株式会社 日立ソリューションズ・クリエイト(本社:東京都品川区、取締役社長:南 章一)は、2026年1月15日、リモートアクセスシステム「DoMobile Ver.5」の提供を開始した。同社は2002年からDoMobileを提供しており、これまで金融業界などを中心に約7,000社、36,000名のユーザーに利用されている。
DoMobile Ver.5には、量子コンピューターによる攻撃への耐性を備えた耐量子計算機暗号(Post-Quantum Cryptography、PQC)が組み込まれている。公開鍵暗号方式には、NIST(米国立標準技術研究所)がFIPS203で公開した標準化技術を採用した。既存のDoMobileユーザーは、アップデートするだけでPQC機能を利用できる。DoMobile CSEサーバーライセンス(サーバーライセンス1、クライアントライセンス5)の価格は600,000円~(税別)となっている。
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耐量子計算機暗号をサポートしたリモートアクセスシステム「DoMobile Ver.5」の提供を開始
【編集部解説】
量子コンピューター時代の到来を見据えた、極めて戦略的なセキュリティ強化の動きです。日立ソリューションズ・クリエイトは、カナダの量子セキュリティ企業01 Quantum Inc.と協力し、日本市場初となる耐量子暗号(PQC)対応のリモートアクセスシステムを投入しました。
ここで理解すべき重要な概念が「Harvest Now, Decrypt Later(HNDL)攻撃」です。これは、攻撃者が現在は解読できない暗号化されたデータを収集しておき、将来的に量子コンピューターが実用化された時点で一気に解読する攻撃手法を指します。つまり、今日の通信が10年後に解読されるリスクがあるということです。
特に金融取引や医療記録など、長期間にわたって機密性が求められるデータにとって、この脅威は深刻です。現在広く使われているRSAやECCといった暗号方式は、従来のコンピューターでは解読に数百年かかるとされていますが、十分な性能を持つ量子コンピューターであれば数時間で破られる可能性が指摘されています。
DoMobile Ver.5が採用したのは、米国立標準技術研究所(NIST)がFIPS 203で標準化したPQCアルゴリズムです。NISTは2016年から量子耐性暗号の標準化プロセスを進めており、2024年8月に最初の標準を公開しました。この標準に準拠することで、将来的な互換性や信頼性が担保されます。
日本国内では、金融庁が2024年11月に「預金取扱金融機関の耐量子計算機暗号への対応に関する検討会報告書」を公表し、金融機関に対してPQCへの早期移行を促しています。DoMobile Ver.5のリリースは、こうした規制動向に先んじた動きと言えるでしょう。
特筆すべきは、既存の約36,000ユーザーが追加費用なしでアップデートによりPQC機能を利用できる点です。これは、セキュリティ強化への移行障壁を大幅に下げる施策となります。
ただし、量子コンピューターによる実質的な脅威が顕在化する時期については、専門家の間でも意見が分かれています。楽観的な見方では10年以上先、慎重な見方では5年以内とされており、「Q-Day(量子コンピューターが既存暗号を破る日)」がいつ訪れるかは不確実です。
それでも、HNDL攻撃のリスクを考えれば、今からの対策開始は合理的な判断です。暗号化されたデータの収集は既に行われている可能性があり、事後的な対策では遅いためです。
【用語解説】
耐量子計算機暗号(PQC / Post-Quantum Cryptography)
量子コンピューターによる解読に対しても耐性を持つよう設計された暗号技術。従来のRSAやECCといった公開鍵暗号方式は、量子コンピューターの登場により短時間で解読される可能性が指摘されているため、格子暗号やハッシュベース暗号など、量子コンピューターでも解読が困難とされる数学的問題に基づいた新しい暗号方式が開発されている。
Harvest Now, Decrypt Later(HNDL)攻撃
現時点では解読できない暗号化されたデータを収集しておき、将来的に量子コンピューターが実用化された時点で一気に解読する攻撃手法。医療記録や金融取引データなど、長期間にわたって機密性が求められる情報に対して特に深刻な脅威となる。
FIPS 203
米国立標準技術研究所(NIST)が2024年8月13日に公開した耐量子暗号の標準規格。Module-Lattice-Based Key-Encapsulation Mechanism(ML-KEM)を規定しており、元はCRYSTALS-Kyberとして知られていたアルゴリズム。暗号鍵の交換に使用される。
RSA / ECC
現在広く使用されている公開鍵暗号方式。RSAは素因数分解の困難性に、ECCは楕円曲線上の離散対数問題の困難性に基づいている。従来のコンピューターでは解読に数百年かかるとされるが、十分な性能を持つ量子コンピューターであれば数時間で破られる可能性がある。
Q-Day
量子コンピューターが既存の暗号方式を実質的に破れるようになる日。専門家の間では5年から15年後と予測されているが、正確な時期については意見が分かれている。
【参考リンク】
日立ソリューションズ・クリエイト DoMobile(外部)
2002年から提供するリモートアクセスシステム。金融業界を中心に約7,000社、36,000名が利用。Ver.5で耐量子暗号を標準搭載。
01 Quantum Inc.(外部)
カナダのトロント本社の量子セキュリティ企業。IronCAPなど耐量子暗号技術の開発・商業化に注力している。
NIST – Post-Quantum Cryptography(外部)
米国立標準技術研究所による耐量子暗号の標準化プロジェクト。2024年8月にFIPS 203、204、205を公開。
金融庁 – 預金取扱金融機関の耐量子計算機暗号への対応に関する検討会報告書(外部)
2024年11月26日公表。金融機関に対して2030年代半ばを目安に耐量子暗号への移行を推奨。
【参考記事】
01 Quantum Inc. and Hitachi Solutions Create, Ltd. Announce Availability of “DoMobile Ver.5”(外部)
日立と01 QuantumがDoMobile Ver.5を発表。日本初のPQC対応リモートアクセスシステムとして約36,000ユーザーが利用可能に。
01 Quantum and Hitachi Solutions Create Deploy PQC in DoMobile Ver.5(外部)
2026年1月15日時点で日本初のPQC対応システムに。既存ユーザーは標準アップデートで機能を利用可能と報告。
NIST Releases First 3 Finalized Post-Quantum Encryption Standards(外部)
NISTが2024年8月13日に最初の3つの耐量子暗号標準を公開。FIPS 203はML-KEMとして一般暗号化の主要標準に。
Post-Quantum Cryptography FIPS Approved(外部)
米国商務省が3つの耐量子暗号FIPS(203、204、205)を承認。将来の量子攻撃に耐える標準として2024年8月14日から有効。
PQC Standardization Process – Post-Quantum Cryptography(外部)
NISTが2016年12月に公募開始した標準化プロセスの詳細。82のアルゴリズムから複数ラウンド評価を経て標準化。
金融庁も始動「耐量子計算機暗号」、金融機関が2030年までに対処すべきことは?(外部)
金融庁が2024年7月に検討会を発足、11月に報告書公表。金融機関は2030年代半ばまでに対応が推奨されている。
必読!金融機関が注目すべき耐量子計算機暗号とは?(外部)
NTTデータによる金融庁報告書の解説。経営層のリーダーシップとクリプトインベントリ作成など事前準備の重要性を強調。
【編集部後記】
量子コンピューターによる暗号解読が現実味を帯びてきた今、みなさんの組織ではどのような備えができているでしょうか。金融機関だけでなく、医療や製造業など、機密情報を扱うあらゆる業界で、この「見えない脅威」への対策が求められています。
DoMobile Ver.5のような製品の登場は、PQC移行への道筋を示す一例ですが、みなさんが日々使っているシステムやサービスは、量子時代に備えているでしょうか。セキュリティベンダーの動向や、自社の情報資産の棚卸し状況など、ぜひ一度確認してみてください。私たちも、この分野の進展を引き続き追っていきたいと思います。



































