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【解説】宇宙戦略基金 第3期の全貌|経産省740億円と日本の宇宙産業8兆円戦略


宇宙戦略基金がもたらす10年間のパラダイムシフト

日本の宇宙産業は今、大きな構造転換の局面にあります。その原動力となるのが、令和5年度補正予算により創設された「宇宙戦略基金」です。本基金は国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が基金管理主体となり、政府の宇宙政策の下で長期的支援を行う枠組みです。

従来の単年度補助とは異なり、最長10年間にわたる継続支援を前提とし、総額1兆円規模を目指す設計が明示されています。民間企業やスタートアップ、大学がリスクの高い技術開発に挑戦できる制度的基盤として位置付けられています。


JAXAの変貌と新マネジメント体制

令和5年度・6年度補正予算で約6,000億円規模が措置され、令和7年度補正予算では2,000億円が追加計上されました。これにより、累計は約8,000億円規模となっています。最終的には1兆円規模の支援が目標です。

令和7年度補正予算のうち、経済産業省計上分は740億円です。

運営体制は、プログラムディレクター(PD)とプログラムオフィサー(PO)によるステージゲート方式を採用。進捗に応じて継続可否を判断するマネジメントモデルが導入されています。JAXAは自ら研究開発を実施する主体から、資金配分・プロジェクト統括を担う機能を強化しています。


第1期・第2期の歩み:宇宙産業基盤の底上げ

第1期・第2期では、衛星コンステレーション、月面関連技術、軌道上サービスなど幅広い分野が対象となりました。商業衛星分野、月面関連、宇宙デブリ対策などが重点領域として位置付けられています。

なお、個別企業への支援額は「テーマごとの上限額」であり、企業ごとに確定している金額ではありません。

これらの取り組みにより、国内の衛星開発能力や新規参入企業の基盤強化が進展しました。


第3期の核心:打上げ能力という構造課題

第3期(経産省計上分740億円)は、特に国内打上げ能力の拡充を重視しています。

近年、世界全体のロケット打上げ回数は急増しており、年間300回超の水準に達しています。一方、日本の年間打上げ回数は近年数件規模にとどまっています。

政府は2030年代前半に国内打上げ能力を年30件程度へ拡大する目標を掲げています。現状とのギャップを埋めることが、今回の第3期の重要テーマです。

打上げ能力の不足は、

  • 国内衛星の海外依存
  • 実証機会の制約
  • 安全保障上のリスク

といった課題に直結します。


第3期・経産省5テーマの概要

経済産業省計上分740億円のうち、主要5テーマは以下の通りです。

1. 民間ロケット打上げ実証加速化

最大240億円程度(1件120億円上限×2件程度)
段階逓減型補助(前半:大企業2/3・中小3/4 → 後半:大企業1/3・中小1/2)

2. ロケット飛行運用の効率化・高機能化

最大50億円程度
委託(類型D)と補助(類型A/B)を組み合わせ

3. STMを見据えた自律性確保

最大150億円程度
開始時は類型B、ステージゲート後に類型Aへ移行

4. 衛星開発・製造プロセスの刷新

最大230億円程度
費用・工数の1/4〜1/3削減を目標
事業終了後5年以内の実用化を想定

5. 軌道上実証の低コスト・高頻度化

最大48億円程度
年4回程度以上の実証機会確保
契約から打上げまで最長1年程度以内を目標

※なお、上限額の単純合計は約718億円であり、経産省計上分740億円との差分は共通経費等に充当される可能性があります。


2030年代・8兆円市場への道筋

政府は、日本の宇宙産業規模を2030年代に約8兆円規模へ拡大する目標を掲げています。2020年時点では約4兆円規模とされており、倍増を目指す方針です。

宇宙戦略基金は単なる研究補助ではなく、宇宙を経済圏として確立するための長期戦略投資と位置付けられています。

打上げ、衛星、データ活用、インフラが統合された産業構造への転換が実現すれば、宇宙は特定企業の領域ではなく、素材、デジタル、物流、金融など幅広い産業に波及する可能性があります。

Information

【用語解説】

宇宙戦略基金
令和5年度補正予算で創設された宇宙分野向け長期研究開発支援制度である。最長10年間、総額1兆円規模の支援を想定する。

ステージゲート方式
研究開発を段階ごとに評価し、継続・縮小・中止を判断する管理手法である。成果責任と資金効率の向上を狙う。

類型A/類型B/類型D
基金支援の区分である。
類型Aは市場成熟度が比較的高い領域向け補助、類型Bは初期段階向け補助、類型Dは委託形式(実質全額政府負担)である。

STM(Space Traffic Management)
宇宙交通管理のこと。衛星や宇宙ごみの衝突回避、軌道利用の国際ルール整備を含む概念である。

SSA(Space Situational Awareness)
宇宙状況把握。軌道上物体の位置・軌道情報を監視・解析する能力を指す。

MBSE(Model Based Systems Engineering)
モデルベースで設計・開発を行うシステム工学手法である。衛星設計の効率化とコスト削減に寄与する。

フライトヘリテッジ
宇宙空間で実際に運用された実績のこと。宇宙機器の信頼性評価において重要な指標である。


【参考リンク】

JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙航空研究開発を担う国立研究開発法人である。宇宙戦略基金の管理主体。

ispace(外部)
民間月面探査企業。月面着陸ミッションを推進し、月資源利用の商業化を目指す。

アストロスケール(外部)
宇宙デブリ除去技術を開発する企業である。軌道上サービス分野の代表的プレイヤー。

アークエッジ・スペース(外部)
小型衛星の設計・開発を行うスタートアップ企業である。

QPS研究所(外部)
小型SAR衛星コンステレーションを展開する日本の宇宙ベンチャー。

Synspective(外部)
SAR衛星データを活用した地球観測ソリューションを提供する企業。

ElevationSpace(外部)
宇宙からの物資回収サービスの実現を目指すスタートアップ。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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