トヨタ自動車がispace次世代ローバー開発を支援|自動車開発の知見を月面探査に応用

[更新]2025年10月24日08:03

トヨタ自動車がispace次世代ローバー開発を支援|自動車開発の知見を月面探査に応用 - innovaTopia - (イノベトピア)

株式会社ispaceは2025年10月22日、トヨタ自動車株式会社から次世代小型探査車の概念設計について技術評価および品質向上の支援を受けるための契約を締結したと発表した。

ispaceは次世代小型ローバーの開発に着手しており、トヨタ自動車はシステムレベルで技術的な評価を行い、最適なシステム設計解へ導くための支援を行う。トヨタ自動車は宇宙航空研究開発機構と共同で月面探査車「有人与圧ローバー」の開発に取り組んでいる。

ispaceは2027年に米国法人が主導するミッション3の打ち上げを予定しており、2028年には経産省SBIR補助金を活用しシリーズ3ランダーを用いたミッション4の打ち上げを予定している。ispaceはこのミッション3以降に自社開発した月面探査車および次世代小型ローバーを月に輸送し、運用を通じて月面走行データ等を取得する予定である。

From: 文献リンクispace、次世代小型ローバー開発に向けたトヨタ自動車による支援を受ける契約を締結

【編集部解説】

今回の提携は、日本の民間宇宙開発における異業種連携の新たな象徴的な事例といえます。月面ローバー開発という高度に専門的な領域に、自動車産業で培われたシステム工学の知見が投入されるのです。

ispaceは2023年のミッション1、2025年のミッション2と2度の月面着陸に挑戦しましたが、いずれも着陸直前で機体を失いました。しかし両ミッションを通じて月周回軌道への投入、姿勢制御、誘導制御といった基本技術は実証済みです。こうした実績の蓄積が、トヨタとの本格的な技術協力を引き寄せたと考えられます。

トヨタ自動車は宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で有人与圧ローバー「ルナクルーザー」の開発を進めています。月面という過酷な環境下で動作する車両システムの開発には、極限環境での信頼性設計、システム統合、品質管理といった自動車開発で磨かれた技術が不可欠です。

ispaceが開発する次世代小型ローバーは、従来機よりも探査性能を向上させ、月面走行データの収集力を強化することを目的としています。収集されたデータは「月面データサービス」として顧客に提供され、民間企業の月市場参入を支援する重要な基盤となります。

この協力関係は一方通行ではありません。ispaceはトヨタにシステムレベルでの技術評価を受ける一方、自社のミッションで得られる月面走行データをトヨタのスペースモビリティ開発に提供する計画です。実際の月面環境で取得されるデータは、地上でのシミュレーションでは得られない貴重な情報源となるでしょう。

ispaceは「シスルナ構想」と呼ばれる月面および月周回インフラストラクチャーの構築を掲げており、民間事業者間の協力体制を積極的に推進しています。今回のトヨタとの提携もその一環として位置づけられます。月面探査が国家主導から民間主導へとシフトする中、こうした企業間連携が月経済圏の基盤を形成していくことになります。

具体的なスケジュールとしては、ispaceは2027年にミッション3、2028年にミッション4の打ち上げを予定しています。ミッション3は米国法人主導でNASAのアルテミス計画にも貢献し、ミッション4では経産省のSBIR補助金を活用した新型シリーズ3ランダーが投入される計画です。

月面データビジネスは、今後の宇宙産業において重要な市場セグメントになると予測されています。ispaceのような民間企業が高頻度・低コストで月面輸送サービスを提供し、そこで得られたデータを商業化することで、新たな産業エコシステムが形成されていくのです。

【用語解説】

ランダー
月着陸船のことである。月周回軌道から月面へ降下し、着陸する機能を持つ宇宙機を指す。ispaceは独自開発の小型ランダーを用いて月面輸送サービスを提供している。

有人与圧ローバー(ルナクルーザー)
トヨタ自動車がJAXAと共同開発している月面探査車である。宇宙飛行士が船外活動用のスーツを着用せずに乗車できる与圧キャビンを備え、月面での長期探査活動を可能にする。

シスルナ構想
ispaceが掲げる月面および月周回インフラストラクチャー構想である。民間主導で月経済圏の基盤を構築し、持続的な月面活動を実現することを目指している。

アルテミス計画
NASAが主導する国際的な月探査プログラムである。アポロ計画以来の有人月面着陸と長期滞在を目指し、将来的な火星探査につなげる技術実証も行う。

SBIR補助金
Small Business Innovation Researchの略。経済産業省などが所管する、中小企業による革新的な研究開発を支援する補助金制度である。

HAKUTO-R
ispaceが実施する民間月面探査プログラムの名称である。継続的なミッションを通じて月面への輸送サービス構築を目指している。

【参考リンク】

株式会社ispace 公式サイト(外部)
月面資源開発に取り組む日本の宇宙スタートアップ企業。ランダーとローバーの開発を通じて月への高頻度かつ低コストの輸送サービスの提供を目指している。

HAKUTO-R ミッション情報(外部)
ispaceが実施する民間月面探査プログラムHAKUTO-Rの詳細情報。ミッション1とミッション2の進捗状況や技術的な詳細を確認できる。

トヨタ自動車 ルナクルーザー公式ページ(外部)
トヨタがJAXAと共同開発する有人与圧ローバー「ルナクルーザー」の技術情報と開発状況。4つのコア技術や開発の背景について詳しく解説している。

JAXA 宇宙探査センター アルテミス計画(外部)
日本の宇宙探査活動とアルテミス計画における役割を解説。月周回有人拠点Gatewayへの貢献や月面探査ミッションの計画を確認できる。

【参考動画】

【参考記事】

ispace Secures Toyota’s Support for Next-Generation Compact Rover Development(外部)
ispaceによる公式英語版プレスリリース。トヨタ自動車との技術支援契約の詳細や次世代小型ローバー開発における協力内容、シスルナ構想への位置づけを説明。

Yokogawa and Toyota partner on Lunar Cruiser rover development with JAXA(外部)
2025年9月に発表されたトヨタのルナクルーザー開発における横河電機との新たなパートナーシップを報道。制御システムや月面環境での電力管理技術について言及。

‘Moon-as-a-service’ business models: the next leap for space exploration(外部)
月面データサービスなどの商業モデルを分析。ispaceのような民間企業が提供する月面輸送サービスとデータビジネスが月経済圏形成で果たす役割を考察。

【編集部後記】

月面探査は2025年、まさに民間主導の時代へと移行しています。ispaceとトヨタの協力は、日本の製造業が持つシステム統合力が宇宙開発でどう活かされるかを示す重要な事例です。

アメリカではSpaceXやBlue Originが月面着陸船を開発し、中国は2030年の有人月面着陸を目指して着々と準備を進めています。この競争の中で、日本企業が独自のアプローチで月面データビジネスという新しい市場を切り拓こうとしている姿勢に注目していただけたらと思います。月が「行く場所」から「働く場所」へと変わりつつある今、この変化をともに見届けていきましょう。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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