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防衛省の衛星コンステレーション事業、三菱電機らが落札──PFI方式で構築する次世代ISR体制

防衛省の衛星コンステレーション事業、三菱電機らが落札──PFI方式で構築する次世代ISR体制 - innovaTopia - (イノベトピア)

日本の宇宙ベンチャーが、いよいよ防衛の最前線に立つ。三菱電機を代表企業とする7社コンソーシアムが、防衛省の衛星コンステレーション事業を落札し、民間の技術と資金で国の安全保障を支える新時代が幕を開けた。


三菱電機は12月24日、防衛省の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」を落札した。同社が代表企業となり、スカパーJSAT、三井物産、Synspective、QPS研究所、アクセルスペース、三井物産エアロスペースの6社とコンソーシアムを組む。

本事業はスタンド・オフ防衛能力の実効性確保に必要な画像情報の安定的な取得を目的とし、民間企業が運営する衛星コンステレーションの構築を目指すPFI事業である。三菱電機はスカパーJSAT、三井物産との3社で特別目的会社を設立し、防衛省との契約締結に向けた調整を進める。衛星コンステレーションは地球の低軌道に多数の小型衛星を配置し、連携して機能するシステムを指す。

From: 文献リンク防衛省の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」を落札 | 三菱電機

【編集部解説】

今回のニュースは、日本の防衛体制が新たな転換点を迎えたことを示す重要な発表です。2026年1月に防衛省と基本合意を締結し、2月に正式契約、2031年3月まで約5年間のプロジェクトとして進められます。

スタンド・オフ防衛能力とは、脅威圏外の安全な位置から目標を対処する能力を指します。具体的には、射程1,000キロメートル級に延伸された改良型12式地対艦誘導弾などを活用し、遠距離から侵攻部隊を阻止する戦略です。

ここで重要になるのが、移動する目標の正確な位置情報をリアルタイムで把握する衛星による情報収集・監視・偵察(ISR)能力でしょう。従来の商用衛星サービスでは、防衛省が必要とするタイミングで常に画像を入手できるとは限りませんでした。

本事業では、防衛省が優先的に画像取得できる専用の衛星コンステレーションを構築します。参画企業のSynspectiveやQPS研究所は合成開口レーダー(SAR)衛星を運用しており、この技術が鍵となります。SAR衛星は自ら電波を照射して地表を観測するため、天候や昼夜を問わず画像を取得できる特性を持ちます。

注目すべきは、PFI(民間資金等活用事業)として実施される点です。防衛省が自ら衛星を開発・運用するのではなく、民間企業の資金・技術・経営能力を活用する新しいモデルとなっています。防衛省のPFI事業では、コスト削減効果を示すVFM値が従来方式を上回る実績があり、効率的な事業運営が期待されます。

本事業により、日本は民間の宇宙ベンチャーを含む産業基盤を強化しながら、防衛に必要な宇宙アセットを確保できる仕組みを構築したと言えるでしょう。SpaceXのStarlinkのような民間衛星コンステレーションが各国の安全保障で重要な役割を果たす中、日本もこの流れに乗った形です。

一方で、宇宙空間の軍事利用拡大には慎重な議論も必要になります。衛星コンステレーションの運用には継続的な投資が求められ、2031年以降の事業継続や拡張についても注視していく必要があるでしょう。

【用語解説】

衛星コンステレーション
地球の低軌道(高度約200~2,000キロメートル)に多数の小型衛星を配置し、連携して機能させるシステム。単一の大型衛星と比べて、広範囲を高頻度で観測できる利点がある。

スタンド・オフ防衛能力
脅威圏外の離れた位置から目標を対処することで、外部からの攻撃を効果的に阻止する能力。射程1,000キロメートル級の誘導弾などを用いて、自国の部隊を危険にさらさずに遠距離から攻撃できる。

SAR(合成開口レーダー)
自ら電波を照射して地表を観測する衛星技術。光学衛星と異なり、天候や昼夜を問わず画像を取得できる特性を持つ。雲や霧を透過し、夜間でも地表の変化を捉えられる。

ISR(情報収集・監視・偵察)
Intelligence, Surveillance, Reconnaissanceの略。軍事作戦において、敵の動向や地形などの情報を収集・監視・偵察する活動全般を指す。

PFI事業
Private Finance Initiativeの略で、民間資金等活用事業のこと。公共施設の建設・維持管理・運営に民間の資金や経営能力、技術的能力を活用する事業手法。

特別目的会社(SPC)
特定のプロジェクトを遂行するために設立される法人。本事業では三菱電機、スカパーJSAT、三井物産の3社が設立し、防衛省と契約を締結する。

【参考リンク】

三菱電機株式会社 防衛・宇宙システム事業(外部)
人工衛星、ロケット、レーダーシステムなど防衛・宇宙関連事業を手がける総合電機メーカー。本事業の代表企業。

スカパーJSAT株式会社(外部)
日本最大の衛星通信事業者。商業衛星の運用実績を活かし、本事業に参画。衛星コンステレーション運用管理を担当。

三井物産株式会社(外部)
総合商社として宇宙ビジネスにも注力。特別目的会社の設立メンバーとして、プロジェクトファイナンスや事業運営に貢献。

株式会社Synspective(外部)
SAR衛星コンステレーション「StriX」を運用する日本の宇宙ベンチャー。複数のSAR衛星を軌道上で運用中。

株式会社QPS研究所(外部)
福岡を拠点に小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発・運用する宇宙ベンチャー。準リアルタイムの地球観測サービスを目指す。

株式会社アクセルスペース(外部)
小型地球観測衛星の開発・運用を手がける日本の宇宙ベンチャー。光学衛星コンステレーション「GRUS」を運用中。

防衛省(外部)
日本の防衛を担当する中央省庁。本事業の発注者として、衛星コンステレーションから画像情報を優先的に取得する。

【参考記事】

Mitsui secures satellite constellation project from Ministry of Defense(外部)
三井物産プレスリリース。2026年1月基本合意、2月正式契約予定。事業期間は2031年3月まで約5年間。

Synspective Wins Ministry of Defense Satellite Constellation Project(外部)
Synspectiveプレスリリース。同社のSAR衛星技術が本事業に活用され、リアルタイムISR能力を提供する。

Awarded Ministry of Defense “Satellite Constellation Project”(外部)
スカパーJSATプレスリリース。特別目的会社の設立メンバーとして、衛星運用の専門知識を活かす。

Japan’s Stand-Off Weapon Programmes(外部)
日本のスタンド・オフ兵器プログラムに関する詳細分析。射程1,000キロメートル級の改良型12式地対艦誘導弾を解説。

【編集部後記】

民間の宇宙ベンチャーが防衛分野に深く関わる時代が、いよいよ本格化しました。この動きをどう受け止めますか。

技術そのものに善悪はなく、使い方次第で社会の安全を守る盾にもなれば、別の側面を持つこともあります。SynspectiveやQPS研究所といった日本発の宇宙ベンチャーが、災害監視や農業支援で培った技術を防衛に活かす。この流れは、産業育成と安全保障の両立という新しい課題を私たちに突きつけているように感じます。

みなさんは、民間と防衛の境界線がますます曖昧になる未来に、どんな可能性やリスクを見出すでしょうか。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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