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TSMC、熊本で3nm半導体を量産へ 投資額170億ドルに拡大、日本のAI産業の基盤に

[更新]2026年2月7日

TSMC、熊本で3nm半導体を量産へ 投資額170億ドルに拡大、日本のAI産業の基盤に

TSMCのCEOであるシーシー・ウェイは2月5日、日本南部の熊本で先進的な3ナノメートルチップの量産を計画していると表明した。報道はは投資額を170億ドルと報じたが、TSMCはコメントを控えた。

世界最大の半導体受託製造企業であるTSMCは、現在最先端チップを台湾で生産しており、日本での以前の計画はより低度な技術に焦点を当てていた。ウェイは東京で高市早苗首相と会談し、この工場が日本のAIビジネスの基盤を形成すると述べた。

TSMCは日本の第2工場での生産にAI需要に対応するため3ナノメートルプロセス技術を使用する計画だとReutersに伝えた。当初、TSMCは九州の第2工場で6〜12ナノメートルのチップ製造能力に122億ドルを投資する計画だったが、日本政府と計画変更を協議する。

同社は2027年にアリゾナの第2工場でこれらのチップの生産を開始する予定である。

From: 文献リンクTSMC CEO flags 3-nanometre chip production in Japan, investment reported at $17 billion

【編集部解説】

特筆すべきは、TSMCが当初計画を大幅に変更した背景にあるAI需要の爆発的な拡大です。元々、熊本第2工場は自動車向けを中心とした6〜12ナノメートルのチップ生産を想定していました。しかし2025年後半から顕在化したAI半導体の需要増加により、より高度な3ナノメートルへの転換を決断しました。投資額も122億ドルから170億ドル(約2兆6000億円)へと約40%増加しています。

3ナノメートルチップの製造には、極端紫外線(EUV)露光装置をはじめとする極めて高価で高度な製造設備が必要となります。1台あたり200億円を超えるEUV装置を複数台導入するだけでなく、それを支える化学材料、特殊ガス、精密部品のサプライチェーン全体が、より高い技術レベルへの対応を求められることになります。

経済安全保障の観点からも、この投資の意義は極めて大きいと言えます。AI時代において半導体は「21世紀の石油」と呼ばれるほど戦略的に重要な資源となっており、先端チップの国内生産能力を持つことは、国家の技術的自立性と産業競争力の根幹に関わります。高市首相が「経済安全保障において大きな意義を持つ」と述べた背景には、こうした認識があります。

一方で、課題も少なくありません。最も懸念されるのが水資源の問題です。半導体製造には膨大な量の純水が必要で、3ナノメートルプロセスへの移行により水使用量はさらに増加します。熊本県は豊富な地下水で知られますが、地域の水資源の持続可能性について、TSMCと地域社会の継続的な対話が不可欠となるでしょう。

また、高度な半導体製造を支える人材の確保も重要な課題です。3ナノメートルプロセスの製造には、1000工程を超える複雑な製造ステップを管理できる高度な技術者が必要となります。熊本だけでなく、九州全域、さらには全国規模での人材育成と確保が求められます。

グローバルな文脈では、TSMCが米国アリゾナ州でも2027年に3ナノメートル生産を開始する予定であることが注目されます。台湾、日本、米国という3拠点体制により、TSMCは地政学的リスクの分散と顧客への安定供給を実現しようとしています。これは「チップ4」と呼ばれる日米台韓の半導体同盟の具体化とも言えるでしょう。

日本政府は既に熊本第2工場に最大7320億円の補助金を決定していますが、投資額の増加に伴い追加支援が検討されています。北海道のRapidusが2027年度に2ナノメートルチップの量産を目指していることもあり、政府は両社のチップが異なる用途で競合しないとの判断を示しています。TSMCの3ナノメートルがAIや高性能コンピューティング向けであるのに対し、Rapidusはより先端的な2ナノメートルで異なる市場を狙う戦略です。

今回の決定は、単なる工場建設を超えた意味を持ちます。それは日本が再び世界の先端半導体製造の舞台に立ち返り、AI時代の技術競争において重要な役割を果たすという宣言に他なりません。1980年代に世界シェア50%を誇った日本の半導体産業の「復権」ではなく、むしろAI時代という新たな文脈における日本の半導体産業の「再定義」が始まったと捉えるべきでしょう。

【用語解説】

ファウンドリ(半導体受託製造)
自社で半導体を設計せず、他社から製造を請け負う専門企業のビジネスモデル。TSMCが1987年に世界で初めてこのモデルを確立した。顧客企業は設計に専念し、製造はファウンドリに委託することで、巨額の設備投資を回避できる。

EUV(極端紫外線)露光装置
波長13.5ナノメートルの極端紫外線を使用して半導体の微細パターンを形成する最先端の製造装置。3ナノメートル以下の先端プロセスには不可欠で、オランダASML社がほぼ独占的に製造している。1台あたり200億円以上と極めて高価である。

プロセス技術
半導体の製造工程における技術的手法の総称。特に回路線幅の微細化技術を指すことが多く、「7nmプロセス」「3nmプロセス」のように表現される。数字が小さいほど高度な技術を要する。

経済安全保障
経済活動を通じて国家の安全保障を確保する政策概念。半導体のような戦略物資の国内生産能力を持つことで、供給途絶リスクを回避し、技術的自立性を維持する。近年、地政学的緊張の高まりにより各国が重視している。

【参考リンク】

TSMC(台湾積体電路製造)(外部)
世界最大の半導体受託製造企業。1987年設立。AppleやNvidiaをはじめとする世界の主要テクノロジー企業に最先端半導体を供給している。

Nvidia(外部)
米国のGPU(グラフィックス処理装置)メーカー。AI向け半導体市場で圧倒的なシェアを持つ。データセンター向けAIチップの需要急増により、世界で最も価値の高いテクノロジー企業の一つとなっている。

Rapidus(外部)
2022年8月設立の日本の半導体メーカー。ソニー、トヨタ、NTTなど日本の主要8社と政府の支援を受け、北海道千歳市で2nmプロセスの先端半導体の2027年量産開始を目指している。

【参考記事】

TSMCが熊本での3ナノ半導体生産計画前倒し、2028年まで-関係者(外部)
Bloomberg報道。TSMCは熊本での3nm半導体量産を当初計画より前倒しする方針。投資額は170億ドル(約2兆6000億円)。高市首相が推進する国内半導体製造能力強化を後押し。

TSMC brings its most advanced chipmaking node to the US yet(外部)
TSMCはアリゾナ州Fab 21 phase 2への設備搬入を2026年夏に開始し、2027年に3nm生産を開始する予定。当初の2028年から前倒し。

自動車不振からAIへ:TSMC熊本、3nm転換の衝撃(外部)
TSMCの日本拠点は自動車向け半導体需要の低迷により苦戦していたが、AI需要を取り込むためプロセス戦略を転換。当初122億ドルで6〜12nmプロセスを計画していたが、170億ドル(約2兆6000億円)で3nmに変更。

【編集部後記】

今回のTSMCの決断は、日本の半導体産業にとって大きな転換点になるかもしれません。かつて世界シェア50%を誇った日本の半導体産業が、30年以上の時を経て、再び最先端の舞台に立とうとしています。

皆さんは、この動きをどのように捉えていらっしゃいますか。熊本を中心とした九州地域が世界のAI産業を支える拠点となる未来、あるいはRapidusとの競争と協力の構図など、これから展開される物語に注目していきたいと思います。皆さんのご意見やご感想もぜひお聞かせください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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