Last Updated on 2025-05-23 11:45 by admin
今年4月に東京ビックサイトにて開催された「量子コンピュータEXPO」にてプラレールを使った鉄道の運路最適化のデモプログラムの展示がありました。量子コンピュータ業界全体が黎明期のなか、具体的な「モノ」として実装されている展示はまだ少なく、多くの来場者が足を止めていました。
驚くことに、このデモプログラムの実装をしたのは15歳の少年でした。今回はその少年「持田尚亮」さんのインタビュー記事になります。
【取材者プロフィール】
野村貴之(のむらたかゆき):アナリシス株式会社 データサイエンスチーム所属
荒木啓介(あらきけいすけ):innovaTopia webmaster
【取材協力者】
持田尚亮(もちだなおあき)

インタビューに協力してくださった持田尚亮さん。
持田さんってどんな人?
野村「アナリシスの野村です。本日はよろしくお願いいたします。量子EXPOの時はありがとうございます」
荒木「innovaTopiaの荒木です。本日はよろしくお願いいたします。お会いできるのを楽しみにしておりました」
持田「持田尚亮です。本日はよろしくお願いいたします」
野村「量子EXPOではありがとうございました。まずは持田さんのご年齢と今何をされている方なのかを教えてください」
持田「今は15歳です。インターナショナルスクールの9年生になります」
野村「おお!、、、15歳!これはすごいですね。インターナショナルスクールということは海外に住まわれていたんですか?」
持田「そうですね。タイに住んでいて、小学生の頃に日本に戻ってきました。そのおかげで英語は得意なので、日本量子コンピューティング協会(https://www.jqca.org)にて、アニーリング教材の翻訳を担当しています」
量子EXPOのデモプログラム
野村「早速なのですが、万博に展示されていたデモプログラムについて教えてください。結構量子EXPOってパネル展示がほとんどの中、モノを作っている人は少なくて、いろんな人が見ていましたし、みんな気になっているのはそこだと思いますので」
持田「基本的に実装については二つの大きなパートに分かれています。一つ目はリアルタイム認識で、電車の上のQRを読み取って電車の位置を取得します。動画認識についてはOPEN CVにて行います。二つ目が最適化です。そこは量子アニーリングですね。疑似量子アニーリングを回して500フレーム分の最適化計算を行いました」
野村「なるほどです。ありがとうございます。」
持田「これが実際の動画です。」
野村「見ました、大きなパートに分かれているといっていましたけど、サーボモーターをArduinoで制御したりハードウェアの実装もされているんですね。」
持田「はい。ただ、ハードウェアは、環境によって挙動が左右されてしまいます。今回の量子EXPOは照明がすごく強くてカメラ周りを調整するのに苦労しました」
荒木「わかります。照明で疲れちゃうぐらい、強いですよねあそこ」
野村「実際にこういう展示をしてみて嬉しかった点や、大変だった点とかはありましたか?」
持田「そもそも、量子EXPOはわかりにくく、難しいと敬遠されてたようです。AI EXPOに比べてそもそも来てくれる人が少ない、というのはありましたね。でも、来てくれる人がいろんなことをアイデアを言ってくれて、それが嬉しかったです。僕は最適化計算としてこのデモプログラムを作りましたけど、例えば似たような例として船の航路や待ち時間の最適化の案をいただけるのはありがたい機会でした」
野村「確かに、あれだけたくさんの人が集まったらいろんな業種の人がいろんな助言をくれそうですよね」
持田さんってどうしてこんなにすごいの?
野村「さっき15歳って聞いて、本当に驚いたというか。僕としてはどうしたら15歳でこういう風になれるのかが、気になって仕方がないです。僕が15歳の時なんてネットでずっとアニメみたり一日中ゲームしているだけで何も考えてなかったですよ。いったい何を考えているんだろうなあって」
持田「タイにいた時の経験が大きかったと思います。タイって日本よりもオープンで、何でもトライして失敗しても頑張ったねって感じのみんなが応援する雰囲気があって、そういう意味でチャレンジすることに自信が持てたのが良かったと思います。」
野村「なるほど、確かに結果ではなくトライしたことを評価してくれるのはいい雰囲気ですね」
持田「あと、偶然みた論文で『2時間以上ゲームをするとその日にやったことをほとんど忘れてしまう』と書いてあってんです。実はそのころ一日5時間ぐらいゲームをやってたんです。それを知った時に、俺かなりヤバいじゃん。と焦ったことはありますね(笑)」
野村「確かに、これは危機感が湧きますね。でもたぶん僕なら『楽しいからいいじゃん…』と言いながらゲームをし続けちゃいますね」
持田「勉強しよう決心しても、習慣となるまでが大変でした。そこは、兄が大変参考になりました。兄は、勉強を習慣化していて感情に左右されず淡々とこなしていくんです。それを見ていて、習慣化してやれている人が一番うまくやっていけるんだなと気が付いたんです。なので、自分なりのやり方で勉強が習慣になるよう手探りで実行しました。」
野村「0から1の、その可能性の扉を叩き続けている部分って一番しんどいですよね。やはりお兄さんの影響は大きかったんですか?」
持田「兄は今ジョージアテックでコンピュータエンジニアリングについて学んでいます。そんな兄をずっと見てきた部分もありますし、また父親が僕と兄を用賀にある量子コンピュータの塾があってそこに入れてくれたのが大きな転機でした」
野村「そんなのあるんですか??」
持田「そうですね。でも結局対面で授業を受けているのは僕と兄二人だけだったんです。Blueqat(https://blueqat.com)の湊雄一郎先生がやられていたんですけど、そこで最先端の量子コンピュータを学ばせてもらい、さらに日本量子コンピューティング協会とも関係を持てたことで世界が広がりました」
持田「パズル感覚でQUBO式を立てたり、一つの問題に対して複数アプローチから問題を分解して考えるというのも楽しかったです。最適化という発想そのものに魅力を感じました」
野村「対面だからこそいろんな人とつながって濃密な時間を過ごして、いろんな方々から薫陶を受けられたんですね。持田さんの人柄あってこそいろんな人が協力してくれたのもあります」
勉強の仕方とAI活用
持田「やっぱりChat-GPTの存在が大きいです。エラーを出たりしてもAIに聞けばすぐ問題の解決方法を提案してくれるので、家庭教師のように使っていました」
野村「なかった時代は、公式のドキュメントを読んだり技術書を見ながらエラーを検証するのも大変でしたし、これで1日使っちゃうとかもありましたけど、いまはそういうことはないんですね」
持田「あとはYouTubeですね。海外動画で最新の知識しています」
野村「昔のプログラマみたいに技術書を買ったりしないのですか?」
持田「興味のある本は買ってますけど、あんまりないです。結局難しいことを言っているのでよくわからないので、自分のレベルでわかるようにAIに質問を繰り返しています。AIのおかげで興味さえあれば子どもでも深い知識を得ることができる気がします」
野村「すごい時代ですね。自分のレベルに合う本を探すのに一苦労って時代は終わったんですかね」
持田「ただ、、、最近どんどん量子コンピューターの学習が進み、マニアックな質問が増えてきたためか、Chat-GPTでもよく間違えるんです。その時からあくまでAIは確認に使うのが正しいかなって思ってきました」
野村「あんまり、専門性が高すぎるとたまに専門用語を誤訳したりとかいまだにされちゃいますよね」
持田「そもそも、新しいパッケージやQUBO式をAIは上手に書けないので、ノートをとってちゃんと勉強する必要を最近はすごく感じています。そこはしばらくアナログの方がいいのかなと。」
野村「めっちゃ分かります!結局ノートに書いて丁寧に学ばないと血肉にならない感覚がありますよね」
持田「今の時代っていろんなものが効率化、省略化されていますけど、それでもしっかりやることが大事なものはまだたくさんあるなと感じています。以前、父親がノートの作り方を教えてくれたことがあって、兄のノートをマネしながらやり始めました。勉強は教えてもらえても勉強の仕方を教えてもらうことは初めてだったので、とても印象に残っていて、今でもそのやり方が活きています」
量子コンピュータで変わる未来
荒木「量子で何ができて、何が変えられると感じていますか?」
持田「古典コンピュータには最適化に限界があります。量子コンピュータだと、量子という自然の摂理を使ってうまく最適化してくれるので、例えば電車のダイヤだと地域ごとに最適化しているものを全国の電車のダイヤを最適化したり、町全体を最適化したりできると思います」
野村「ダイヤの乱れのせいで会社に遅刻しそうなときとかありますし、そういう時電車が長い時間とまって、ってこともなくなりそうですね。もっとマクロに最適化できるってすごいですね」
持田「最適化によって、時間が生まれることが一番うれしいです。お金は増やせるけど時間はお金では買えない。その時間を生み出せるのは素敵だなって思います」
走ることと、量子の“構造”
持田「僕、走るのが好きなんですが、それって人間の進化の中で生まれた“生きるための構造”なんです。獲物を追ったり、地形を覚えたり、効率的に動くことが必要でした。量子の世界にも、それと似た“構造的な美しさ”を感じます。量子は、目に見えないけれど、現実を成り立たせている根本の仕組みです。走ることも、量子のふるまいも、どちらも“最適な構造”だと思うんです
僕は、そうした構造に目を向けることで、社会や技術の新しい姿を描いていきたいです」
野村「見えにくいけれど、確かに世界を動かしているんですね」
持田「はい。量子コンピュータはまだ多くの人にとって実感がわかない技術ですが、僕は最初に感じたその“感動”を、社会に実装したいと思っています」
今後の展望
野村「将来的には持田さんはどんなことに取り組みたいのですか?」
持田「海外の大学で本物の量子コンピュータに触れ、実装者として量子で世界を変えていきたいです。研究も大切ですが、僕は“使って変える”側に立ちたいと思っています」
追記
持田さんは日本量子コンピューティング協会との関係も深く、量子コンピュータの資格認定試験である「量子エンジニア」を受験しており、合格しております。5/23現在受験受付中ですので是非皆様も、新しい量子の世界に触れてみてください。
https://connpass.com/user/jqca2023/open:受験内容に興味のある方はこちらから。