MIT、380度以下で製造可能な次世代3D積層チップを開発 ─ AIハードウェアに革新をもたらす新技術

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MITのエンジニアチームが、革新的な3Dチップの製造技術を開発した。この研究成果は2024年12月18日、Nature誌に掲載された。

研究チームの主な成果

エッジ核形成技術により380度以下の低温製造を実現し、2種類のTMD材料を直接積層する新手法を確立した。使用された材料は、nタイプトランジスタ用のモリブデンジスルフィドとpタイプトランジスタ用のタングステンジセレナイドである。

技術的特徴

シリコンウェハー基板が不要となり、CMOSの半導体素子密度が2倍に向上。数十から数百の論理・メモリ層を積層可能となった。

研究の進展

2023年に900度での製造技術を確立し、2024年には380度での製造に成功。次段階としてプロフェッショナルなAIチップ動作の実証を目指している。

from:MIT engineers grow “high-rise” 3D chips

【編集部解説】

半導体業界は長年、「ムーアの法則」に従って平面上にトランジスタを集積してきましたが、物理的な限界に近づいています。この課題に対して、MITの研究チームは「上方向への展開」という新しいアプローチを実現しました。

従来の3D積層チップでは、各層にシリコンウェハーという「床」が必要でした。これは層間の通信速度を低下させる要因となっていました。今回の革新的な技術では、380度以下という低温でTMD(遷移金属ジカルコゲナイド)材料を直接積層することに成功しています。

実用化への期待と課題

この技術は、AIハードウェアの性能を劇的に向上させる可能性を秘めています。データセンター級の処理能力を、ラップトップやウェアラブルデバイスに搭載できるようになるかもしれません。

産業界への影響

この技術は半導体産業に大きな変革をもたらす可能性があります。特に、ASMLのような半導体製造装置メーカーにとって、新たな製造プロセスの開発が必要になるでしょう。

研究チームはすでに「FS2(Future Semiconductor 2D materials)」という会社を設立し、商業化に向けて動き出しています。現在は小規模なデバイスでの実証段階ですが、今後のスケールアップが期待されます。

将来展望

この技術は、単なる性能向上だけでなく、エネルギー効率の改善にも貢献する可能性があります。また、カスタマイズ可能な設計により、医療機器やIoTセンサーなど、特殊用途向けの半導体開発も容易になるでしょう。

しかし、量産化に向けては、製造コストの削減や歩留まりの向上など、まだ多くの課題が残されています。また、新しい製造プロセスの標準化や品質管理の確立も必要となります。

社会的インパクト

この技術革新は、AIの民主化にも大きく貢献する可能性があります。現在はデータセンターでしか実行できない大規模なAI処理が、個人のデバイスでも可能になるかもしれません。

一方で、高性能チップの普及は、デジタルデバイドを深める可能性もあります。技術の恩恵を広く社会に行き渡らせるためには、コストダウンと共に、適切な規制枠組みの整備も必要でしょう。

【用語解説】

  • TMD(遷移金属ジカルコゲナイド)
    原子1個分の厚さでも半導体特性を維持できる2次元材料
  • エッジ核形成
    金属工学の技術を応用し、結晶成長を低温で実現する手法
  • CMOS
    現代のロジック回路の基本構成要素となる相補型金属酸化膜半導体

【参考リンク】

  1. MITニュースリリース(外部)
    MITによる研究成果の公式発表。詳細な技術説明と研究者のコメントを掲載

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