CATLとChangan Automobileは2026年2月5日、内モンゴル自治区フルンボイル市ヤクシでナトリウムイオン電池搭載車を共同発表し、2026年半ばの市場投入を計画している。CATLはこれを世界初の量産型ナトリウムイオン電池搭載乗用車としている。
CATLはChanganのナトリウムイオン電池分野における戦略パートナーとして、Avatr、Deepal、Qiyuan、UNIを含むすべてのChanganブランドにNaxtraナトリウムイオン電池を供給する。
Naxtraナトリウムイオン電池は2025年4月に発売され、エネルギー密度は最大175Wh/kgで、45kWhパック搭載で最大400キロメートルの航続距離を実現する。将来的には500〜600キロメートルに達すると予測されている。-30°Cでは同等容量のLFP電池の約3倍の放電電力を発揮し、-40°Cでは容量保持率が90%以上を維持する。
CATLは2026年までに中国の140都市に3,000カ所以上のChoco-Swap電池交換ステーションを設置する計画で、そのうち600カ所以上は北部地域に配置される。
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CATL’s sodium-ion batteries begin deployment in production-ready passenger vehicles
【編集部解説】
CATLとChanganが共同で発表したナトリウムイオン電池搭載車は、電気自動車のバッテリー技術における重要な分岐点を示しています。世界初の量産型という看板は、単なるマーケティング上の称号ではなく、バッテリー業界における「ポストリチウム時代」の実質的な幕開けを意味します。
ナトリウムイオン電池の最大の特徴は、リチウムという希少資源への依存から脱却できる点にあります。ナトリウムは海水中に豊富に存在し、地政学的リスクや価格変動の影響を受けにくいとされる素材です。CATLが2016年から10年近くをかけて100億人民元(約2,160億円、1ドル=150円換算)を投資してきた背景には、このサプライチェーンの安定化という戦略的な狙いがあります。
エネルギー密度175Wh/kgという数値は、確かに現行のリチウムイオン電池と比較すると決して高くありません。しかし、この技術の真価は極低温環境での性能に表れます。-30°Cでリン酸鉄リチウム(LFP)電池の3倍の放電電力、-40°Cでも90%以上の容量保持という数値は、寒冷地での電気自動車普及における大きな障壁を取り除く可能性を秘めています。
北海道や東北地方のような寒冷地では、冬季にリチウムイオン電池の航続距離が半減することも珍しくありません。ナトリウムイオン電池は、こうした地域でのEV普及を加速させる技術として期待されます。CATLが中国北部の寒冷地に600カ所以上のバッテリー交換ステーションを設置する計画を打ち出しているのも、この強みを最大限に活用する戦略でしょう。
もう一つ見逃せないのが安全性です。CATLは、Naxtraナトリウムイオン電池について、圧壊・穿孔・切断といった過酷な条件下でも発火しないと発表しています。これが実用段階でも確認されれば、バッテリー火災への懸念を大幅に軽減し、保険コストの低減や規制当局の承認取得においても有利に働く可能性があります。
現時点では45kWhパックで400kmという航続距離は、リチウムイオン電池搭載車と比べて見劣りします。しかし、CATLはサプライチェーンの成熟とともに500〜600kmまで伸ばせると予測しており、これが実現すれば日常使用において十分な性能となります。
この技術が市場に与える影響は多岐にわたります。まず、リチウム価格の高騰に対するヘッジとして機能します。リチウム炭酸塩の価格は2021年の1トンあたり約5万元から2026年初頭には17万元まで上昇しており、ナトリウムイオン電池はコスト競争力のある代替選択肢となります。
次に、バッテリー市場における「デュアルケミストリー時代」の到来です。CATLのCTOガオ・フアン氏の言葉通り、リチウムとナトリウムが用途に応じて使い分けられる時代が始まります。高性能が求められる長距離車にはリチウム、コストや寒冷地性能を重視する車にはナトリウムという棲み分けが進むでしょう。
Changanの全ブランド(Avatr、Deepal、Qiyuan、UNI)への供給契約、さらにLi Autoとの戦略的パートナーシップは、この技術が実験段階を脱し、本格的な商業化フェーズに入ったことを示しています。
ただし、課題も残されています。エネルギー密度の向上は引き続き重要な開発目標であり、充放電サイクル寿命やコスト面での競争力も実証されていく必要があります。また、リサイクル体制の構築も今後の普及には不可欠です。
2026年が「転換点の年」とCATLが位置づけるのは、単なる希望的観測ではなく、技術的準備と市場環境が整ったという確信に基づいています。世界のEVバッテリー市場の約39%を握るCATLの動向は、業界全体のトレンドを左右する力を持っています。このナトリウムイオン電池の展開が成功すれば、他の電池メーカーも追随し、バッテリー技術の多様化が一気に加速する可能性があります。
【用語解説】
ナトリウムイオン電池
リチウムイオンの代わりにナトリウムイオンを使用する二次電池。ナトリウムは海水中に豊富に存在するため、リチウムと比べて原料調達の地政学的リスクが低く、長期的なコスト削減が期待される。極低温環境での性能に優れる特性を持つ。
EREV(レンジエクステンダー式電気自動車)
主に電気モーターで駆動するが、バッテリー残量が少なくなると小型エンジンで発電して走行距離を延長する方式の電気自動車。中国では増程式電動車とも呼ばれる。
PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)
外部電源から充電可能なバッテリーを搭載し、電気モーターとエンジンの両方で走行できるハイブリッド車。短距離は電気のみで走行し、長距離ではエンジンも併用する。
【参考リンク】
CATL(寧徳時代新能源科技)(外部)
世界最大のEV用バッテリーメーカー。2025年に世界市場シェア約39%を占める中国企業。
Changan Automobile(長安汽車)(外部)
1862年創業の中国四大自動車メーカーの一つ。2025年に中央国有企業として独立。
Avatr(阿維塔)(外部)
ChanganとCATLが共同出資する高級EVブランド。Huaweiが技術パートナー。
Deepal(深藍)(外部)
Changanの新エネルギー車専用ブランド。Huawei、CATLとの協業で開発。
Li Auto(理想汽車)(外部)
2015年設立の中国EV新興メーカー。CATLとナトリウムイオン電池採用で提携。
【参考記事】
The World’s First Sodium-Ion Battery EV Is A Winter Range Monster(外部)
Changan Nevo A06が世界初のナトリウムイオン電池搭載乗用車として登場。
Changan and CATL unveil world’s first mass-produced sodium-ion passenger EV(外部)
45kWhのNaxtra電池搭載車が内モンゴル自治区ヤクシで発表された詳細。
CATL and Changan Plan First Sodium-Ion EV Launch by 2026(外部)
エネルギー密度175Wh/kgで将来的に600kmの航続距離達成が見込まれる。
CATL unveil world’s first sodium-ion EV with about 248-mile range(外部)
CATLが2016年から約100億人民元を投資し300人以上の研究者で開発。
The world’s first sodium-ion battery EV is here and it could be a game changer(外部)
リチウム炭酸塩価格が2021年から2026年初頭にかけて3倍以上に上昇。
CATL sodium-ion battery debuts in first mass-production vehicle(外部)
-40°Cから70°Cの温度範囲で急速充電性能を維持する技術的特性。
Global EV battery market share in 2025: CATL 39.2%, BYD 16.4%(外部)
2025年のCATL市場シェアは39.2%で8年連続世界最大のメーカー。
【編集部後記】
今回CATLとChanganが発表したナトリウムイオン電池搭載車は、日本の寒冷地にお住まいの方や、冬季にEVの航続距離低下に悩まされている方にとって大きな福音となる可能性があります。今後、ナトリウムイオン電池の性能が向上すれば、リチウムイオン一辺倒だったEVバッテリー市場の新たな選択肢となるでしょう。
皆さんが次に購入するEVには、どちらのバッテリーが搭載されているでしょうか?また、みなさんはどちらのバッテリーを選びたいと思うでしょうか?技術の進化を、みなさんと共に楽しみに待ちたいと思います。






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