Last Updated on 2025-05-17 22:08 by admin
科学者たちは134億光年離れた銀河GHZ2で酸素を検出したと発表した。この発見は『Nature Astronomy』誌に掲載され、原子状酸素の最も遠方での検出として記録された。
この銀河の光が地球に到達するまでに134億年の時間を要し、ビッグバン後わずか数億年の宇宙初期の状態を示している。この発見はアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の連携によって可能となった。
東アジアALMA地域センター(国立天文台)の天文学者ホルヘ・サバラ氏は、40基以上の12メートルアンテナを持つALMAと6.5メートルのJWSTを数時間にわたり観測対象に向け、酸素や水素を含む励起原子からの微弱な放射を検出することに成功した。
GHZ2は小型の銀河で、わずか数百光年の領域に数億太陽質量しかない高密度な構造を持っている。太陽近傍の銀河と比較して、予想よりも多くの重元素(金属)を含んでいることが示唆されており、これは宇宙初期の化学進化が従来考えられていたよりも速く進んでいた可能性を示している。
チャルマース大学の天文学者トム・バクス氏は、この発見を「初期宇宙の銀河を理解するための数年にわたる努力の集大成」と評価し、今後の追加観測によって初期宇宙での金属、星形成、ブラックホールの進化についての理解が深まることを期待している。
References:
Scientists Stumble Upon Oxygen in The Most Distant Galaxy Ever
【編集部解説】
今回の発見は、宇宙物理学における常識を覆す重要な発見と言えるでしょう。検索結果を確認すると、記事で紹介されている銀河「GHZ2」は、他の研究では「JADES-GS-z14-0」という名前でも言及されています。この発見は、2025年3月に初めて報告され、5月に『Nature Astronomy』誌に掲載されたものです。
この発見の驚くべき点は、宇宙誕生から約3億年という極めて初期の段階で、すでに酸素のような重元素が存在していたことです。従来の理論では、宇宙初期の銀河は水素とヘリウムが主成分で、重元素はほとんど含まれていないと考えられていました。
酸素は恒星内部の核融合反応によって生成され、超新星爆発などを通じて宇宙空間に拡散します。つまり、この発見は宇宙初期において、恒星の誕生と死のサイクルが私たちの想像以上に速く進行していたことを示唆しています。
ライデン天文台のサンダー・スカウス氏が「赤ちゃんしかいないはずの場所で思春期の子どもを見つけたようなもの」と表現したように、この発見は宇宙の化学進化に関する従来の時間軸を根本から見直す必要があることを示しています。
ALMAとJWSTという2つの最先端観測装置の連携がこの発見を可能にしました。特にALMAの観測によって、銀河までの距離を誤差わずか0.005%という驚異的な精度で測定することができました。これは1kmの距離で5cmの精度に相当する驚異的な正確さです。
この発見が持つ意味は科学的にも哲学的にも大きいと言えるでしょう。生命に必要な元素が宇宙の歴史のごく初期から存在していたという事実は、宇宙における生命の可能性について新たな視点を提供します。
また、この研究は球状星団の起源に関する手がかりも提供しています。GHZ2の特性と球状星団の間には類似点があり、このような初期の銀河が球状星団の種となった可能性があるのです。
スクオーラ・ノルマーレ・スペリオーレ・ディ・ピサのステファノ・カルニアーニ氏は「予想外の結果に驚きました。これは銀河進化の初期段階に関する新たな見方を開くものです」と述べています。
今後の研究では、GHZ2の詳細な構造と化学組成を探査することで、初期宇宙の進化過程についてさらなる解明が期待されています。特に、重元素の生成と拡散のメカニズムや、初期の銀河形成プロセスについての理解が深まるでしょう。
【用語解説】
ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計):
チリのアタカマ砂漠の標高5,000mに設置された電波望遠鏡。66基のアンテナを連携させて一つの巨大な望遠鏡として機能する。肉眼では見えない宇宙の冷たい天体からの電波を観測する。
JWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡):
2021年12月25日に打ち上げられた宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の100倍の能力を持ち、赤外線観測に特化している。地球から約150万km離れたラグランジュポイント(L2)に位置している。
干渉計(インターフェロメーター):
複数の小さなアンテナを広い範囲に配置し、それらを連携させて一つの巨大な望遠鏡として機能させるシステム。
金属量(メタリシティ):
天文学で、水素とヘリウム以外の元素(重元素)の割合を示す指標。宇宙の化学的進化を理解する上で重要。
球状星団:
数万から数百万の星が球状に密集した星の集団。銀河に付随して存在し、非常に古い星々を含む。
Nature Astronomy:
自然科学分野の権威ある学術誌「Nature」の姉妹誌で、天文学、天体物理学、宇宙論、惑星科学の分野の研究を掲載している。
【参考リンク】
ALMA公式サイト(外部)
宇宙の起源を探求する世界最大の天文学プロジェクト、ALMAの公式サイト。
ALMA日本語サイト(国立天文台)(外部)
日本のALMA参加機関である国立天文台が運営するALMAの日本語サイト。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡公式サイト(外部)
NASAが運営するJWSTの公式サイト。最新の観測結果や画像が公開されている。
チャルマース工科大学(外部)
研究者トム・バクス氏が所属するスウェーデンの研究大学。宇宙観測所を含む最先端インフラを保有。
【参考動画】
【編集部後記】
皆さん、宇宙の神秘に触れてみませんか?今回の発見は、私たちが思っていた宇宙の歴史を覆すものかもしれません。自宅から気軽に始められる天体観測で、あなたも宇宙の探検家になれるかもしれません。双眼鏡や小型の望遠鏡でも、月のクレーターや木星の縞模様など、驚くほど鮮明に見えるものです。週末の夜、スマホの星空アプリを片手に空を見上げてみてはいかがでしょうか?宇宙の謎に触れる瞬間は、日常を忘れさせてくれる特別な体験になるはずです。皆さんの「宇宙体験」をSNSで共有していただけると嬉しいです。