advertisements

Voyager CEO、マスク氏の宇宙データセンター計画に異議。「冷却問題が未解決」と指摘

[更新]2026年2月9日

Voyager CEO、マスク氏の宇宙データセンター計画に異議。「冷却問題が未解決」と指摘

Voyager TechnologiesのCEOディラン・テイラーが2026年2月6日、CNBCに対し、イーロン・マスクの2年以内の宇宙データセンター実現タイムラインを「野心的すぎる」と評した。テイラーは、宇宙では太陽から離れた方向を向いた放熱器による放射冷却が必要であり、この冷却問題が未解決の重大な障壁だと指摘した。

マスクは数日前にSpaceXとxAIを1.25兆ドルで合併させ、2028年までに軌道上データセンターを打ち上げる計画を掲げている。一方、Voyagerは2025年6月に株式公開し、現在ISS(国際宇宙ステーション)でクラウド・コンピュート・デバイスを運用している。同社は2029年にStarlabという商業宇宙ステーションを打ち上げる予定で、Palantir、Airbus、Mitsubishiと提携している。ISSは2030年に退役予定だ。

From: 文献リンクSpace Data Centers Hit Physics Wall on Cooling Problem

【編集部解説】

宇宙データセンターというコンセプトは、一見すると理想的なソリューションに思えます。しかし、今回のVoyager Technologies CEOの発言は、この夢のような構想が物理学の基本法則という壁に直面していることを浮き彫りにしています。

問題の核心は「冷却」です。地上のデータセンターでは、空気や水といった媒体を使った対流や伝導によって熱を運び去ることができます。これは現代のAI訓練施設が数百メガワットを消費することを考えると、膨大な放熱器アレイが必要になることを意味します。

この技術的課題は、マスク氏が掲げる「2年以内の実現」というタイムラインに対する現実的な疑問を投げかけています。SpaceXとxAIの合併は、確かに軌道上コンピューティングという壮大なビジョンを示しました。しかし、ロケットでハードウェアを打ち上げる能力があることと、それを軌道上で継続的に稼働させる能力は別問題です。

一方、Voyagerは異なるアプローチを取っています。同社はすでに国際宇宙ステーションでクラウド・コンピュート・デバイスを運用しており、実際の軌道上コンピューティングの課題に関する実データを持っています。2029年のStarlab打ち上げに向けて、Palantir、Airbus、Mitsubishiという実績のあるパートナーと着実に開発を進めているのです。

宇宙データセンターが実現すれば、地球規模でのAI開発における電力制約やカーボンフットプリントの問題を解決する可能性があります。しかし同時に、放射線からの保護、軌道上でのメンテナンス、ハードウェアの定期的な更新、スペースデブリのリスクなど、新たな課題も生まれます。特にAI用GPUは2年ごとに世代交代するため、軌道上の設備を最新状態に保つコストは膨大になる可能性があります。

今回の論争が示すのは、宇宙産業における「発表のタイムライン」と「実現のタイムライン」の乖離です。技術的ブレークスルーは確かに必要ですが、それは投資家向けのプレゼンテーションのスケジュールに合わせて起こるものではありません。冷却問題を解決した企業こそが、この新しい市場の勝者となるでしょう。

【用語解説】

ISS(国際宇宙ステーション / International Space Station)
米国、ロシア、日本、欧州、カナダの5極が共同で運用する地球周回軌道上の有人実験施設。1998年から建設が開始され、2000年から継続的に宇宙飛行士が滞在している。2030年に退役予定。

放射冷却
真空中で熱を放散する唯一の方法。物体が電磁波(赤外線)の形で熱エネルギーを放出する現象。宇宙では放熱器(ラジエーター)を使って放射により熱を宇宙空間に逃がす必要がある。

シュテファン・ボルツマンの法則
物体が放射する熱エネルギーが温度の4乗に比例するという物理法則。この法則により、宇宙データセンターに必要な放熱器の面積が計算できる。1メガワットの廃熱を処理するには約1,200平方メートルの放熱器が必要となる。

スペースデブリ
地球周回軌道上を漂う宇宙ゴミ。使用済みの人工衛星やロケットの破片、衝突によって生じた微小な破片など。高速で移動するため、小さな破片でも衛星や宇宙ステーションに衝突すると深刻な損傷を与える可能性がある。

GPU(Graphics Processing Unit)
画像処理用に開発された演算装置だが、並列計算が得意なため、現在ではAIの学習や推論に広く使用されている。AI開発において最も重要なハードウェアの一つ。

カーボンフットプリント
製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの総量を二酸化炭素(CO2)換算で表した指標。データセンターは大量の電力を消費するため、カーボンフットプリントが大きな課題となっている。

【参考リンク】

Voyager Technologies(外部)
宇宙商業化のリーディングカンパニー。2029年にStarlab宇宙ステーションを打ち上げ予定。

Starlab Space(外部)
Voyager、Airbus、Mitsubishi、MDA Spaceによる次世代商業宇宙ステーション。

SpaceX(外部)
イーロン・マスクが設立した民間宇宙企業。2026年2月にxAIと合併し企業価値1.25兆ドルに。

Palantir Technologies(外部)
データ分析プラットフォームを提供。Starlabのソフトウェア管理を担当。

Airbus(外部)
欧州最大の航空宇宙企業。有人宇宙飛行分野で豊富な実績を持つ。

CNBC(外部)
米国の経済ニュース専門チャンネル。今回のインタビューを放送した。

【参考記事】

Musk’s xAI, SpaceX combo is the biggest merger of all time, valued at $1.25 trillion(外部)
SpaceXとxAIの合併を報じるCNBCの記事。合併はSpaceXを1兆ドル、xAIを2,500億ドルと評価し、合計1.25兆ドルの企業価値となった。マスク氏は「軌道上データセンター」を合併の主要な理由の一つとして挙げている。

Voyager Technologies CEO says space data center cooling problem still needs to be solved(外部)
ディラン・テイラーCEOが宇宙データセンターの冷却問題について語ったCNBCインタビュー記事。2年という期間は「野心的すぎる」とし、宇宙では放射による冷却が必要だと説明。

Space Data Centers: Promise, Physics, And The Parts That Still Are Not Penciled (Yet)(外部)
宇宙データセンターの物理的制約を詳細に解説した技術記事。シュテファン・ボルツマンの法則により、1メガワットの廃熱を処理するには約1,200平方メートルの放熱器が必要と計算。

Starlab Space Announces Strategic Partnership with Palantir Technologies, Inc.(外部)
Starlabプロジェクトの公式発表。Palantirが独占的なソフトウェアデータ管理ソリューション供給者として参画。デジタルツイン技術とAIによる宇宙ステーション運用の最適化を行う。

Space-Based Data Centers Could Power AI with Solar Energy—At a Cost(外部)
Scientific Americanによる宇宙データセンターの経済性分析。軌道上データセンターが費用対効果を持つためには、ロケット打ち上げコストが2035年までに1キログラムあたり200ドル以下に下がる必要がある。

Realities of Space-Based Compute(外部)
宇宙ベースのコンピューティングの現実的な課題を包括的に分析した記事。ISSは70キロワットの熱を放散するために重量数トンの8枚のラジエーターウィングを使用している。

Orbital Data Centers(外部)
物理学者による詳細な技術分析。NVIDIA H100 GPU 1基(700ワット)を20度で動作させるために必要な放熱器面積を計算。大規模データセンターには膨大な放熱器面積が必要になることを示している。

【編集部後記】

宇宙データセンターというSF的な構想が、実は物理学の基本法則という壁に直面しているという今回の報道。みなさんはどう感じられたでしょうか。テクノロジー業界では、しばしば壮大なビジョンとタイムラインが先行します。しかし、物理法則は資本やマーケティングでは曲げられません。

マスク氏の「2年以内」という目標と、Voyagerの「着実な開発」というアプローチ。どちらが人類の宇宙進出における正しい道筋なのか、あるいは両方が必要なのか。冷却という地味だが根本的な課題が、この壮大な競争の行方を左右するかもしれません。テクノロジーの未来を考える上で、こうした現実的な課題にこそ注目する価値があるのではないでしょうか。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

読み込み中…

innovaTopia の記事は、紹介・引用・情報収集の一環として自由に活用していただくことを想定しています。

継続的にキャッチアップしたい場合は、以下のいずれかの方法でフォロー・購読をお願いします。