advertisements

武装可能なヒューマノイドロボット「Phantom」、2027年に5万台生産計画─元破綻フィンテックCEOが描く労働と戦争の未来

[更新]2025年12月19日

武装可能なヒューマノイドロボット「Phantom」、2027年に5万台生産計画──元破綻フィンテックCEOが描く労働と戦争の未来 - innovaTopia - (イノベトピア)

シリコンバレーのスタートアップFoundationは、身長5フィート9インチ(約175cm)、体重180ポンド(約81kg)のヒューマノイドロボットPhantomを開発している。同社CEOのサンカエト・パタック氏は、2027年末までに5万台を製造する計画を立てている。Phantomは工場などでの労働用途に加え、米軍向けの軍事用途も想定しており、M4カービン銃などの致死性武器を携行する。Foundationは設立から18か月以内に実用ロボットを稼働させた。生産計画は2025年に40台、2026年に1万台、2027年に5万台となっている。

同社チームにはTesla、1X、Boston Dynamics、SpaceXからの人材が含まれる。パタック氏はロボットを販売ではなくリースする方針で、5万台が年間約50億ドルの経常収益をもたらすと見込んでいる。1台あたりのリース料は年間約10万ドルを想定している。Phantomは完全自律ではなく、現在の軍事ドローンと同様に、移動とナビゲーションはロボットが処理し、標的設定は人間が管理するモデルを想定している。

From: 文献リンクHumanoid robots for war and work: startup plans to build 50,000 by end of 2027

【編集部解説】

Foundationのヒューマノイドロボット開発が注目を集めていますが、このプロジェクトの背景には理解しておくべき複雑な文脈があります。

CEOのサンカエト・パタック氏は、2024年4月に破産申請したフィンテック企業Synapseの元CEOです。Synapseは銀行とフィンテック企業を仲介するBaaS(Banking-as-a-Service)プラットフォームでしたが、パートナー銀行との不和により破綻し、約8500万ドル(約127億円、1ドル150円換算)の顧客預金が行方不明になる事態を引き起こしました。パタック氏は2023年5月にFoundationを設立しており、同年8月には1100万ドルのプレシード資金調達に成功しています。

生産計画の数字については、情報源により若干の相違が見られます。Forbes記事では2025年に40台、2026年に1万台、2027年に4万台としていますが、他の報道では2027年の目標を「2万台以上」としているものもあります。最新のForbes記事では合計5万台という表現が使われており、これは2026年と2027年の累計と解釈できます。

技術面では、Phantomは独自開発のサイクロイドアクチュエーターを搭載し、高いエネルギー効率(90〜95%)を実現していると主張しています。知覚システムはTeslaと同様にカメラのみに依存し、LiDARなどの高価なセンサーは使用していません。AIアプローチも特徴的で、競合他社が採用する模倣学習だけでなく、物理学や運動学の知識を明示的に組み込んだ状態ベースモデルを併用するハイブリッド戦略を取っています。

軍事利用については、Foundationは米国のヒューマノイドロボット企業の中で最も明確に武装化の可能性を表明しています。パタック氏は「ロボットを武装化しないというのは表面的には美徳に見えるが、実際にはそうではない」と述べ、M4カービン銃の装備も辞さない姿勢を示しています。ただし、完全自律型ではなく、移動と航行はロボットが処理し、標的設定と攻撃の最終判断は人間が行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」モデルを採用する計画です。

ビジネスモデルは販売ではなくリースで、年間約10万ドルを想定しています。これは人間の労働者の年間コストが約4万ドルであることを考えると高額に見えますが、ロボットはほぼ24時間稼働できるため、3〜5人分の労働力に相当するという計算です。フル稼働時には雇用主に年間約16万6000ドルの節約効果をもたらすとしていますが、これはロボットが人間と同等の速度と品質で作業できることが前提であり、現時点でどのヒューマノイドロボットメーカーもこの水準には達していません。

資金調達面では、2025年5月時点で1億ドルの調達を10億ドルのバリュエーションで目指していると報じられています。これは2025年4月にPhantomを公開したばかりの企業としては極めて野心的な評価額です。背景には、ヒューマノイドロボット市場への投資家の強い関心がありますが、パタック氏の前職での失敗が投資判断にどう影響するかは注目点です。

倫理的な観点では、このプロジェクトは複数の論点を提起します。第一に、致死兵器を装備したヒューマノイドロボットの開発は、自律型致死兵器システム(LAWS)をめぐる国際的な議論を加速させる可能性があります。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は2025年5月に致死性自律兵器を「道徳的に受け入れられない」と表明し、2026年までの明確な規制を求めています。

第二に、パタック氏が主張する「10万台のロボットが戦争を抑止する」という平和維持論には両面性があります。確かに人的損失への政治的リスクが低減されれば軍事介入のハードルが下がり、逆に紛争が増加する可能性も指摘されています。

技術的な課題も残されています。現時点でのPhantomの実力は限定的で、報道によればVRヘッドセットを使った遠隔操作のデモではキャリブレーション問題が発生し、ロボットの手がクロスしてシステムリセットが必要になる場面もありました。完全自律動作での連続稼働には、まだ技術的なブレークスルーが必要です。

競合環境も激化しています。Figure AIは、400億ドルのバリュエーションで15億ドルの追加調達を目指していると報じられています。Teslaのオプティマスは2025年に5000〜1万台、2026年に5万台の生産を目指しており、最終的には年間100万台の生産能力を目標としています。中国でもヒューマノイドロボット開発が加速しており、製造能力では米国を上回る可能性があります。

このプロジェクトは、技術革新の可能性と倫理的ジレンマ、そして創業者の過去の失敗という複雑な要素が絡み合った事例として、ロボティクス産業の今後を占う上で重要な観察対象となっています。

【用語解説】

ヒューマノイドロボット
人間の形状を模したロボット。二足歩行が可能で、二本の腕を持つ。人間が使用する環境や道具をそのまま利用できるため、工場や施設の大規模な改修なしに導入できる利点がある。

サイクロイドアクチュエーター
ロボットの関節を動かす駆動装置の一種。高いトルク密度とエネルギー効率を持ち、発熱が少なく静音性に優れる。Foundationは独自開発のサイクロイドギアボックスを採用し、90〜95%のエネルギー効率を実現していると主張している。

バックドライバブル
外力が加わった際にアクチュエーターが逆方向に動くことを許容する特性。人間との接触時に柔軟に反応できるため、安全性が向上する。

模倣学習(Imitation Learning)
ロボットが人間のデモンストレーションを観察して動作を学習するAI手法。Figure AIやTeslaのOptimusなどが採用している。

状態ベースモデル
物理法則、運動学、タスクのダイナミクスを明示的に組み込んだAIモデル。Foundationはこれと模倣学習を組み合わせたハイブリッドアプローチを採用している。

ヒューマン・イン・ザ・ループ
AIシステムの判断プロセスに人間を介在させる運用モデル。軍事用途では、ロボットが移動や状況認識を自律的に行うが、標的設定や攻撃の最終判断は人間のオペレーターが行う。

BaaS(Banking-as-a-Service)
銀行機能をAPI経由で他の企業に提供するサービス。フィンテック企業が独自の銀行免許を取得せずに金融サービスを提供できる。Synapseはこのモデルで事業を展開していた。

LAWS(Lethal Autonomous Weapon Systems)
致死性自律兵器システム。人間の介入なしに標的を選択し攻撃する兵器。国際的な規制論議の対象となっている。

LiDAR
レーザー光を使った距離測定センサー。自動運転車などで広く使われるが高価。Foundationはコスト削減のためカメラのみを使用する戦略を取っている。

【参考リンク】

Foundation Robotics Labs(外部)
Phantom MK-1ヒューマノイドロボットを開発。工場労働と軍事用途の両方を想定した「デュアルユース」戦略を明確に打ち出すシリコンバレーのスタートアップ企業。

Figure AI(外部)
15億ドル以上を調達したヒューマノイドロボット企業。Figure 03は家庭用ロボットとして開発され、洗濯物を畳むなどの家事タスクに対応。

1X Technologies(外部)
ノルウェー発のヒューマノイドロボット企業。NEOモデルは2026年の出荷を予定し、一般消費者向けに予約受付を開始した初のヒューマノイドロボット。

Boston Dynamics(外部)
ヒューマノイドロボットAtlasで知られるロボティクス企業。DARPAの資金援助を受けて災害対応ロボットを開発してきた歴史を持つ。

Apptronik(外部)
テキサス大学発のヒューマノイドロボット企業。Apolloロボットは物流倉庫での作業に特化している。

【参考記事】

US firm Foundation plans to build 50,000 humanoid robots by 2027(外部)
生産計画の詳細と技術仕様を報じた記事。2025年40台、2026年1万台、2027年までに5万台という具体的な数値目標を解説。

Foundation Emerges With ‘Phantom’ Humanoid, Betting on Novel Actuators and Hybrid AI(外部)
技術的な差別化ポイントを詳述。サイクロイドアクチュエーターが90〜95%のエネルギー効率を実現することなどを解説。

Ex-Synapse CEO reportedly trying to raise $100M for his new humanoid robotics venture(外部)
パタックCEOの前職Synapseの破綻と、約8500万ドルの顧客預金が行方不明になっている問題を詳述。

Founder of failed fintech Synapse says he’s raised $11M for new robotics startup(外部)
2023年8月にTribe Capitalなどから1100万ドルのプレシード資金調達に成功したことを報じた記事。

Could This Humanoid Robot Become the Army’s Ultimate Warrior?(外部)
Phantom MK-1の軍事用途に焦点を当てた記事。米国防総省との協議が進行中であることを報じる。

Foundation CEO Details Path to Armed Robots, Aims for 10,000-Unit Production in 2026(外部)
NewsNationインタビューでのパタックCEOの発言を詳細に報じた記事。武装化への段階的なアプローチを解説。

Synapse’s collapse has frozen nearly $160M from fintech users(外部)
Synapseの破綻経緯を時系列で詳述。約1億5860万ドルがエンドユーザーから凍結された事実を報じる。

【編集部後記】

ヒューマノイドロボットが工場で働き、あるいは戦場に立つ未来が、思ったより早く到来するかもしれません。技術的な可能性と倫理的な課題、そして創業者の複雑な背景が交錯するこのプロジェクトを、みなさんはどう見られますか。

人間の労働を代替するロボットの登場は、私たちの社会に何をもたらすのでしょうか。また、致死兵器を装備したヒューマノイドロボットの開発は、国際社会でどのように規制されるべきなのか。この問いに正解はまだありませんが、テクノロジーが社会を変える瞬間を、私たちは今まさに目撃しているのかもしれません。innovaTopia編集部では、引き続きこの分野の動向を注視してまいります。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

読み込み中…

innovaTopia の記事は、紹介・引用・情報収集の一環として自由に活用していただくことを想定しています。

継続的にキャッチアップしたい場合は、以下のいずれかの方法でフォロー・購読をお願いします。