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ISRO PSLV-C61ロケット打ち上げ失敗 – 第3段階の不具合で地球観測衛星EOS-09を見逃した

ISRO PSLV-C61ロケット打ち上げ失敗 - 第3段階の不具合で地球観測衛星EOS-09を見逃した - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-19 09:30 by admin

2025年5月18日、インド宇宙研究機関(ISRO)が実施した地球観測衛星EOS-09の打ち上げが失敗した。インドのスリハリコータにあるサティシュ・ダワン宇宙センターから現地時間午前5時59分(日本時間午前9時29分)に打ち上げられたPSLV-C61ロケットは、第3段階で異常が発生し、ミッションを完遂できなかった

ISROのV・ナラヤナン議長によると、4段式ロケットであるPSLVの最初の2段階は正常に機能したが、第3段階でモーターケース内の圧力低下が観測され、衛星を予定軌道に投入できなかった。

この打ち上げはスリハリコータからの101回目のミッションであり、PSLVロケットにとっては63回目の飛行、XL構成を使用した27回目の打ち上げだった。PSLVロケットの失敗は1993年の初飛行と2017年のPSLV-C39ミッション以来、今回が3回目となる。

EOS-09は重量1,696.24kgの地球観測衛星で、C帯合成開口レーダー(SAR)を搭載し、全天候型の昼夜を問わない地球観測能力を持つ予定だった。この衛星は農業、林業、土壌水分推定、災害管理、都市計画、国家安全保障などの分野で活用される予定だった。

ISROは故障分析委員会(FAC)を設置し、飛行データ、打ち上げ準備、および関連するすべてのシステムを詳細に調査する予定である。

References:
文献リンクISRO’s PSLV-C61 EOS-09 launch aborted midway; ISRO Chief V. Narayanan explains why

【編集部解説】

今回のISROのPSLV-C61ロケット打ち上げ失敗は、インドの宇宙開発における稀な挫折となりました。検索結果から得られた情報を総合すると、この失敗は第3段階のモーターケース内の圧力低下が原因であることが分かります。特に注目すべきは、第3段階で使用されているフレックスノズル制御システムの不具合が疑われている点です。

フレックスノズル制御システムは、複雑な油圧アクチュエーターを使わずに層状の弾性材料を使用してノズルの方向を精密に制御する重要な技術です。このシステムが114秒間の燃焼中にロケットを操縦する役割を担っていたため、その不具合はミッションの失敗に直結したと考えられます。

PSLVロケットはこれまで高い信頼性を誇り、今回の失敗は63回の打ち上げのうち3回目という稀なケースです。前回の失敗は2017年のPSLV-C39ミッションで、その際は熱シールドの分離失敗が原因でした。それ以前は1993年の初飛行時に失敗を記録しています。

今回のEOS-09衛星は、C帯合成開口レーダー(SAR)を搭載した高度な地球観測衛星であり、インドの地球観測能力を大幅に強化する予定でした。全天候型で昼夜を問わず高解像度の画像を提供できる能力は、農業、林業、災害管理、都市計画、国家安全保障など多岐にわたる分野で活用される予定だったのです。

特筆すべきは、このミッションがスリハリコータからの101回目の打ち上げであったことです。象徴的な意味を持つこの打ち上げの失敗は、インドの宇宙開発にとって一時的な後退となりますが、長期的な影響は限定的と見られています。

インドは近年、2023年8月に月面着陸に成功するなど、宇宙開発分野で着実に実績を積み上げてきました。世界で最も人口の多い国でありながら、比較的低コストの宇宙プログラムを運営し、主要宇宙国の成果に急速に近づいています。

今回の失敗を受けて、ISROは故障分析委員会(FAC)を設置し、飛行データ、打ち上げ準備、関連するすべてのシステムを詳細に調査する予定です。このような詳細な分析プロセスは、将来のミッションの信頼性向上に不可欠です。

技術的観点から見ると、ロケット打ち上げの失敗は珍しいことではありません。2018年から2023年の間の世界的な打ち上げ失敗の74%が推進系やステージ分離の問題に関連しているというデータもあります。宇宙開発の難しさは、極限環境下で複雑なシステムを正確に機能させる必要がある点にあります。

この失敗がインドの宇宙開発計画に与える影響としては、地球観測衛星プログラムの遅延が予想されます。しかし、ISROの過去の実績を考えれば、この挫折から学び、次のミッションに活かすことで、より強固な技術基盤を構築できるでしょう。

私たちinnovaTopiaの視点から見ると、この事例は技術開発における「失敗の価値」を再認識させるものです。最先端技術の開発においては、失敗から学ぶプロセスが不可欠であり、それが次の革新につながります。インドの宇宙開発は、コスト効率の高さと独自の技術開発アプローチで世界的に注目されており、今回の挫折を乗り越えた先にある成功に期待が集まっています。

【用語解説】

ISRO(インド宇宙研究機関)
インドの国家宇宙機関で、1969年に設立された。バンガロールに本部を置き、約2万人の職員と約1,100億円の年間予算を持つ。日本のJAXAに相当する組織である。

PSLV(極軌道打ち上げロケット)
ISROが開発した4段式の使い捨てロケット。太陽同期軌道や静止トランスファ軌道に小型衛星を打ち上げる能力を持つ。日本のH-IIAロケットのようなインドの主力ロケットである。

合成開口レーダー(SAR)
全天候型のリモートセンシング技術で、雲や雨、夜間でも地表を観測できる。通常のカメラが光を使って写真を撮るのに対し、SARは電波を使って「写真」を撮る技術と考えるとわかりやすい。

太陽同期軌道(SSPO)
地球の周りを回る衛星軌道の一種で、衛星が常に同じ地方時に同じ地点の上空を通過する。これにより、同じ場所を同じ光条件で観測できるため、地球観測に適している。

フレックスノズル制御システム
ロケットの方向を制御するための技術。通常の油圧システムの代わりに、弾性材料を使ってノズルの向きを変える。自動車のステアリングに相当する、ロケットの「ハンドル」のような役割を果たす。

モーターケース内の圧力低下
ロケットエンジン内部の燃焼室の圧力が下がる現象。エンジンの推力低下や不安定な燃焼につながる。自動車のエンジンでシリンダー内の圧力が低下すると出力が落ちるのと同様の現象である。

【参考リンク】

インド宇宙研究機関(ISRO)公式サイト(外部)
インドの宇宙開発を担当する国家機関の公式サイト。宇宙ミッション、技術開発、国際協力などの情報を提供している。

サティシュ・ダワン宇宙センター(SDSC)(外部)
インドの主要な宇宙港であるサティシュ・ダワン宇宙センターの公式サイト。打ち上げ施設や運用に関する情報を提供している。

NASA宇宙科学データ調整アーカイブ – PSLV(外部)
NASAが提供するPSLVロケットに関する技術データと打ち上げ履歴のアーカイブ。

【参考動画】

【編集部後記】

宇宙開発の世界では、成功と失敗が表裏一体であることを今回のISROの事例は示しています。皆さんは、日常で使っているGPSや天気予報などが宇宙技術に支えられていることをご存知でしょうか?もし宇宙開発に興味があれば、日本の宇宙開発との比較や、インドが低コストで実現している宇宙ミッションの工夫について調べてみるのも面白いかもしれません。宇宙技術が私たちの生活をどう変えていくのか、一緒に考えてみませんか?

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TaTsu
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