Last Updated on 2025-04-15 19:13 by admin
2025年4月14日、Blue Originの全女性クルー6名による宇宙飛行ミッション「NS-31」が成功した。この飛行は米国テキサス州西部にあるBlue Originの発射場「ローンチサイト・ワン」から中部時間午前8時30分(東部時間午前9時30分/UTC 13時30分)に打ち上げられ、約11分後に同じ場所に着陸した。
クルーはポップスター・ケイティ・ペリー、Blue Originのオーナーであるジェフ・ベゾスの婚約者でヘリコプターパイロットのローレン・サンチェス、CBSの「CBS Mornings」共同司会者ゲイル・キング、元NASAのロケット科学者アイシャ・ボウ、生体宇宙工学研究者で公民権活動家のアマンダ・グエン、映画製作者のケリアン・フリンの6名で構成された。
ニューシェパードロケットは地球上60マイル(約96.5km)以上の高さまで到達し、地球の大気と宇宙の境界線とされるカーマン・ライン(高度100km/62マイル)を超えた。クルーは宇宙空間で無重力状態を体験した。
このミッションはBlue Originにとって11回目の有人飛行であり、ニューシェパードロケットの31回目の打ち上げとなった。また、1963年のソビエト宇宙飛行士ヴァレンチナ・テレシコワの単独宇宙飛行以来、初めての全女性宇宙飛行となった。
宇宙滞在中、ペリーはルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」を歌い、また自身の4歳の娘デイジーを称えてデイジーの花を宇宙に持参した。飛行恐怖症を持つキングは、この経験を「乗り物」ではなく「旅」と表現し、快適ゾーンから踏み出す勇気の大切さを語った。
着陸後、ペリーとキングは地面にキスをし、サンチェスは宇宙から見た地球を「宝石のよう」と表現した。
from Blue Origin mission with all-female crew, including Katy Perry, completes space trip
【編集部解説】
Blue Originによる今回の全女性クルーによる宇宙飛行は、宇宙観光産業における重要なマイルストーンとなりました。1963年のヴァレンチナ・テレシコワ以来の全女性クルーという点で歴史的意義を持ちますが、それ以上に現代の宇宙開発が持つ多様な側面を示しています。
まず注目すべきは、このミッションが単なる「宇宙観光」の枠を超えた文化的・社会的意義を持っていることです。ポップカルチャーのアイコンであるケイティ・ペリー、メディア界の重鎮ゲイル・キング、科学者のアイシャ・ボウとアマンダ・グエンなど、様々な分野の著名人が参加したことで、宇宙への関心を多様な層に広げる効果があります。
特に重要なのは、このミッションが若い女性たちに向けた強力なメッセージとなっていることです。STEM(科学・技術・工学・数学)分野における女性の参画が依然として課題となる中、宇宙という最先端の領域で女性だけのクルーが成功を収めたことは、次世代へのインスピレーションとなるでしょう。アイシャ・ボウはバハマ系初の宇宙飛行士、アマンダ・グエンはベトナム系および東南アジア系初の女性宇宙飛行士となり、多様性の観点からも意義深いミッションでした。
また、ゲイル・キングが指摘したように、この経験を「乗り物」ではなく「旅」と表現したことは重要です。宇宙観光は単なるアトラクションではなく、参加者の世界観や価値観を変える変容的な経験として位置づけられています。ペリーが「愛とのつながりを強く感じた」と語ったように、宇宙からの地球の眺めは「概観効果(Overview Effect)」と呼ばれる認識の変化をもたらすことが知られています。
テクノロジーの観点からは、Blue Originのニューシェパードロケットが11回目の有人飛行を成功させたことは、宇宙アクセスの信頼性と安全性が着実に向上していることを示しています。ジェフ・ベゾスが率いるBlue Originは、SpaceXやVirgin Galacticとともに、民間宇宙飛行の主要プレイヤーとして地位を確立しつつあります。
一方で、このミッションには商業的・マーケティング的側面も無視できません。Blue Originはこの飛行を「若い女性たちにSTEM分野での可能性を示す」ものとして位置づけていますが、実質的には富裕層向けの宇宙観光サービスの宣伝という側面も持っています。
しかし、このような商業的側面があるとしても、宇宙へのアクセスが拡大し多様化していること自体は、長期的には宇宙開発の民主化につながる可能性があります。初期の宇宙開発が国家主導で軍事パイロット出身の男性宇宙飛行士が中心だったのに対し、現在は様々なバックグラウンドを持つ人々が宇宙を体験できるようになっています。
宇宙観光産業は2021年に本格的に始まったばかりの新しい分野ですが、急速に成長しています。Blue Origin、Virgin Galactic、SpaceXなど複数の企業が参入し、競争が活発化することで、技術革新やコスト低減が進む可能性があります。現在は一回の飛行に数千万円から数億円のコストがかかりますが、将来的にはより多くの人々が宇宙体験にアクセスできるようになるかもしれません。
今回のミッションは、宇宙開発における女性の役割拡大という文脈でも重要です。NASAは2024年に女性初の月面着陸を目指すアルテミス計画を進めており、宇宙探査における女性の活躍の場は今後さらに広がっていくでしょう。
テクノロジーの進化が人類の可能性を広げる一方で、宇宙観光の環境への影響や宇宙の商業化に伴う倫理的問題など、検討すべき課題も存在します。
【用語解説】
カーマン・ライン(Kármán line):地球の大気と宇宙の境界線として国際的に認められている高度100km(62マイル)の線である。国際航空連盟(FAI)が定義しており、航空機と宇宙船を区別する法的・規制上の目的で主に使用されている。この線を超えると「宇宙に行った」と認められる。
概観効果(Overview Effect):宇宙から地球を見ることで宇宙飛行士が経験する認知的変化のことである。地球の美しさや脆弱性を認識し、予想外の強い感情や、他の人々や地球全体とのつながりの感覚が増すという特徴がある。自己概念や価値観に変化をもたらし、変容的な体験となる場合もある。
サブオービタル飛行(Suborbital flight):地球を一周する軌道に乗らず、宇宙空間に到達した後に地球に戻ってくる飛行のこと。ニューシェパードのような宇宙観光用ロケットはこの方式を採用している。弾道飛行とも呼ばれる。
VTVL(Vertical Takeoff, Vertical Landing):垂直に離陸し、垂直に着陸する技術。従来のロケットは使い捨てだったが、この技術により再利用が可能になり、宇宙輸送のコストを大幅に削減できる。
【参考リンク】
Blue Origin公式サイト(外部)ジェフ・ベゾスが設立した宇宙企業の公式サイト。ニューシェパード宇宙船や他のプロジェクトに関する情報を提供している。