Cloudflareのスタートアップ支援は、上限が25万ドルから35万ドルに増えました。ところが日本語のページには、いまも最大25万ドル、4ティア、設立5年以内と書かれています。英語で新しい枠が案内されてから、本稿の公開日で102日目になります。
Cloudflareは、スタートアップ支援プログラム「Cloudflare for Startups」のクレジット枠を3段構成として公式ページで公開している。最下位のTier 3は1万ドルで、最低調達額の要件はない。Tier 2は10万ドル、Tier 1は35万ドルで、いずれも提携パートナーからの出資を条件とする。同社はFAQで、Tier 3を5,000ドルから1万ドルへ、Tier 1を25万ドルから35万ドルへ引き上げたと説明している。
応募資格は設立10年以内、シリーズBまでで直近12か月以内の資金調達など。クレジットの有効期間は1年または使い切りまでで、R2は1万ドル、Workers AIは最大5万ドルの上限がある。旧上限で参加中の企業は引き上げを申請できるが、期限は延長されない。
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Startup Program | Cloudflare
【編集部解説】
増えたのは金額、変わったのは経路
まず数字から見ていきます。Cloudflareは自社のスタートアッププログラムについて、下限を5,000ドルから1万ドルへ、上限を25万ドルから35万ドルへ引き上げたとFAQに記しています。入口が倍、天井が1.4倍。額だけを見れば、素直に朗報です。
ただ、この改定の意味は金額の増減には収まりません。2025年4月にCloudflareがブログで説明していた構成は、5,000ドル・2万5,000ドル・10万ドル・25万ドルの4段でした。現在の公式ページは3段です。中間にあった2万5,000ドルの段が消えています。
段が1つ減ること自体は、整理としてありふれています。効いてくるのは、残った段への入り方のほうです。
自力で届く上限は1万ドル、その先は出資が条件になる
現行のTier 3には、最低調達額の要件がありません。ブートストラップでも自己資金でも、調達額100万ドル未満なら1万ドルのクレジットを申請できます。提携パートナーからの出資を求められない唯一の段で、ここは明確に間口が広がりました。もっとも、設立年数や事業内容といった共通の応募要件と、Cloudflare側の審査は全ティアに等しくかかります。
一方でTier 2(10万ドル)とTier 1(35万ドル)は、どちらも提携パートナーから出資を受けていることを条件に挙げています。紹介や所属ではなく、出資です。旧構成では2万5,000ドルの段が調達額100万ドルまでをカバーし、パートナーとの関係が問われるのは10万ドル以上の段からでした。パートナー出資を求められずに申請できる上限は5,000ドルから1万ドルへ倍増した一方、次の段までの距離は開いています。
これは審査コストをどこに置くかという設計の話だと考えています。パートナー出資を求めずに申請できる段の金額を上げるほど、判定を軽く済ませられる基準が要る。提携パートナーからの出資は、Cloudflareが応募企業を見極めるときに外部の目利きを利用できる条件です。1万ドルまでは自社の審査だけで開き、その上は他者の投資判断を条件として加える。線の引き方としては合理的です。
同時に、設立要件は5年以内から10年以内へ緩和されました。加えて「シリーズBまで、かつ直近12か月以内に資金調達していること」という時間の条件が入っています。設立年数の幅を広げる一方で、直近の資金状況も見る方向へ寄ったと読めます。
日本語ページは、まだ25万ドルの世界にいる
ここからは日本の読者にとって実務的な話です。
Cloudflareの日本語ページ(cloudflare.com/ja-jp/forstartups/)は、本稿執筆時点で旧内容のまま公開されています。最大25万ドル、4ティア、そして「過去5年以内に創業」。英語版が /startups/ という新しいURLへ移った一方、旧URLの /forstartups/ が各言語版に残り、日本語もそこに含まれている状態です。
日本語ページだけを見た創業7年目の起業家は、年数の条件で自分は対象外だと判断しかねません。現行の英語版では、少なくとも設立年数の点では範囲に入っています。
この改定を詳しく説明したブログ記事やプレスリリースは見当たりません。ただ、Cloudflareの公式LinkedInは2026年5月26日に、最大35万ドルという新しい枠を案内しています。プログラムページのFAQには「recently」とあるだけで、切り替わった日付そのものは示されていません。
英語で発信されてから、すでに3か月以上が経っています。支援策は、届かなければ存在していないのと同じです。日本の起業家にとって、この記事が差分を知る最初の場所になるかもしれません。
使う前に見ておきたいところ
クレジットの対象範囲は広く、Workers、Durable Objects、Workflows、D1、Workers KV、Queues、Vectorize、Pages、Images and Streamといった開発者向け製品がひととおり入ります。ティアに関係なく無償で付く枠は別建てで、DDoS・ボット対策、カスタムルール1,000本のWAF、Page Shield、CDN・DNS、エンタープライズドメイン3つなどが並びます。創業初日から、大企業と同じ防御を張れるという設計です。
上限が個別に決まっている製品は2つ。R2は1万ドルまで、Workers AIはティアに応じて2,500ドル・1万ドル・5万ドルまでです。推論をWorkers AIに寄せる設計なら、この製品別の枠を先に見ておく必要があります。WorkersやD1、Vectorizeには別のクレジットを充てられるので、AI開発全体が5万ドルで止まるという意味ではありません。AI Gatewayは現時点でクレジットの対象外で、Cloudflareは対応を進めていると書き添えています。
期限は1年、または使い切りまでの早いほう。卒業時にはセルフサーブプランへ移るか、Enterpriseの継続を事前に相談するかを選ぶ形で、どちらも選ばなければエンタープライズドメインはFreeプランへ自動的に戻ります。事前に3回のリマインドが送られる設計なので、申請時のメールアドレスは生きているものを登録しておきたいところです。
旧5,000ドルまたは25万ドルの枠で参加中で、かつ上限に近づいている企業は、引き上げの評価を依頼できます。自動ではなく、利用状況や拡張の必要性をふまえた個別の審査です。承認されても1年の期限は延びず、増えるのは金額だけになります。
なお、ティア表には全ティア共通の特典として「100% SLA」が挙がっている一方、同じページの規約本文にはSLAを含まないと記されています。可用性の保証を前提に設計するなら、申請時に確認しておくと安心です。
対象外の線引きも明確です。教育機関、個人ブログ、コンサルティング、受託系のエージェンシー、MSP、リセラーは対象になりません。州・地方の選挙WebサイトにはAthenian Project、市民プロジェクトにはProject Galileoという別の支援策が案内されています。
比較の材料として、AWS ActivateはパートナーのOrg IDを使うPortfolio枠が最大20万ドル、自己資金向けのFounders枠は1,000ドルから始まり、選ばれた参加者が5,000ドルまで伸びる形です。上限額ではAWSが上回りますが、自己資金のまま申請できる初期枠だけを比べると、Cloudflareの1万ドルはAWSの開始額を上回ります。
クレジットは、時間を買う仕組みである
クラウドクレジットは値引きではありません。創業期のインフラ費用を一定期間肩代わりして、開発に使える時間を作る仕組みです。製品別の上限や対象外のサービスもあり、超過分は請求されます。それでも、その1年で組んだアーキテクチャは、WorkersやD1やR2の形に沿っていきます。
これは囲い込みという言葉で片づける話ではなく、クレジットという仕組みがもともとそういう形をしているというだけのことです。提供する側は将来の顧客を、受け取る側は今日の速度を得る。取引として対等です。
だから受け取る側にとって大事なのは、卒業後の月額がいくらになるかを、使い切る前に一度見ておくことでしょう。Cloudflareが2024年の刷新でクレジット制へ切り替えたときに掲げていたのも、使用量が将来の価格にどう響くかを見えるようにするという狙いでした。ダッシュボードには消費と残高が出て、月次の請求書にも内訳が載ります。見通しを渡す部品は、すでにプログラムのなかに置かれています。
35万ドルという数字は目を引きますが、そこへ届くのは、調達総額が500万ドル以上で、かつ提携パートナーから出資を受けている企業です。多くの日本の開発者にとって効いてくるのは、パートナーの出資がなくても申請できる枠が倍になったという、地味なほうの1行のはずです。そしてその1行は、まだ日本語で読める場所には書かれていません。
【参考記事】
Startup Program update: empowering every stage of the startup journey(外部)
旧構成を説明した投稿。5,000ドル・2万5,000ドル・10万ドル・25万ドルの4ティアを示し、有効期間を1年または使い切りまでと記す。
Startup Program revamped: build and grow on Cloudflare with up to $250,000 in credits(外部)
クレジット制へ切り替えた際の投稿。使用量と将来の費用を見通せるようにする狙いを述べる。日本語を含む7言語で併載されている。
Free access to Cloudflare developer services for non-profit and civil society organizations(外部)
非営利・市民社会組織へ最大25万ドルの枠を開いた投稿。応募期間は2025年12月1日までで、プログラムの広がりを示している。
【編集部後記】
2024年に25万ドルへ刷新したときのブログには、日本語版が用意されていました。中国語も、フランス語も、韓国語も。発表を翻訳して届ける経路は、ちゃんとあるわけです。
今回はブログ自体が書かれていないので、翻訳される元がありません。ページだけが英語で差し替わり、日本語のページが取り残されました。製品ページの更新には、その仕組みが働いていないように見えます。次の改定がブログとして出れば、日本語も一緒に動くのでしょうか。
【用語解説】
クラウドクレジット
通常料金は変えないまま、対象サービスの利用料に充当できる形で配られる利用枠。値引きではなく、期間と上限を持つ給付である。
ティア(Tier)
支援の段階区分。Cloudflareでは数字が小さいほど上位で、Tier 1が最高額の35万ドル、Tier 3が最低額の1万ドルにあたる。
ブートストラップ
外部からの出資を受けず、自己資金や売上だけで事業を立ち上げること。
シリーズB
ベンチャー投資の段階を示す呼称。創業直後のシード、事業の型が固まるシリーズAに続く、拡大局面の調達を指す。
提携パートナー
Cloudflareが承認したベンチャーキャピタルやアクセラレーターなど。上位2ティアは、この提携先から出資を受けていることを条件とする。
Workers
Cloudflareの世界各地の拠点上でコードを実行するサーバーレス環境。サーバーを用意せずにアプリケーションを動かせる。
R2
画像や動画などのファイルを保管するオブジェクトストレージ。データを取り出す際の転送料がかからない点を特徴とする。
Workers AI
Cloudflareの拠点上でAIモデルの推論を実行するサービス。
AI Gateway
複数のAIモデルへの呼び出しを一元的に中継し、利用状況の記録やキャッシュを担う仕組み。
WAF
Web Application Firewall。Webアプリケーションを狙う攻撃を、通信の入口で検知して遮断する仕組み。
SLA
Service Level Agreement。稼働率などのサービス品質を提供側が数値で約束する契約。
セルフサーブプラン
営業担当を介さず、申し込みから支払いまで自分で完結する通常の有料プラン。
Org ID
AWS Activateで、提携するベンチャーキャピタルやアクセラレーターに割り当てられる識別子。上位枠の申請にはこの提示が要る。
【参考リンク】
Cloudflare for Startups(日本語)(外部)
本稿執筆時点で、最大25万ドル・4ティア・過去5年以内に創業という旧条件が掲載されたままの日本語版ページ。英語版とは別のURLに残る。
AWS Activate Credits(外部)
AWSのスタートアップ向けクレジット。提携先経由のPortfolio枠が最大20万ドル、自己資金のFounders枠は1,000ドルから。
Athenian Project(外部)
米国の州・郡・市が運営する選挙関連サイトを対象に、Cloudflareが無償で防御を提供する取り組み。2017年に始まった。
Project Galileo(外部)
人権団体や独立系メディアなど、攻撃を受けやすい公益目的のサイトをCloudflareが無償で保護する枠組み。2014年に始まった。
Cloudflare Blog「Cloudflare for Startups」タグ(外部)
スタートアッププログラムの告知が集まるタグページ。最新の投稿は2025年9月付で、内容は25万ドル時代のものにとどまる。
Cloudflare公式LinkedIn(2026年5月26日)(外部)
最大35万ドルという新しい枠を案内したCloudflare公式アカウントの投稿。改定がいつ行われたかを推し量る手がかりになる。


















