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人型ロボットUnitree G1がステージで躍動。成都コンサートで見せた240万円ロボットの可能性

人型ロボットUnitree G1がステージで躍動。成都コンサートで見せた240万円ロボットの可能性 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国のロボティクス企業Unitreeの人型ロボット「G1」が、2025年12月19日、中国の歌手ワン・リーホムのコンサートにバックダンサーとして登場した。公演は成都東安湖スポーツパーク多目的体育館で開催され、1万8000人を収容する会場で行われた。このコンサートはワンの「ベスト・プレイス・ツアー」の一環である。

複数のG1ロボットがダボダボのパンツとキラキラ光るオーバーシャツを着用し、人間のダンサーと共にステージでダンスを披露した。ロボットたちはほぼ完璧なユニゾンで前方宙返りを実行する場面も見せた。G1ロボットはこれまでにバスケットボールのシュートやカンフーの動き、ドロップキックに耐える能力などで注目を集めてきた。Unitreeは最近、「Keep the Music Going, Keep the Dance Flowing」という新機能を開発したが、まだ顧客には展開されていない。

From: 文献リンクRobots Tear Up Stage as Backup Dancers

【編集部解説】

このニュースは、単なる「ロボットがダンスを披露した」という話題を超えて、エンターテインメント産業におけるロボット技術の実用化が新たな段階に入ったことを示す象徴的な出来事です。

Unitree G1の技術的な進化は目覚ましく、従来の研究室やデモンストレーション環境から、1万8000人の観客が見守る大規模な商業公演へと活躍の場を移しました。身長約1.3メートル、重量約35キログラムというコンパクトな筐体に、23から43の自由度を持つ関節機構、3D LiDAR、深度カメラ、8コアCPUを搭載し、時速7.2キロメートルでの歩行や前方宙返りといった高度な動作を実現しています。

注目すべきは価格です。ベースモデルが1万6000ドル(約240万円、1ドル=150円換算)という価格設定は、Boston DynamicsのAtlasが9万ドル以上、先代のUnitree H1が9万ドルであったことを考えると、研究機関や中小企業にとって手の届く水準に到達しました。この価格破壊が、エンターテインメント分野での商業利用を現実的なものにしています。

エンターテインメント産業への影響は多岐にわたります。人型ロボットは疲労せず、振り付けを完璧に再現し、危険なスタントも実行できます。今回のコンサートでは、複数のロボットがほぼ完璧なユニゾンで前方宙返り(ウェブスター宙返り)を披露しましたが、これは人間のダンサーでは一貫性の維持が困難な動作です。

しかし、懸念も存在します。ロボットの導入が進めば、バックダンサーという職業そのものが失われる可能性があります。市場調査によれば、エンターテインメント向け人型ロボット市場は2024年の3億1030万ドルから2034年には78億2920万ドルへと、年平均成長率38.1%で拡大すると予測されています。

技術面では、Unitreeが開発した「Keep the Music Going, Keep the Dance Flowing」機能により、音楽に合わせてダンスする能力も実装されつつあります。ただし、元記事によればこの機能は「ここ数日で開発されたばかりで、まだ顧客には展開されていない」段階です。

この公演を見たイーロン・マスク氏が「印象的だ」とコメントしたことも、業界に大きな波紋を広げています。Tesla Optimusをはじめとする欧米の人型ロボット開発と、中国勢の急速な進化が、グローバルな技術競争を加速させる構図が鮮明になっています。

innovaTopiaが今このニュースを報じる理由は、エンターテインメントというクリエイティブな領域に、ロボット技術が本格的に侵入し始めた転換点を記録するためです。技術の進化は止められませんが、その影響を冷静に見極め、人間の創造性とテクノロジーの最適な共存を模索する時期に来ています。

【用語解説】

人型ロボット(ヒューマノイドロボット)
人間の身体構造を模倣した二足歩行ロボットの総称。頭部、胴体、両腕、両脚を持ち、人間が設計した環境での作業に適している。AI、センサー、アクチュエーターなどの技術を統合し、人間に近い動作や対話を実現する。

自由度(DOF: Degrees of Freedom)
ロボットの関節が動ける独立した方向の数を示す指標。人間の腕は肩、肘、手首で7自由度を持つ。Unitree G1は23から43の自由度を持ち、数値が大きいほど複雑で人間に近い動きが可能になる。

3D LiDAR(ライダー)
Light Detection and Rangingの略。レーザー光を照射し、反射光から周囲の三次元空間情報を取得するセンサー技術。ロボットが障害物を認識し、自律的にナビゲーションするために不可欠な装置。

深度カメラ(デプスカメラ)
対象物までの距離情報を画像として取得できるカメラ。通常のカメラが色情報のみを捉えるのに対し、深度カメラは三次元の空間認識を可能にし、物体認識や衝突回避に利用される。

強化学習(Reinforcement Learning)
機械学習の一種で、試行錯誤を通じて最適な行動を学習する手法。ロボットが環境と相互作用しながら、報酬を最大化する行動パターンを獲得する。ダンスや運動制御の学習に活用される。

模倣学習(Imitation Learning)
人間の動作をロボットに学習させる手法。人間のデモンストレーションを観察し、その行動パターンを再現できるようにする。複雑な動作を効率的に教え込むことができる。

ウェブスター宙返り(Webster Flip)
体操における前方回転技の一種。片足で踏み切り、前方に回転しながら跳躍して着地する。ロボット工学では高度な動的バランス制御と瞬発的なパワー制御が必要とされ、技術力の指標となる。

アクチュエーター
電気エネルギーを機械的な動きに変換する駆動装置。ロボットの関節を動かすモーターやサーボ機構を指す。Unitree G1は最大120N·mのトルクを発生する高性能アクチュエーターを搭載している。

力覚制御(Force Control)
ロボットが物体に加える力を制御する技術。単に位置を制御するだけでなく、適切な力加減で物体を扱うことができ、繊細な作業や安全な人間との協働を可能にする。

ワン・リーホム(王力宏)
台湾系アメリカ人の歌手、俳優、プロデューサー。1976年生まれ。バークリー音楽大学とウィリアムズ大学から名誉博士号を授与されている。ゴールデンメロディー賞を4回受賞し、アジア圏で高い人気を誇る。

【参考リンク】

Unitree Robotics 公式サイト(外部)
中国・杭州を拠点とするロボティクス企業。G1、H1などの人型ロボットとロボット犬シリーズを展開。

Unitree G1 製品ページ(外部)
G1人型ロボットの公式製品ページ。技術仕様、価格、機能の詳細を掲載している。

Wang Leehom 公式サイト(外部)
歌手ワン・リーホムの公式サイト。ツアー情報、ニュース、ロボット共演記事を掲載。

Boston Dynamics(外部)
米国の先進的ロボティクス企業。人型ロボットAtlasや四足歩行ロボットSpotを開発。

【参考動画】

王力宏のコンサートでUnitree G1ロボットがバックダンサーとして登場した際の公式映像。台湾のTVBSニュースが報道した動画で、ロボットの前方宙返りやダンスパフォーマンスの様子が収録されている。

【参考記事】

Unitree G1 Robots Dance with Wang Leehom in China Concert Spectacle(外部)
成都のコンサートで1万8000人の観客の前でG1が同期ダンスを披露した詳細を報道。

Elon Musk shares video of Unitree G1 humanoid robots pulling off backflips at concert(外部)
イーロン・マスク氏が「印象的だ」とコメントしたG1のウェブスター宙返りを紹介。

Humanoid Robots for Entertainment Market: The Future of Interactive Amusement(外部)
エンタメ向け人型ロボット市場が2024年3.1億ドルから2034年78億ドルへ成長予測。

Unitree G1 Humanoid Robot: $16K Price, 43 DOF Specs & Research Applications 2026(外部)
G1の詳細な技術仕様を解説。1万6000ドルで研究グレードの機能を提供する。

Humanoid Robot Market Size & Share | Industry Report, 2030(外部)
人型ロボット市場が2024年15.5億ドルから2030年40.4億ドルに成長予測。

Humanoid Robot Market | Global Market Analysis Report – 2035(外部)
世界市場が2025年31.4億ドルから2035年815.5億ドルへCAGR38.5%で成長予測。

G1 – Humanoid.guide(外部)
G1は身長1.27m、重量35kgで折りたたみ可能。時速2mで歩行、23-43自由度を装備。

【編集部後記】

ロボットがステージで踊る光景を目にして、皆さんはどのような未来を想像されたでしょうか。エンターテインメントの世界に人型ロボットが本格的に参入し始めた今、私たちが考えるべきは技術の是非ではなく、人間の創造性とロボットの精密性がどう共存できるかではないでしょうか。

バックダンサーという職業が変わりゆく可能性がある一方で、人間にしか表現できない感情や即興性の価値が、かえって際立つのかもしれません。innovaTopia編集部も、この技術がもたらす変化を皆さんと一緒に見つめ、考えていきたいと思います。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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