カリフォルニアとハワイの間の北太平洋亜熱帯循環に位置する太平洋ゴミベルトで、科学者たちが調査を実施した。研究チームは環流の東側で6インチ(15センチメートル)以上のプラスチック片105個を回収し、分析した。
回収されたのはボトル、ブイ、クレート、網、ロープ、バケツなどである。分析の結果、6つの主要な動物群から46種類の無脊椎動物を特定した。このうち37種が沿岸種、9種が外洋種で、多様性の約80%が沿岸生物だった。無脊椎動物は物体の98%に存在し、外洋種は94%以上、沿岸種は70%強の破片に付着していた。各プラスチック製品は平均4〜5種類の生物を運んでいた。
2011年の東日本大震災後の津波で太平洋に流出した漂流物上でも、日本の沿岸種が少なくとも6年間生存し、北アメリカとハワイに漂着したことが確認されている。研究はNature Ecology and Evolution誌に掲載された。
From:
The Great Pacific Garbage Patch is now so large that dozens of species call it “home”
【編集部解説】
編集部では、この研究の意義とその科学的・社会的な含意について解説します。
この研究が明らかにしたのは、単なる「ゴミに生物が付着している」という事実ではありません。海洋生態系の根本的な境界が、人間の活動によって書き換えられつつあるという、より深刻な現実です。
従来の海洋生物学では、沿岸種と外洋種は明確に区別されてきました。沿岸種は岩場や桟橋といった固い基質を必要とし、外洋では生存できないと考えられていたのです。しかし、プラスチックという耐久性のある人工物が「浮遊する島」として機能することで、この前提が覆されています。研究チームが提唱する「新外洋性(neopelagic)コミュニティ」という概念は、まさにこの変化を表しています。
特筆すべきは、これらの沿岸種が単なる一時的な乗客ではなく、外洋で繁殖し世代交代を続けている証拠が確認されたことです。抱卵中のメスや、幼体から成体までさまざまな成長段階の個体が同じプラスチック片上で発見されました。これは、彼らが外洋という本来は生息不可能だった環境で、完全なライフサイクルを完結させていることを意味します。
この現象には、複数のリスクが伴います。最も懸念されるのは、侵略的外来種の拡散です。プラスチックという「移動手段」によって、沿岸種が本来到達できなかった遠隔地に運ばれる可能性があります。実際、研究に携わったハワイ大学のニコライ・マキシメンコ氏は、ハワイ諸島が外来種の侵入リスクにさらされていると警告しています。2011年の東日本大震災後、日本の沿岸種を乗せた漂流物が北アメリカやハワイに到達し、少なくとも6年間生存していた事例は、このリスクが現実のものであることを示しています。
さらに、沿岸種と外洋種が同じ限られた空間を共有することで、食物や生息空間をめぐる競争が生じています。研究では、沿岸種のイソギンチャクが外洋種を捕食している証拠も確認されており、従来の食物連鎖に新たな関係性が加わっていることがうかがえます。
プラスチック除去活動にも新たな倫理的課題が浮上しています。The Ocean Cleanupなどの団体が大規模な除去作業を進めていますが、プラスチックがすでに生態系の一部として機能している現状で、その除去が生物に与える影響をどう評価すべきかという問題です。除去作業自体が、意図せず生物を別の場所に移動させ、新たな外来種問題を引き起こす可能性もあります。
この研究は、プラスチック汚染が単なる美観や廃棄物の問題を超え、海洋生態系の構造そのものを変容させていることを示しています。海の生物多様性、種の分布、そして生態系のバランスが、今まさに人類史上前例のない速度で変化しているのです。根本的な解決には、プラスチックの生産量削減と廃棄物管理の改善が不可欠です。
【用語解説】
北太平洋亜熱帯循環(North Pacific Subtropical Gyre)
カリフォルニア海流、北太平洋海流、黒潮、北赤道海流の4つの海流が時計回りに回転することで形成される巨大な循環システム。中心部は海流が穏やかで安定しているため、浮遊物が集積しやすい。太平洋ゴミベルトはこの循環の東側に位置する。
無脊椎動物
背骨を持たない動物の総称。フジツボ、カニ、端脚類、苔虫類、ヒドロ虫類、イソギンチャクなどが含まれる。本研究では、プラスチック片上に付着していた生物の大半が無脊椎動物だった。
沿岸種と外洋種
沿岸種は岩場や桟橋などの固い基質に付着して生活する生物で、外洋種は外洋の水中や水面で生活する生物。従来、この2つは明確に区別され、沿岸種は外洋では生存できないと考えられていた。
新外洋性(neopelagic)コミュニティ
プラスチック汚染によって外洋に形成された新しい生態系コミュニティ。従来の外洋種に加え、プラスチックを足場として外洋で生存・繁殖する沿岸種が含まれる。「neo」は「新しい」、「pelagic」は「外洋の」を意味する。
東日本大震災(2011年)
この大震災による津波で、日本沿岸から桟橋、船、プラスチック製品などが太平洋に流出した。その後、これらの漂流物が北アメリカやハワイに漂着し、日本の沿岸種が少なくとも6年間生存していたことが確認された。この事例が、沿岸種が外洋で長期生存可能であることを示す重要な証拠となった。
【参考リンク】
Nature Ecology & Evolution(外部)
本研究論文が掲載された生態学と進化生物学の国際学術誌。
The Ocean Cleanup(外部)
海洋プラスチック除去技術を開発する非営利団体。本研究にサンプル提供。
ハワイ大学マノア校(外部)
共著者マキシメンコ氏が所属。太平洋プラスチック汚染研究の拠点。
米国農務省国立食品農業研究所(外部)
主著者ハラム博士が科学フェローとして所属する米国研究機関。
【参考記事】
Extent and reproduction of coastal species on plastic debris in the North Pacific Subtropical Gyre(外部)
本研究の原著論文。46種の無脊椎動物を特定し沿岸種が外洋で繁殖。
The Great Pacific Garbage Patch is now so huge and permanent that a coastal ecosystem is thriving on it(外部)
484個の海洋無脊椎動物を特定。46種のうち80%が沿岸生息地の種。
Evidence that the Great Pacific Garbage Patch is rapidly accumulating plastic(外部)
2018年研究。ゴミベルトに79,000トンのプラスチック、以前の4〜16倍。
Great Pacific Garbage Patch weighs more than 43,000 cars and is much larger than we thought(外部)
総重量87,000トン、1.8兆個以上のプラスチック片。漁網が半分占める。
Some coastal critters are thriving in the Great Pacific Garbage Patch(外部)
プラスチックゴミの80%に沿岸種の定着。ハワイ諸島の侵略種リスク警告。
【編集部後記】
プラスチックがすでに生態系の一部となっている現実を前に、私たちはどう向き合えばいいのでしょうか。除去すべきか、それとも新しい生態系として認めるべきか。この問いに簡単な答えはありません。日々の生活で使うプラスチック製品を手に取るとき、それが最終的にどこへ向かうのか、少しだけ想像してみませんか。innovaTopia編集部も、この複雑な問題について、みなさんと一緒に考え続けていきたいと思います。
































