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Toyota × Agility Robotics、カナダ自動車工場にヒューマノイド「Digit」を本格投入へ

Toyota Motor Manufacturing Canada(TMMC)は2026年2月19日、Agility Roboticsと商用のRobots-as-a-Service契約を締結した。これはカナダの自動車製造における初の商用ヒューマノイドロボット導入となる。

TMMCはオンタリオ州ウッドストック工場で1年間のパイロットを実施し、3台のDigitを用いた開発作業、概念実証、実地テストを経て今回の契約に至った。4月初旬から7台のDigitが組立ラインに配備され、自動搬送車(タガー)における部品トートの積み替え作業を担う。

同工場は日本国外におけるToyota最大の製造拠点であり、年間生産能力は50万台超、1988年の操業開始以来1,100万台以上を生産している。Agility RoboticsはGXO、Schaeffler、Amazonなどの大手顧客への導入実績を持つ。両社は今後、エルゴノミクス上の負荷が高い組立作業を中心に、さらなるユースケースの評価を進める方針である。

From: 文献リンクToyota Canada signs humanoid robot deal with Agility

【編集部解説】

今回の契約は、ヒューマノイドロボットが自動車製造という最も要求の厳しい産業環境で「パイロット」から「商用運用」へ移行した、数少ない実例の一つです。

なお、配備台数について補足が必要です。元記事では「パイロットの3台から7台へのステップアップ」と表現していますが、The Robot Reportは「パイロットの3台に加え7台を追加配備(計10台)」と報じています。一方、Global Newsは「契約のもとで7台が割り当てられているが、配備はまず3台から開始される」と伝えており、情報源によって解釈が分かれている点にご留意ください。

Digitが現在担っているのは、自動搬送車(タガー)からの部品トートの積み替えという、限定的かつ高度に反復的な作業です。TechCrunchの報道によれば、Digitは人間が近くにいない産業環境で稼働するよう設計されています。また、The Logicの報道では、現行のヒューマノイドロボットは人間が作業空間に入ったことを検知できないため、プレキシガラス製の安全ケージ内に限定されているとされています。つまり、人間と同じ空間で自由に協働するロボットという段階にはまだ至っていません。

この点こそが、Agility Robotics CEOのペギー・ジョンソン氏が言及した「次世代Digit」の重要性につながります。The Logicの報道によれば、次世代Digitは2026年12月の投入が予定されており、可搬重量は25kgに向上し、人間が使用する空間内でより自由に移動できるようになるとのことです。Agility Roboticsは、人間と並んで安全に稼働する「協調安全(cooperatively safe)」認証の取得を目指しており、これが実現すれば、ヒューマノイドの適用範囲は飛躍的に拡大する可能性があります。

ビジネスモデルにも注目すべき点があります。今回の契約はRobots-as-a-Service(RaaS)形態で、The Logicの取材によればAgility Roboticsは通常3年契約を結び、月額料金は人間の従業員に支払う額を下回るとしています。同社CTOのプラス・ベラガプディ氏は過去のインタビューで、「導入コストはロボット本体の価格をはるかに上回ることがある」と述べており(TechCrunchが引用)、AIツールによる導入コスト削減の重要性を強調しています。

競合環境も急速に動いています。Figure AIのFigure 02は、BMWのサウスカロライナ州スパータンバーグ工場で11か月間の実証運用を完了し、1,250時間以上の稼働で90,000個以上の部品を搬送、30,000台以上のBMW X3の生産に貢献しました。Hyundai Motor Groupは傘下のBoston Dynamicsのロボットを2028年から自動車製造に投入する計画を発表しています。TeslaのOptimusは社内テスト段階にあり、2026年に50,000台の製造を目標としています。

カナダの自動車産業が置かれた文脈も見逃せません。The Logicによれば、トランプ政権による関税の影響でGMやStellantisがカナダでの一部製造を停止または米国に移管しており、結果としてToyotaとHondaがカナダの自動車生産に占める比率が拡大しています。こうした環境下で、TMMCが労働力不足への対応とともに製造効率を維持する手段としてヒューマノイド導入に踏み切ったという判断には、地政学的な背景も読み取れます。

規制面では、ヒューマノイドロボットの安全基準はまだ発展途上にあります。従来の産業用ロボットや協働ロボットには確立された安全規格が存在しますが、二足歩行でバランスを取りながら動作する「動的安定型産業用移動ロボット」に適用される規格は策定段階です。Agility Roboticsが目指す協調安全認証は、この分野の規制枠組みの形成にも影響を与える可能性があります。

今回のTMMCの決定は、ヒューマノイドロボットが「未来の技術デモ」から「現場の運用ツール」へと変わりつつあることを示しています。ただし、7台(あるいは10台)という規模は、8,500人以上の従業員を擁するTMMCの全体像からすれば極めて小さく、自動車製造の本格的な変革にはまだ距離があることも事実です。真の転換点は、安全ケージの外で人間と並んで稼働できるようになったときに訪れるでしょう。

【用語解説】

Robots-as-a-Service(RaaS)
ロボットを購入するのではなく、月額料金を支払って利用するサービスモデル。ハードウェアの所有・保守・ソフトウェア更新の責任はベンダー側が負う。初期投資を抑えつつ、技術進化に柔軟に対応できるため、産業用ロボット分野で採用が広がっている。

ヒューマノイドロボット
人間に近い形態(二足歩行、胴体、腕)を持つロボットの総称である。人間向けに設計された既存の施設や設備をそのまま利用できる点が、車輪型ロボットや固定式ロボットアームとの最大の違いである。

トート(Tote)
物流・製造現場で使用される部品や製品を収納・搬送するためのプラスチック製コンテナである。

タガー(Tugger)
工場内で部品や資材を載せた台車を牽引する自動搬送車である。組立ラインへの部品供給を効率化するために使用される。

協調安全(Cooperatively Safe)
ロボットが物理的な安全柵や立入禁止区域なしに、人間と同じ空間で安全に作業できる状態を指す。現在のヒューマノイドロボットは多くの場合プレキシガラス製の安全ケージ内で稼働しており、この認証の取得が大規模展開の鍵とされている。

概念実証(PoC: Proof of Concept)
新技術やアイデアが実現可能であることを検証するための試験的な取り組みである。本格導入前にリスクを評価する目的で実施される。

エルゴノミクス(Ergonomics)
人間工学。作業環境や道具を人間の身体特性に合わせて設計する学問分野である。製造業では、作業者の身体的負担を軽減し、労災を防ぐための取り組みとして重視されている。

【参考リンク】

Agility Robotics 公式サイト(外部)
ヒューマノイドロボット「Digit」とクラウド管理基盤「Agility Arc」を開発・提供するオレゴン州拠点の企業。

Toyota Motor Manufacturing Canada(TMMC)(外部)
日本国外最大のToyota製造拠点。オンタリオ州ケンブリッジとウッドストックで車両組立工場を運営する。

GXO Logistics(外部)
世界最大の専業コントラクト・ロジスティクス企業。Agility Roboticsと業界初の商用ヒューマノイドRaaS契約を締結した。

Figure AI(外部)
汎用ヒューマノイド「Figure 02」「Figure 03」を開発するカリフォルニア州拠点の企業。BMW工場で実証運用の実績を持つ。

Schaeffler(外部)
ドイツ本社のモーションテクノロジー企業。Agility Roboticsへの出資者であり、自社製造施設でDigitを導入している。

【参考動画】

GXO Logistics倉庫でDigitがトートを搬送する様子を収録した映像。今回のToyota工場と同様のトート積み替え作業を確認できる。

【参考記事】

Toyota contracts seven Agility humanoid robots for Canadian factory — TechCrunch(外部)
Digit 7台のRaaS導入を報道。人間不在環境での稼働設計や、導入コストがロボット本体価格を上回る課題を伝えている。

Toyota is bringing Agility’s humanoid robots to a Canadian factory floor — The Logic(外部)
通常3年契約・月額は人件費以下であること、次世代Digitが2026年12月投入予定で可搬重量25kgに向上と詳報。

TMMC to deploy Agility Robotics’ Digit humanoids — The Robot Report(外部)
パイロット3台に加え7台追加で計10台と報道。2025年生産台数535,000台超、RAV4への$1.1B投資にも言及している。

Meet Digit: Toyota’s newest worker doesn’t need coffee breaks — Global News(外部)
契約では7台が割り当てられているが、配備はまず3台から開始されると伝えている。カナダ国内向けの報道。

F.02 Contributed to the Production of 30,000 Cars at BMW — Figure AI(外部)
Figure 02がBMW工場で11か月稼働、90,000部品搬送・30,000台のX3生産に貢献。前腕部が最多故障箇所と報告。

Humanoid Robots Complete Trial Project at BMW Assembly Plant — ASSEMBLY Magazine(外部)
Figure 02のBMW実証詳細を報道。37秒以内の部品搬入、5mm公差での配置精度99%の目標設定などを伝えている。

Agility Robotics Announces Commercial Agreement with TMMC — 公式プレスリリース(外部)
Agility Roboticsによる公式発表。両社幹部コメント全文、Digitの機能概要とAgility Arcの説明を掲載している。

【編集部後記】

ヒューマノイドロボットが工場で「同僚」になる日は、もう遠い未来の話ではないのかもしれません。今回のToyotaの判断で興味深いのは、最先端の技術を最も地味な作業から導入しているという点です。

みなさんの職場や日常に、こうしたロボットが入ってくるとしたら、どんな場面を想像しますか? ぜひSNSなどで聞かせていただけるとうれしいです。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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