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思考で車椅子を動かす時代へ 中国BCIが2回目の臨床試験成功、患者の再就労支援も視野

[更新]2025年12月19日

思考で車椅子を動かす時代へ 中国BCIが2回目の臨床試験成功、患者の再就労支援も視野 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年12月17日、中国科学院のCEBSITが2回目の侵襲的BCI臨床試験の成功を発表しました。わずか半年前の1回目の試験では「ゲームを操作できる」レベルでしたが、今回は実世界でのスマート車椅子とロボット犬の制御という、実生活での自律性回復へと大きく進化しています。


中国科学院の脳科学・知能技術卓越センター(CEBSIT)は、復旦大学の華山医院と共同で、独自に開発した侵襲的ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)デバイスの2回目のヒト臨床試験を成功させた。2022年に脊髄損傷を負い高位対麻痺となった患者に、6月にBCIシステムを移植した。

数週間のトレーニング後、患者は脳電気信号を使用してスマート車椅子とロボット犬を制御できるようになった。チームは高圧縮率のデータ圧縮技術を開発し、脳制御性能を15〜20パーセント向上させた。カスタム通信プロトコルにより、信号取得からコマンド実行までの遅延を100ミリ秒未満に削減した。

中国は米国(Neuralink)に次いで侵襲的BCI技術の臨床試験段階に入った2番目の国となった。研究チームを率いるZhao Zhengtuoは、短期的には3年以内に運動機能と言語機能の再構築の大規模応用、中期的には5年以内に知覚回復のブレークスルーを見込んでいる。

From: 文献リンクPatient successfully controls smart devices with mind in second human trial of China’s BCI

【編集部解説】

中国のBCI技術開発が、Neuralinkに続く形で着実に臨床応用の段階に到達しています。今回の成果で特筆すべきは、単なる技術実証に留まらず、患者の実生活における自律性の回復まで視野に入れている点です。

技術面での進展は目覚ましいものがあります。信号取得からコマンド実行までの遅延を100ミリ秒未満に抑えたことで、人間の神経伝導遅延である約200ミリ秒を下回る応答速度を実現しました。これにより、患者は「ゲームキャラクターを操作するような」直感的な操作感覚を得られるようになっています。

また、オンライン再較正技術の導入により、使用中に操作を中断することなくシステムの精度を向上させられる仕組みは、長期的な使用において重要な意味を持ちます。従来のBCIシステムでは定期的な再調整が必要でしたが、この技術によって日常使用のハードルが大きく下がりました。

注目すべきは、研究チームが患者の「再就労」という社会的ニーズに焦点を当てている点です。自動販売機のAI認識精度検証という仕事は、一見単純に見えますが、患者が社会的価値の貢献者として自己認識を取り戻すための重要なステップとなっています。

研究チームを率いるZhao Zhengtuoが示したロードマップによれば、3年以内に運動・言語機能の再構築、5年以内に人工視覚・聴覚などの知覚回復、10年後には低侵襲システムによる日常的な消費者用途まで見据えています。この段階的な発展計画は、医療分野から徐々に一般消費者市場への展開を想定したものと言えるでしょう。

ただし、侵襲的BCIには脳への直接的な介入というリスクが伴います。長期的な安全性、感染症のリスク、倫理的な問題など、克服すべき課題は依然として多く残されています。

【用語解説】

BCI(ブレイン・コンピューター・インターフェース)
脳と外部デバイスを直接接続する技術。脳の電気信号を読み取り、コンピューターやロボットなどを制御する。侵襲的BCIは脳内に電極を埋め込む方式で、非侵襲的BCIより高精度な信号取得が可能だが、手術が必要となる。

高位対麻痺
脊髄の上部(頸髄または胸髄上部)の損傷により、体幹と両下肢に麻痺が生じる状態。損傷部位が高いほど、より広範囲の身体機能が失われる。

スパイク帯域パワー/スパイク間間隔/スパイクカウント
神経細胞の活動を計測する指標。スパイクとは神経細胞が発火する際の電気信号のこと。これらの指標を組み合わせることで、ノイズの多い環境でも有用な信号を抽出できる。

オンライン再較正
システムの使用中にリアルタイムで精度を調整する技術。従来は定期的に使用を中断して再調整する必要があったが、この技術により連続使用が可能になる。

CEBSIT(Center for Excellence in Brain Science and Intelligence Technology)
中国科学院の脳科学・知能技術卓越センター。上海に拠点を置き、脳科学と人工知能の融合研究を推進する中国の主要研究機関。

【参考リンク】

Neuralink(外部)
イーロン・マスク創設の米国BCI開発企業。2024年に初のヒト臨床試験を実施し商業化を目指す。

復旦大学華山医院(外部)
上海の主要総合病院。1907年設立で神経外科分野の高度な医療と研究で知られる。

中国科学院(外部)
中国最高峰の学術研究機関。自然科学、技術科学の幅広い分野で国家レベルの発展を牽引。

【参考記事】

China achieves breakthrough in brain-computer interface technology(外部)
上海メディア報道。脳制御性能15〜20パーセント向上や患者の再就労支援詳細を掲載。

【編集部後記】

BCI技術が実用化に向けて着実に進んでいる今、私たちは「身体の自由を失った人々が再び自律性を取り戻す」という未来の入り口に立っています。今回の臨床試験で印象的だったのは、技術的な成功だけでなく、患者の「再就労」という社会的ニーズに応えようとする姿勢です。

この技術は単なる医療機器を超えて、人間の尊厳や社会参加のあり方まで再定義する可能性を秘めています。みなさんは、脳と機械が直接つながる未来に、どのような期待や懸念を抱きますか。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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