横須賀市、京浜急行バス、ソフトバンクは、横須賀市路線バス自動運転導入プロジェクトにおいて、2025年12月1日から自動運転バスの実証実験を開始した。
国土交通省の地域公共交通確保維持改善事業費補助金に採択され、京浜急行電鉄YRP野比駅とICT技術の研究開発拠点である横須賀リサーチパーク(YRP)を結ぶ約3kmの既存路線で、大型路線バス「いすゞ・エルガ」1台を使用して実証を行う。
実証期間は2026年2月1日まで。現在は自動運転レベル2で走行し、2027年度中の自動運転レベル4での走行を目指す。
さらに2028年度には2台の自動運転車両が連なって走行する隊列走行技術を用いた路線バスの実用化を目指している。
2026年1月21日から2月1日までの期間、一般市民向けの試乗会も実施予定である。
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自動運転レベル4の実用化を目指して、横須賀市で大型路線バスによる実証を開始
【編集部解説】
この横須賀市の自動運転バス実証実験は、日本の公共交通が直面する深刻な課題に対する具体的な解決策として注目に値します。
バス運転士不足は全国的な問題となっており、日本バス協会の予測では2030年には約36,000人の運転士が不足すると見込まれています。横須賀市内のほぼ全域を運行している京浜急行バスも例外ではなく、安定した運行体制の維持が困難になってきています。
今回の実証実験で特筆すべきは、最終的に目指している技術が2つあることです。第一は自動運転レベル4の実現です。レベル4は特定の条件下でシステムがすべての運転タスクを実施する状態を指し、運転席に人が座る必要がなくなります。現在のレベル2では、アクセル・ブレーキ操作とハンドル操作が部分的に自動化されているだけで、常に運転士による監視が必要です。
第二の目標である隊列走行技術は、さらに革新的です。複数の自動運転バスが連なって走行することで、通勤時間帯のような需要が高い時間帯には輸送力を大幅に増やし、需要が少ない時間帯には車両数を減らすという柔軟な対応が可能になります。これは鉄道のような固定された輸送力ではなく、需要に応じて最適化できる次世代の公共交通システムです。
本プロジェクトでは、ソフトバンクとJR西日本が共同開発してきた自動運転・隊列走行BRTの知見が活用されます。JR西日本とソフトバンクは2021年から専用テストコースで実証実験を重ね、2023年には広島県東広島市で公道実証実験を開始しています。この蓄積された技術とノウハウが、今回の横須賀市での実証に生かされることになります。
実証実験の舞台となる横須賀リサーチパーク(YRP)は、ICT技術の研究開発拠点としてさまざまな企業や研究所が集積しており、通勤時間帯の公共交通需要が極めて高い地域です。このような実際の需要がある路線での実証は、技術の実用性を検証する上で非常に重要です。
国内では、茨城県日立市のひたちBRTで2025年2月から中型バスによる国内初のレベル4自動運転の営業運行が開始されており、また愛媛県の伊予鉄グループでもレベル4の路線バス運行が実現しています。横須賀市の取り組みは、これらに続く自動運転レベル4の社会実装事例として、さらに隊列走行という先進的な要素を加えた挑戦となります。
自動運転技術の社会実装には、技術面だけでなく、地域住民の受容性も重要です。今回、2026年1月から実施される試乗会は、市民が実際に自動運転バスを体験し、その安全性や快適性を確認する機会となります。このような段階的なアプローチが、技術の円滑な社会実装につながっていくでしょう。
2027年度のレベル4実現、2028年度の隊列走行実用化という明確なロードマップを掲げた今回のプロジェクトは、日本の地域公共交通の未来を切り拓く重要な一歩となるはずです。
【用語解説】
自動運転レベル2
アクセル・ブレーキ操作とハンドル操作の両方が部分的に自動化された状態。運転士による常時監視が必要で、緊急時には人間が操作を引き継ぐ。
自動運転レベル4
特定の条件下(限定された地域や道路条件)において、システムがすべての運転タスクを実施する状態。運転席に人が座る必要がなく、特定エリア内では完全な自動運転が可能となる。
隊列走行技術
複数の自動運転車両が連なって走行する技術。先頭車両に運転士や監視者が乗車し、後続車両は自動で追従する。需要に応じて車両数を調整でき、輸送力を柔軟に変更できる。
BRT(Bus Rapid Transit)
バス高速輸送システムのこと。専用道路やバス専用レーンを活用し、連節バスなどの大型車両と運行管理システムを組み合わせることで、輸送力・定時性・速達性の向上を実現する。
横須賀リサーチパーク(YRP)
神奈川県横須賀市にあるICT(情報通信技術)の研究開発拠点。さまざまな業種の事業所や研究所が立地し、通信・半導体・ソフトウェアなどの先端技術開発が行われている。
【参考リンク】
横須賀市公式サイト(外部)
神奈川県横須賀市の公式ウェブサイト。市政情報や市民向けサービス、地域の取り組みなどを提供
京浜急行バス(外部)
京浜急行電鉄グループのバス事業者。横須賀市内をはじめとする神奈川県内で路線バス事業を展開
ソフトバンク 自動運転関連ニュース(外部)
ソフトバンクによる今回の横須賀市自動運転バス実証実験に関するプレスリリース
JR西日本 自動運転・隊列走行BRT(外部)
JR西日本とソフトバンクが共同で開発している自動運転・隊列走行BRTプロジェクトの情報ページ
国土交通省 RoAD to the L4(外部)
経済産業省と国土交通省が推進する自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発プロジェクトの公式サイト
【参考記事】
自動運転L4実用化に向け、横須賀で大型路線バス実証 ソフトバンク×京浜急行バス(外部)
マイナビニュースによる報道記事。実証実験の概要と背景にあるバス運転士不足の課題について詳しく解説
国内初の中型バスでのレベル4自動運転による運行を開始します(外部)
経済産業省のプレスリリース。茨城県日立市で2025年2月から開始された国内初の中型バスによるレベル4自動運転営業運行について紹介
日本の自動運転レベル4は、どこまで進んだか(1)(外部)
SOMPOインスティチュート・プラスによる詳細なレポート。2027年度に100カ所以上という政府目標や、自動運転バス導入のコスト面での課題について分析
JR西日本とソフトバンクの「自動運転・隊列走行BRT」開発プロジェクト(外部)
2023年のソフトバンクプレスリリース。滋賀県野洲市での専用テストコース実証を完了し、広島県東広島市で公道実証を開始したことを発表
自動運転バスの実証実験を一覧でご紹介!(外部)
公共交通の技術情報プラットフォームによる包括的な記事。日本各地で実施されている自動運転バス実証実験を地域別に紹介
【編集部後記】
自動運転バスの実証実験というと、遠い未来の話のように感じるかもしれません。しかし横須賀市のこの取り組みは、私たちの日常に直結する公共交通の課題に真正面から向き合っています。バス運転士の不足は全国的な問題であり、このままでは地域の足が失われてしまう可能性もあります。技術は単なる未来への憧れではなく、今ある課題を解決するための現実的な手段なのです。2026年1月からは一般市民も試乗できる機会が設けられます。もし機会があれば、ぜひ実際に体験してみてください。自動運転技術がどこまで進化しているのか、そして私たちの移動の未来がどのような形になっていくのか、肌で感じることができるはずです。































