フランスのナオックス・テクノロジーズは2026年1月6日、耳装着型脳波計デバイス「ナオックス・リンク」について、FDA認可を取得した初の医療技術企業となった。従来の脳波測定では20個以上の頭皮電極を配線する必要があり、短時間の記録に限定され臨床環境でしか実施できなかったが、ナオックス・リンクは耳に装着する小型センサーを使用し、移動しながら長時間の脳活動モニタリングを可能にする。
デバイスはクリニック、自宅、その他の医療環境で使用でき、神経学およびてんかんケア、睡眠モニタリング、臨床研究に用いられる。6歳以上の小児および成人が対象で、すでに米国のいくつかの神経学センターや睡眠センターで使用されており、今年後半にはより広範な利用が計画されている。同社はまた、医療診断用ではなくウェルネス製品として消費者向けプラットフォーム「ナオックス・ウェーブ」も開発中だが、まだFDA認可は取得していない。
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Naox Technologies nabs 1st FDA clearance for in-ear EEG brain monitoring device
【編集部解説】
ナオックス・テクノロジーズが取得したのは、正確にはFDA 510(k)クリアランスと呼ばれる医療機器承認です。これは既存の承認済み機器と「実質的に同等」であることを示すもので、新規性の高い革新的医療機器に与えられるPMA(Pre-Market Approval)とは異なります。とはいえ、耳装着型という形態でのEEG機器承認は世界初であり、脳波測定の利便性を大きく前進させる出来事といえます。
従来の脳波測定が抱えていた課題は、単に不快さだけではありません。病院での短時間測定では、日常生活で起こる脳の変化を捉えきれないという本質的な問題がありました。てんかん発作は予測不可能なタイミングで起こりますし、睡眠障害は一晩では診断できないこともあります。ナオックス・リンクは最大10時間の連続測定が可能で、患者の自宅で使用できるため、より自然な状態での脳活動を記録できます。
技術的な観点では、このデバイスは単一チャンネルのEEGを取得します。従来の医療用EEGが複数チャンネルで詳細な脳地図を作成するのに対し、ナオックス・リンクは簡略化されたアプローチです。しかし査読済み論文によると、睡眠段階や神経学的信号の特徴付けにおいて、従来の低時間分解能EEG誘導との強い相関が実証されています。
注目すべきは、医療用のナオックス・リンクと並行して開発中の消費者向け製品「ナオックス・ウェーブ」の存在です。同社は自社ブランド製品だけでなく、この技術をOEMパートナーにライセンス供与する戦略を描いています。つまり将来的には、大手オーディオメーカーの製品に脳波センシング機能が標準搭載される可能性があるということです。
この動きは、10年前に心拍センサーがウェアラブル市場を変革したように、脳健康モニタリングを日常化させる契機となるかもしれません。集中力、リラックス状態、睡眠の質といった指標を継続的に追跡することで、認知機能の低下を早期に検出したり、生活習慣と脳健康の関係を可視化したりできる未来が見えてきます。
ただし、消費者向け脳波測定には慎重な議論も必要です。医学的診断を目的としない製品であっても、ユーザーが得たデータをどう解釈するか、誤った自己診断につながらないか、プライバシーの観点から脳活動データがどう管理されるべきか、といった倫理的・規制的な課題が残されています。FDA未承認のナオックス・ウェーブが2026年末に市場投入される際、これらの議論は一層活発になるでしょう。
医療現場では、この技術が神経疾患の早期発見や継続的モニタリングを可能にし、病院の負担軽減にもつながると期待されています。ブレイン・コンピューター・インターフェース研究やアルツハイマー病の早期研究への応用も始まっており、神経科学研究の加速にも寄与する可能性があります。
【用語解説】
EEG(脳波検査)
脳の電気的活動を測定する検査方法。頭皮に電極を装着し、神経細胞が発する微弱な電気信号を記録する。てんかん、睡眠障害、認知症などの診断に用いられる。
FDA 510(k)クリアランス
米国食品医薬品局が定める医療機器承認制度の一つ。新しい医療機器が既存の承認済み機器と「実質的に同等」であることを証明することで取得できる。PMA(Pre-Market Approval)と比べて承認プロセスが簡略化されている。
てんかん
脳内の神経細胞が過剰に興奮し、発作を繰り返す慢性的な神経疾患。全世界で約5000万人が罹患しているとされる。発作のタイミングは予測困難で、長時間の脳波モニタリングが診断と治療に重要となる。
OEM(Original Equipment Manufacturer)
他社ブランド製品の製造を請け負う企業、またはその製造形態。この文脈では、ナオックスが自社技術を他のオーディオメーカーにライセンス供与し、各社のブランド製品に組み込む戦略を指す。
ブレイン・コンピューター・インターフェース
脳の活動を直接コンピューターに伝達し、外部機器を制御する技術。脳波や脳内の電気信号を読み取り、思考だけで機器を操作することを目指す。医療分野では運動機能障害のある患者の支援技術として研究が進んでいる。
【参考リンク】
Naox Technologies(ナオックス・テクノロジーズ)(外部)
フランス・パリを拠点とする神経技術企業。耳装着型EEG技術を開発し、医療用のナオックス・リンクと消費者向けのナオックス・ウェーブを展開。
U.S. Food and Drug Administration(FDA)(外部)
アメリカ食品医薬品局。食品、医薬品、医療機器などの安全性と有効性を評価・承認する米国の政府機関。
【参考記事】
Naox Technologies wins FDA clearance for earbud-based EEG(外部)
ナオックス・テクノロジーズがFDA 510(k)クリアランスを取得。消費者向けの「ナオックス・ウェーブ」は2026年末にリリース予定。
FDA Clears Naox Technologies’ In-Ear EEG System(外部)
ナオックス・リンク(NX01)がFDA 510(k)クリアランスを取得し、自宅および医療環境での使用が可能な初の耳装着型EEGデバイスとなった。
NAOX LINK and NAOX WAVE Signal the Future of Brain Health(外部)
CES 2026で発表されたナオックス・リンクは、HIPAA認証されたクラウドプラットフォームを通じて医療専門家にデータを転送。
BrainSpace gets 510(k) nod for brain fluid management system(外部)
ナオックス・リンクは神経学およびてんかんケア、睡眠医学、臨床研究での使用を想定し、自宅および医療環境での長時間測定を可能にする。
【編集部後記】
心拍数や睡眠の質を毎日チェックするように、脳の状態も気軽にモニタリングできる時代が近づいています。ただ、自分の脳活動データを日常的に見ることができたら、みなさんはどう感じるでしょうか。
集中力の波や疲労の蓄積が数値で見えることは、生活の質を高めるヒントになるかもしれません。一方で、脳という極めて個人的な領域のデータをどう扱うべきか、考えるべきことも多そうです。医療と日常の境界が曖昧になっていくこの分野の動きを、引き続き注視していきます。みなさんはこの技術の到来を、どのように受け止めますか。
































