ロボティクス企業のアセンティズは2026年1月4日、ラスベガスで開催されるCES 2026において、モジュラー式外骨格システムの最終版を発表した。同システムは腰部用のアセンティズ-Hと膝部用のアセンティズ-Kで構成される。共同創業者のフェン・シャが8,000メートル以上の高地で直面した問題の解決を目指して開発された。アセンティズは2025年11月のキックスターターキャンペーンで外骨格プロジェクトとして最高資金調達額第1位を獲得し、ウェアラブルテクノロジーカテゴリーで歴代8位にランクインした。
システムはAIモーションエンジンを搭載し、7種類以上の活動シナリオを99.5%の精度で認識、200ミリ秒以内にサポートモードを切り替える。EASE、ACC、TRAINの3つのモードを選択可能で、小売価格は1,499ドルから3,399ドルである。同社は2023年に設立された。CES 2026ではマンダレイベイのUnveiledブース524番、ベネチアンエキスポのCESブース56536番で展示を行う。

Ascentiz PRNewswireより引用
【編集部解説】
外骨格技術が、ついに日常生活に届く価格帯へ降りてきました。アセンティズのモジュラー式外骨格システムは、これまで医療機関や軍事、産業分野に限定されていた人体拡張技術を、一般消費者が手にできる製品へと変貌させる試みです。
同社の背景を調べると、興味深い事実が浮かび上がります。アセンティズは中国・杭州を拠点とするロボCT(RoboCT)のコンシューマー向けブランドとして誕生しました。ロボCTは2017年設立の医療用外骨格ロボット分野のパイオニアで、中国で初めてNMPA(国家薬品監督管理局)の登録証明書を取得した企業です。外部報道によれば、ロボCTは医療用外骨格分野で長年の研究開発実績を持ち、中国国内の医療機関で採用例があるとされています。
つまりアセンティズは、医療分野で蓄積された技術と製造ノウハウを、アウトドアや日常生活というまったく新しい市場へ展開する戦略的な動きなのです。
モジュラー設計の真価は、単一デバイスで複数の用途に対応できる点にあります。従来の外骨格は用途ごとに専用設計されており、登山用と産業用では別々のシステムが必要でした。アセンティズ-Hは腰部の準直接駆動システムで推進力を提供し、アセンティズ-Kはケーブル駆動機構で膝関節の負荷を軽減します。A4サイズという携帯性も、日常使用を前提とした設計思想の現れです。
AIモーションエンジンの99.5%という認識精度も注目に値します。200ミリ秒以内のモード切り替えは、人間の反射速度に近い応答性です。これにより、歩行から階段昇降、坂道登攀まで、ユーザーの動作に合わせてシームレスにサポートが切り替わります。
価格設定の1,499ドルから3,399ドルという幅は、外骨格技術の民主化を象徴しています。産業用外骨格は数万ドル、医療用は数十万ドルの価格帯が一般的でした。キックスターターで約250万ドルを調達した実績は、このような技術に対する消費者の潜在需要を強く証明しています。
外骨格市場全体も急成長しています。複数の市場調査会社によると、2025年の25億ドルから35億ドル規模が、2030年から2032年にかけて130億ドルから305億ドルへ拡大する見込みです。年平均成長率は19%から43%と予測され、医療、産業、軍事に加え、消費者向け市場が新たな成長エンジンとなりつつあります。
2026年は、外骨格技術が「特殊な装置」から「選択肢の一つ」へと移行する転換点と位置づけられています。ハイパーシェルやアセンティズのような企業が、ハイキング愛好家や高齢者、都市生活者に向けた製品を次々と投入し、新しい市場カテゴリーを形成しています。
ただし、課題も存在します。長時間装着時の快適性、バッテリー寿命、メンテナンス、そして社会的受容性といった実用面での検証はこれからです。また、労働現場での安全基準や保険適用の問題、倫理的な議論も避けて通れません。「人間の能力拡張」はどこまで許容されるのか、という根本的な問いも提起されるでしょう。
それでも、共同創業者のフェン・シャが8,000メートル以上の「デスゾーン」で経験した極限の疲労を解決しようとした発想は示唆的です。デスゾーンとは、酸素圧が人間の生存に不十分な高度を指し、海面レベルの約30%の酸素しかない環境では、人体は16時間から20時間しか生存できません。認知機能の低下、判断力の喪失、幻覚といった症状が現れる過酷な環境です。
この極限状態への挑戦から生まれた技術が、日常の疲労軽減や高齢者の自立支援、労働者の負傷予防へと応用される流れは、テクノロジーが人間の限界をどう拡張し、生活の質をどう向上させるかを問い直す好例と言えるでしょう。
【用語解説】
モジュラー式外骨格
用途に応じて部品を交換できる設計の外骨格システム。従来の外骨格は用途ごとに専用設計されていたが、モジュラー式では腰部モジュールと膝部モジュールを付け替えることで、一つのベースシステムで複数の活動に対応できる。
AIモーションエンジン
ユーザーの動作パターンを認識し、状況に応じて最適なサポートを提供する人工知能システム。アセンティズのシステムでは、歩行、階段昇降、坂道など7種類以上の活動シナリオを99.5%の精度で識別し、200ミリ秒以内にサポートモードを切り替える。
デスゾーン
登山用語で、海抜8,000メートル以上の高度を指す。この高度では大気圧が海面レベルの約3分の1となり、酸素圧が人間の生存に不十分な水準まで低下する。人体は16時間から20時間しか生存できず、認知機能の低下や判断力の喪失が起こる。
準直接駆動システム
モーターの回転力を減速機を介して伝達する駆動方式。高トルクを生み出しながら、機構の応答性と効率性を両立させる。アセンティズ-Hの腰部モジュールで採用されている。
ケーブル駆動機構
ワイヤーやケーブルを用いて力を伝達する駆動方式。軽量化が可能で、関節の動きに柔軟に追従できる特徴がある。アセンティズ-Kの膝部モジュールで採用されている。
NMPA(国家薬品監督管理局)
中国における医薬品、医療機器、化粧品などの承認・監督を行う政府機関。日本の厚生労働省やアメリカのFDAに相当する。医療機器の製造・販売には同局の登録証明書が必要となる。
CES
Consumer Electronics Showの略。毎年1月にラスベガスで開催される世界最大級の家電・技術見本市。最新のテクノロジーやイノベーションが発表される場として知られる。
【参考リンク】
アセンティズ公式サイト(外部)
世界初のモジュラー式外骨格システムを開発する企業の公式サイト。製品の詳細仕様、技術解説、購入オプションを掲載。
キックスターター – アセンティズプロジェクトページ(外部)
2025年11月に実施したクラウドファンディングキャンペーン。外骨格プロジェクトとして最高資金調達額第1位を獲得。
ロボCT公式サイト(英語版)(外部)
杭州ロボCT技術開発有限公司の公式サイト。アセンティズの親会社で、医療用外骨格ロボットのパイオニア。
CES公式サイト(外部)
世界最大級の家電・技術見本市CESの公式サイト。2026年は1月7日から10日までラスベガスで開催。
【参考記事】
Ascentiz – Exoskeleton Report(外部)
アセンティズの詳細仕様と約250万ドルの資金調達実績を報告。ロボCTのコンシューマー向けブランドとしての背景を解説。
Exoskeleton Market Size, Share, Trends – MarketsandMarkets(外部)
外骨格市場は2025年の5.6億ドルから2030年に20.3億ドルへ成長予測(CAGR 19.2%)。
Wearable Robotic Exoskeleton Market – Fortune Business Insights(外部)
ウェアラブルロボット外骨格市場は2025年の24.9億ドルから2032年に305.6億ドルへ成長予測(CAGR 43.10%)。
Where Are Wearable Human Exoskeletons Headed in 2026? – The Exoskeleton Store(外部)
2026年は外骨格技術が臨床・産業環境から日常生活へと移行する転換点となる年と分析。消費者市場が新たな成長エンジンに。
Ascentiz Unveils World’s First Modular Exoskeleton – stupidDOPE(外部)
共同創業者フェン・シャが8,000メートル以上のデスゾーンで経験した疲労が開発のきっかけとなった経緯を詳述。
【編集部後記】
外骨格というと、まだまだSFの世界の話のように感じる方も多いかもしれません。でも、長時間歩いた後の膝の痛みや、重い荷物を持ち続けたときの疲労感は、誰もが経験したことがあるはずです。
もし、そんな日常の制約から少しだけ自由になれる選択肢が、スマートフォンと同じくらい身近になったら、みなさんはどう使いますか。通勤に、趣味に、それとも年齢を重ねた後の自立した生活のために。テクノロジーが「特別な人のためのもの」から「誰もが選べるもの」へと変わる瞬間を、私たちは今、目撃しているのかもしれません。
































