あいおいニッセイ同和損害保険株式会社は、グループ会社のAioi R&D Lab – Oxfordと株式会社Archaicとともに、車両の走行データを基に生成AIがドライバーごとの運転アドバイスを作成する「運転アドバイスプラットフォーム」を開発し、2025年11月から東海東京証券株式会社と実証実験を開始した。
本システムはテレマティクス自動車保険で蓄積した運転挙動データと、データベース化された2,000以上の運転アドバイスを活用し、時間帯や道路種別、走行距離、平日／休日なども考慮したきめ細かなアドバイスを生成する。
実証は2025年11月から2026年3月まで、東海東京証券の社有車約350台に搭載されたドライブレコーダーの走行データを用いて行われ、ユーザー評価をもとにAIアルゴリズムの高度化を図る計画である。あいおいニッセイ同和損保とArchaicは、2026年12月までに企業への本格導入を目指し、複数のPoCを通じてシステム改善とテレマティクス自動車保険への展開を見据えている。
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生成AI を活用した「運転アドバイスプラットフォーム」を開発
【編集部解説】
今回の取り組みは、「保険会社がドライバー教育そのものをアップデートしようとしている」動きとして見ると輪郭がくっきりしてきます。あいおいニッセイ同和損保は、テレマティクス自動車保険で蓄積してきた走行データと2,000件超のアドバイス文を土台に、生成AIでドライバーごとの運転アドバイスを自動生成するプラットフォームを構築しました。これを東海東京証券の社有車フリートで実証することで、実務の現場でどの程度事故削減に寄与するのかを見極めようとしています。
技術面でのポイントは、「走行データ＋行動パターン」の解析に加え、文章トーンまで含めてパーソナライズされることです。従来のテレマティクス保険はスコアや定型コメントが中心でしたが、本システムでは危険挙動の地点情報や時間帯、道路種別を加味しながら、ドライバーの嗜好に合わせて言い回しを変えたメッセージを返せるよう設計されています。あいおいニッセイ同和損保はトヨタとのテレマティクス連携や、英国拠点のAioi R&D Lab – OxfordでのAI研究を通じて、モビリティデータとリスク評価を組み合わせる基盤をすでに築いてきました。今回のプラットフォームは、その延長線上で「人へのフィードバック」を厚くする試みだと捉えられます。
企業側のメリットとしては、フリート全体の「安全文化づくり」をデータドリブンに回していける可能性が挙げられます。運行管理者が月次のアドバイス内容と、実際の事故・ヒヤリハットの発生状況を突き合わせれば、「どのような運転挙動がどんなリスクにつながりやすいか」を、ドライバー単位・ルート単位で把握しやすくなります。また将来的にテレマティクス保険との連携が深まれば、「安全運転を続けるほど保険条件が改善される」といったインセンティブ設計も、より細かい粒度で実装できる余地が広がります。
一方で、生成AIを運転評価に組み込むことにはいくつかのリスクも見えてきます。アルゴリズムが特定の運転パターンや属性にバイアスを持つと、不公平な評価や、ドライバー側の過度な自己検閲につながる懸念があります。さらに、位置情報を含む走行データは極めてセンシティブな個人情報であり、企業フリートであっても「どこまで評価に使うのか」「誰がどの粒度で閲覧できるのか」といったガバナンス設計が欠かせません。同社はAIリスクをテーマにした保険商品など、テクノロジー活用とリスクマネジメントを両輪で進める姿勢も打ち出しており、今回の実証もその流れに位置づけられるでしょう。
長期的に見ると、「運転アドバイスプラットフォーム」は人間ドライバー向けの教育ツールにとどまらず、自動運転や高度運転支援システムとのインターフェースへと発展し得ます。人とAIが混在するモビリティ環境では、「どのタイミングで」「誰に向けて」「どんな形のフィードバックを返すのか」が、交通安全とユーザー体験の両面から重要な設計テーマになっていきます。今回の実証は、その入り口として「人の運転行動」に対して生成AIがどこまで解像度高く寄り添えるのかを試すステップだといえそうです。
【用語解説】
テレマティクス自動車保険
車載通信機器やドライブレコーダーなどから取得した走行データを活用し、保険料やサービス内容を決定・変動させる仕組みを取り入れた自動車保険の総称である。
生成AI
大量のデータから学習したモデルを用いて、文章や画像、音声などのコンテンツを自動生成する人工知能技術の総称であり、近年は保険・モビリティ分野でも活用が進んでいる。
運転挙動データ
アクセル・ブレーキ操作、速度、急加減速、急ハンドルといった運転中の車両の動きやドライバーの操作状況を数値として記録したデータである。
危険運転アドバイス
急ブレーキなど危険な挙動が検知された地点や状況に焦点を当て、その場面に特化した運転改善の助言を提示する情報で、今回のプラットフォームでは新機能として位置情報とともに提示される。
PoC（Proof of Concept）
新しい技術やシステムの有効性を検証するために、小規模に実施される概念実証プロジェクトを指し、本格導入前に技術的・運用的な妥当性を確かめる目的で行われる。
運行管理者
企業などで社有車や営業車両の運行計画、安全指導、事故防止施策などを担う担当者であり、テレマティクスやAIを活用した安全運転教育の現場におけるキープレイヤーとなる。
【参考リンク】
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社（外部）
MS＆ADインシュアランスグループの損害保険会社で、自動車保険やテレマティクス関連サービスを含む多様な保険商品を提供している。
Aioi R&D Lab – Oxford（外部）
英国オックスフォードを拠点に、AIやデータサイエンスを活用した保険・モビリティ分野の研究開発を行う、あいおいニッセイ同和損保の関連組織である。
東海東京証券株式会社（外部）
東海東京フィナンシャル・ホールディングス傘下の証券会社で、社有車の安全運転教育にテレマティクスやAIを活用する実証実験に参画している。
MS＆ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社（外部）
三井住友海上火災保険やあいおいニッセイ同和損保などを傘下に持つ保険持株会社で、DXやCSVを軸にグループ全体の保険事業を展開している。
テレマティクス自動車保険｜あいおいニッセイ同和損保（外部）
走行データを活用した安全運転支援や保険料連動を特徴とする、あいおいニッセイ同和損保のテレマティクス自動車保険の紹介ページである。
【参考記事】
Telematics – transforming car insurance and improving driver safety（外部）
あいおいニッセイ同和損保と富士通によるテレマティクス自動車保険の事例を紹介し、走行データを用いたリスク評価や事故削減効果、保険サービス高度化の方向性を解説している。
The Aioi R&D Lab Oxford builds an AI-future for insurance（外部）
Aioi R&D Lab – Oxfordの設立背景と、保険業界におけるAI・機械学習活用の方針を紹介し、モビリティデータ分析やリスクモデリングの具体的な応用領域を概観している。
AI startup helps insurers spot cognitive decline in elderly drivers（外部）
高齢ドライバーの認知機能低下を検知するためにAIを用いる保険会社との連携事例を紹介し、運転挙動データとAIによる安全評価の最新動向を伝えている。
18 Game-Changing AI Use Cases in Insurance（外部）
保険分野におけるAI活用例を整理し、テレマティクス、パーソナライズド・プライシング、リスク予測、CX改善など、多数のユースケースをコンパクトに解説している。
Oxford spinout opens R&D lab to apply AI to global issues（外部）
オックスフォード大学発のAI企業がR&Dラボを開設し、保険やモビリティを含むグローバル課題にAIを適用していく構想を紹介しており、Aioi R&D Lab – Oxfordの位置づけ理解に役立つ。
【編集部後記】
運転データをAIが読み解いて、どんな言葉なら自分の安全意識が動くのか──そんな「対話型の安全運転」が、いよいよ現実味を帯びてきました。もしあなたの社用車やマイカーにも、この種の運転アドバイスプラットフォームが入ったとしたら、どこまでの情報なら提供してもよいと感じるでしょうか。
走行ルートや急ブレーキの地点まで共有される世界では、「安心」と「監視」のバランスをどう考えるかが、テクノロジー側だけでは決めきれないテーマになります。今回のような実証が積み重なっていくと、保険やモビリティの常識は数年単位で書き変わっていきます。自分の運転データがどんな未来とつながっていたらワクワクできるか──そんな視点で、ぜひ一緒に想像を広げていけたらうれしいです。
