カリフォルニア州に本拠を置くJoby Aviationは、2026年にアラブ首長国連邦のドバイで世界初の統合型エアタクシーサービスを開始する計画だ。
同社は2024年2月、ドバイの道路交通局と契約を結び、商業運航開始から6年間の独占運航権を獲得した。ドバイ国際空港近くを含む4か所のバーティポート(離着陸施設)が英国のSkyportsと協力して建設される予定で、追加施設はドバイモール、アトランティス・ザ・ロイヤルリゾート、ドバイのアメリカン大学に計画されている。
Jobyは2009年設立で、トヨタからの約8億9400万ドルを含む総額30億ドル以上の資金を調達している。2020年にはUberのElevateプログラムを買収した。中国のEHangがすでに限定的な遊覧飛行を実施しているが、Jobyが実現すれば都市交通を越えたポイント・ツー・ポイントの定期旅客飛行を行う世界初の企業となる。
米国では連邦航空局の型式証明取得を進めており、2026年夏から始まるeVTOL統合パイロットプログラムへの参加も計画している。
From:
First Air Taxi Service to Launch in Dubai in 2026 – IEEE Spectrum
【編集部解説】
10年前、配車サービス大手Uberが掲げた「空飛ぶタクシー」の夢が、いよいよ現実のものとなろうとしています。そのビジョンを引き継ぎ、実現へ向けて最も前進しているのがJoby Aviationです。
同社が2026年にドバイで開始予定の商用エアタクシーサービスは、都市交通の歴史における転換点となる可能性を秘めています。ドバイ国際空港からパームジュメイラまで、車で45分かかる距離をわずか10分で結ぶ。これは単なる時間短縮ではなく、都市の空間構造そのものを変える可能性を持つイノベーションです。
注目すべきは、Jobyがなぜドバイを選んだのかという点です。米国連邦航空局(FAA)の認証プロセスは厳格で時間がかかります。近年、FAA人員不足やボーイング737 Max危機後の慎重な姿勢から、従来の航空機でさえ認証に長期間を要するようになっています。
一方、ドバイはインフラ投資に積極的で、規制面でも柔軟です。ドバイ道路交通局との6年間の独占契約は、Jobyに安定した事業基盤を提供します。この戦略により、JobyはFAA型式証明取得前に実運用データを蓄積し、技術を成熟させることができるのです。
技術的な観点から見ると、Joby S4の性能は印象的です。6つのチルト式プロペラを備えた同機は、最高速度200mph(約322km/h)、航続距離150マイル(約241km)を実現します。各電動モーターは重量28kgで最大出力236kWを発揮し、ヘリコプターの100分の1という静粛性を誇ります。垂直離着陸と水平飛行の両方を可能にする設計は、都市環境での運用に最適化されています。
しかし、課題も存在します。バッテリー技術の制約により、現時点での航続距離は都市内および近郊の移動に限定されます。また、充電インフラの整備、気象条件への対応、安全性の実証など、解決すべき技術的課題は残されています。ドバイの高温環境や砂嵐といった厳しい気候条件での運用試験は、これらの課題克服に不可欠です。
競合環境も激化しています。中国のEHangはすでに自律型eVTOLで遊覧飛行を実施しており、Archer Aviation、Lilium(2025年2月倒産)、Vertical Aerospaceなど、多くの企業がこの市場を狙っています。特に中国企業の台頭は著しく、規制環境の違いを活かした急速な市場展開を進めています。
JobyのFAA認証プロセスは2025年11月に第4段階(Type Inspection Authorization、TIA)に進み、業界で最も先行しています。2026年にはFAA試験パイロットによる飛行試験が予定されており、2026年後半から2027年初頭の商用運航開始が見込まれます。
米国でも状況は動いています。2025年9月に発表されたeVTOL統合パイロットプログラム(eIPP)は、FAA型式証明取得前でも限定的な運航を可能にする制度です。これにより、Jobyは2026年夏にも米国の都市上空で実証飛行を行える可能性があります。
さらに注目すべきは、Jobyの製造能力拡大計画です。カリフォルニア州マリーナの施設に加え、オハイオ州デイトンに大規模生産拠点を建設中で、年間500機の生産能力を目指しています。トヨタからの約8億9400万ドル(約894 million ドル)の投資を含む強固な財務基盤と、デルタ航空との提携による販路確保も、同社の優位性を示しています。
eVTOL産業全体の市場規模は、2025年初頭の42億ドルから2033年には390億ドルへと、年平均成長率35%以上で拡大すると予測されています。都市の交通渋滞、環境問題、移動時間の短縮ニーズが、この市場の急成長を後押ししています。
Jobyのドバイでの成功は、世界中の都市における空飛ぶタクシー実現の試金石となるでしょう。サウジアラビアのラスアルハイマでも2027年のサービス開始を計画しており、中東地域を足がかりとしたグローバル展開の戦略が見えてきます。
【用語解説】
eVTOL(電動垂直離着陸機)
Electric Vertical Take-Off and Landingの略。電動モーターとバッテリーで駆動し、ヘリコプターのように垂直離着陸が可能で、飛行機のように水平飛行できる次世代航空機。従来のヘリコプターと比較して、騒音が大幅に小さく、排出ガスがゼロという特徴を持つ。
バーティポート
eVTOL専用の離着陸施設。従来の空港よりもコンパクトで、都市部のビル屋上や駐車場などに設置可能。充電設備や乗客待合スペースを備える。
型式証明(Type Certificate)
航空機の設計が安全基準を満たしていることを航空当局が認証する制度。商用運航の前提条件となる。FAAの場合、5段階のプロセスを経て発行される。
分散型電気推進(DEP)
複数の電動モーターとプロペラを機体に分散配置する推進システム。冗長性が高く、一部のモーターが故障しても飛行を継続できる安全性の高い設計。
Part 135認証
FAA(米国連邦航空局)が発行する商業航空輸送事業者の運航許可。Jobyは既にこの認証を取得済み。
【参考リンク】
Joby Aviation公式サイト(外部)
eVTOL航空機の開発と都市型エアモビリティサービスを展開する米カリフォルニア州拠点の企業
Skyports Infrastructure(外部)
ドバイのバーティポート設計・建設・運営を担当する英国企業。世界各地でeVTOLインフラを展開
Dubai Roads and Transport Authority (RTA)(外部)
ドバイの道路交通局。Jobyと6年間の独占契約を締結し、エアタクシーサービスを推進
Federal Aviation Administration (FAA)(外部)
米国連邦航空局。航空機の型式証明を発行する規制当局で、eVTOL認証の世界標準を策定中
EHang Holdings(外部)
中国の自律型eVTOL開発企業。2人乗りEH216で既に限定的な商用飛行を実施している
Archer Aviation(外部)
米国のeVTOL開発企業。Jobyの主要競合で、ユナイテッド航空と提携し2025年の商用化を目指す
【参考記事】
Joby to Launch Air Taxi Service in UAE(外部)
2024年2月、JobyがドバイでのエアタクシーサービスとRTAとの独占契約を発表した公式プレスリリース
Dubai Air Taxi Network Takes Flight: Joby Completes Landmark Flight(外部)
2025年11月、UAEで初の2地点間飛行を完了。3か所の新バーティポート計画を発表
eVTOL Certification 2025: FAA Timeline for Joby & Archer(外部)
2025年11月時点で、JobyがFAA認証プロセスの第4段階を70%完了した詳細分析
Joby Outlines Dubai Air Taxi Plans Ahead of FAA Certification(外部)
ドバイ国際空港のバーティポートは60%完成し、2026年開業予定。UAE民間航空局と協議中
eVTOL Manufacturers Ranking 2025: Top 15 Companies Analysis(外部)
2025年初頭のeVTOL市場規模は42億ドル。Joby、Archer、EHangが業界をリード
Joby Aviation S4 2.0 (pre-production prototype)(外部)
Joby S4の詳細仕様。6つのチルトプロペラ、最高速度200mph、航続距離150マイル
Sector Analysis: the State of eVTOL Innovators(外部)
eVTOL業界の二極化を分析。Joby、Archer、Betaは潤沢な資金で認証・生産を推進
【編集部後記】
空飛ぶタクシーという言葉を聞いたとき、多くの方はSF映画の世界を想像されるかもしれません。しかし、Jobyのドバイでの取り組みは、それが現実になる瞬間を私たちに見せてくれようとしています。
都市の渋滞から解放され、上空を自由に移動する未来は、もはや夢物語ではありません。この技術革新が私たちの生活をどう変えていくのか、そして日本でも同様のサービスが実現する日が来るのか。innovaTopia編集部は、この歴史的な瞬間を皆さんと共に見守り、お伝えしていきたいと思います。eVTOL技術の進化は、単なる移動手段の変化ではなく、都市そのものの在り方を問い直す契機となるはずです。































