2025年11月27日、NTTドコモビジネス株式会社（以下、NTTドコモビジネス）を中心とするコンソーシアムは、国立大学法人東北大学および仙台市と連携し、同市内の「東部北ルート」と「秋保ルート」において自動運転バスの実証実験を開始したと発表した。
本実証は、津波避難が想定される沿岸部と、通信が不安定になりやすい山間部という2つのエリアで、自動運転レベル2の日野自動車株式会社製「ポンチョ」を用いて実施される。実証期間は、東部北ルートが2025年11月27日〜12月7日、秋保ルートが2026年1月19日〜1月30日であり、複数キャリア回線やローカル5G、NTTドコモビジネスの「通信安定化ソリューション」、5Gワイド、ネットワークスライシング、衛星通信Starlinkといった通信技術に加え、docomo MECや都市OSとのデータ連携を組み合わせて、安全な自動運転サービスの実現可能性を検証する。
本実証には、NTTドコモビジネス株式会社、NTTアドバンステクノロジ株式会社、株式会社NTTデータ経営研究所、パナソニック コネクト株式会社、ドコモ・テクノロジ株式会社、株式会社タケヤ交通、先進モビリティ株式会社、株式会社NTTドコモの8社が携わっている。総務省の「地域社会DX推進パッケージ事業（自動運転レベル4検証タイプ）」に採択された取り組みであり、得られた知見は仙台市内の地域交通の持続的な確保と、全国の類似地域における自動運転の社会実装に活用される予定である。
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宮城県仙台市の2エリアにおいて自動運転バスの実証実験を開始
【編集部解説】
仙台市で始まる今回の実証は、「自動運転レベル4が当たり前になる前に、どんなインフラが必要か」を先に確かめる取り組みです。運転自体はレベル2で行われますが、複数キャリア回線、ローカル5G、Starlink、docomo MEC、ネットワークスライシング、都市OS連携といった要素を組み合わせる構成は、レベル4を前提とした通信・データ基盤の実証になっています。
実証フィールドとして、津波避難が想定される東部北ルートと、電波状況が不安定になりやすい秋保ルートという「厳しい環境の2エリア」を選んでいるのも特徴的です。災害時の通信輻輳を想定した5Gワイドやネットワークスライシングによる優先制御、山間部をローカル5GとStarlinkで補完する構成は、地方都市や観光地がそのまま参考にできる現実的な設計図になっています。
都市OSとの連携では、道路工事情報や災害情報、凍結路面情報などの環境データを車両に伝え、安全運行に活かす仕組みが検証されます。車載センサーだけでは拾いきれないリスクを、都市全体のデータと統合してカバーすることで、「街ぐるみで自動運転を支える」スマートシティ型のモビリティの姿が見えてきます。
ポジティブな側面としては、ドライバー不足が深刻化する中での路線維持や、津波・豪雪・凍結路などリスクの高いエリアでの避難・日常移動を支える手段になり得る点が挙げられます。一方で、衛星通信やローカル5G、MECなど高度なインフラへの依存度が高まることで、初期投資や運用コスト、障害発生時のフェイルセーフ設計、セキュリティ対策といった新たな課題も浮かび上がります。
このプロジェクトは、総務省の「地域社会DX推進パッケージ事業（自動運転レベル4検証タイプ）」の一つとして位置づけられており、日本全体としてレベル4自動運転サービスのモデルケースを各地に作ろうとする流れの中にあります。コンソーシアム各社が2027年までの商用適用を掲げていることから、仙台での結果は、似た課題を抱える地域にとって「どの技術をどう組み合わせればよいのか」を考えるうえで、具体的なベンチマークになっていきそうです。
【用語解説】
自動運転レベル2
アクセル・ブレーキ・ステアリングの一部または両方をシステムが制御するが、常に人間の監視と介入が必要な自動運転レベルのこと。
自動運転レベル4
限定されたエリアや条件下で、基本的にシステムが全ての運転操作を担い、人が運転操作に関与しないことを想定した自動運転レベルのこと。
ローカル5G
特定の企業や自治体などが、自らの建物や敷地内を対象として独自に構築・運用する5Gネットワークのこと。
ネットワークスライシング
1つの物理ネットワークを用途ごとに仮想的に分割し、用途に応じた品質や優先度を持つ通信を実現する技術のこと。
docomo MEC
通信網の近くにコンピューティングリソースを配置し、低遅延かつ高セキュリティでアプリケーション処理を行うドコモのエッジコンピューティング基盤の総称。
Starlink
SpaceXが運用する低軌道衛星コンステレーションにより、世界各地で高速・低遅延のブロードバンド接続を提供する衛星インターネットサービスのこと。
都市OS
都市内の交通、インフラ、防災、環境などに関するデータを集約・統合し、行政や事業者が共通基盤として活用するためのデータ連携プラットフォームのこと。
二次交通
鉄道や基幹バス路線などの幹線交通から、観光地や住宅地など最終目的地までの移動を担う補完的な交通手段のこと。
【参考リンク】
NTTドコモビジネス（NTT Com）公式サイト（外部）
法人向けにネットワーク、クラウド、セキュリティ、IoTなどを提供するNTTドコモグループの事業サイト。
docomo MEC 公式サイト（外部）
低遅延・高セキュアなエッジコンピューティング基盤「docomo MEC」の概要や技術資料を掲載するサイト。
自動運転向け「通信安定化ソリューション」ニュースリリース（外部）
自動運転レベル4を想定したマルチキャリア・衛星連携による通信安定化ソリューションの内容を説明するリリース。
Starlink 日本向けサービスサイト（外部）
低軌道衛星による高速インターネットサービスStarlinkの日本向け概要や料金、カバレッジ情報を紹介する公式サイト。
地域社会DX推進パッケージ事業（Level 4検証）採択結果（外部）
総務省がレベル4自動運転に向けた通信システム検証のため全国10地域の実証コンソーシアムを選定した結果を公表するページ。
RoAD to the L4 プロジェクトサイト（外部）
レベル4自動運転サービスの社会実装に向けた日本のロードマップや実証事例を整理して紹介する情報サイト。
【参考動画】
【参考記事】
Selection Results of Demonstration Organizations for Verifying Communication Systems contribute to Safe and Efficient Level 4 Autonomous Driving（外部）
総務省が地域社会DX推進パッケージ事業として全国10地域のレベル4自動運転通信実証プロジェクトを選定した経緯と概要を解説する記事。
Launch of Level 4 System Mobility Acceleration Committee for Realization of New Automated Driving Mobility Services by FY2025（外部）
経済産業省がレベル4自動運転モビリティサービスの実現に向けた委員会設置と、2025年度までに全国でのサービス展開を目指す方針を説明する記事。
[What is Level 4 autonomous driving] When will it be lifted and put intopractical use?（外部）
自動運転レベル4の定義やユースケース、制度整備の状況、日本での商用化のタイムラインと課題を整理して解説する技術コラム。
【編集部後記】
仙台の沿岸部と山間部という、あえて「厳しい場所」を選んだ今回の実証は、自動運転バスが本当に生活の足になれるのかを確かめる一歩だと感じています。もしあなたの暮らす街で、津波や大雪のリスクがあるエリアにも、こうした仕組みを前提とした移動サービスが当たり前になったとしたら、どんな場面で使ってみたいでしょうか。
高齢の家族の通院や、観光地への二次交通、自分の通勤・通学など、具体的なシーンを思い浮かべながら、一緒にこの技術の「ちょうどいい距離感」を探っていけたらうれしいです。
