Last Updated on 2025-04-07 07:27 by admin
ドイツ・ポツダム大学の研究チームは、月の砂塵(レゴリス)を利用して太陽電池を製造する革新的な方法を開発した。この研究成果は2025年4月3日、科学誌「Device」に掲載された。
研究チームは月の高地に豊富に存在する斜長石質レゴリスを「ムーングラス」と呼ばれる材料に変換し、これをペロブスカイト系太陽電池の基板および保護層として活用する技術を確立した。主任研究者のフェリックス・ラング氏によると、この技術により地球から月へ輸送する原材料を最大99%削減することが可能となる。
従来の宇宙用太陽電池は30〜40%の高い変換効率を持つが、高コストで重量が大きいという欠点があった。一方、新開発のムーングラス太陽電池は、宇宙に送られる材料1グラムあたり、地球製の太陽パネルと比較して最大100倍のエネルギーを生成できるという。
さらに、月の砂塵に含まれる不純物は自然にムーングラスに茶色の色合いを与え、宇宙放射線に対する耐性を高める効果がある。これは従来の宇宙用ガラスが放射線により徐々に茶色に変色し効率が低下する問題を解決する。
課題としては、月の低重力環境がムーングラスの形成に影響を与える可能性や、月の昼夜の極端な温度変化(100℃以上から-170℃以下)による耐久性の問題、真空状態でのペロブスカイト処理の難しさなどが挙げられる。
研究チームは今後、実際の月面条件下で太陽電池をテストするための小規模なデモンストレーションミッションを準備している。この技術が実用化されれば、月面基地の持続可能なエネルギー供給システムの構築や、長期的な月面居住の実現に大きく貢献する可能性がある。
from:Scientists Just Found a Way to Power Moon Bases with Moon Dust
【編集部解説】
月面基地の建設において最大の課題の一つが、持続可能なエネルギー供給です。これまでは地球から太陽電池パネルを運ぶ必要がありましたが、その輸送コストは莫大なものでした。1kgの物資を地球から月へ運ぶには数百万円のコストがかかると言われています。
今回ドイツ・ポツダム大学のフェリックス・ラング氏率いる研究チームが開発した「ムーングラス太陽電池」は、この問題に対する画期的な解決策となる可能性を秘めています。月の砂(レゴリス)を原料として太陽電池を現地生産することで、地球からの物資輸送を最小限に抑えられるのです。
従来の宇宙用太陽電池は30〜40%という高い変換効率を持ちますが、重量とコストが大きな課題でした。一方、新技術では効率は従来の宇宙用太陽電池より低いものの、現地で大量生産することで総発電量を確保するという発想の転換が行われています。
特に注目すべきは、ムーングラスが宇宙放射線に対して優れた耐性を持つという点です。通常の地球製ガラスは宇宙空間で徐々に茶色く変色し、太陽光の透過率が下がってしまいます。しかし、月の砂塵に含まれる不純物が自然に茶色の色合いを与えることで、さらなる変色を防ぎ、長期間安定して使用できるという利点があります。
もちろん、課題もあります。月の低重力環境がガラス形成にどう影響するか、真空状態でのペロブスカイト処理をどう行うか、昼夜の極端な温度変化(+100℃以上から-170℃以下)にどう対応するかなど、実用化には乗り越えるべき技術的ハードルがいくつも存在します。
しかし、この技術が実用化されれば、月面基地の建設コストは大幅に削減され、人類の宇宙進出のスピードは加速するでしょう。さらに、この知見は火星探査など、より遠い惑星への有人ミッションにも応用できる可能性があります。
宇宙開発における「現地資源利用(ISRU)」の重要性は年々高まっています。ラング氏が言及しているように、月の水氷から燃料を作る技術、レゴリスからレンガを作る技術など、様々な研究が進んでいますが、エネルギー供給はその中でも最も基本的かつ重要な要素です。
私たちinnovaTopiaは、このような宇宙技術の進展が地球上の技術革新にも大きな影響を与えると考えています。極限環境での資源利用や省エネルギー技術は、地球上の持続可能な開発にも応用できるからです。
月の砂から太陽電池を作る——このシンプルながらも革新的なアイデアが、人類の宇宙進出の新たな一歩となることを期待しています。
【用語解説】
レゴリス(月の砂塵):
月面を覆う細かい岩石や砂のような物質。地球の土壌と異なり、風や水による浸食を受けていないため、非常に尖った粒子形状をしている。宇宙飛行士の装備や機器に付着しやすく、これまでは厄介者とされてきた。
ペロブスカイト太陽電池:
近年急速に発展している次世代太陽電池の一種。従来のシリコン太陽電池と比較して、製造が容易で低コスト、軽量という特徴がある。2009年に3.8%だった変換効率は、2021年には25.7%まで向上している。
現地資源利用(ISRU: In-Situ Resource Utilization):
宇宙探査において、探査先の資源を活用して必要な物資を現地で生産する概念。地球から全ての物資を運ぶのではなく、現地の資源を活用することでコスト削減を図る。
ポツダム大学:
ドイツ・ブランデンブルク州の州都ポツダムにある公立大学。1991年に設立され、約2万人の学生が在籍している。ベルリン・ブランデンブルク首都圏で4番目に大きな大学であり、科学技術分野での研究が盛んである。
【参考リンク】
ポツダム大学公式サイト(外部)
ドイツ・ポツダム大学の公式ウェブサイト。フェリックス・ラング氏の研究グループが所属する大学。
NASA ISRU(現地資源利用)プログラム(外部)
NASAの現地資源利用に関する研究プログラムの紹介ページ。月や火星での資源活用計画について解説している。
Device(研究論文掲載誌)(外部)
今回の研究成果が掲載された科学ジャーナル「Device」のウェブサイト。Cell Pressが発行する材料科学と工学に関する学術誌。
【編集部後記】
月の砂から太陽電池を作る技術、皆さんはどう思われますか? 宇宙開発は遠い世界の話と思われがちですが、こうした極限環境での技術革新が私たちの日常生活を変えることもあります。スマートフォンのGPS機能や防災用の高性能断熱材など、宇宙技術の恩恵は意外と身近なところに。月面基地が現実になる日、私たちの生活はどう変わるでしょうか? 宇宙と地球の技術の関係性について、ぜひ一緒に考えてみませんか?