株式会社リガクは、半導体製造工程向けの計測装置「ONYX 3200」の販売を開始した。本装置は、半導体チップ内の金属配線の形成工程およびパッケージング工程において、ウェーハの膜厚・組成とバンプの高さを測定できる。3D共焦点光学スキャナーにより、10マイクロメートル以下のバンプを計測可能で、従来は複数の装置が必要だった測定を1台で完結できる。
独自のデュアルヘッド・マイクロフォーカスX線源により、直径20マイクロメートル以下のバンプに含まれる約2%の銀を約10万分の4の精度で測定する。1号機はファウンドリー顧客のパッケージング工程向けに出荷済みである。2026年は15億円、2027年度には30億円の売上達成を目指している。
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【プレスリリース】リガク、半導体向け計測装置「ONYX 3200」を販売開始~チップの配線からパッケージング工程まで、金属検査を1台で完結~リガク、半導体向け計測装置「ONYX 3200」を販売開始


【編集部解説】
リガクが発表したONYX 3200は、半導体製造の「見えない壁」を突破する計測装置です。この装置が注目される理由は、半導体産業が直面している構造的な課題と深く関係しています。
AI向けチップやデータセンター用プロセッサの需要拡大に伴い、半導体チップの内部構造は極限まで微細化・複雑化しています。特に、チップ内部の金属配線を形成するBEOL工程や、チップを基板に接続するパッケージング工程では、髪の毛の10分の1以下という極小の「バンプ」と呼ばれる接続構造を正確に制御する必要があります。
従来の計測手段では、バンプの上層にあるスズや銀が下層の銅やニッケルからのX線を吸収してしまうため、多層構造全体を一度に測定することが困難でした。このため、複数の装置を使い分ける必要があり、製造工程の効率を大きく低下させていました。
ONYX 3200の革新性は、この問題を「3D共焦点光学スキャナー」と「デュアルヘッド・マイクロフォーカスX線源」という2つの技術で解決した点にあります。光学スキャナーでバンプ全体の高さを測定し、X線でバンプ上層の厚みを測定することで、差し引き計算により下層金属の厚さを間接的に求めることができます。
さらに注目すべきは、直径20マイクロメートル以下のバンプに含まれるわずか2%の銀を、約10万分の4という極めて高い精度で測定できる点です。スズと銀の比率はパッケージングの接続信頼性に直結するため、この測定精度の高さが製品の歩留まり向上に大きく貢献します。
半導体業界では、チップレット設計や3Dパッケージングといった先端技術の採用が加速しています。これらの技術では、異なる機能を持つ複数のチップを1つのパッケージ内で接続するため、接続部分の品質管理がこれまで以上に重要になります。ONYX 3200のような高精度計測装置は、こうした次世代半導体製造を支える「インフラ」として不可欠な存在といえるでしょう。
リガクはすでに1号機を大手ファウンドリー企業に出荷しており、2027年度には本装置単体で30億円の売上を目指しています。日本企業が持つX線分析技術の強みを活かし、グローバルな半導体サプライチェーンにおける重要なポジションを確立しつつあります。
【用語解説】
BEOL(Back-End-of-Line)
半導体製造工程の後工程を指す。トランジスタなどの素子を作る前工程(FEOL)の後に行われる、チップ内部の金属配線を形成する工程。複数の金属層を積層し、電気信号を伝達する微細な配線網を構築する。
バンプ(Bump)
半導体チップを基板に接続するための微小な突起状の接続端子。スズ、銀、銅、ニッケルなどの金属を積層した構造を持ち、電気信号の伝達と物理的な接続を担う。直径が数マイクロメートルから数十マイクロメートルの極小サイズ。
ファウンドリー(Foundry)
半導体の製造を専門に請け負う企業。設計のみを行うファブレス企業から委託を受け、実際のチップ製造を担当する。台湾のTSMCや韓国のサムスンなどが代表例。
パッケージング(Packaging)
半導体チップを外部と接続し、物理的に保護するための工程。チップを基板に実装し、樹脂などで封止する。先端パッケージング技術では、複数のチップを1つのパッケージ内で統合する。
3D共焦点光学スキャナー
レーザー光を用いて対象物の三次元形状を非接触で測定する装置。焦点位置を変えながら走査することで、微細な凹凸や高さを高精度に計測できる。
蛍光X線分析(XRF)
物質にX線を照射し、発生する蛍光X線を測定することで、元素の種類や量を分析する手法。非破壊で材料の組成を調べることができる。
チップレット(Chiplet)
大きな単一チップではなく、機能ごとに分割した小さなチップを複数組み合わせて1つのパッケージを構成する設計手法。歩留まり向上とコスト削減を実現する。
【参考リンク】
リガク・ホールディングス株式会社(外部)
X線分析装置の世界的メーカー。半導体・材料分析・ライフサイエンス分野に製品を提供している。
ONYX 3200製品ページ(外部)
デュアルヘッドX線源と3D光学スキャナーを組み合わせた技術仕様や測定事例を掲載。
リガク半導体計測ソリューション(外部)
半導体製造向けX線計測装置の総合ページ。多様な技術を用いた製品ラインナップを紹介。
【参考記事】
Rigaku Launches ONYX 3200, a Metrology Instrument for Semiconductor Manufacturing(外部)
2026年に15億円、2027年に30億円の売上目標を掲げる。大手ファウンドリーに1号機出荷済み。
The Future of Semiconductor Manufacturing: Trends in Advanced Packaging(外部)
ヘテロジニアス統合、2.5D/3D統合、チップレットが半導体製造の未来を形作る。
Advanced Packaging Is Radically Reshaping the Chip Ecosystem(外部)
マルチチップパッケージングがGenAIを支え、半導体エコシステムを変革している。
Advanced Packaging Solutions: Pushing the Limits of Semiconductor Performance(外部)
ムーアの法則の限界に直面する中、先端パッケージング技術が性能向上の鍵となっている。
Measurements of AgSn micro solder bump using monochromatic micro X-ray beam(外部)
COLORS-W技術により、従来の白色X線方式よりも高精度・高速な測定が可能に。
【編集部後記】
半導体チップの微細化が進む中、製造現場では「見えないものを測る」技術がますます重要になっています。今回ご紹介したONYX 3200のような計測装置は、私たちが日常使うスマートフォンやAIサービスの性能を、目に見えないレベルで支えています。
半導体産業では、設計や製造だけでなく、こうした計測・検査技術も技術革新の最前線です。みなさんは、普段使っているデバイスの内部で、どのような技術的な挑戦が行われているか、考えたことはありますか。今後も半導体製造を支える「縁の下の力持ち」的な技術にも注目していきたいと思います。































