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DARPA「CoasterChase」プログラム:摂取可能デバイスで兵士のストレス反応を調節する革新的神経調節技術

DARPA「CoasterChase」プログラム:摂取可能デバイスで兵士のストレス反応を調節する革新的神経調節技術 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-12 07:33 by admin

国防高等研究計画局(DARPA)は2025年6月11日、兵士のストレス反応を調節する摂取可能なデバイスの研究プログラム「CoasterChase」を発表した。

同プログラムは生物技術オフィス(BTO)が運営し、プログラムマネージャーはペドロ・イラゾキ博士が担当する。

デバイスは腸管神経系(ENS)のニューロンを電気的、熱的、機械的刺激で調節し、小腸のニューロペプチドY産生ニューロンに作用する。

目標はコルチゾールとニューロペプチドYの濃度変化を測定し、意思決定改善とPTSD軽減を図ることである。

デバイスは消化器系に最大5日間留まる設計で、2年間の研究期間中は人間の被験者は関与しない。7月7日にアーリントンの会議センターで提案者の日が開催される。

From: 文献リンクDARPA is exploring a swallowable device that could tweak soldiers’ stress responses

【編集部解説】

DARPAのCoasterChaseプログラムは、従来の軍事技術開発とは一線を画す革新的なアプローチを採用しています。このプロジェクトの核心は、腸管神経系(ENS)を「第二の脳」として活用し、兵士のメンタルヘルスを根本的に改善しようとする点にあります。

腸管神経系は約5億個のニューロンを含む複雑なネットワークで、中枢神経系から独立して機能する能力を持ちます。近年の研究では、腸と脳の双方向コミュニケーション(腸脳軸)が精神状態に大きな影響を与えることが明らかになっており、DARPAはこの科学的知見を軍事応用に転換しようとしているのです。

技術的な観点から見ると、摂取可能なデバイスの開発は極めて困難な課題です。消化器系の過酷な環境で最大5日間機能し続け、かつ電気的・熱的・機械的刺激を精密に制御する必要があります。従来の医療用カプセル内視鏡とは比較にならない複雑さを要求されるでしょう。

このプロジェクトが成功すれば、PTSD予防という軍事目的を超えて、民間医療分野への波及効果も期待できます。うつ病や不安障害の治療において、薬物療法に代わる非侵襲的な選択肢となる可能性があります。

一方で、倫理的な懸念も無視できません。兵士の神経系を人工的に操作することの是非、長期的な健康影響の不明確さ、そして技術の軍民転用による監視社会への発展リスクなど、慎重な検討が必要な課題が山積しています。

現在のプログラムは基礎研究段階であり、人体実験は行われません。しかし、この技術が実用化されれば、戦場における兵士の能力向上だけでなく、人間の認知機能そのものを拡張する新たな時代の幕開けとなるかもしれません。

【用語解説】

腸管神経系(ENS)
消化器官に存在する約5億個のニューロンからなる神経ネットワーク。中枢神経系から独立して機能する能力を持つため「第二の脳」と呼ばれる。消化、腸の運動、免疫反応などを制御している。

神経調節(ニューロモジュレーション)
電気刺激や化学物質を用いて神経系の活動を変化させ、脳への信号伝達を調整する技術。てんかん、うつ病、慢性疼痛などの治療に応用されている。

ニューロペプチドY
神経系で産生されるペプチドホルモンの一種。ストレス耐性やPTSD発症リスクと密接な関係があり、高レベルの人ほどストレスに対する回復力が高いとされる。

コルチゾール
副腎皮質から分泌されるストレスホルモン。適度な量は意思決定や反応速度の向上に寄与するが、過剰分泌は健康に悪影響を及ぼす。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)
生命の危険を感じるような強烈な精神的衝撃を受けた後に発症する精神的な後遺症。フラッシュバック、悪夢、回避行動などの症状が特徴的である。

【参考リンク】

DARPA公式サイト(外部)
米国防総省の研究開発機関DARPAの公式ウェブサイト。最新の研究プログラムや技術開発の情報を提供

【参考記事】

DARPA ‘CoasterChase’ Looks to Mitigate Stress with Ingestible Neurotech(外部)
CoasterChaseプログラムの詳細な技術解説とプログラムマネージャーの経歴について報告

DARPA-Funded Research Develops Novel Technology to Combat PTSD(外部)
DARPA資金による迷走神経刺激を用いたPTSD治療研究の画期的な成果を詳述

Promising PTSD research gets boost with Department of Defense grant(外部)フロリダ州立大学が300万ドルの助成金でVRと磁気刺激によるPTSD治療研究を開始

【編集部後記】

今回のDARPAの研究は、私たちの「腸」が持つ可能性を改めて考えさせてくれます。普段意識することの少ない腸管神経系が、実は私たちの精神状態に深く関わっているという事実は驚きではないでしょうか。

皆さんは「緊張でお腹が痛くなる」経験をしたことがありますか?それこそが腸脳軸の働きの一例です。この技術が実用化されれば、軍事用途を超えて、私たちの日常的なストレス管理にも応用される可能性があります。皆さんなら、このような技術をどのような場面で活用したいと思いますか?

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TaTsu
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