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12月28日【今日は何の日?】ノイマン生誕|AIが壊す「天才の呪縛」と脳型チップの夜明け

12月28日【今日は何の日?】ノイマン生誕|AIが壊す「天才の呪縛」と脳型チップの夜明け - innovaTopia - (イノベトピア)

今、あなたがこの記事を読んでいるスマートフォン。デスクにあるPC。あるいは、世界中のデータセンターで唸りを上げるサーバー群。
これら全ての「頭脳」の形を決定づけた男が、1903年12月28日、ハンガリーのブダペストで産声を上げました。

彼の名は、ジョン・フォン・ノイマン

「悪魔の頭脳」と称されたこの希代の天才が提唱した「ノイマン型アーキテクチャ」は、70年以上にわたりコンピュータの絶対的なスタンダードとして君臨し続けています。CPUが演算し、メモリが記憶する──このシンプルで美しい分業体制こそが、デジタル社会の礎を築いたことは疑いようがありません。

しかし今、生成AIという「新たな知性」の爆発的進化を前に、この偉大な発明が、皮肉にも人類最大の「足枷(ボトルネック)」へと変わりつつあることをご存じでしょうか。

膨大なデータを飲み込むAIにとって、演算と記憶を行き来する従来の構造は、あまりにも非効率で、あまりにもエネルギーを浪費しすぎているのです。
我々は今、70年間信じ続けてきた「コンピュータの定義」を書き換えるべき分岐点に立っています。

しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。
あのような天才が、自身の設計が将来ボトルネックになることを予見できなかったのでしょうか? いえ、おそらく彼は知っていたはずです。今のコンピュータが、当時の技術的制約が生んだ「妥協の産物」に過ぎないことを。

本記事では、ノイマンの生誕日に寄せて、現在進行系のハードウェア革命「ニューロモーフィック(脳型)コンピューティング」の最前線を解説します。そして、もし彼が「ハードウェアの制約」がない現代に生きていたら、本当は何を作りたかったのか──量子とAIが交差する未来の景色を、彼の視点から紐解いていきます。

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innovaTopiaがNotebookLMで作成

70年続いた「移動の無駄」──ノイマン・ボトルネックの正体

なぜ、私たちのPCやスマホは時々「考え中」になり、熱を持つのでしょうか。その原因の多くは、実は70年前の設計図の中にあります。

ノイマン型アーキテクチャの基本構造は、「演算する場所(CPU)」「記憶する場所(メモリ)」が物理的に分かれている点にあります。この二つは「バス」と呼ばれる一本の通路で繋がれていますが、ここには重大な弱点があります。

わかりやすく例えてみましょう。
CPUは「超一流のシェフ」です。メモリは「食材が入った巨大な冷蔵庫」です。
しかし、ノイマン型の厨房では、シェフの手元に食材を置いておくスペースがほとんどありません。そのため、シェフは野菜を一つ切るたびに、遠くの冷蔵庫まで走り、野菜を取り出し、まな板に戻って切り、切ったものをまた冷蔵庫にしまいに行きます。

これが「ノイマン・ボトルネック」です。
どんなにシェフ(CPU)の手際が良くても、冷蔵庫(メモリ)への往復時間(データ転送速度)が限界を迎えれば、料理は完成しません。

そして、現代のAI(ディープラーニング)は、この問題を致命的なレベルまで悪化させました。ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は、数千億ものパラメータ(食材)を常に読み書きする必要があります。
現在、データセンターで消費される電力の大部分は、実は「計算」そのものではなく、この「データの移動」に浪費されていると言われています。私たちは電気を使って計算しているのではなく、電気を使ってデータを右から左へ運んでいるに過ぎないのです。

脳に近づくハードウェア──「ニューロモーフィック」の夜明け

「移動がムダなら、冷蔵庫の中で料理すればいい」
この発想の転換こそが、ポスト・ノイマン時代の鍵となる「ニューロモーフィック(脳型)コンピューティング」です。

私たちの脳を見てみましょう。脳内では、演算を行う「ニューロン」と、記憶を司る「シナプス」が複雑に絡み合い、一体化しています。記憶と演算が同じ場所で行われるため、データの移動はほぼゼロ。人間の脳がわずか20ワット程度(電球1個分)のエネルギーで高度な思考ができるのはこのためです。

この構造を半導体で再現しようとする動きが加速しています。
Intelの「Loihi 2」やIBMの「NorthPole」といった最新チップは、従来のノイマン型とは全く異なるアプローチをとっています。メモリ領域の中で計算を行う「インメモリ・コンピューティング」や、脳の電気信号(スパイク)を模した処理を行うことで、電力効率を従来の数千倍から数万倍に高めることが実証され始めています。

これは単なる省エネの話ではありません。
クラウド(巨大なノイマン型コンピュータ)に接続しなくても、スマホやドローン、あるいはコンタクトレンズのような極小デバイス単体で、高度なAIが稼働する「エッジAI」の世界が幕を開けることを意味します。


【コラム】もしもノイマンが「ハードウェアの制約」から解放されていたら?

〜空想対談:天才は量子コンピュータを見て微笑むか〜

私たちはしばしば、ノイマン型アーキテクチャを「完成された理想形」と錯覚しがちです。しかし、1945年当時の状況を想像してみてください。
当時の真空管は極めて高価で、熱を持ちやすく、すぐに切れました。そんな信頼性の低い部品で計算機を作るには、機能を単純化し、CPUとメモリを分離して制御するしかなかった──つまり、ノイマン型は「当時の技術的・経済的制約の中での最適解(妥協)」に過ぎなかったのです。

もし、ジョン・フォン・ノイマンが、無尽蔵のトランジスタと量子ビットを使える2020年代に生きていたら?
彼は間違いなく、最初から直列処理のコンピュータなど作らなかったでしょう。彼は、人間の脳と同じ「超並列処理」を、ハードウェアレベルで実装していたはずです。いま我々が取り組んでいるニューロモーフィックへの移行は、70年越しに天才の「妥協」を修正しているに過ぎません。

そしてもう一つ、忘れてはならない事実があります。
ノイマンはコンピュータの父である以前に、名著『量子力学の数学的基礎』を記した、量子力学の理論的支柱でもありました。

もし彼が、現在の量子コンピュータを目にしたら?
「魔法だ」と驚くことはないでしょう。むしろ、彼はニヤリと笑ってこう言うはずです。
「私の書いた数式が、ようやく物理的なマシンとして追いついてきたかね」

彼が晩年に病床で執筆し、未完のまま遺された講義録のタイトルは『計算機と脳』。そして彼が最後に夢中になっていたのは「自己増殖するオートマトン」でした。
ハードウェアの制約から解放された「現代のノイマン」が作ろうとするもの。それは、単なる計算機やチャットボットではなく、デジタル空間の中で自ら学習し、進化し、増殖する「生命系そのもの」だったのかもしれません。


12月28日を「アップデート」の日付に

ジョン・フォン・ノイマン。
1903年の今日、この世に生を受けた一人の天才は、私たちに「コンピュータ」という火を与え、現代文明の基礎を築きました。

しかし、偉大な先人が遺した「最強のスタンダード」であっても、永遠に使い続けることはできません。
AIによる消費電力の増大、ムーアの法則の鈍化、そして持続可能な社会への要請。これらは全て、私たちが「ノイマンの箱庭」から飛び出し、次のステージへ進むべき時が来たことを告げています。

「ノイマン・ボトルネック」という言葉は、決してネガティブな行き止まりを意味するものではありません。それは、私たちがようやく、かつての天才が想定した限界を超え、まだ見ぬ領域へと踏み出せるレベルまで成長したという「卒業証書」なのです。

12月28日。
この日は、過去の偉業を懐かしむだけの日ではありません。
「常識とされているボトルネックはどこにあるか?」
「今の最適解は、実は過去の妥協ではないか?」
そう自らに問いかけ、思考のOSをアップデートする日であるべきです。

最高の敬意とは、模倣することではなく、凌駕することなのですから。


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【Information】

Institute for Advanced Study (IAS) – John von Neumann(外部)
ジョン・フォン・ノイマンが教授として在籍し、現代のコンピュータの原型となる「IASマシン」を開発した米プリンストン高等研究所のアーカイブ。

Intel Neuromorphic Computing (Loihi)(外部)
記事内で紹介した脳型チップ「Loihi 2」を開発しているインテル研究所の公式ページ。従来のアーキテクチャとの違いや、最新の研究成果が解説されています。

IBM Research – NorthPole(外部)
脳の構造にインスパイアされたAIチップ「NorthPole」に関するIBM Researchの公式ブログ。ノイマン・ボトルネック解消への技術的詳細が公開されています。

John von Neumann Computer Society (NJSZT)(外部)
ハンガリーにある、彼の名を冠したコンピュータ学会。ノイマンの遺産保存活動やアーカイブ資料を閲覧できます。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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