2024年に宇宙飛行士2人をISSへ運んだ宇宙船が、次は誰も乗せずに飛びます。NASAとボーイングは無人のStarliner-1で改修の効果を確かめ、宇宙飛行士を再び乗せるのは2028年としました。帰還を断念してから2年、NASAはなぜ追加の費用を払ってまで、この宇宙船を手放さないのでしょうか。
NASAとボーイングは2026年9月28日、宇宙船「スターライナー」の今後の計画を発表した。次の飛行「Starliner-1」は無人で国際宇宙ステーション(ISS)へ物資を運び、サービスモジュールに施した熱対策の効果を確かめる。打ち上げは2026年12月または2027年1月の可能性がある。飛行後にスラスター弁の設計変更などを済ませ、2028年に「Starliner-2」で宇宙飛行士を運ぶ計画だ。NASAは5回目と6回目の飛行の選択権を行使する意向を示し、アトラスVの後継としてバルカンロケットを有人飛行用に認証する作業を進める。
読売新聞は10月6日朝刊で、NASAが2028年の有人飛行再開を目指すと発表したと報じました。同紙は、NASAが追加で負担する関連費が3億5900万ドルに上るとも伝えています。この金額はNASAのリリース本文には書かれておらず、記者会見でNASA低軌道プログラムのマネージャー、ダナ・ワイゲル氏が示したものです。
スターライナーの歩みは、innovaTopiaでも2024年から個別の記事として伝えてきました。有人飛行試験の行方や、宇宙飛行士の帰還方法の決定です。この記事では、それらを公表資料でつなぎ直し、NASAがなぜ追加の費用を払ってでもこの宇宙船を飛ばそうとしているのかを読み解きます。
スターライナーの12年
| 時期 | 出来事 | 関連記事/出典 |
|---|---|---|
| 2014年9月 | NASAがボーイングとスペースXを商業有人輸送の事業者に選ぶ | NASA |
| 2019年12月 | 初の無人飛行試験。ISSに到達できず | NASA |
| 2022年5月 | 2回目の無人飛行試験でISSとのドッキングに成功 | NASA |
| 2024年6月 | 初の有人飛行試験。スラスターの不具合とヘリウム漏れが発生 | NASA |
| 2024年8月 | 2人をクルードラゴンで帰還させると決定 | 過去記事、NASA |
| 2024年9月 | スターライナーが無人で帰還 | NASA |
| 2025年3月 | 2人がCrew-9で帰還 | NASA |
| 2025年11月 | 契約を変更。確定4回と選択権2回、Starliner-1は貨物のみで、早くても2026年4月を目標 | NASA |
| 2026年2月 | 調査報告を公表。タイプA、勧告61件 | NASA |
| 2026年9月28日 | 計画を更新 | NASA、ボーイング |
| 2026年10月6日 | 新聞報道 | 読売新聞 |
| 2026年12月〜27年1月 | Starliner-1(予定) | NASA |
| 2028年 | Starliner-2(目標) | NASA |
2月の調査が突き止めたことと、9月の答え
2026年2月19日(米国時間)、NASAは2024年の有人飛行試験に関する調査報告を公表し、この飛行を最も重い「タイプA」の事故に分類しました。報告は技術、組織、文化の3つの領域にわたって61件の勧告を出しています。
9月の発表は、その報告への答えにあたります。焦点はサービスモジュールの姿勢制御スラスターです。調査は、このスラスターが認定された動作範囲の外で作動し、飛行中の制御喪失につながったと結論づけていました。地上での試験と解析の結果、原因は熱環境や設計に由来する特性など、複数の要因が重なったことだと分かりました。
ボーイングはすでにサービスモジュールに熱対策を施しており、Starliner-1でその効果が確かめられます。さらにNASAとボーイングは、スラスター弁の設計変更を追加で行うことを決めました。弁体(ポペット)のシール材が押し出されて変形し、スラスターの性能を損なう現象への対策です。
もう一つの不具合だったクルーモジュール側のスラスターについて、ワイゲル氏は会見で原因を腐食と説明しました。推進剤のヒドラジンが残ったまま大気中の二酸化炭素に触れることで起きるものです。ボーイングは残った推進剤を洗い流し、ガスを流し続けてスラスターを外気から隔離する手順を取り入れています。
Starliner-1は「答え合わせ」の飛行になる
NASAはStarliner-1を、技術評価のための飛行と位置づけています。確かめることは3つあります。熱環境が改善したか、システムの認定に必要な性能データが取れるか、そして有人飛行の前に残るリスクは何か、です。
ここで注目したいのは、すべての改修をStarliner-1に載せるわけではない点です。スラスター弁の設計変更は、Starliner-1の飛行後に完了させます。クルーモジュールのスラスターとバッテリーの交換、パラシュートの改良も、その後に行われます。無人飛行で集めたデータを、そのまま有人機の設計に戻す順番です。Starliner-1からStarliner-2まで1年以上の間が空くのは、この工程のためだと読めます。
Starliner-1の時期は後ろへずれました。2025年11月の契約変更の時点では、早くても2026年4月の打ち上げを目指していました。それが今回、12月または2027年1月となりました。有人飛行については、ボーイングで商業有人輸送を統括するジョン・マルホランド氏が、2028年半ばを目標にしていると会見で補足しています。
Starliner-2の船長には、NASAのウォーレン・「ウッディ」・ホバーグ宇宙飛行士が指名されました。2023年にCrew-6でISSに長期滞在した経験を持つ飛行士です。
なぜNASAは、追加の費用を払ってでもスターライナーを飛ばすのか
米国からISSへ宇宙飛行士を運ぶ運用中の宇宙船は、いまスペースXのクルードラゴンだけです。NASAの宇宙飛行士はロシアのソユーズにも搭乗していますが、NASAが掲げてきたのは、米国自身の輸送手段を複数持つことです。2014年にボーイングとスペースXの2社に開発を託したのも、そのためでした。片方が飛べなくなっても、もう片方で宇宙へ行けるようにするためです。
2024年には、その意味が実際に試されました。スターライナーで飛んだ2人の宇宙飛行士は、結局クルードラゴンで地球へ戻ることになりました。この決定は「スターライナー不具合で計画変更」で伝えています。NASAは2024年8月、スターライナーを無人で帰還させると発表し、2人は2025年3月にCrew-9のクルードラゴンで地球へ戻りました。2つ目の宇宙船があったからこそ、NASAは不安の残る機体での帰還を選ばずに済みました。
そして今回、もう一つの事情が加わりました。アイザックマン長官は会見で、スペースXがファルコンやドラゴンといった既存の機体を退役させ、次世代のスターシップに力を集める意向であることは秘密ではないと述べています。同じ9月28日、スターシップは14回目の飛行で初めて地球周回軌道に到達しました。その飛行は「Starship、14回目の飛行で初の周回軌道に到達」で伝えています。スペースXの軸足が移りつつあることは、この発表と同じ日に形になって見えていました。
ISSは2030年に運用を終える計画で、その後は民間企業の宇宙ステーションへ移っていく予定です。NASAのリリースは、有人輸送の能力を保つことが、ISSを責任をもって終えることと、民間ステーションへ移ることに欠かせないと書いています。2030年をまたいで宇宙飛行士を運ぶ手段を、NASAは手放せない立場にあります。
3億5900万ドルという追加費用は、この文脈で読むと理解しやすくなります。AP通信などの報道によれば、ワイゲル氏は宇宙船の追加改修と、アトラスVの最後の飛行の後に使うバルカンロケットの有人飛行用認証に、この額がかかると説明しました。これとは別に、NASAは契約上の5回目と6回目の飛行について選択権を行使する意向を示しています。ワイゲル氏は、当初の6回に戻る可能性があると述べました。いずれも、スターライナーを2030年代へつなぐ輸送手段として位置づける判断と読めます。
2028年に向けて
スターライナーは2019年の初の無人飛行試験から、長い遠回りを続けてきました。それでも9月の発表から見えるのは、原因を特定し、直し、無人で確かめ、残りを直してから人を乗せるという、地道な手順です。
ISSに宇宙飛行士を送る国々にとっても、これは他人事ではありません。日本の宇宙飛行士も、いまは米国の商業宇宙船でISSへ向かっています。米国自身の宇宙船2機で有人輸送を支える体制を実現できるか。その最初の関門がStarliner-1で、その先には残りの改修と認証が控えています。
早ければ年内に、その最初の答えが出ます。
【編集部後記】
船長に指名されたホバーグ飛行士は、会見でスターライナーを「パイロットのための宇宙船」と表現しました。エンジニアであり、事業用操縦士でもある飛行士の言葉です。この機体には正しくできている部分がたくさんある、とも話しています。
調査報告から8か月。次にこの宇宙船に乗る人が、欠点の数ではなく長所から語り始めたことは、覚えておきたいと思います。その言葉が実際の飛行で確かめられるのは2028年です。まずは、早ければ年内に飛ぶ無人の1便を待ちます。
【用語解説】
サービスモジュール/クルーモジュール
スターライナーを構成する2つの部分。クルーモジュールは宇宙飛行士が乗るカプセルで、地球へ帰還する。サービスモジュールはその下に付き、スラスターや電源などを積む。帰還の前に切り離される。
姿勢制御スラスター
宇宙船の向きや位置を細かく調整するための小型の噴射装置。ISSへのドッキングのように精密な操縦が必要な場面で使う。
ポペット
弁の中で流路を開け閉めする可動部品(弁体)。今回は、この部品のシール材が押し出されて変形し、推進剤の流れを妨げる現象が問題になった。
ヒドラジン
宇宙機の推進剤として広く使われる液体燃料。残った推進剤が大気に触れると、部品の腐食の原因になりうる。
タイプA
NASAが事故(ミシャップ)を重大度で分類するときの最上位の区分。
認定と認証
認定(qualification)は、部品やシステムが設計どおりの範囲で働くことを試験で確かめる工程を指す。認証(certification)は、宇宙飛行士を乗せた運用をNASAが認める手続きを指す。
選択権(オプション)
契約であらかじめ定めておく、追加の飛行を発注できる権利。2025年11月の契約変更で、5回目と6回目の飛行は確定発注から選択権に移っていた。
【参考リンク】
NASA|NASA, Boeing Share Update on Commercial Starliner Development Plans(外部)
NASAの2026年9月28日の発表。Starliner-1の位置づけ、スラスターの原因と対策、選択権の行使とバルカンの認証方針を記す。
Boeing|Starliner-1 mission updates(外部)
ボーイングによるStarliner-1の最新情報。2026年12月か2027年1月の打ち上げ時期と、契約変更の概要をまとめている。
NASA|NASA Releases Report on Starliner Crewed Flight Test Investigation(外部)
NASAが2026年2月19日に公表した有人飛行試験の調査報告。この飛行を最も重いタイプAに分類し、61件の勧告を出した。
NASA|NASA Decides to Bring Starliner Spacecraft Back to Earth Without Crew(外部)
NASAが2024年8月24日に、スターライナーを無人で帰還させ、2人の宇宙飛行士は後のCrew-9で戻すと決めた発表。
NASA|Welcome Home! NASA’s SpaceX Crew-9 Back on Earth After Science Mission(外部)
2025年3月、Crew-9のクルードラゴンで2人の宇宙飛行士を含む4人が無事に地球へ帰還したことを伝えるNASAの発表。
NASA|NASA, Boeing Modify Commercial Crew Contract(外部)
2025年11月24日の契約変更。確定発注を4回に減らして2回を選択権とし、Starliner-1を貨物のみの飛行にした。
SpaceX|Starship Flight 14(外部)
SpaceXによる14回目の飛行の公式ページ。2026年9月28日、スターシップが初めて地球周回軌道に到達した飛行である。
NASA|Commercial Crew Program(外部)
NASAの商業有人輸送プログラムの公式ページ。民間企業の宇宙船で宇宙飛行士をISSへ運ぶ仕組みと、その経緯を紹介している。
読売新聞(2026年10月6日朝刊)
NASAが2028年の有人飛行再開を目指すと発表したと報じた紙面記事。
【参考記事】
NASA ramps up support to get Boeing’s astronaut capsule flying after Butch and Suni fiasco(AP通信/ABC News掲載)(外部)
会見を伝えたAP通信の配信記事。宇宙船の追加改修と新ロケットの認証に3億5900万ドルかかるとしたワイゲル氏の説明を報じた。
Boeing’s Starliner won’t launch astronauts until 2028 (and may need a new rocket), NASA says(Space.com)(外部)
クルーモジュールのスラスター腐食と対策を伝えた記事。すべての改修をStarliner-1で試すわけではない事情を説明する。
Next Crewed Boeing Starliner Flight Not Until 2028(SpacePolicyOnline)(外部)
会見の発言を整理した記事。ボーイングのマルホランド氏が、有人飛行は2028年半ばを目標にしていると補足したことを伝える。
NASA reveals new plan for Boeing’s troubled Starliner spacecraft and commander of future mission(CNN)(外部)
アイザックマン長官がスペースXの機体退役方針に触れた発言と、NASAが追加の費用を払ってでもスターライナーを残す理由を伝える。
NASA and Boeing are moving forward with a Starliner launch as soon as this year. Here’s why that matters(Houston Public Media)(外部)
当初の6回の飛行に戻る可能性があるとしたワイゲル氏の発言など、Starliner-1が持つ意味を整理したヒューストンの記事。


















