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e-ハイゼット カーゴ登場、LFP電池で257km走行。ダイハツが仕掛ける軽商用車の電動革命

[更新]2026年2月3日

e-ハイゼット カーゴ登場、LFP電池で257km走行。ダイハツが仕掛ける軽商用車の電動革命

日本の物流を支える軽商用車が、静かに電動化の扉を開きました。ダイハツが初の量産BEV「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」を発売し、スズキ・トヨタとの3社連合による共同開発が実を結んだこの瞬間は、単なる新車発表を超えた意味を持ちます。商用車全体の60%を占める軽商用車の電動化は、配送業や農業、建設業など、私たちの日常を支える産業全体の変革の始まりとなるかもしれません。


ダイハツ工業は2026年2月2日、同社初の量産バッテリーEV(BEV)となる「e-ハイゼット カーゴ」と「e-アトレー」を全国一斉に発売しました。これらは軽商用車「ハイゼット カーゴ」「アトレー」をベースとしたモデルで、スズキ、ダイハツ、トヨタの3社が共同開発した軽自動車向けBEVシステム「e-SMART ELECTRIC」を搭載しています。

e-ハイゼット カーゴ 4シーター<オプション装着車>(左)、e-アトレー RS<オプション装着車>(右)
ダイハツ公式プレスリリースより引用

新開発のBEVシステムは、モーター・インバーター・減速機を一体化した「e Axle」を後輪駆動軸上に搭載し、36.6kWhの薄型リチウムイオンバッテリーを床下に配置することで、室内スペースを変えることなく大容量バッテリーを実現しました。軽キャブオーバーバンNo.1の積載スペースと使い勝手の良さを継承しながら、軽商用BEVバンNo.1の一充電走行距離WLTCモード257kmを達成しています。

バッテリーには安全性の高い「リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池」を採用。全車に急速充電インレット(CHAdeMO規格)を標準装備し、V2H(Vehicle to Home)にも対応します。また、走行時でも使えるAC100V・最大1500Wの外部給電機能を搭載し、仕事道具の充電や災害時の電源としても活用できます。

生産はダイハツ九州株式会社大分(中津)第1工場で行われ、BEV専用設備を導入することなく既存ラインでガソリン車との混流生産を実現しました。価格はe-ハイゼット カーゴが314万6000円、e-アトレーが346万5000円で、月間販売目標は2車種合計で300台です。

From: 文献リンクダイハツ、初の量産BEVとなる「e-ハイゼット カーゴ」、「e-アトレー」を発売

【編集部解説】

ダイハツが満を持して投入した初の量産BEV「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」は、単なる電動化の一歩ではありません。日本の物流インフラを支える軽商用車の転換点となる可能性を秘めています。

まず注目すべきは、この車両が誕生した背景です。現在、軽商用車は日本国内の商用車保有台数の約60%を占めており、配送業、農林水産業、建設業など、あらゆる産業の「働く相棒」として機能しています。その電動化は、単一企業の製品開発を超えた、社会インフラの変革そのものと言えます。

スズキ・ダイハツ・トヨタの3社が共同開発したBEVシステム「e-SMART ELECTRIC」は、軽自動車という制約の中で最適解を追求した成果です。36.6kWhの大容量バッテリーを薄型化して床下に配置し、モーター・インバーター・減速機を一体化した「e Axle」を後輪駆動軸上に搭載することで、室内空間や積載性を犠牲にすることなく、軽商用BEVバンとしてクラストップの一充電走行距離257kmを実現しました。

特筆すべきは、採用されたバッテリーの種類です。リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池は、従来主流だった三元系(NMC)電池と比べて、ニッケルやコバルトといったレアメタルを使用しません。これにより、原料調達リスクの低減と製造コストの削減を両立しています。

LFP電池の最大の利点は、その高い安全性です。リンと酸素の結合が非常に強固なため、過充電や高温環境下でも結晶構造が崩壊しにくく、発火や爆発のリスクが三元系電池よりも大幅に低減されます。商用車は日々過酷な環境で使用されるため、この安全性の高さは実用上きわめて重要な意味を持ちます。

加えて、LFP電池は充放電サイクル寿命が三元系電池の倍以上とされており、長期保有を前提とする商用車ユーザーにとって、ランニングコストの面でも大きなメリットとなります。

もう一つの技術的な意義は、生産方式にあります。ダイハツ九州の大分第1工場では、BEV専用設備を導入することなく、既存ラインでガソリン車との混流生産を実現しました。これは、少量多品種の特装車生産で培った技術とノウハウの賜物であり、初期投資を抑えながらBEV生産を開始できる柔軟なアプローチです。市場の需要変動に応じて生産調整が可能なこの方式は、BEV普及期の不確実性に対する賢明な戦略と言えます。

では、このBEVは物流業界にどのような影響を与えるのでしょうか。

ラストワンマイル配送という用語は、最終物流拠点から配達先までの最後の区間を指します。ECサイトの急成長により、この領域の需要は爆発的に増加しましたが、同時に人手不足、燃料コスト高騰、CO2排出削減といった課題も顕在化しています。

軽商用車のBEV化は、これらの課題に対する有力な解決策です。ラストワンマイル配送の特徴は、走行距離が比較的短く(50-200km程度)、走行ルートが明確で、拠点に戻れば充電できる点にあります。つまり、BEVの弱点とされる航続距離の短さや充電インフラの不足が、この用途ではほとんど問題にならないのです。

実際、日本郵便はすでに約5000台のBEV軽バンを導入しており、今後さらに1万台を追加する計画です。ヤマト運輸も2030年までに2万台のEV導入を目指しています。物流大手のこうした動きは、商用車の電動化が単なる実験段階を脱し、実用フェーズに入ったことを示しています。

e-ハイゼット カーゴが全車標準装備するV2H(Vehicle to Home)機能と外部給電機能も見逃せません。災害時には移動式電源として活用でき、AC100V・最大1500Wの給電が可能です。これは、商用車が単なる移動手段を超えて、地域のレジリエンス向上にも貢献できることを意味します。

ただし、課題も明確です。価格はガソリン車の約3倍となる314万6000円からで、初期投資の負担は決して小さくありません。しかし、燃料費やメンテナンスコストを含めた総所有コスト(TCO)で見れば、日々一定の距離を走行する商用車では、中長期的にはBEVの方が経済的になる可能性があります。

また、月間販売目標300台(ダイハツ2車種合計)という数字は、決して大きくありません。トヨタ版を含めても月間350台程度です。これは慎重な市場投入と言えますが、裏を返せば、BEV商用車市場がまだ黎明期にあることを示しています。

この発表が2026年2月という時期に行われた意味も重要です。2024年10月にホンダが「N-VAN e:」を投入し、三菱や日産も既にBEV軽バンを展開しています。トヨタ・スズキ・ダイハツ連合の参入により、日本の軽商用BEV市場は一気に競争が激化します。これは消費者にとっては選択肢の増加を意味し、市場全体の成長を加速させる可能性があります。

長期的な視点で見れば、この動きはカーボンニュートラル実現への重要なステップです。軽商用車が商用車全体の60%を占める日本において、この領域の電動化が進めば、輸送部門のCO2排出量削減に大きく貢献します。

ダイハツのアプローチで特に評価すべきは、「マルチパスウェイ」という考え方を明確にしている点です。これは、単一の技術に依存するのではなく、用途や地域に応じて最適な電動化手段を選択するという思想です。すべての車がBEVになる必要はなく、ハイブリッドや水素など、多様な選択肢を用意することこそが現実的な脱炭素への道筋だという認識は、技術至上主義に陥りがちなこの業界において、きわめて健全な視点と言えます。

e-ハイゼット カーゴの真価は、今後数年間の市場での実績によって判断されることになるでしょう。物流事業者がどこまで受け入れるか、充電インフラの整備は追いつくか、そして何より、日々の業務でガソリン車と比べて遜色ない、あるいはそれ以上の価値を提供できるかどうか。その答えが、日本の商用車電動化の未来を占う試金石となります。

【用語解説】

BEV(Battery Electric Vehicle)
バッテリー電気自動車の略称。ガソリンエンジンを搭載せず、バッテリーに蓄えた電力のみで走行する電気自動車を指す。充電インフラが必要だが、走行時のCO2排出がゼロであり、静粛性や加速性能に優れる。

e-SMART ELECTRIC
スズキ、ダイハツ、トヨタの3社が共同開発した軽商用車向けのBEVシステム。小型車づくりのノウハウと電動化技術を融合し、モーター・インバーター・減速機を一体化した「e Axle」と36.6kWhのバッテリーを最適配置することで、積載性を損なわずに電動化を実現した。

三元系(NMC)電池
正極材料にニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)を使用するリチウムイオン二次電池。高いエネルギー密度を持ち、長い航続距離が求められる用途に適している。現在EVバッテリーの主流だが、レアメタルを使用するため原料コストが高く、調達リスクもある。

e Axle(イーアクスル)
モーター、インバーター、減速機を一体化した電動駆動ユニット。部品を統合することで小型化・軽量化が可能となり、車両パッケージングの自由度が向上する。e-ハイゼット カーゴでは後輪駆動軸上に配置され、積載時や登坂時の駆動力確保に貢献している。

ラストワンマイル配送
物流における最終拠点から配達先までの最後の区間を指す。ECサイトの普及により需要が急増している領域で、比較的短距離で頻繁な発着を繰り返す特徴がある。走行距離が50-200km程度と限定的なため、BEVとの相性が良く、電動化が進んでいる。

V2H (Vehicle to Home)
車両から住宅への給電を可能にする技術。BEVのバッテリーに蓄えた電力を、専用機器を通じて家庭に供給できる。災害時の非常用電源や、太陽光発電と組み合わせた電力の自家消費に活用される。日本では「CHAdeMO」規格が標準となっている。

TCO(Total Cost of Ownership / 総所有コスト)
車両の購入価格だけでなく、燃料費、保険料、税金、メンテナンス費用、廃車費用など、所有期間全体にかかるすべてのコストを合計したもの。BEVは購入価格が高いが、燃料費やメンテナンス費用が安いため、長期保有ではガソリン車よりTCOが低くなる可能性がある。

マルチパスウェイ
カーボンニュートラル実現に向けて、単一の技術に依存せず、用途や地域、インフラ状況に応じて最適な電動化手段(BEV、HEV、PHEV、FCEVなど)を選択するという考え方。ダイハツが掲げる脱炭素戦略の基本方針。

【参考リンク】

ダイハツ工業株式会社 公式サイト(外部)
1907年創業の日本の自動車メーカー。軽自動車と小型車を専門とし、特に軽商用車で高いシェアを持つ。

e-ハイゼット カーゴ 製品情報(外部)
ダイハツの軽商用バン「ハイゼット カーゴ」の公式製品ページ。BEV版の詳細情報や仕様が掲載。

e-アトレー 製品情報(外部)
ダイハツの乗商兼用バン「アトレー」の公式製品ページ。BEV版の詳細情報や仕様、価格などを確認できる。

トヨタ自動車株式会社(外部)
世界最大級の自動車メーカー。ダイハツ、スズキとの協業により軽商用BEVの開発を推進している。

スズキ株式会社(外部)
軽自動車と小型車に強みを持つ日本の自動車メーカー。トヨタ、ダイハツとの3社協業でBEVシステムを共同開発。

日本郵便株式会社(外部)
日本郵政グループの郵便・物流事業会社。約5000台のBEV軽バンを既に導入し、さらに1万台の追加を計画。

ヤマト運輸株式会社(外部)
日本最大の宅配便事業者。2030年までに2万台のEV導入を目指し、ラストワンマイル配送の電動化を推進。

CHAdeMO協議会(外部)
日本発の急速充電規格「CHAdeMO」を推進する業界団体。V2H機能にも対応し、国内の急速充電器の多くがこの規格を採用。

【参考記事】

Tiny Toyota And Daihatsu Kei Vans Finally Go Electric After Years Of Delays(外部)
トヨタとダイハツの軽商用BEVがついに市場投入。価格はガソリン車の約3倍の314万6000円から。

Toyota And Daihatsu’s Tiny New EV Vans Solve A Modern Problem The Old-School Way(外部)
ダイハツの新型電動軽バンはV2L・V2H機能を標準装備。LFPバッテリー採用で最大積載量350kgを維持。

物流におけるラストワンマイルのEV事情(外部)
ラストワンマイル配送は走行距離が50-200kmと短く、拠点に戻れば充電可能なためBEVとの相性が良い。

小型商用車のBEV化が進行中。配送業から始まる変革の潮流(外部)
日本郵便は約5000台のBEV軽バンを導入済み。ヤマト運輸も2030年までに2万台のEV導入を目指す。

LFP電池とは何かをわかりやすく解説、先行する中国勢に「トヨタ・日産」はどう対抗?(外部)
LFP電池はレアメタル不使用で安全性が高い。中国では車載用バッテリー出荷量の約6-7割を占める。

リン酸鉄リチウムイオンバッテリーとは?注目される理由やメリットを解説(外部)
LFPバッテリーは正極材料にリン酸鉄を使用。日本でもスズキ、トヨタ、日産が2026年以降の採用を計画。

【編集部後記】

私たちが毎日利用する宅配便やネットショッピング。その裏側を支える軽商用車が、静かに、しかし確実に電動化へと舵を切り始めています。

みなさんは、配送の電動化にどんな可能性を感じますか。環境負荷の低減だけでなく、災害時の電源としての役割や、ドライバーの労働環境改善など、この変化は私たちの暮らしに様々な影響を与えそうです。技術の進化が社会インフラをどう変えていくのか、一緒に見守っていきたいと思います。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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