innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

スイスEmpa、スエヒロタケから「生きた食用プラスチック」LFDを開発 – 自己修復する生分解性材料が2025年に実用化へ

スイスEmpa、スエヒロタケから「生きた食用プラスチック」LFDを開発 - 自己修復する生分解性材料が2025年に実用化へ - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-04 07:51 by admin

スイスの材料科学研究機関Empaの研究チームが、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)の菌糸から生きた状態を保持する生分解性プラスチック代替材料を開発した。この研究成果はAdvanced Materials誌で発表された。

材料科学者のAshutosh SinhaとGustav Nyströmが率いる研究では、菌糸繊維を菌類細胞を破壊せずに液体混合物に加工し、生きた繊維分散体(LFD)と呼ばれるゲル状物質を作成した。この材料は柔軟性と強度を維持しながら様々な形状に成形可能で、時間経過とともに安定性が向上する乳化剤としても機能する。高い引張強度を持つため、自然分解するコンポストバッグや超薄型生分解性電池への応用が期待される。
スエヒロタケは食用きのこであるため、この材料は無毒で食品包装や化粧品分野での安全な使用が可能である。また材料は生きているため構造と機能に重要な分子を継続的に産生し、時間とともに寿命と有用性が向上する特性を持つ。

From: 文献リンクScientists Create Edible Plastic That Grows and Repairs Itself

【編集部解説】

今回のスイスEmpaの研究は、従来のバイオプラスチック開発とは根本的に異なるアプローチを採用している点で注目に値します。これまでの生分解性プラスチックは、製造後に徐々に分解される「死んだ」材料でしたが、LFD(生きた繊維分散体)は文字通り「生きている」材料として機能し続けます。

この技術の革新性は、菌糸の細胞外マトリックスを完全に活用している点にあります。従来の菌類由来材料は主に菌糸の細胞壁や構造体のみを利用していましたが、Empaの研究チームは菌類が自然に分泌する多糖類や界面活性タンパク質といった機能性分子も含めて材料化することに成功しました。

特筆すべきは、時間経過とともに材料の性能が向上する「自己強化特性」です。一般的な乳化剤は時間とともに安定性が低下しますが、LFDは逆に安定性が向上します。これは生きた菌糸が継続的に構造維持に必要な分子を産生し続けるためで、材料科学における新たなパラダイムを示しています。

応用範囲の広さも注目点の一つです。コンポストバッグのような単純な包装材から、超薄型生分解性電池といった高機能デバイスまで、幅広い用途が期待されています。特に食品・化粧品業界では、安全性が確保された天然乳化剤として大きな市場価値を持つ可能性があります。

ただし、実用化に向けては課題も存在します。生きた材料である以上、保存条件や環境変化への対応が重要になります。また、大量生産時の品質管理や、異なる環境条件下での性能の一貫性確保も技術的な挑戦となるでしょう。

規制面では、食品接触材料としての安全性評価や、新規バイオマテリアルとしての承認プロセスが必要になります。しかし、原料であるスエヒロタケが食用きのこであることは、食品接触材料としての安全性評価において考慮される可能性があります。ただし、新規バイオマテリアルとしての承認プロセスは、既存の規制に基づき厳格に行われることが予想されます。

長期的な視点では、この技術は循環経済の実現に向けた重要な一歩となります。材料が完全に生分解され、さらには食用としても利用可能であることから、廃棄物ゼロの理想的な材料システムの構築につながる可能性を秘めています。

【用語解説】

スエヒロタケ(Schizophyllum commune)
世界中に分布する食用きのこで、乾燥すると裂けるひだが特徴的な「裂けひだたけ」とも呼ばれる。数十年間乾燥状態を保った後でも水分で復活する驚異的な生命力を持つ。

菌糸(きんし)
きのこの根のような糸状の構造体。地中や朽ち木の中に網目状に広がり、栄養を吸収する役割を果たす。

細胞外マトリックス
細胞が分泌する構造体の外側にある物質の集合体。コラーゲンや多糖類などで構成され、細胞に構造的支持と機能的特性を提供する。

生きた繊維分散体(LFD)
菌糸の生物学的機能を保持したまま液体状に加工した新材料。Living Fiber Dispersionsの略称。

【参考リンク】

Empa(スイス連邦材料科学技術研究所)(外部)
スイス連邦工科大学ドメインに属する材料科学とテクノロジー研究の最先端機関。産業界との密接な協力により、研究成果を市場化可能なイノベーションに転換することを目指している。

Advanced Materials誌(外部)
材料科学分野における世界最高峰の学術誌の一つ。革新的な材料研究と応用技術に関する査読付き論文を掲載し、インパクトファクターは30を超える。

【参考記事】

Scientists Create Biodegradable Plastic Alternative That’s Literally Alive(外部)
2025年6月1日付の科学ニュースサイトによる詳細解説記事。材料の特性と応用可能性について技術的観点から分析している。

Living Mushroom Material Offers Edible, Biodegradable Plastic Alternative(外部)
環境問題の解決策としての観点から、この技術の社会的インパクトと将来展望について詳しく解説している。

Gustav Nyström氏のLinkedIn投稿(外部)
研究責任者による研究成果の発表投稿。Advanced Materials誌への論文掲載と研究の背景について第一人者の視点から説明している。

【編集部後記】

この新しい食用プラスチック技術について、皆さんはどのように感じられますか?持続可能な未来のために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか?innovaTopia編集部も皆さんと同じく、この技術の可能性に驚いています。ぜひSNSでご意見やご感想をお聞かせください。

サステナブルニュースをinnovaTopiaでもっと読む

投稿者アバター
TaTsu
デジタルの窓口 代表 デジタルなことをまるっとワンストップで解決 #ウェブ解析士 Web制作から運用など何でも来い https://digital-madoguchi.com
ホーム » サステナブル » サステナブルニュース » スイスEmpa、スエヒロタケから「生きた食用プラスチック」LFDを開発 – 自己修復する生分解性材料が2025年に実用化へ