合性証明活動の全体構想を定めた文書。構造やシステム、電動エンジン、騒音といった個別分野の証明計画は、これとは別に個々に合意される。

バーティポート
eVTOL専用の離着陸場。従来の空港より小規模で、都市部の建物屋上や地上への設置が想定される。

【参考リンク】

航空機及び装備品等に対する証明制度|国土交通省(外部)
型式証明、耐空証明、追加型式設計承認など、有人航空機に対する証明制度を国土交通省がまとめた解説ページ。制度の全体像がわかる。

株式会社Soracle(外部)
日本航空と住友商事の合弁により2024年6月に設立された、eVTOLによる航空運送事業会社の公式サイト。大阪ベイエリアでの商用運航をめざす。

Soracleの協業パートナーであるArcher Aviationが空飛ぶクルマ「Midnight」の型式証明を国土交通省に申請|Soracle(外部)
Soracleが型式証明の申請受理を伝えた2026年8月21日付のプレスリリース。大阪ベイエリアでの商用運航に向けた自社の取組みも記す。

商用運航開始時期に関するお知らせ|Soracle(外部)
大阪・関西エリアでの商用運航開始時期を2028年度以降へ遅らせると発表した、2026年8月10日付の告知。判断の材料も記されている。

Archer Aviation(外部)
Midnightを開発する米国カリフォルニア州の航空機メーカー。eVTOLの設計・開発・製造から運航までを手がける企業の公式サイト。

「空の移動革命に向けたロードマップ」を改訂しました|経済産業省(外部)
商用運航の開始時期を2027年から2028年と明記した、経済産業省による2026年3月27日付のロードマップ改訂の発表。

株式会社SkyDrive(外部)
SD-05型の型式証明を国内で最初に申請した、愛知県に本社を置く空飛ぶクルマメーカーの公式サイト。2026年3月に全般計画書で合意。

「空飛ぶクルマ事業化準備事業」採択事業者の決定|兵庫県(外部)
Soracleを含む4事業者9事業を採択した2026年6月25日付の兵庫県の発表。Soracleは神戸空港島での規程整備を担う。

【参考記事】

Archer Announces First Quarter 2026 Results, Highlighting Record FAA Certification Progress With Initial US Operations Expected In 2026(外部)
同社が4段階と説明するFAA型式証明の進捗区分で、2026年4月にPhase 3を完了したと公表した2026年5月11日付の四半期発表。

Archer’s Midnight Completes City-to-City Flights in California Ahead of White House’s eIPP(外部)
7月30日にサリナス市営空港とモントレー地域空港の間で有人の往復飛行を実施し、各区間を約9分で飛んだと伝える2026年8月3日付の発表。

SkyDrive、型式証明プロセスの中核「全般計画書」について国土交通省と合意(外部)
SD-05型の適合性証明活動の全体構想について国土交通省と方向性が一致したと伝える、株式会社SkyDriveの2026年3月9日付の発表。

Archer Announces Second Quarter 2026 Results; Announces Deal with Boeing to Shape Physical AI Future of Aerospace and Defense(外部)
Boeingとの提携と、年内の米国での運航開始に向けた進捗を伝える、2026年8月10日付のArcher Aviationの四半期発表。

Joby’s First FAA-Conforming Aircraft Takes Flight(外部)
FAAの審査飛行に用いる最初の適合機が飛行試験を開始したと伝える、Joby Aviationの2026年3月11日付の発表。

報道発表資料:米国Joby Aviation からの空飛ぶクルマの型式証明の申請受理について(外部)
外国製の空飛ぶクルマとして我が国初の型式証明申請の受理を伝えた、国土交通省の2022年10月18日付の報道発表資料。対象はJoby S4。

Diamond Aircraft reorganized Volocopter Securing its Future in Germany(外部)
破産手続の開始を申し立てたVolocopterが、Diamond Aircraftのもとで再建されたことを伝える2025年3月の発表。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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