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90nmのLEDが誕生——浙江大学・ETH Zurichが示すナノスケール発光素子の可能性

[更新]2026年2月14日

2026年2月12日、IEEE Spectrumはナノスケールに突入したLED研究の最新動向を報じた。スウェーデンのスタートアップPolar Light Technologiesは2026年1月、500nm未満の青色LEDプロトタイプを発表した。同社はIII-V族半導体を用いた六角錐構造をボトムアップで製造する手法を採用し、300nmの六角錐を実現している。

2026年後半に商業生産を開始する予定である。スイス・ETH Zurichのチージェン・シーらは電子ビームリソグラフィーを用いて100nmの緑色OLEDアレイを作製し、1インチあたり10万ピクセルを達成した。この成果は2025年10月にNature Photonics誌に発表された。中国・浙江大学のダーウェイ・ディらは90nmのペロブスカイトLEDを製造し、2025年3月にNature誌に発表した。これは報告された中で最小のLEDとされる。

ただし効率面では課題が残り、ペロブスカイトナノLEDの外部量子効率は5〜10%、ナノOLEDは最大13%にとどまる。一般的なミリメートルサイズのIII-V族LEDの50〜70%と比べ大きな差がある。応用先としてはVRディスプレイやオンチップフォトニクス、メタサーフェスなどが想定されている。

From: LEDs Enter the Nanoscale

【編集部解説】

LEDの微細化は、ディスプレイ業界において長年追求されてきたテーマです。現在主流のマイクロLEDは、ピクセルサイズが数マイクロメートル規模ですが、今回報じられた研究はその壁をさらに突破し、ナノメートル領域へ踏み込んだという点で注目に値します。

まず、この記事で取り上げられた3つの研究アプローチについて、それぞれの位置づけを整理します。Polar Light Technologiesは、従来のエッチングを用いないボトムアップの六角錐構造を採用しており、2026年1月のSPIE Photonics West 2026で発表されました。同社は500nm以下のナノLEDを、エッチングフリーの特許技術で実現したと主張しており、モノリシックRGB(単一材料からの赤・緑・青発光)への道筋を示しています。同社は500万ユーロ超の資金調達も発表しています。

ETH Zurichのチームが用いたのは、元の記事では「電子ビームリソグラフィー」と説明されていますが、Nature Photonics誌に掲載された論文によれば、正確には「ナノステンシル・エッチング・アンド・リソグラフィー」と呼ばれるレジストフリーの手法です。これは従来のフォトリソグラフィーとは異なり、有機材料の劣化を抑えつつスケーラブルな製造を可能にする点が革新的といえます(この研究の詳細は、innovaTopiaの過去記事でも取り上げています)。

浙江大学のペロブスカイトLEDについては、元記事が外部量子効率(EQE)を「5〜10%」と報じていますが、Nature誌に掲載された原論文を確認すると、緑色・近赤外のペロブスカイトLEDは650μmから3.5μmまでの広いピクセルサイズ範囲で約20%のEQEを維持しています。効率低下が顕著になるのは約180nm以下の領域で、90nmピクセルでは確かにEQEが低下します。つまり、ペロブスカイトLEDの真の強みは、III-V族マイクロLEDが10μm以下で急激に効率低下するのに対し、はるかに小さなサイズまで高い効率を保持できる点にあります。この側面は元記事では十分に強調されていませんでした。

また、浙江大学の90nmペロブスカイトLEDが達成したピクセル密度は127,000PPIであり、これは全LEDアレイクラスにおける最高記録です。同研究はケンブリッジ大学との共同研究であることも補足しておきます。

応用面で特に注目すべきは、ディスプレイ以外の領域です。TSMCとAvicenaの提携は2025年に発表されており、マイクロLEDを用いた光インターコネクトによって、AIデータセンター内の銅配線を光接続に置き換えることを目指しています。Avicenaの「LightBundle」技術は、数百の青色マイクロLEDをフォトディテクタアレイに接続し、1レーンあたり10Gb/sで10メートルの距離を伝送できるとされています。レーザーを使わずにLEDで光インターコネクトを実現するというアプローチは、コスト削減とスケーラビリティの両面で有利であり、ナノLEDがさらに微細化すれば、この分野にも波及する可能性があります。

一方、実用化への課題も見過ごせません。効率の問題に加え、ペロブスカイトLEDには動作寿命という根本的な課題があります。浙江大学の緑色ピクセルでも最大寿命は約40時間と報告されており、商用ディスプレイに求められる数万時間の寿命とは大きな開きがあります。また、ペロブスカイト材料には鉛が含まれることが多く、環境規制(EUのRoHS指令など)との整合性も将来的な課題となり得ます。

メタサーフェスやフェーズドアレイ光学への応用という方向性は、ディスプレイの枠を超えた「光を制御する新しい部品」としてのナノLEDの可能性を示唆しています。ETH Zurichのシー教授が指摘するように、ナノLEDが自らの発光波長より小さいという事実は、従来不可能だった光学素子の創出を意味します。ホログラフィック3Dディスプレイや偏光制御、超解像イメージングなど、応用の幅は今後の効率改善と製造技術の成熟にかかっています。

ナノLED研究は、今はまだ基礎研究段階にあります。しかし、マイクロLEDですら数年前には実験室レベルだったことを思い出せば、この領域の進展速度を過小評価すべきではないでしょう。

【用語解説】

III-V族半導体(さんごぞくはんどうたい)
周期表のIII族(ガリウムなど)とV族(窒素など)の元素を組み合わせた化合物半導体の総称。LED、レーザー、高周波デバイスなどに広く用いられる。窒化ガリウム(GaN)や窒化インジウムガリウム(InGaN)がその代表例である。

OLED(有機発光ダイオード)
有機化合物を発光層に用いたLEDの一種。自発光型で薄型化・フレキシブル化が容易であり、現在のスマートフォンやテレビのプレミアムディスプレイに広く採用されている。

ペロブスカイト
特定の結晶構造(ABX₃型)を持つ材料群の総称。高効率太陽電池の素材として注目を集めてきたが、近年はLEDの発光材料としても研究が進んでいる。低コストでの溶液プロセス製造が可能な点が特徴である。

外部量子効率(EQE)
LEDに注入された電子のうち、実際に外部へ光子として取り出される割合を示す指標。数値が高いほど、電気エネルギーから光への変換効率が優れていることを意味する。

ナノステンシル・リソグラフィー
自立した薄膜(ステンシル)のナノ開口部を通じて材料を蒸着・エッチングする微細加工技術。ETH Zurichのチームが開発した手法はレジストフリーであり、有機材料の劣化を抑えつつスケーラブルな製造を可能にする。

オンチップフォトニクス
半導体チップ上に光学部品を集積し、電気信号ではなく光信号でデータを伝送する技術。AIデータセンターなどにおける高帯域幅・低消費電力の通信手段として期待されている。

メタサーフェス
サブ波長スケールの微細構造を平面上に配列し、光の位相・振幅・偏光などを制御する人工光学面。レンズやビーム整形、ホログラムなど多様な光学機能を極薄の構造で実現できる。

回折限界
光の波動性に起因する解像度の物理的な限界。可視光の場合、約200〜400nmが限界となり、これより小さな構造は従来の光学系では個別に分解できない。

モノリシックRGB
赤(R)・緑(G)・青(B)の3色を、単一の材料系・同一基板上で一体的に形成する方式。従来はRGB各色を別々のチップで作り貼り合わせる必要があったが、モノリシック化により製造工程の簡素化とコスト削減が見込まれる。

RoHS指令
欧州連合が定める「有害物質の使用制限」に関する規制。鉛、水銀、カドミウムなどの特定有害物質の電子機器への使用を制限しており、鉛を含むペロブスカイト材料の商用化に影響を及ぼす可能性がある。

【参考リンク】

Polar Light Technologies 公式サイト(外部)
スウェーデン発のマイクロLEDスタートアップ。六角錐型ボトムアップ製造技術でナノLEDを開発している。

ETH Zurich — Nanomaterial Engineering(Shih Lab)(外部)
チージェン・シー教授の研究グループ。ナノスケールOLEDとメタサーフェスの研究を推進している。

浙江大学 — ナノペロブスカイトLED研究発表ページ(外部)
90nmペロブスカイトLEDの研究詳細を掲載。127,000PPI達成の経緯やケンブリッジ大学との共同研究について解説。

Avicena 公式サイト(外部)
マイクロLEDベースの光インターコネクト開発企業。LightBundle技術でAIデータセンター向け通信を実現する。

Nature Photonics — ETH ZurichナノOLED論文(外部)
100nmピクセル・100,000PPI・EQE 13.1%を達成したナノOLED製造技術の査読済み論文。2025年10月公開。

Nature — 浙江大学ペロブスカイトナノLED論文(外部)
90nmペロブスカイトLEDの作製と127,000PPIの記録的ピクセル密度を報告した査読済み論文。2025年3月公開。

【参考記事】

Polar Light Technologies achieves nano-scale LED; paves way to next-generation MicroLED / NanoLED devices(外部)
SPIE Photonics West 2026での発表内容。500nm以下InGaNナノLED、500万ユーロ超の資金調達を報告。

World’s smallest LEDs from a new semiconductor(外部)
浙江大学公式。90nmペロブスカイトLEDで127,000PPIを達成。650μm〜3.5μmでEQE約20%を維持。

Shrinking light-emitting diodes with perovskites(外部)
Nature Electronics掲載。緑色ピクセルのEQE10%以上、ピーク輝度300,000 cd/m²、最大寿命約40時間を報告。

Manufacturing the world’s tiniest light-emitting diodes(外部)
ETH Zurich公式。100nmピクセルは従来の約50分の1、ピクセル密度は約2,500倍に向上したことを解説。

TSMC’s Bold Optical Tech Gamble(外部)
TSMCとAvicenaの光インターコネクト提携。300ピクセルで3Tb/sの伝送、サブpJ/bitの効率を達成。

Scalable nanopatterning of organic light-emitting diodes beyond the diffraction limit(外部)
ETH Zurichの査読済み原論文。レジストフリー製造で100,000PPI、周期250nm、EQE 13.1%を達成。

【編集部後記】

LEDがウイルスほどの大きさにまで縮小し、自らが放つ光の波長よりも小さくなる——この事実が意味するのは、単なるディスプレイの進化ではなく、光そのものの扱い方が変わるということかもしれません。

ホログラフィック3Dディスプレイやオンチップ光通信など、応用先の広がりにはワクワクさせられます。みなさんは、ナノLEDがまず最初に変えるのは、どの分野だと思いますか?

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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