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ガーミン、オートランドシステムで6年越しの実証|航空機の完全自動緊急着陸に初成功

[更新]2025年12月26日

ガーミン、オートランドシステムで6年越しの実証|航空機の完全自動緊急着陸に初成功 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年12月20日、コロラド州のロッキーマウンテン・メトロポリタン空港で、ガーミンの緊急オートランドシステムを搭載したビーチクラフト・スーパーキングエアB200が完全自動で緊急着陸に成功した。ガーミンは「実際の緊急事態において最初から最後までオートランドが使用された初のケース」と発表した。

機体はアスペン・ピトキン郡空港から飛行中、急速な与圧喪失が発生し、パイロット2名が酸素マスクを装着した上でシステムを作動させた。乗客は搭乗していなかった。現地時間14時20分頃、航空管制との通信が途絶えた状態で着陸した。

チャーター会社CEOのクリス・タウンズリーは、パイロット無力化の報道を否定し、システムが設計通りに自動作動したと説明した。連邦航空局は調査中である。

オートランドはガーミンが開発した緊急時自動着陸システムで、2019年にリリースされ、2020年に世界初のFAA認証を取得した。パイロットが操縦不能になった際、または一定時間パイロットの反応がない場合に手動または自動で起動し、航空機の完全自律制御、最適空港の選定、航空管制との通信、着陸、ブレーキング、エンジン停止までを実行する。

From: 文献リンクGarmin autopilot lands small aircraft without human assistance

【編集部解説】

今回のガーミンのオートランドシステムによる緊急着陸成功は、航空史における重要な転換点として記憶されるべき出来事です。2019年のシステムリリースから6年、ついに実際の緊急事態において、その真価が証明されました。

まず事実関係を整理しましょう。当初「パイロット無力化」との報道が広がりましたが、これはシステムの自動音声通信によるものでした。実際には、高度23,000フィート(約7,000メートル)で急速な与圧喪失が発生し、2名のパイロットが酸素マスクを装着した上で、意識的にシステムを作動させ続ける判断を下したのです。運航会社バッファローリバーアビエーションのCEO、クリス・タウンズリーは「保守的な判断の実践」と表現しています。

この技術が持つ意義は計り知れません。オートランドは単なる自動着陸システムではなく、パイロットが操縦不能になった際の「最後の砦」として設計されています。システムは滑走路の長さ、気象条件、燃料残量など複数の要因を考慮して最適な空港を選定します。そして航空管制との通信、進入、着陸、ブレーキング、さらにはエンジン停止まで、すべてを完全自律で実行します。

ABC NewsおよびCNNの報道によると、現在約1,700機の航空機にこのシステムが搭載されているとガーミンが述べています。2020年にパイパーM600で初めてFAA認証を取得し、サーラスビジョンジェット、ダハーTBM940/960などに展開されてきました。2023年7月にはキングエアシリーズへの後付け認証を取得し、2025年8月にはキングエア350向けの認証も完了しています。今回着陸したB200への初めての実装は2024年1月に行われました。

この技術の真の価値は、航空安全の概念そのものを変える可能性にあります。パイロットの突然の無力化は稀ではありますが、発生した場合はほぼ必ず致命的な結果につながってきました。オートランドはこの絶対的なリスクに対する技術的解答なのです。

一方で、自動化への過度な依存という新たな課題も浮上しています。航空専門家の間では「いつシステムに委ねるべきか」という議論が始まっています。今回のケースでは高度23,000フィートでの与圧喪失でしたが、より低い高度であれば人間による対応が可能だったかもしれません。システムは機体を高度18,000フィート(約5,500メートル)で10分間保持しながら山岳地帯を横断しましたが、パイロットであればより速やかに低高度へ降下できた可能性があります。

また、この技術は航空規制のあり方にも影響を与えるでしょう。単独パイロット運用の拡大、より高齢のパイロットの飛行継続、さらには将来的な無人航空機の実現可能性など、議論は多岐にわたります。

重要なのは、この技術が「パイロットの代替」ではなく「パイロットの補完」として位置づけられている点です。ガーミンはロバート・J・コリアー・トロフィーという航空界最高峰の賞をオートランドで受賞していますが、それは技術の完成度だけでなく、人間中心の設計思想が評価されたためです。

今後、より多くの航空機にこのシステムが搭載され、データが蓄積されることで、人間とAIの最適な協働のあり方が明らかになっていくでしょう。今回の成功は、その第一歩として航空史に刻まれることになります。

【用語解説】

FAA(Federal Aviation Administration)
米国連邦航空局。米国における民間航空の安全規制を担当する政府機関。航空機の認証、パイロットライセンス、航空交通管制などを管轄する。

G1000 NXi
ガーミンが製造する統合型フライトデッキシステム。航空機の各種計器を統合したグラスコックピットで、ナビゲーション、エンジン監視、気象情報などを一元表示する。

ビーチクラフト・スーパーキングエア(Beechcraft Super King Air)
双発ターボプロップ機。チャーター便や軍用機として世界中で使用されている。短い滑走路での運用が可能で、信頼性の高さから50年以上にわたり製造されている。

T字型尾翼(T-tail)
水平尾翼を垂直尾翼の上部に配置した設計。エンジン排気や主翼の後流の影響を受けにくく、クリーンな気流が得られる利点がある。

ロバート・J・コリアー・トロフィー(Robert J. Collier Trophy)
米国航空界における最高峰の賞。前年度の航空および宇宙飛行における最も偉大な業績に対して授与される。ガーミンのオートランドは2020年にこの賞を受賞した。

スコーク7700(Squawk 7700)
航空機のトランスポンダーで発信する緊急事態を示すコード。このコードを発信すると、航空管制のレーダー画面で当該機が強調表示され、優先的な対応を受けられる。

【参考リンク】

Garmin Autoland 公式サイト(外部)
ガーミンの緊急自動着陸システムの公式ページ。システムの仕組み、搭載機種、技術的詳細、デモ動画などを掲載している。

Garmin Aviation(外部)
ガーミンの航空事業部門の公式サイト。アビオニクス製品、統合フライトデッキ、自律安全技術などの情報を提供している。

Federal Aviation Administration (FAA)(外部)
米国連邦航空局の公式サイト。航空安全規制、認証情報、事故調査報告、航空関連ニュースなどを掲載している。

LiveATC.net(外部)
世界中の航空管制通信をライブストリーミングおよびアーカイブで提供するサイト。航空ファンや研究者が実際の管制通信を聴くことができる。

【参考記事】

lane makes safe emergency landing in Colorado without a pilot’s help, in first “Autoland” use – CBS Colorado(外部)
ガーミンが実際の緊急事態でのオートランド使用は今回が初めてと確認。パイロットが高度23,000フィートで与圧喪失を経験し酸素マスク装着。機体が翌日通常運航に復帰したことなどを報じている。

Small plane lands itself safely with Autoland system in 1st use in emergency situation, company says – ABC News(外部)
ガーミンが約1,700機の航空機にシステムが搭載されていると述べたこと、パイロット無力化は発生しておらず報告はシステムの自動通信機能によるものと説明。

Airplane lands itself after in-flight emergency, in a first for aviation automation – CNN(外部)
ガーミンが約1,700機の航空機にオートランドが搭載されていると述べたこと。運航会社CEOのクリス・タウンズリーが与圧喪失とパイロットの対応について詳細を説明。

Garmin Autoland Activation Was Crew Decision – AVweb(外部)
クルーが「保守的な判断」として意識的にシステムに制御を委ねたこと。システムが機体を高度18,000フィートで10分間保持。航空専門家がシステム起動のタイミングについて議論を開始。

Garmin Emergency Autoland deployed for the first time – Flightradar24 Blog(外部)
システムが与圧喪失により自動作動したがパイロットは意識を保持。複雑な状況(計器気象条件、山岳地形、着氷状態)を考慮してシステムを作動させたままにする判断を実施。

Garmin Autoland and Autothrottle certified for King Air 300/350 – AeroTime(外部)
ガーミンが2025年8月にキングエア350向けのオートランドとオートスロットルのFAA認証を取得。キングエア350が現時点でオートランド認証を受けた最大の航空機。

Revolutionary Garmin Autoland and Autothrottle to become available for retrofit installations – Garmin Newsroom(外部)
2023年7月にキングエア200シリーズ向けのオートランド後付け認証が初めて取得されたこと。オートランドがロバート・J・コリアー・トロフィーを受賞したことを報じている。

【編集部後記】

今回のガーミンの成功は、航空安全の新時代の幕開けを象徴する出来事かもしれません。しかし同時に、私たちは「いつ機械に委ねるべきか」という新たな問いにも直面しています。自動化技術が高度化するほど、人間の判断力はより重要になるのではないでしょうか。

みなさんは、緊急時において人間とAIの最適な協働関係はどうあるべきだと思いますか。また、この技術が他の交通システムや産業にどのような影響を与えていくと考えますか。ぜひご意見をお聞かせください。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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