数十億の実際の動作データで学習し、装着者の動きに適応する――ジャーマン・バイオニックのエクソスケルトン「Exia」が、CES 2026で「Physical AI」という新たな人間拡張の形を提示する。デジタル空間を飛び出したAIは、いま物理世界で人間の身体を直接サポートし始めている。
ジャーマン・バイオニックは2025年12月4日、ロボットエクソスケルトン「Exia」を2026年1月6日から9日までラスベガスで開催されるCES 2026で発表すると発表した。同社のCES出展は5年連続となる。Exiaは1回の動作につき最大38kg(84ポンド)の動的リフトサポートを提供する。数十億の実際の人間の動作データポイントで訓練されたオーグメンテッドAIを搭載し、物流、製造、小売、空港、医療、介護などの作業環境で腰部をサポートする。
OTAアップデートにより新機能を追加できる。ジャーマン・バイオニック コネクトアプリとジャーマン・バイオニックIOデータインサイトプラットフォームを通じて、個別設定、使用状況分析、人間工学的評価、フリート管理が可能となる。展示はドイツ連邦政府主催のドイツパビリオン、ホールA、スタンド51242-18で行われる。
From:
AI to Wear: German Bionic Presents the Exia robotic Exoskeleton at CES 2026



【編集部解説】
ジャーマン・バイオニックが発表したExiaは、単なる「力持ちの装置」ではありません。同社が「Physical AI」と呼ぶこの技術は、デジタル空間でデータを処理するだけでなく、物理世界で直接人間の動きをサポートする点に大きな意義があります。
最大の特徴は、数十億におよぶ実際の作業現場での動作データに基づいて訓練されたAIです。物流倉庫、製造ライン、空港、医療現場など、実際の労働環境で収集された匿名化データを学習することで、シミュレーションだけでは得られない「人が実際にどう動くか」を理解しています。最初の装着時から適切なサポートを提供し、使用するほどに個々のユーザーや作業に最適化されていく仕組みです。
エクソスケルトン市場は急速な成長期を迎えています。市場調査会社の予測には幅がありますが、多くが年率20〜30%以上の成長を見込んでいます。ABI Researchによれば、世界市場は2025年の8.5億ドルから2030年には22億ドルへ拡大する見通しです。この成長を牽引しているのが、産業用途の拡大です。
背景には深刻な社会課題があります。米国では筋骨格系障害が雇用主に1件あたり平均67,000ドル以上のコストを発生させており、2033年までに製造業で190万人の労働者不足が予測されています。日本でも状況は同様で、国際労働機関によれば筋骨格系障害による経済損失はGDPの1〜2%に相当し、企業単位では従業員1人あたり年間20万〜40万円の損失が発生しているとの試算もあります。
Exiaのような技術は、こうした課題に対する実践的な解決策として注目されています。38kgのリフトサポートという数値も重要ですが、より本質的なのは「怪我のリスク低減」「生産性向上」「健康な労働期間の延長」という3つの効果です。身体的に厳しい仕事を、より安全で魅力的なものに変えることで、人材確保と定着率向上にも寄与します。
技術的な進化も見逃せません。OTAアップデートにより、ハードウェアを買い替えることなく新機能を追加できる設計は、長期的な投資価値を保証します。また、German Bionic Connect AppとIOプラットフォームを通じた人間工学的評価やフリート管理機能により、単なる装着デバイスではなく、データドリブンな労働環境改善のための統合システムとして機能します。
CEOのアルミン・G・シュミット氏が言及しているように、この技術は労働分野にとどまりません。高齢化が進む社会において、人々がより長く活動的で自立した生活を送るための支援技術としても展開される可能性を秘めています。
一方で、課題も存在します。月額399ドルからのリースモデルは、中小企業にとって依然として高額な投資です。また、労働者がこうした技術を日常的に受け入れるには、装着感の快適さや操作の直感性が極めて重要になります。実際、同社は2025年12月29日に女性の体型に特化した新しいベストデザインを発表しており、多様な体型への対応が普及の鍵となることを認識しています。
CES 2026での展示は、ドイツ連邦政府が主催するドイツパビリオンで行われます。政府レベルでの支援は、この技術が単なる商業製品ではなく、労働環境改善のための社会インフラとして位置づけられていることを示唆しています。
Physical AIという新しい概念が、デスクワークだけでなく物理的な労働においても、人間の能力を拡張し、より長く健康に働き続けられる社会を実現する一助となるか。Exiaの実用化は、その試金石となるでしょう。
【用語解説】
エクソスケルトン
外骨格型のウェアラブルロボット装置。人体に装着することで筋力を補助し、重量物の持ち上げや運搬、長時間の作業を支援する。パワードタイプ(電動)とパッシブタイプ(非電動)があり、物流、製造、医療、建設などの分野で活用されている。
オーグメンテッドAI(Augmented AI)
拡張AI。シミュレーションデータではなく、実際の現場で収集された膨大な実データを学習して動作するAI。German Bionicの場合、数十億の実際の人間の動作データポイントを基に訓練されており、現実の作業環境における人の動きを理解し適応する。
フィジカルAI(Physical AI)
デジタル空間でデータを処理するだけでなく、物理世界で直接作用し、人間の動きをリアルタイムでサポートするAIシステム。単にタスクを分析するのではなく、現実世界で実際に行動し、人間の身体動作を支援する点が特徴である。
OTA(Over-The-Air)アップデート
無線通信を通じてソフトウェアを更新する技術。ハードウェアを物理的に交換することなく、インターネット経由で新機能の追加やシステムの改善が可能になる。スマートフォンやコネクテッドカーなどで広く採用されている。
筋骨格系障害(MSD:Musculoskeletal Disorders)
筋肉、関節、腱、靭帯、神経などに生じる障害の総称。重量物の持ち上げや反復作業、不自然な姿勢での長時間労働などが原因で発症する。腰痛、肩こり、腱鞘炎などが含まれ、労働災害の主要な原因となっている。
CES 2026(Consumer Electronics Show)
世界最大級の家電見本市。毎年1月にラスベガスで開催され、最新のテクノロジーやイノベーションが発表される。2026年は1月6日から9日まで開催される。
【参考リンク】
German Bionic(ジャーマン・バイオニック)(外部)
世界で初めてエクソスケルトンをクラウドに接続したロボティクス企業。AI搭載のスマートパワースーツを開発している。
Exia製品ページ(外部)
最大38kgのリフトサポートを提供するAI搭載エクソスケルトン。数十億の実データで訓練されている。
CES公式サイト(外部)
世界最大級のテクノロジー見本市。毎年1月にラスベガスで開催され、最新技術が一堂に会する。
German Bionic IO(外部)
クラウドベースのデータインサイトプラットフォーム。使用状況分析や人間工学的評価、フリート管理を提供。
【参考記事】
German Bionic unveils Exia AI-augmented industrial exoskeleton – The Robot Report(外部)
筋骨格系障害のコストと労働者不足予測について詳細に報じている。米国での課題を具体的数値で示す。
German Bionic unveils ‘AI augmented’ exoskeleton – Construction Dive(外部)
Exiaの価格モデルと建設業界での実績を紹介。月額399ドルからのリースモデルについて詳述。
Exoskeleton Market Size & Growth Trends Analysis 2030 – Mordor Intelligence(外部)
エクソスケルトン市場の成長予測を報告。2025年5.7億ドルから2030年14.8億ドルへの拡大を予測。
Exoskeleton Market Forecast – ABI Research(外部)
2025年8.5億ドルから2030年22億ドルへの市場拡大を予測。地域別シェアも詳述している。
Exoskeleton Market Trends, Share & Opportunities 2025-2032 – Coherent Market Insights(外部)
世界市場規模が2025年43.4億ドル、2032年129.5億ドルに達すると予測。医療分野のシェアを分析。
【編集部後記】
エクソスケルトンと聞くと、SF映画の世界を想像される方も多いかもしれません。しかし、Physical AIという概念は、デスクワークだけでなく、物理的な労働においても人間の能力を拡張できる可能性を示しています。
みなさんの周りには、身体的に厳しい仕事に従事されている方はいらっしゃいますか。物流、製造、介護といった現場で、こうした技術がどのように活用され、どんな未来を切り拓いていくのか。そして、私たち自身が高齢になったとき、この技術はどのように役立つのでしょうか。「人間の仕事を奪うAI」ではなく、「人間の身体を支えるAI」という視点から、テクノロジーの可能性を一緒に考えてみませんか。
































