防衛省の予算資料で、自動運航船の調査研究が置かれた見出しは「民間海上輸送力の活用」でした。同じ見出しの下には、有事や災害時に民間の船を使うPFI船舶の事業が並んでいます。自衛隊の新しい船の話として報じられた事業ですが、資料が目的に挙げたのは、将来の船員の確保でした。
防衛省は2027年度(令和9年度)概算要求に、「自動運航技術を搭載した輸送船舶の導入に係る調査研究」を新規事業として盛り込んだ。金額を示さない事項要求である。資料はこの事業を「民間海上輸送力の活用」の項目に置き、将来的な船員確保の制約を見据えて民間の海上輸送力を安定的に確保するため、と目的を記す。同じ項目には、有事や災害時に防衛省が優先して使う民間船舶を確保するPFI船舶の事業が並ぶ。民間では日本財団のMEGURI2040のもとで、自動運航機能を持つ船の商業運航が2025年12月に始まっている。
【参考動画】
読売新聞は10月5日付の朝刊1面で、複数の政府関係者の話として、防衛省がAIと自動運航技術を組み合わせた輸送船を開発・導入する方針を固めたと報じました。年内に改定する安全保障関連3文書に導入方針を明記し、南西諸島への部隊や弾薬の大規模輸送、島民避難での活用を想定するとしています。記事は、将来的には無人化も視野に入れると伝えています。令和9年度概算要求の資料にあるこの事業の説明には、3文書への明記、島民避難での活用、無人化はいずれも示されていません。
この事業は突然現れたものではありません。民間の自動運航船が商業運航に入るまでの歩みは、innovaTopiaでも個別の記事として伝えてきました。そこに防衛省の予算資料と、民間の船で海上輸送力を補う仕組みの公表資料を重ねると、この船が何を埋めようとしているのかが見えてきます。
民間の自動運航と防衛の海上輸送、これまでの歩み
| 時期 | 出来事 | 関連記事/出典 |
|---|---|---|
| 2020年2月 | 日本財団がMEGURI2040を開始 | 日本財団 |
| 2022年12月16日 | 現行の安保3文書を閣議決定 | 防衛省(概算要求資料) |
| 2025年3月24日 | 自衛隊海上輸送群を新編 | 防衛白書 |
| 2025年12月11日 | 「おりんぴあどりーむせと」が商業運航を開始 | 関連記事/日本財団 |
| 2026年1月26〜30日 | 「げんぶ」がClassNK認定、MASS検査に合格し、商業運航を開始 | 関連記事/日本財団 |
| 2026年2〜3月 | 新PFI船舶(旅客船)2隻が運航開始、貨物船等4隻を契約。第2海上輸送隊が阪神基地へ | 防衛省(概算要求資料) |
| 2026年4月3日 | 「げんぶ」へのAUTO-Nav2(All)の付与を発表 | ClassNK |
| 2026年6月 | コンテナ船2隻のPFI事業の要求水準書(案)を公表 | 防衛省 |
| 2026年8月31日 | 令和9年度概算要求に新規事業として計上(事項要求) | 防衛省/関連記事 |
| 2026年10月5日 | 3文書への明記、島民避難での活用などを報道 | 読売新聞 |
| 2026年内 | 政府が3文書を改定する方針。予算措置は年末の予算編成で検討 | 防衛省(概算要求資料) |
予算資料は「民間海上輸送力」の項目に置いた
令和9年度概算要求の資料で、この事業が出てくるのは2か所です。1つ目は「持続的な対応能力」の要点を示した頁で、輸送力強化の主な事業として、輸送機C-2、多用途ヘリUH-2、荷役器材と並んで挙げられています。
2つ目は個別事業の頁です。「機動展開能力・国民保護」の章に「民間海上輸送力の活用」という見出しがあり、その下に2つの事業が並んでいます。1つがこの自動運航船の調査研究、もう1つが「PFI船舶の活用による統合輸送態勢の強化」(契約ベースで26億円)です。資料の凡例では青字が新規事業を表し、自動運航船の調査研究は青字、PFI船舶は継続事業です。
資料が書く目的は、「将来的な船員確保の制約等を見据え、民間海上輸送力を安定的に確保するため」です。予算資料の上では、この事業は将来、船員の確保が難しくなる可能性に備えて、民間の船による輸送力を安定して保つための調査研究として位置づけられています。
金額が書かれていないのは、この事業に限りません。政府は年内に3文書を改定する方針で、防衛省は改定の内容に左右される事業を、予算編成の過程で検討する事項要求としました。同じ概算要求に載った次世代AI基盤「AIオーケストレーター」の記事でも、この仕組みを詳しく扱っています。要求額が示された防衛関係費は8兆8908億円で、SACO関係経費などを除いた前年度予算と比べて815億円の増額です。
船員がいなければ、民間の船は動かない
PFI船舶とは何か
PFI船舶は、防衛省が民間事業者と長期契約を結び、事業者が船を保有し、船員を雇って運航する船です。防衛省はこれを訓練や有事、災害時の輸送に優先して使います。事業の目的は、島嶼部への侵攻阻止に必要な部隊等を南西地域に迅速かつ確実に輸送し、かつ住民避難や災害時の対応に活用するため、自衛隊の海上輸送力を補うことと定められています。
2026年に入ってからも拡充が続きました。2月には新たなPFI船舶(旅客船)2隻が運航を始め、3月には貨物船等4隻の契約を結んでいます。同じ3月には、陸海空3自衛隊の共同部隊である自衛隊海上輸送群の第2海上輸送隊が阪神基地に移り、小型輸送艦「あまつそら」「あおぞら」が配備されました。海上輸送群は2025年3月24日に新編された部隊です。
船員が「常に」いることが条件になっている
防衛省が2026年6月に示したコンテナ船2隻のPFI事業の要求水準書(案)を読むと、この仕組みが船員にどれだけ依存しているかが分かります。
事業者は、防衛省から輸送の通知を受けて遅くとも8日間で出港できるよう、船と船員が常に確保された「待機態勢」を保たなければなりません。船員は日本国籍を持つ者とされ、民間の船の運航経験が重視されます。防衛出動などの事態では、防衛省が船を借り受け、招集された予備自衛官を含む自衛官が運航します。そのため事業者には、運航開始から3年以内に、予備自衛官等である船員だけで運航できる体制を整えることが求められています。予備自衛官を希望しない船員については、その意思を尊重するとされています。案では、2隻の運航開始を2028年1月1日、事業期間を約11年としています。
少なくともこのコンテナ船の事業では、民間の船を借りる仕組みが、日本人の船員を常に確保し、さらに予備自衛官を兼ねる船員を育てていくことを前提に組み立てられています。予算資料が書く「船員確保の制約」は、こうした前提が将来揺らぐことへの備えと読むことができます。ただし、予算資料は自動運航船の調査研究とPFI船舶の事業の具体的な関係までは示していません。
その背景には、民間の海運そのものの担い手不足があります。日本財団によれば、内航海運は国内貨物輸送の約4割(トンキロベース)を担う一方、船員の高齢化と人手不足という深刻な課題を抱えています。
民間はすでに商業運航に入っている
日本財団は2020年2月、無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」を始めました。人口減少による船員不足とヒューマンエラーによる事故の削減をねらい、2040年には国内を走る船の50%を無人運航船にすることを目指しています。
第2ステージでは4隻が実証に参加し、2025年12月11日には岡山と小豆島を結ぶ旅客船「おりんぴあどりーむせと」が商業運航を始めました。約400ある有人離島への航路をどう維持するかという課題に向けた船で、その意義はinnovaTopiaの記事でも紹介しています。
続いて2026年1月30日には、新造の内航コンテナ船「げんぶ」が商業運航に入りました。日本財団の2026年1月時点の調査によれば、レベル4相当の自動運航による定期貨物航路での実運航は世界で初めてです。直前の1月26日に日本海事協会(ClassNK)の認定を受け、1月28日には国土交通省の自動運航船(MASS)としての検査に合格しています。4月3日には、ClassNKが離岸から着岸までの全航海を対象とするノーテーション「AUTO-Nav2(All)」を付与したと発表しました。その意味はinnovaTopiaの記事で詳しく解説しています。
陸上の拠点から複数の船を遠隔で監視・支援する「Fleet Operation Center(FOC)」も整備されました。トレーラーで運べる移動型は、災害時などに安全な場所へ移して運用を続けられるよう設計されています。読売新聞も、日本財団のプロジェクトなどで開発・実証されてきた民間技術を、防衛省が取り込むことを検討していると伝えています。
ここで押さえておきたいのは、民間の到達点の中身です。日本財団は「げんぶ」の自動運航を、自動車の分類を便宜的に用いてSAEの自動運転レベル4相当と説明しています。一方、ClassNKの「AUTO-Nav2(All)」の「2」は、人間の監視のもとで使う条件付きの自律を意味します。国際海事機関(IMO)は2026年5月に任意のMASSコードを採択し、7月1日から適用が始まりましたが、義務化に向けた制度づくりも進められています。MEGURI2040でも、無人運航船は2040年に向けた目標として掲げられています。自動運航機能の商業利用と、乗組員を乗せない無人運航は、分けて捉える必要があります。
これから決まること
予算措置の内容は、年末に向けた予算編成の過程で検討されます。3文書も政府が年内に改定する方針で、自動運航船がどう書かれるかは、改定された文書が公表されて初めて確かめられます。
船を誰が持ち、誰が動かすのかも、公表資料ではまだ分かりません。読売新聞は自衛隊が導入する輸送船として報じましたが、予算資料はこの事業を民間海上輸送力の項目に置き、船の保有や運航の形は示していません。PFI船舶のように民間が保有・運航する形に自動運航技術を載せるのか、別の形を取るのかで、制度設計は大きく変わります。
住民避難も同じです。PFI船舶の事業目的には住民避難が明記されていますが、自動運航船の調査研究が島民避難を想定しているかどうかは、現時点の公表資料からは読み取れません。
人手不足の海を、技術でつなぐ
離島航路を守るために走り始めた「おりんぴあどりーむせと」と、島へ部隊や物資を運ぶために防衛省が確保してきたPFI船舶。用途はまったく違いますが、どちらも「船を動かす人がいなくなる」という同じ壁に向き合っています。
民間が船員不足を埋めるために磨いてきた自動運航の技術が、同じ課題を抱える防衛の海上輸送に入っていこうとしている。令和9年度の調査研究は、その入り口に当たります。年末の予算と3文書で、この取り組みがどこまで具体化するのか。船員の確保に制約がある時代に、海上輸送を支える技術の可能性が問われています。
【参考記事】
自衛隊に自動運航船、無人化も視野に研究着手…有事輸送や島民避難(読売新聞オンライン)(外部)
防衛省がAIと自動運航技術を組み合わせた輸送船の導入方針を固めたと報じた記事。3文書への明記や島民避難での活用を伝える。
IMO MSC 111: New MASS Code adopted(DNV)(外部)
DNVによるMSC 111の解説。任意のMASSコードの採択と、義務的コードの発効が早くても2032年1月とされる点をまとめている。
【編集部後記】
防衛省がPFIで確保しようとしているコンテナ船の要求水準を見ると、総トン数は499トン以下、満載喫水は4.5メートル以下、20フィートコンテナは80本以上とされています。全長約134メートル、700TEU級の「げんぶ」と比べると、ずっと小さな船です。
民間の自動運航は、まず大きな定期航路で商業運航にたどり着きました。浅い港にも入れる小さな船にこそ、島の暮らしと輸送が懸かっています。その小さな船の世界に、この技術はどんな形で降りてくるのでしょうか。
【用語解説】
安全保障関連3文書
国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3つの文書。現行版は2022年12月16日に国家安全保障会議決定・閣議決定された。政府は2026年内の改定を目指している。
事項要求
概算要求で金額を示さずに項目だけを要求し、予算編成の過程で内容と金額を詰める方式。令和9年度の防衛省の概算要求では、3文書の改定に左右される事業が対象とされた。
契約ベース
その年度に結ぶ契約の総額で示す予算の数え方。複数年度にまたがる支払いを含むため、その年度の支出額(歳出ベース)とは一致しない。
PFI船舶
PFI(Private Finance Initiative)の手法で防衛省が確保する民間船舶。民間事業者が船を保有し、船員を雇って運航する。防衛省は訓練や有事、災害時の輸送に使う。
予備自衛官
ふだんは民間の仕事に就き、招集を受けたときに自衛官として任務に就く非常勤の隊員。PFI船舶の事業では、防衛出動の際に船を運航する要員として位置づけられている。
自衛隊海上輸送群
島嶼部への部隊や物資の輸送を担う、陸海空自衛隊の共同部隊。2025年3月24日に海上自衛隊呉地区で新編された。
MASS(Maritime Autonomous Surface Ships)
自動運航船・自律運航船を指す国際的な呼び方。日本では国土交通省がMASSとしての検査を行う。
ノーテーション
船級協会が船の船級に付け加える符号。その船が満たしている特別な機能や基準を対外的に示す。
SAEの自動運転レベル
米国の自動車技術者協会(SAE)が定めた自動運転の段階分け。レベル4は、特定の条件下でシステムが運転を担う水準を指す。日本財団は船の説明に、この自動車の分類を便宜的に用いている。
Fleet Operation Center(FOC)
陸上から複数の自動運航船を遠隔で監視・支援する拠点。MEGURI2040では、常設型と、トレーラーで移動できる移動型が整備された。
MASSコード
国際海事機関(IMO)が2026年5月に採択した、自動運航船の安全に関する国際コード。現時点では任意の文書で、7月1日から適用されている。
トンキロ
貨物の重さ(トン)に輸送距離(キロメートル)を掛けた輸送量の単位。
【参考リンク】
防衛力の変革に向けた予算 令和9年度概算要求の概要(防衛省)(外部)
令和9年度概算要求の概要。p.11とp.27に自動運航技術を搭載した輸送船舶の調査研究が載り、p.4に防衛関係費の表がある。
民間船舶の運航・管理事業(コンテナ船)業務要求水準書(案)(防衛省)(外部)
コンテナ船2隻のPFI事業の要求水準書(案)。事業目的、出港までの待機態勢、船員の国籍や予備自衛官に関する要件を定めている。
<解説>自衛隊海上輸送群の新編(令和7年版防衛白書)(外部)
令和7年版防衛白書のコラム。陸海空の共同部隊として2025年3月24日に新編された自衛隊海上輸送群の目的と役割を解説している。
World’s 1st Automated Coastal Container Vessel (MASS) Enters Commercial Service(The Nippon Foundation)(外部)
「げんぶ」の商業運航開始を伝える日本財団の英語発表。MEGURI2040第2ステージの4隻と、陸上支援拠点FOCを紹介する。
無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」(日本財団)(外部)
日本財団の無人運航船プロジェクトの公式ページ。2040年に国内を走る船の50%を無人運航船とする目標と、各フェーズの実証を紹介する。
世界初となる自動運航ノーテーションを、内航コンテナ船「げんぶ」に付与(ClassNK)(外部)
日本海事協会が「げんぶ」にAUTO-Nav2(All)を付与したと伝える発表。中長期航路を走る船への付与は世界初とする。
Maritime Safety Committee 111th session highlights(IMO)(外部)
IMO海上安全委員会第111回会合の要旨。任意のMASSコードの採択、7月1日からの適用、義務化に向けたロードマップを掲載している。


















