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Flint、世界初の紙バッテリー量産へ|6週間で生分解、リチウム依存からの脱却を目指す新技術

[更新]2026年1月4日

Flint、世界初の紙バッテリー量産へ|6週間で生分解、リチウム依存からの脱却を目指す新技術 - innovaTopia - (イノベトピア)

クリーンエネルギーを支えるはずのリチウムイオンバッテリーが、実は「永遠の化学物質」PFASを環境中に拡散させている。そんな矛盾を解決する紙製バッテリーが、ついにプロトタイプを脱し、量産段階へと進んだ。


シンガポール拠点の深層テクノロジー企業Flintは2026年1月2日、セルロースベースの紙バッテリー技術が生産段階に入ったと発表した。同バッテリーは生分解性、PFAS不使用で、充電可能、無毒性、不燃性、非爆発性を特徴とする。

シンガポールで水ベースの製造方法により生産を開始し、8,000平方フィート以上の新施設を拠点とする。創業者兼CEOのCarlo Charles氏はForbes「30 under 30 Asia 2025」に選出されている。同社は2025年にCES 2025でBest of CES Sustainability Awardを受賞し、Logitech、Amazon Devices、Dassault Systèmesとパイロットプログラムを開始した。2025年にプレシリーズAラウンドで200万米ドルを調達した。

CES 2026で2つの商用製品を正式発表する予定であり、欧州での製造拡大と固体電池派生版の開発も進めている。

From: 文献リンクFlint’s Paper Batteries Are Here: Now in Production, Now Available

【編集部解説】

今回のFlintによる紙バッテリーの量産開始は、単なる環境配慮型製品の登場以上の意味を持っています。背景にあるのは、クリーンエネルギーインフラそのものが抱える深刻な矛盾です。

リチウムイオンバッテリーには、PFAS(パーおよびポリフルオロアルキル物質)と呼ばれる「永遠の化学物質」が電解質として使用されています。2024年7月のNature誌掲載研究では、バッテリー製造工場付近や埋立地、さらには世界中の遠隔地でもこの物質が検出され、水生生物への毒性が確認されました。CO2削減を目指すはずのクリーンエネルギー技術が、実は持続性のない有機汚染物質を世界中に拡散させているという皮肉な状況が明らかになっています。

Flintの紙バッテリーは、この問題に対する根本的な解決策を提示しています。セルロースベースの構造により、PFASを完全に排除し、土に埋めると6週間で生分解するという特性を実現しました。さらに、水ベースの製造方法を採用することで、従来のバッテリー製造における有毒な溶剤や高温プロセスへの依存も軽減されています。

地政学的な観点からも、この技術は重要な意味を持ちます。現在、中国がバッテリーグレードのリチウム処理の80%以上を支配しており、2021年から2022年にかけてリチウム価格は500%近く急騰しました。Flintがシンガポールで生産を開始し、欧州での製造拡大を計画している背景には、集中化したサプライチェーンへの依存から脱却し、製品使用地に近い場所での製造を実現するという戦略があります。

技術的な側面では、セルロースがアノードとカソード間のイオン転送の自然な媒体として機能し、柔軟性も提供するため、様々な形状やデザインでの製造が可能になります。既存のリチウムイオンバッテリーの製造プロセスと統合できる設計になっている点も、産業移行のハードルを下げる要素です。

ただし、慎重に見守るべき点もあります。現時点では生分解性や無毒性といった主張について、独立した第三者機関による包括的なライフサイクルアセスメントや環境認証の公表が待たれます。また、LogitechやAmazon Devicesとのパイロットプログラムが実際にどのようなパフォーマンスを示すのか、量産規模でのコスト競争力がどこまで実現できるのかも、今後の展開を左右する重要な要素となるでしょう。

CES 2026での正式発表は、この技術が実用レベルでどこまで到達しているかを見極める重要な機会になります。クリーンエネルギーの推進と環境保護が本当に両立できることを、Flintが実証できるかどうか。私たちはその瞬間に立ち会おうとしています。

【用語解説】

セルロースベース
植物由来のセルロース(多糖類)を主要材料として利用する技術設計を指す。セルロースは植物の細胞壁を構成する天然高分子で、再生可能で豊富に存在する資源である。バッテリー構造の骨格として機能し、イオン転送の媒体としても作用する。

PFAS(パーおよびポリフルオロアルキル物質)
フッ素と炭素の強固な化学結合を持つ合成化学物質群の総称。「永遠の化学物質」とも呼ばれ、環境中で分解されず蓄積する特性を持つ。リチウムイオンバッテリーの電解質に使用されるが、水生生物への毒性や環境汚染が問題視されている。

生分解性
微生物の働きによって自然環境中で分解される性質。Flintの紙バッテリーは土中で6週間以内に完全に分解されると主張されており、従来のバッテリーと異なり廃棄後の環境負荷が極めて低い。

プレシリーズA
スタートアップ企業の資金調達段階の一つ。シードラウンド後、本格的なシリーズA調達の前段階に位置する。製品開発や初期市場投入の資金として調達されることが多い。

深層テクノロジー(ディープテック)
科学的発見や工学的イノベーションに基づく、開発に長期間と高度な研究開発を要する技術分野。AIやバイオテック、量子技術、先端材料科学などが含まれる。Flintのセルロースバッテリーもこの領域に該当する。

固体電池
電解質に液体ではなく固体材料を使用するバッテリー技術。液漏れや発火のリスクが低く、エネルギー密度の向上が期待される次世代技術として注目されている。

【参考リンク】

Flint 公式サイト(外部)
シンガポール拠点の深層テクノロジー企業Flintの公式ウェブサイト。セルロースベースの紙バッテリー技術の詳細、製品仕様、FAQなどを掲載している。

CES(Consumer Electronics Show)公式サイト(外部)
世界最大級の家電・テクノロジー見本市CESの公式サイト。CES 2026は2026年1月6日から9日までラスベガスで開催される。

Logitech Future Positive Technology Challenge(外部)
スイスのコンピュータ周辺機器メーカーLogitechの公式サイト。持続可能な技術革新を推進するプログラムを主催し、Flintを2025年の受賞者に選出した。

Dassault Systèmes 3DEXPERIENCE Lab(外部)
フランスの3D設計ソフトウェア企業Dassault Systèmesが運営するイノベーション支援プログラム。スタートアップに高度な設計・製造ツールを提供している。

【参考動画】

Flint Paper Batteries – 公式デモンストレーション
Flintの紙バッテリーのプロトタイプを実際に見せながら、技術的特徴(600mAh、1.5V)、カスタマイズ性、充電可能な仕組みを解説する公式動画。

Flint Paper Battery – チーム紹介
Flintの紙バッテリー技術開発チームを紹介する公式動画。長年の研究開発と持続可能なイノベーションへのコミットメントを伝えている。

Flint Paper Battery – 技術解説(Elektroforeningen)
ノルウェーの電気協会が制作したFlintの技術解説動画。セルロース素材の特性、生分解プロセス(6週間)、耐久性、重量優位性(30%軽量化)などを詳述している。

【参考記事】

Lithium-ion battery components are at the nexus of sustainable energy and environmental release of per- and polyfluoroalkyl substances(外部)
2024年7月7日掲載のNature論文。リチウムイオンバッテリーに含まれるPFASが環境中に放出され、製造工場周辺で検出、水生生物への毒性が確認された。

‘Forever chemicals’ used in lithium ion batteries threaten environment, research finds(外部)
2024年7月14日のThe Guardian記事。リチウムイオンバッテリーに使用される「永遠の化学物質」PFASが世界中で検出され、環境への深刻な脅威に。

Lithium-Ion Battery Supply Chain Challenges & Best Practices(外部)
2025年11月13日掲載。中国がバッテリーグレードリチウム処理の80%以上を支配、2021-2022年にリチウム価格が500%近く急騰した経緯を詳述。

One Step Closer To The Compostable EV Battery Of The Future(外部)
2026年1月2日のCleanTechnica記事。Flintの紙バッテリー量産開始を報じ、セルロースがイオン転送の自然な媒体として機能する技術メカニズムを解説。

Flint Powers Up Paper Battery Production, Challenging Lithium’s Reign(外部)
2026年1月1日掲載。Flintの生産開始がリチウム支配に挑戦する意義を分析。シンガポール製造開始と欧州拡大計画、主要企業とのパイロットプログラムを論じる。

【編集部後記】 

私たちが日常的に使うスマートフォンやノートPC、電動アシスト自転車。それらを動かすバッテリーが、実は環境に深刻な影響を与えているかもしれないという事実をご存じでしょうか。

Flintの紙バッテリーは、そんな矛盾に真正面から向き合った技術です。CES 2026での実演が楽しみですが、皆さんはこの技術が実用化されたとき、どんなデバイスに最初に搭載されてほしいと思いますか?キーボードやマウスでしょうか、それともKindleのような読書デバイスでしょうか。

未来のバッテリーがどうあるべきか、皆さんと一緒に見守っていきたいと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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