祝融号、火星の古代海岸線を発見—40億年前の海洋存在を示唆

祝融号が発見!火星の古代海岸線 - 40億年前の「バケーションビーチ」が明らかに - innovaTopia - (イノベトピア)

中国とアメリカの科学者チームは、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に2025年2月に発表した研究で、火星に古代の海岸線が存在した証拠を発見した。

この研究では、中国の祝融号火星探査車が収集した地中レーダー(GPR)データを分析し、火星のユートピア平原地下に15度の角度で上向きに傾斜する厚い物質層を検出した。この構造は地球で見られる埋もれた海岸線と同じパターンを示している。

ペンシルバニア州立大学の地質学者ベンジャミン・カルデナス氏によると、この発見は火星上に「バケーションスタイルのビーチ」が存在していたことを示す証拠だという。研究チームは、「デウテロニルス」と名付けられた火星の北部海洋が約35億から40億年前に存在し、数百万年間持続していたと推測している。この海洋では波、潮汐、河川デルタが形成される環境だったと考えられる。

カリフォルニア大学バークレー校の地球物理学者マイケル・マンガ氏は、惑星上の海洋が気候に大きな影響を与え、惑星の表面を形作り、潜在的に居住可能な環境を提供すると指摘している。

この発見は、火星がかつてダイナミックな水循環を持ち、降雨、蒸発、流水を経験していたことを示唆している。現在の大きな疑問は、その水がどこに消えたかであり、宇宙に逃げた可能性と地下に貯水池として残っている可能性が考えられている。

from:Scientists Discover Ancient Beaches on Mars—Proof That the Red Planet Once Had Oceans

【編集部解説】

今回の発見は、中国の火星探査機「祝融号」が収集したデータから明らかになりました。この発見の重要性について、詳しく解説させていただきます。

まず注目すべきは、探査に使用された地中レーダー(GPR)技術です。この技術により、地表から最大80メートルの深さまでの地層構造を詳細に調査することが可能になりました。これまでの火星探査は主に表面の観察に限られていましたが、GPRによって「過去の火星」を立体的に理解できるようになったのです。

特筆すべきは、発見された地層構造の精密さです。15度の角度で傾斜する砂層は、地球の海岸線と酷似しています。この構造が約35億から40億年前に形成されたと推定されていることは、火星の気候変動の歴史を理解する上で重要な手がかりとなります。

デウテロニルス」と名付けられたこの古代の海洋の発見は、火星における生命探査にも新たな展望を開きます。地球では、古代の海岸線付近から最古の生命の痕跡が発見されています。同様の環境が火星にも存在していたことは、生命の痕跡を探す新たな可能性を示唆しています。

この研究の特徴的な点は、中国とアメリカの科学者による国際共同研究という形で進められたことです。宇宙開発における国際協力の重要性を示す好例といえるでしょう。

将来の火星探査や人類の火星移住計画にとっても、この発見は重要な意味を持ちます。特に、地下に水が存在する可能性が示唆されたことは、資源利用の観点から注目に値します。

ただし、現時点での課題も存在します。祝融号の探査範囲は約1.9キロメートルと限られており、より広範な調査が必要です。また、地下の水の存在が示唆されていますが、その規模や状態については更なる研究が必要でしょう。

今後は、NASAや欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機との連携により、より詳細なデータが得られることが期待されます。火星の過去を理解することは、地球の未来を考える上でも重要な示唆を与えてくれるかもしれません。

【用語解説】

  • 地中レーダー(GPR: Ground Penetrating Radar):
    地表に電波を送り、その反射から地下の構造を調査する技術です。通常1〜1000MHzの周波数帯を使用し、地下の埋もれた構造物や特徴を検出できます。日常生活では、地下の水道管や電気ケーブルの位置を特定するために使われることがあります。
  • 祝融号(Zhurong):
    中国初の火星探査車で、2021年5月14日に火星のユートピア平原に着陸しました。重さ約240kg、サイズは2.6m×3m×1.85mで、太陽エネルギーを動力源としています。名前は中国神話の火の神に由来します。
  • デウテロニルス(Deuteronilus):
    火星北半球にあると考えられる古代の海の名称です。約36億年前に存在していたと推定されています。
  • ユートピア平原(Utopia Planitia):
    火星北半球にある広大な平原で、祝融号が着陸・探査を行った場所です。古代の海底だったと考えられています。

【参考リンク】

  • 中国国家航天局(CNSA)(外部)
    中国の宇宙開発を担当する政府機関。祝融号を含む中国の宇宙探査ミッションを管理しています。
  • NASA火星探査プログラム(外部)
    NASAの火星探査に関する情報を提供する公式サイト。パーサヴィアランスなど米国の火星探査機の活動を紹介しています。

【参考動画】

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